【共通テスト2024】英語、4年目も分量増えリーディングがやや難化…J PREPが分析

 英語塾J PREPは、2024年度(令和6年度)大学入学共通テスト(旧センター試験、以下、共通テスト)英語試験が行われた翌日の2024年1月14日、「2024年度共通テスト英語試験分析セミナー」をオンラインで開催した。セミナーのようすをレポートする。

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【共通テスト2024】英語、4年目も分量増えリーディングがやや難化…J PREPが分析(画像はイメージ)
  • 【共通テスト2024】英語、4年目も分量増えリーディングがやや難化…J PREPが分析(画像はイメージ)
  • 元イェール大学助教授でJ PREP代表の斉藤淳氏はデータ解析の視点から最新の定量分析を行った
  • J PREP国内大学受験部統括責任者の桂侑司氏は、試験分析と今後の対策について解説
  • J PREP国内大学受験部主任講師のTom McCormack氏は共通テストにおける英語試験の特徴を解説した

 英語塾J PREPは、2024年度(令和6年度)大学入学共通テスト(旧センター試験、以下、共通テスト)英語試験が行われた翌日の2024年1月14日、「2024年度共通テスト英語試験分析セミナー」をオンラインで開催した。

 セミナーでは、3つの視点で共通テスト英語試験を分析。元イェール大学助教授でJ PREP代表の斉藤淳氏がデータ解析の視点から最新の定量分析、J PREP国内大学受験部統括責任者の桂侑司氏が経験豊富な大学受験統括講師の立場から試験分析と今後の対策、同塾国内大学受験部主任講師のTom McCormack氏が英語を母語とする立場から共通テストにおける英語試験の特徴を解説した。

生成AI時代の到来で重視される「読む力」

 斉藤氏は、「データは語る 共通テストの傾向と対策」と題して、かつて政治学者として計量分析手法を駆使していた経験を生かして、2024年度共通テスト英語の入試問題を分析した。冒頭で「リーディングの英語分量が年々増えており、読む力を問う問題がやや難化した。これは生成AI時代が到来して、英文作成が簡単にできるようになったこともあり、読み解く力が重要になっていることのあらわれではないか。分量の増加や、読む力を問う問題の難化の傾向は今後も続くのでは」と述べ、「膨大な量を読む速読が重要になるが、その力をつけるにはまずは語彙力増強」だと指摘。「2024年度の共通テスト英語は読む力の問題が難化してそれ以外は易しくなるのではという予想が的中した」と語った。

元イェール大学助教授でJ PREP代表の斉藤淳氏はデータ解析の視点から最新の定量分析を行った。

 斉藤氏によると、入試英語の難しさは「分量」「語彙」「背景知識」「設問」の4項目と、その方向性(内部妥当性・外部妥当性)で決まるという。今回は「分量」「語彙」の2項目に焦点を当てて試験の難易度を分析。1979年に始まった共通一次試験から45年間の入試英語の変化を比較しながら概観した。語彙の難易度は、テキストに含まれる単語がCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠:言語能力の習得レベルを測るための国際的な指標)のどのレベルに相当するか、英単語の難易度分析サイト「Text Inspector」を使って分類した。

出題レベルは例年どおり、リーディングは分量増え語彙も難化

 まず1989年の共通一次試験に関しては、100分間の試験で総英単語数2,728語が出題され、試験中に求められる1分あたりの英単語処理速度は27.3語だった。これに対し、2021年の第1回共通テストでは80分間の試験で総英単語数5.381語と大幅に増加。1分あたりに求められる英単語処理速度も67.3語と増加した。これは1989年と比べると2.47倍にあたる。さらに2022年の共通テストは80分5,850語で1分あたりに求められる英単語処理速度は73.1語(1989年比2.67倍)、2023年は80分6,014語で同75.2語(同2.76倍)、今年2024年は80分6,233語で同77.9語(同2.85倍)と増加傾向が続いており、「徐々に英語の分量が増え、語彙も若干難しくなった」と指摘した。

 語彙難易度をみると、1989年の共通一次は英検3級までの初級レベル単語が67.1%だったが、2023年の共通テストは初級レベル単語が筆記試験62.7%、リスニング放送台本67.4%、リスニング印刷配布54.6%に、さらに今年は筆記試験60.4%、リスニング放送台本71.1%、リスニング印刷配布61.1%となり、筆記試験の語彙難易度は難化傾向。リスニングの語彙は昨年に比べて簡単になったことがわかる。共通テスト英語の筆記は英検に比べて分量が多く、リスニングは英検に比べてやや分量が少ないものの、語彙難易度はいずれも2級~準1級のあたりだとした。

