通信制高校とeスポーツ、双方の人気が高まる中、学校でも自宅でもないサードプレイスを提供する「ルネ中等部」は現在、全国に7拠点(池袋・新宿代々木・横浜・名古屋・大阪・岡山・博多)を展開している。
ルネ中等部に中学3年生から通い、ルネサンス高等学校 池袋キャンパス eスポーツコースに進学した高校3年生そらさん、内山聖也先生と新畑智也先生に、eスポーツを軸とした学びの実際や今後の進路について話を聞いた。
ルネ中等部で慣れてから、ルネサンス高校へ
--そらさんがルネ中等部に通い始めたきっかけを教えてください。
そらさん:中学校に馴染めず、ほとんど通っていない状態だったのですが、母がルネ中等部の情報を探してきてくれて、中3の10月から通い始めました。eスポーツコースがあるルネサンス高校に入学したいと考えていたのですが、初めての場所は緊張するので、高校入学前にまずはルネ中等部から慣れようと思いました。
--eスポーツとはいつ出会ったのでしょうか。
そらさん:小学生のころからゲームが好きで、ポケモンやマインクラフトなどで遊んでいました。中1のころにYouTubeでゲーム実況を見てフォートナイトを知り、Nintendo Switchでフォートナイトがプレイできるようになったタイミングでハマりました。パソコンを買ってからはパソコンでプレイしていて、ネット上で仲間が増えていき、今では友達と大会にも参加しています。
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--中等部に通い始めたころのそらさんに、内山先生はどんな印象をもちましたか。
内山先生:講義を受けるときも緊張しているのが伝わってきましたね。なかなか自分からは話してくれないと感じたのをよく覚えています。
そらさん:…緊張していました。
内山先生:逆にそらくんに、私の第一印象を聞いてみたいと思います(笑)。
そらさん:初めて会ったときはちょっと怖かったです。
内山先生:怖かったんだ…。
そらさん:いえ、初めてのことが苦手なので…。
--先生が怖いというよりも、新しい世界や環境が怖かったんですね。内山先生はどのように、そらさんと打ち解けていったのでしょうか。
内山先生:私はもともとゲームが好きで、生徒と共通の趣味が多いんです。どういうゲームが好きなの? どんな動画を観ているの? と共通点を見つけて話すようにしたところ1か月ほどで、そらくんからも話かけてくれるようになりました。
そらさん:ルネ中等部には週1回通っていましたが、自分から話しかけるのが得意ではなくて、ほかの生徒との会話はあまりありませんでした。
内山先生:そらくんは中等部の1期生で、私も同じタイミングでルネ中等部に携わり始めました。現在ルネ中等部の池袋校には20名程在籍していますが、開講当初は生徒2、3人からのスタートで、ルネ中等部に行くのも怖い、学校に行くのも怖い、ちょっと外に出るのも怖いという生徒ばかりでした。そらくんは1か月でかなり私と話すようになってくれて、緊張していても自分の好きなことについてならば、むしろよく話してくれると感じました。
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--社会とのリアルな接点がなくなっている状態で、ルネ中等部に来る生徒さんが多いのですね。ルネ中等部で新しい生徒を迎える際にもっとも気を付けている点を教えてください。
新畑先生:まずは新しく入った生徒が何を目的にルネ中等部に来ているのかを確認します。eスポーツやプログラミングを学べる場なので、ゲームがうまくなりたい生徒、中学校に通えていない状態で友達づくりや居場所づくりに来る生徒がいます。友達づくりに来る生徒にeスポーツをガンガン教えると、頭がパンクして楽しめません。そういった生徒には、ただeスポーツを通じてここに来ること自体を楽しめるよう講師が工夫しています。eスポーツのプロ選手を目指している生徒には、みっちりeスポーツを教えています。
内山先生:eスポーツは目標が同じでもスタートラインが違う場合があります。プロになりたい人でも、本当に上級者でプロになりたいのか、それとも初めてパソコンに触るがプロになってみたいのかで、やはり指導方法が変わります。スタートとゴールをしっかりと理解することが大切です。中等部に入ったころのそらくんはパソコンでフォートナイトをプレイし始めたばかりで、まだパソコンに慣れていないときでしたが、大会に出たいという思いがあったので、大会向けの練習をしてもらうように心がけました。
