【大学受験】国内最難関「東大理三」 知られざるヴェールの向こう側…研究室訪問記<医学部編>

 国内大学の最高峰で、日本中の超秀才が集結することで名高い「東大理三」。受験のゴールとして取り上げられることはあっても、入学後の学びや生活について触れることは少ない。そんなヴェールに包まれた「東大理三」について、東京大学医学部医学科3年生の金子なるみさんと、同大学大学院医学系研究科循環器内科学の赤澤宏先生に話を聞いた。

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【大学受験】国内最難関「東大理三」 知られざるヴェールの向こう側…研究室訪問記<医学部編>
  • 【大学受験】国内最難関「東大理三」 知られざるヴェールの向こう側…研究室訪問記<医学部編>
  • 研究と臨床の二刀流で、医療の発展を目指すことが求められる「東大理三」
  • 取材に応じてくれた東京大学医学部医学科3年生の金子なるみさん
  • 東京大学大学院医学系研究科循環器内科の赤澤宏先生

 国内大学の最高峰で、日本中の超秀才が集結することで名高い東京大学理科三類(以下、理三)。受験のゴールとして取り上げられることはあっても、そこで合格者たちは入学後何を学び、どんな生活を送り、どこを目指すのかなどは意外と知られていない。

 今回は、そんなヴェールに包まれた国内最難関「東大理三」について、東京大学医学部医学科3年生の金子なるみさんと、同大学大学院医学系研究科循環器内科学の赤澤宏先生に話を聞いた。

 東京大学進学に関心のある中高生にも、ぜひ積極的にご覧いただきたい。

東大理三生の学生生活とは

--まず、赤澤先生が東大理三を目指したきっかけについて教えていただけますか。(聞き手:金子なるみ)

 私は大阪のサラリーマン家庭で育ちましたが、子供のころ、優しい小児科の先生と出会い、医師は人の病気を治す素敵な職業だと思い、憧れを抱くようになりました。神戸の中高一貫校に通い、京都大学や大阪大学の医学部に進むつもりでした。高3になって学校の先生から「東大も狙えるのでは」と言われ、東大理三を視野に入れるようになりました。当時、同級生には東大を目指す人が多く、単純に「実家を離れて一人暮らしも楽しいかも」と考えたこともあり、東大にチャレンジすることにしました。

 現役では残念な結果に終わってしまいましたが、浪人して通っていた駿台の大阪校では、いろんな高校から集まった仲間と出会い、とても楽しかった記憶があります。その後お互い医師になり、今でも交流が続いている友人が何人もいますし、学会で「駿台で一緒でしたよね」と声をかけられたこともあります。振り返ってみると、浪人生としての挫折感を味わいながらも、充実した日々を過ごしていましたね。

--私もまったく同じ動機です。子供のころ通っていた耳鼻科の女医の先生が憧れの発端でした。その後、扁桃腺の外科手術をした際の執刀医の先生、駿台で出会った理三のクラスリーダーの方も皆魅力的で、医学部への憧れがより強まりました。同じ医学部のある大学の中でも、東大だけは最初の約2年間、教養課程で学ぶのが大きな特徴だと思うのですが、赤澤先生は当時どのように過ごしましたか。

 他大の医学部は1年生から専門の勉強が始まるところが多くて忙しいようですが、東大は駒場キャンパスで過ごす1、2年生の間は比較的自由で、自分の好きなことに時間を使えますよね。私も最初の2年間は、浪人時代のストイックな生活から解放されて一人暮らしが始まり、それなりに自由を謳歌しました。時間もあったので、サークルに入ってテニスをしたり、旅行したり。家庭教師や塾講師などのアルバイトにも励みました。

 勉強の面では「医師になってからも英語は使うだろう」と考え、語学の習得には力を入れました。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の台詞をヒアリングして覚えるという授業を取ってみたり、英会話学校に通ったり。学内の人間関係にとどまらず、ネイティブの先生や社会人の受講生など、学外の人たちとも食事に出かけるなど、さまざまな人とのコミュニケーションを学ぶことができたと感じています。