 これを踏まえて、4年目の共通テスト英語は「読む力を問う問題が難化し、背景には生成AIの普及により出題の方向を変えたことがあったのではないか」とし、「生成AIの台頭で読み解く力は非常に重要になり、ほかの大学入試問題も読む力を問う問題の難化が予想される」と説明。そのうえで、「共通テストは今後も量が多いことは変わらず、この傾向は強まっていくとみられる。読む力を問う問題の難化もしばらく続く。リスニングは若干簡単になる可能性もある」と展望した。

日常的な場面を想定し思考力や判断力、表現力を問う

 次に登壇したJ PREP国内大学受験部統括責任者の桂侑司氏は「試験分析と今後の対策について」と題して、共通テストを定性的に分析し、メタ的な立場から今回の試験の全体的な性質と有効な学習方法を紹介した。

J PREP国内大学受験部統括責任者の桂侑司氏は、試験分析と今後の対策について解説。

 まず、共通テストが始まった背景に学習指導要領改訂があることを説明。共通テストは、新学習指導要領で掲げられている育成すべき資質・能力の3つの柱「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を測る作問になっていると述べた。また、「大学教育の基礎力となる知識に加えて、思考力、判断力、表現力を問う問題を作成」し、それを「実際のコミュニケーションを想定した、明確な目的や、場面、状況の設定を重視する」という作問方針について解説した。

 そのうえで、今年の共通テスト英語のリーディング問題は、出題傾向・設問数・難易度は昨年並みだが、総語数が増えていることをあげた。リーディング英語の総語数は最後のセンター試験であった2020年に比べ、4年間で2,000語以上増と大幅に増えていることを言及したうえで、「ほぼすべての大問でWebサイト・レポート・ニュースレター・ブログ・記事など、生徒が日常的に出会う場面が想定されている」とし、それは「『普段から英語で文献を読み、情報収集し、意見を発表してほしい』という共通テスト側からのメッセージにほかならない」と語った。

 判断力を問う問題では、複数記事の該当箇所をすべて読んでどれが答えにあてはまるか確認する問題や、答えに該当する一部だけを読めば解答できる問題を比べて、「問題によって解答根拠の範囲は大きく異なり、どこを読むかという判断力が求められる」と指摘。「共通テストは時間との勝負なので、読み直さないと解けない問題は後回しにして、どんどん点数を取っていく姿勢が大事」だと強調した。また、問題によっては、概要をつかむためのスキミングや、一部の単語に注目して単語の位置から解答根拠がある場所を予測するスキャニングのスキルが求められるとし、こうした技術を駆使してますます長文化・高速化する共通テスト英語をクリアしてほしいと語った。

 さらに表現力を問う問題では、ブログを読んで適したコメントを答える問題を示し、「マークシートではあるが、状況を読み取り、自分の言葉で考え表現する『選択式の自由英作文』ともいえる問題が出ている」とした。思考力を問う問題では、複数の英文を読み、情報を統合して推論する問題が共通テストになってから増えていると紹介。書いていない事柄を読み取るために、文章の深い理解が問われるという。また、認知時間の感覚をテーマとした問題では、J PREPのカリキュラムで取りあげたテーマであったことを述べ、こうした背景知識・関連知識を持っておくことが速読に役立つことから、さまざまなテーマを満遍なく常日頃から読んでいくことが大事であり、長文を早く正確に読むためには英語を英語のまま処理し続けられる体力をつけるべきと語った。

 一方、今年度のリスニング問題は出題傾向・設問数・難易度・読み上げ語数とも昨年度と同じ傾向だったとし、「引き続きリアルなコミュニケーションの場面を想定した問題が出題されている」と評価。「音声が1回しか流れない問題があるので、インターネットラジオやポットキャストなどで、普段から1回だけ聞いて情報を把握する力を付けてほしい。さまざまな媒体を利用して常日頃から英語で情報収集するという姿勢を持って」と語った。

 最後にこれまで4回の共通テストから見える英語の特徴および対策として、実生活におけるコミュニケーション場面や身近な媒体が素材になること、学校の授業を想定した議論やプレゼンなどが頻繁に出るので普段の授業で英語だったらどうかを想定してみること、世界各地の英語に慣れておくこと、英語を勉強科目と位置付けず日常生活のツールとして、アウトプットを意識した学習をすることなどを示した。

視覚情報を適切に高速処理する技術が重要

 最後に登壇したJ PREP国内大学受験部主任講師のTom McCormack氏は、「共通テストの特徴(英語母語講師の視点から)」と題して英語で講演。共通テスト問題で示されるイラストや写真、グラフなどの視覚情報に着目し、共通テストは分量が多く、時間との戦いになることから、「大量の情報を高速処理するために、特定の部分に集中してほかの部分を無視する技術の会得が求められるが、その中でもグラフや写真などの視覚情報が非常に重要になる」と語った。

