学生はアメリカ(ボストン)、イギリス(オックスフォード)、オーストラリア(シドニー)、フランス(南仏・パリ)、韓国(ソウル)、台湾(台中・台北)、ベトナム(フエ・ハノイ)の7か国・地域の研修先から個々の関心・専門領域に合わせて1か所を選択。事前学修を経たのち各研修先へ飛び立ち、語学研修、文化体験、芸術鑑賞、現地の学生との交流など、さまざまな体験をする。
多様な国際文化に触れ、総合的な「越境力」を育むことを学部の理念として掲げる国際文化学部のカリキュラムの中で、4年間の学びの土台づくりの役割を担うSAP。初年度となる2023年度に参加した学生の中で各プログラムの代表7名が、渡航先の国・地域を選んだ理由や準備について語った前編に続き、本記事では実際に体験してきたこと、その体験をどう今後に生かしていくかについて聞いた。
渡航先の異なる7人、それぞれの過ごし方
--渡航中はそれぞれの国・地域でどのように過ごしたのでしょうか。
日野さん :私は2週間、ホステルの6人部屋に滞在しました。座学よりもフィールドワークが中心で、アメリカ独立戦争が実際に繰り広げられていた現場へ行ったり、若草物語の作者の家を訪問したりと、歴史的な場所を見て学ぶことができました。
成澤さん :オックスフォード大学で、同じく2週間過ごしました。個室の寮だったのでプライベートが保たれ、安心して生活できました。学校がある日は食堂で食事をしてから授業、そのあとに現地学生によるオリエンテーションに参加しました。アート、ファッション、文学を中心に学びました。
多田さん :シドニーの語学学校での英語の授業とアクティビティを中心としたプログラムでした。4人で生活班が組まれ、食事はすべて自分たちで用意する必要があり、分担して買い物や料理もしました。フィールドワークは電車に乗って出かけることが多かったので、宿泊先に戻るのが夜遅くなることもありました。そこから夕食の準備をするので大変でしたが、班の仲間と過ごした時間は良い思い出になりました。
野辺さん :フランスは3週間弱のプログラムで、前半の10日間は南仏のラ・ナプール城に滞在し、午前中は語学研修、午後や週末は街でフィールドワークを行いました。語学研修は堅苦しい授業ではなく、先生とのカジュアルな会話がメインで、とても楽しく学ぶことができました。その後2日間はマルセイユやエクス=アン=プロヴァンスを訪れ、残りの5日間はパリに滞在しました。
田代さん :滞在日数は18日間で、約3分の1が語学学習、それ以外が市内、台北、台南の観光や体験型の文化活動、博物館見学でした。台湾の歴史を体験的に学ぶことができました。
宮田さん :滞在日数は17日間で、宿泊した寮は2人部屋でした。梨花女子大学が主催する夏季研修プログラムに参加する形で、午前中はさまざまな国の学生と韓国語で韓国語の授業を受けました。ランチは大学内のコンビニやカフェで買い、午後は英語での特別講義でした。その後、バスや地下鉄で出かけ、施設見学や文化体験をしました。夕食は大学付近のお店で買うことが多かったです。また、2日間の釜山旅行もあり、早朝のバスに乗って釜山で海を見て、有名なシアホットクを食べたのが良い思い出です。
斎藤さん :ベトナムでは16日間の滞在中に、3つのホテルに滞在しました。ベトナムのプログラムには語学研修がないので、文化・生活体験がメインでした。遺跡見学のほか、街の飲食店でご飯を食べたり、スーパーで買い物をしたり。ベトナムの人々の生活を体験できたことがとても楽しかったです。ベトナムでは終始、先生が引率してくださったので、所々でいろいろな知識を教えていただき、とても良い勉強になりました。ベトナムの外国語大学の学生と交流する機会もありました。
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野辺さん :オルセー美術館について調べて行ったのですが、実際に訪れると、かつては宮殿であり駅としても使われていた、その歴史跡を目で確かめることができてすばらしい体験でした。また、ヴィクトル・ユゴー記念館を訪れ、彼が過ごした場所で、憧れの人を肌で感じることができたのはすごく嬉しかったです。研究しようと思っていることへの関心を深め、さらなる学びへの導入となりました。
成澤さん :私はファッションに興味があるので、現地のアパレル店で、ブランドコンセプトや、接客で意識していることなどをヒアリングし、プレゼンテーションにまとめる経験は貴重でした。また、さまざまな国の留学生や現地学生とのカラオケパーティーはとても楽しかったです。中国やイタリアの歌を歌う人もいましたが、知らない歌でもみんなで盛り上がり、「これが世界平和、多様性」と感動しました。
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言葉の壁、文化の違い、海外の同世代から刺激
--もっとも苦労したことを教えてください。
野辺さん :やはり言葉の壁は感じました。自分の気持ちを相手にうまく伝えることも、相手の気持ちを理解することも難しく、非常にもどかしく悔しい思いをしました。この経験は、帰国後にフランス語を学習する際のモチベーションにつながっています。
田代さん :私も言葉で苦労しました。食事は自分達で調達するのですが、現地のスーパーや屋台の店員さんの中国語はとにかく速くて、略語も多く、中国語の先生の発音に慣れていた私には聞き取りにくく感じました。かき氷を買う際に、店員さんの言っていることがわからず、とにかく「対(はい)」と答えていたら、すべてのトッピングを載せられて、とても奇妙な味になってしまったこともあります。
--日本との違いを感じた体験はありましたか。
多田さん :多くの店舗が17時に閉店することに驚きました。オーストラリアの人は、早く仕事を切り上げ、夜はプライベートの時間を大切にしていました。また、平日の昼間に公園でのんびり過ごしている人を多く見かけ、個人の時間を大切にする生活スタイルを体感することがきました。
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斎藤さん :ベトナムは街中を歩くだけで多くの発見があり、とても楽しかったですね。マーケットで、常温の場所にお肉が山盛りで置いてあるのを見たときは「なぜ?」と驚きましたが、冷蔵庫が普及していないので、その日に売る、その日に食べるスタイルだと聞いて納得しました。また、事前に「ベトナムでは宗教が生活と密着している」と学んでいましたが、実際にスーパーにお供え物がたくさん売られていたり、家の中心に仏壇が置いてあったりしたのが印象的でした。