 金子さんや同級生は駒場キャンパス時代の2年間はどんなふうに過ごしていたのですか。

--私は長らく中断していたバレエを本格的に再開しました。また、駒場キャンパスでは理科二類と合同のクラスや文理合同で開講されるスポーツの授業等があったので、学科の垣根を越えて仲の良い友人ができたこと、医学とはまったく異なる領域の教養を深められたことも貴重な経験でした。

 理三の同級生は、すでに基礎研究の研究室で実験に没頭している人もいれば、企業でインターンを経験したり、アプリ開発に携わったりしている人、第二外国語を極めている人など、本当に個性派揃いだと感じました。

 3年生になり、解剖実習や基礎医学などの勉強を経て、それぞれの進路を徐々に決め始めている時期です。私は外科医を目指しているのですが、赤澤先生はどのように専門分野を決めたのでしょうか。

 私の専門は循環器内科という分野で、狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈といった心臓や血管の病気を扱っています。

 東大の医学部では、3年生の夏休みに、希望者は研究室で研究することができます。私はもともと、がんに興味がありましたが、いざ研究室を探してみると、該当する研究室にまったく空きがなかったのです。先進的な医療や先駆的な研究に関心のあった私は、まだ循環器の研究対象としての面白さに気付いておらず、少し残念に思いながら、空きのあった循環器内科の研究室にお世話になることにしました。でも実際に研究を見てみると、分子生物学的な手法を導入するという非常に先進的な取組みが行われていて、驚きとともに非常に魅力を感じました。先生もとても尊敬できる方で、「まだ誰もやっていないことを研究できる」との期待から、循環器内科を専門にしたというわけです。

 医学部を目指した経緯もそうですが、人生というのは、人との出会いなど、ちょっとしたきっかけで変わっていくものだなとつくづく思いますね。

--同感です。私が外科医を目指そうと思ったのも、たまたま東大の五月祭(学園祭)の医学部企画で、ラパロ(腹腔鏡)手術キットの使い方を教える担当になったのがきっかけです。体内の映像を見ながら長い器具を使って行う縫合は、テクニックが必要で、最初はまったくできず、悔しい思いをしながら何度も練習を繰り返しました。一度コツを習得すると、今度は自分の技術が上達していくのが楽しくなって。実習の授業でも手技を褒めてもらえて、ますます外科への興味が高まりました。

 最近は外科志望の学生が減っているので、医療現場にとってはとてもありがたいことです。ちなみに、金子さんの手先の器用さは、循環器内科でも心臓カテーテルの治療などで大いに活かせますので、良かったらぜひ循環器内科へ(笑)。

東大医学部だからこそできること

--ありがとうございます。心臓カテーテル治療にも興味が湧いてきました(笑)。

 医師になるには最終的に国家試験に合格しなければならず、その前段階である医学部は、どの大学へ行ってもさほど変わらないだろうと思われている方もいるかもしれません。でも実は大学によって大きな違いや特徴がありますよね。東大の医学部の教育の特徴は、どういったところにあると言えるでしょうか。

 世界最先端の医学に触れられる」というところではないでしょうか。

 私が学生だった時代から、東大医学部は、教科書的な授業よりも、自分の研究の話を熱心に語られる先生がとても多い印象です。本当に研究が好きで、楽しんでいらっしゃるようすが伝わってくるのです。そうした最先端の研究を垣間見ながら、あらためて医学の分厚い教科書を手に取ると「ヒポクラテス以来2,400年にもおよぶ医学の歴史の中で、ここにいらっしゃるような研究者の先生方が1ページずつ積み重ねてきた成果の重みなのだ」と感じずにはいられませんでした。

 この10年間でも医学は着実に進歩を遂げ、昔は当然のように行われていた治療が今では禁忌とされていたり、その逆もあったりと、標準治療の考え方も変わってきています。それによって、患者さんの命が救われるだけではなく、QOL(Quality of life:生活の質、生命の質)を向上させることもできています。

 ただ、そうはいっても、病院に行けばさまざまな病で今も苦しんでおられる患者さんがまだまだ大勢いらっしゃる。依然として治すことのできない病気があり、現代医学は決して十分ではありません。だからこそ、ここ東大医学部には、目の前の患者さんを治療するだけではなく、医学という学問を絶えず前に進めていくミッションが課され続けていると思っています。「臨床も研究もやる」という二刀流は非常にハードですが、東大医学部に入る優秀な学生たちなら、きっと実現できるはずです。