J PREP国内大学受験部主任講師のTom McCormack氏は共通テストにおける英語試験の特徴を解説した。

 例としてあげた大問1と2は、国際交流イベントのパンフレットの問題。たくさんのイラストが掲載されているが、「これらのイラストはどれも解答には使わない」と説明。多くの生徒がイラストに惑わされてしまうものの、ここではイラストは無視しなければならないと述べた。また、大問4は英語クラブの教室をいかに活用していくか、グラフとコメントでアンケート結果を示したうえで文章の空欄を埋める問題だったが、「受験生の多くはまず生徒のリストをみたと思うが、今回のベストは文章を読む前にグラフをみること。テストではいつ視覚情報を見るべきか、また見ないほうが良いのかを見極める必要があり、これは非常に重要なスキル」と語った。そのうえで、視覚情報を適切に処理するコツとして、「絵と絵の相違点および類似点を特定する」「グラフやチャートの種類に慣れる」「視覚情報に集中しすぎない・こだわりすぎない」「共通テストで何が出題されるかを想像してみる」の4つを示した。

得点比重が高いが忘れられがちなリスニング力を向上すべき

 一方、McCormack氏はリスニングの重要性も強調。リスニングとリーディングは同じ配点であるものの、リスニングは30分100点で1分あたりの点数が3.33点なのに対し、リーディングは80分100点で同1.25点と、前者のほうが得点の比重が高い。さらにリスニング問題の60%は1回しか音声を聞くことができない難しい内容であるにも関わらず、多くの受験生はリスニング対策を後回しにしがちな「忘れられたスキル」だと指摘。

 リスニングの難しさに「音(アクセントや発音)」「言語そのもの(語彙や文法)」「スピードやタイミング」「情報処理(情報過多・過負荷)」「トーン(フォーマル・カジュアル)」「注意力(8分しかもたない)」「文化的な問題」の7つをあげ、今回の共通テストでもさまざまな分野やたくさんの異なる情報が取りあげられたことから、多くの異なる題材を読んだり聞いたりすることが重要だと語った。また、例年「アメリカ英語だけでなく、イギリス英語、世界各国の英語、そして日本英語などさまざまな種類の英語が出題されている」ため、幅広い種類の英語のアクセントや発音に慣れるために、VOA(ボイス・オブ・アメリカ、米国国営放送)やBBC(英国放送協会)、アルジャジーラ、NHKなど多くのリソースを活用してリスニング力を向上させることを勧めた。

 全体的な印象として「レベルは例年並みだった。リスニングはやや簡単で語彙もやや易化したかもしれない」としつつ、「ここ2~3年は同じような内容になってきているので、来年はこれまでと違った問題がみられるのでは。内容が変わるかもしれない」と締めくくった。

速読には語彙力増強、精読には英文の立体的理解を

 最後に視聴者からの質疑応答が行われた。「読むスピードが遅い人へのアドバイスは」という質問に、斉藤氏は「語彙力をつけること」と即答。「推測するのに時間がかかり過ぎて正確に理解ができないので、遅くなりがち。語彙力を上げることを目指し、わからない単語があっても、接頭辞、接尾辞から、意味を推測する力をまずつける。特に、動詞と前置詞・副詞との組合せで特定の意味を持つ句動詞関係、英語で言うと”Phrasal Verb”を強化してほしい。加えて、目の動かし方を意識してトレーニングするのが効果的」と語った。

 また、「精読をするのに、普段から取り組んだら良いことは」という質問に桂氏は、「品詞と文法知識を確実に持ったうえで、精読は構造分析や英文解釈が欠かせないので、英文を立体的に読んでほしい。ひとつひとつ英語を日本語にしていくのではなく、各単語が後ろのどの部分に関係していて、どのような構造を従えるのか理解しながら、推測して読んでいくのが大事。それには英文の中に括弧をつけるなど視覚化する工夫も必要で、行ったり来たりを繰り返しながら読んでほしい」と答えた。

「英語を使った現代文問題」に近づく共通テスト英語

 今年の共通テスト英語は、分量が増えて難化したことに戸惑う声があちこちで聞かれ、「東大生が解いても難しい」といった感想も出るなど、多くの注目を集めた。センター試験時に比べて分量は約1.5倍に増え、文法・発音といった知識を問う問題はなくなり、複数の英文を読み深く理解して答えを推測するなど、「英語を使った現代文問題」ともいえる複雑なものになっている。英語を受験科目として学ぶのではなく、母語のような日常活用が求められているあらわれであり、それを測るためにも共通テスト英語は今後もこうした傾向が続くのだろう。J PREPが育成しているような、本格的な英語適応能力が今後ますます求められる。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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