田代さん :台湾には、若者が伝統文化の良さを生かし、新しい文化にアレンジするムーブメント「文化創意産業」があります。日本の若者は、伝統文化にあまり興味がない人が多いと思うので、意識の違いを感じました。
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多田さん :私は授業スタイルの違いを感じました。日本では先生が学生に向かって一方的に話をすることが多いですが、オーストラリアでは、先生と学生が活発に意見交換をしていて、学生の主体性が求められていると感じました。
日野さん :私も、現地の女子大学の授業に参加した際に、学生と先生が輪になって議論をしていて、学生の積極性を感じました。「自分が意見を述べることで、他の人の意見も返ってくる。それによって、自分とは違う視点を知ることで、自分の意見が固まってくる」という循環がすばらしいと感じました。私も、自分の中にある消極性を壊して、積極的に発信することで視野を広げていきたいと思いました。
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国と自分自身の価値観を「越境」
--SAPを通して得たもの、身に付いた力について教えてください。
成澤さん :英会話力、コミュニケーション能力、そして自己管理能力です。語学力向上には、強制的に英語の環境に置かれる方が良いと思います。
野辺さん :私もリスニング力が上がったと感じました。短期間でしたが耳がフランス語に慣れていくのを実感しました。国を越える「越境」、自分の価値観や考え方、当たり前を超えていく「越境」の2つを体験することができました。プログラムに参加したことでチャレンジする意欲が湧き、来年一年間の留学を決意しました。
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多田さん :私も同様に、自分の現状を早い段階で見つめることができたので、4年間の勉強計画が立てやすくなったと感じています。国際文化学部の特徴は、文化と言語の両方が勉強できることですが、今回の経験で、「言語をもっと勉強したい」という目標ができました。
斎藤さん :私は、日本ではあまりニュースにならないベトナムで、異文化体験の楽しさを知りました。文化も暮らしも日本と違うので、驚くこともありましたが、それを受け入れ理解することの楽しさ、大切さを知りました。
成澤さん :目で見て、肌で感じるからこそ得られるものがあります。イギリスでは良い意味でお客様扱いされず、仲間としてフラットに接してもらえました。渡航前は、「外国の人はあまりサービス精神がない」という偏見をもっていましたが、イギリスの人は親切でおおらかで、まさに「ジェントルマン」という言葉がぴったり。私の偏見が崩されました。今後、日本で外国の人と接する際にどうあるべきか、そのヒントももらえたと感じています。
「これができないとだめ」ではなく、「これもできる、あれもできる」
--今回の体験を今後の学生生活、将来にどのように生かしていきたいですか。
日野さん :一歩外の世界へ足を踏み入れると、まったく違う文化が広がっていることを知り、今後の学生生活では単一の見方に捉われず、常に視野を広げて、自身の可能性を広げていきたいと考えています。アメリカの学生の積極性にも刺激を受けたので、早速この経験を生かし、自分の意見を率先して発表することを意識しています。
宮田さん :今回の体験を通して、母国語が異なっても「韓国に興味をもっている」という共通点によって出会いが広がることを学びました。同時に、私は多人数との交流で必要とされる積極性がまだまだ不足していると感じました。この学びを生かして、相手と自分の共通点を見つけて交流を広げ、自分の殻を破っていきたいと思います。
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斎藤さん :ベトナムではイオンモールが何店舗も出店しており、プログラム中に同社の担当の方から、現地でのビジネス展開について話を伺う機会がありました。私はこれをきっかけに、海外での日本企業のマーケティングについて興味をもちました。多くの日本企業が東南アジアに投資をしているので、将来はそうした仕事も含め、国際的な環境で仕事やプロジェクトに参加したいと考えています。
--最後に、SAPに興味があり、国際文化学部への入学を考えている受験生に向けて、メッセージをお願いします。
野辺さん :受験時には、自分が何をしたいか明確ではない人もいると思いますが、これまで興味がなかった国や文化に触れることで、新しい考えをもらえることもあります。今やりたいことが決まっていなくても、国際文化学部で学ぶことで、きっと何かを見つけることができると思います。
多田さん :留学に不安を感じる人も多いかと思いますが、SAPは同じ学部の友達と一緒に参加できるので、心強いです。特にオーストラリアは、英語が得意ではなくても参加しやすいようにプログラムが組まれていますし、2週間という短期なので、海外や留学が初めての人にもチャレンジしやすいのではないでしょうか。
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--ありがとうございました。
訪れた国に馳せる思い、体験を生かしたこの先の計画などを話してくれた学生たちの目が、生き生きと輝いていたのが印象に残る取材だった。日本女子大学 国際文化学部では、国・言語・時代・人種・民族・ジェンダー格差などさまざまな境界を越え、新たな文化を創造できる人材を育む。SAPを出発点として、大学入学後すぐに海外へ出向き、さまざまな文化や人にめぐりあう「越境体験」は、自分自身の中にあるリミッターを外し、「多文化共生」の視点を養うきっかけとなるだろう。
【学生インタビュー】
動画で知るスタディ・アブロード・プログラム(SAP)
キャンパスを飛び出して経験を積む、多文化共生視点を持つ人材の育成
日本女子大学 国際文化学部 国際文化学科