 ですから、東大の医学部に来たからには、国家試験に向けた教科書の勉強だけでなく、世界でまだ誰も解決できていない領域を自分が少しでも解決するというプライドをもって、医学に向き合ってほしいと思っています。

--私も外科の先生から「臨床だけではなく、研究もやっていかないといけないよ」と言われました。赤澤先生がおっしゃったように二刀流を目指したいのですが、実際に両立するとなると、とても難しそうに見えます。

 外科領域でも、手技は進歩していますし、移植や手術の予後など、まだまだ発展余地のある研究課題はたくさんあるでしょうね。

 臨床で直面した患者さんの困難が研究の起点になることもあれば、研究成果を目の前の患者さんに活かせることもあります。臨床と研究の間には大きな壁があるように感じるかもしれませんが、やってみると実は地続き。必然的に、二刀流を目指さざるを得ないのです。

「東大理三」に向いている人物とは

--テレビ番組などメディアの影響もあって、「東大理三」というと天才型の人が多いと思われがちですが、入ってみると努力型の人が多いように感じます。先生の立場から見て、「東大理三」にはどういうタイプが向いていると思いますか。

 東大の場合は、理三に限らず、まず受験において目標に向けて日々コツコツと勉強する必要がありますから、やはり集中して努力できる人ですね。そして、自らが信じる道を歩み続けられる人に向いていると思います。

 もう1つは、他者(患者)のため、そして医療の発展のために自らを捧げられる人。今は、自分の大学合格のために努力している受験生の皆さんも、医学部に進めば、人のために努力することになります。ですから、高い目標に向かう際、自己実現のためだけではなく、利他の精神をもてるかどうか。自分の能力を医療の発展のために費やせる人にぜひ来てもらいたいですね。

 30年以上前の話ですが、私自身の東大の入学式の際、父から「東大には他の大学に比べて潤沢な予算がある。その予算の源は国民の税金だ。日本社会は東大生に、世の中を良くしてもらうために大きな期待を懸けているということを忘れるな」と言われた言葉を今でも覚えています。充実した研究環境を与えてもらっていることを忘れず、医学の教科書に新しい1ページを増やせるよう、今後も精進しないといけないと日々思っています。 

--医学部卒業後のキャリアについて、身近な先輩を見ると臨床医になっている方が多いものの、コンサルティングファームなどの他業種に就職したり、起業したりする方もいて、理三出身者の進路には多様性を感じます。

 特に最近の学生のキャリアはバラエティに富んでいますね。昔に比べて現代の医療は、臨床、研究、医療行政、ITなどさまざまな分野によって成り立っているので、間違いなく活躍のフィールドは広がっていると思います。大学の中にいる私としては、1人でも多くの学生にアカデミアに残ってほしいという気持ちはありますが、医学部で学んだ後、医療に関わるあらゆる分野で活躍するチャンスがあるのは確かです。

--最後に、赤澤先生が受験生時代にやっておいて良かったことを教えてください。

 自分にとって難しい問題にチャレンジすることで、解き方を覚えるだけではなく、自分で考える癖をつけたことです。

 これは医師になってからも大いに役立っています。もちろん、医師になるうえで膨大な知識の暗記は不可欠ですが、患者さんを診るときは必ずしも教科書通りにはいかず、自分なりに解決方法を考えなければいけない場面に数多く直面します。高校生のうちから、「知らないからできない」ではなく、知らないことでも諦めずに粘り強く考える力を、ぜひ身に付けてほしいですね。

--本日は貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました。


 理三といえば、大学受験の最たる存在。しかし合格の先に広がる大学生活とその先については、あまり知られていない。今回の対談では、理三の内側にいる先生と学生の双方に、そこから見える景色を共有していただいた。日進月歩の医療現場において、研究と臨床をたえず行き来することの大切さ、そしてそれにより医療の発展に寄与するという責務。「大学受験はゴールではない」とはよく言われることだが、東大理三こそ、その門をくぐった先に広い世界が見えるような気がした。医師を志す人、理三を目指す人にとって、貴重な洞察と情報を得ることができたのではないだろうか。

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《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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