そらさん:講師の方が優しく、友達みたいに接してくれたのが嬉しかったですね。講義が終わったあともほかのゲームの話題を作ってくれたり、雑談したり、その場に居やすかったです。
自ら自分のことを発信できるようになる
--中等部を経てルネサンス高校に進み、まもなく高校卒業ですね。高校生活で印象に残っていることを教えてください。
そらさん:高校ではやはりeスポーツの大会「STAGE:0」(以下、ステージゼロ)が印象に残っています。高校生限定の大会で、3年間しかチャレンジできないので、いちばん頑張りました。フォートナイトのデュオ(2人1組)では予選が2日間あって44組が決勝に進みます。1年目、2年目は予選で落ちてしまいましたが、3年目で通過して本当に嬉しかったです。
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内山先生:ステージゼロはeスポーツの甲子園といえる、もっとも大きい高校生の大会です。年々、規模も大きくなっています。2023年のステージゼロでは、決勝進出したのは半数以上がルネサンス高校グループでした。私はもともとフォートナイトなどのeスポーツをやっていて、4年前からルネサンス高等学校eスポーツコースの講義内容の変更を任され、見直しをしてきました。それがだんだんと結果につながってきたと思います。講師の質も良く、また学内大会もあり、ほかのキャンパスの生徒とつながって、仲良くなってオンラインで練習するといった交流も広がっています。
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そらさん:高3のときに、中等部も一緒にみんなでディズニーランドに行ったことも印象に残っています。以前、在籍していた中学校では遠足や修学旅行は行かなかったので、楽しい思い出になりました。
--近くで見守ってきた内山先生と新畑先生が感じる、そらさんの「変化」を教えてください。
内山先生:そらくんは入学当初、自分のことを発信するのが苦手という印象でした。高校に入って徐々に友達が増えて、eスポーツ大会でも活躍し、とても明るくなり、身の回りの出来事など、自分のことを発信することが増えました。
ルネ中等部では、大人の講師に加え、ルネサンス高校のeスポーツコースの現役高校生が講師としてeスポーツを教えています。そらくんも今、中等部でeスポーツ講師のアルバイトをしているのですが、出会ったころを思い出すと、本当に成長をしたと感じます。
新畑先生:そらくんは、高1のころから、気が付いたら仲の良い友達に囲まれて、クラスの雰囲気を明るくしてくれていました。eスポーツは静かにカチャカチャやっているだけ、と想像される方もいるかもしれませんが、実際に教室を見ると賑やかに話しながら、ワイワイやっていたり、みんなでお昼ご飯を食べに行ったりしています。転校生や新入生も、そうした雰囲気を見て安心できるので、とても助かっています。
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--生徒たちはどのように打ち解けていくのでしょうか。
新畑先生:4月の最初は、オリエンテーションとしてゲームネームでの自己紹介をしていますが、基本的には生徒同士で仲良くなっていく印象です。
内山先生:ルネ中等部も、ルネサンス高校のeスポーツコースもオフラインで集まる機会が多いので仲良くなるスピードは早いです。中等部と高校合同のクリスマスパーティーなどのイベントでは高校生の先輩と友達になることもあります。
動画編集を専門に学ぶ進路を選択
--そらさんの今後の進路について教えてください。
そらさん:やりたいことが見つからなくて、なかなか進路が決まりませんでしたが、内山先生に相談にのっていただいたりして、専門学校で動画編集を学ぶことにしました。
--動画編集はルネサンス高校でも学べるのでしょうか。
内山先生:ルネサンス高校では月8回ほど、英語やプログラミング、セルフマネジメント、動画編集など、進路を見据えた講義があります。
そらさん:動画編集の講義は受けましたが、仕事として役立つレベルまでではなかったので、内山先生のアドバイスもあり、さらにスキルを上げようと思いました。ゲーム実況系やエンターテインメント系の動画制作に興味があり、家でも自分で動画制作をしています。
--進路選択に関してほかにサポートはありますか。
内山先生:選択肢が広がるように、ゲームに携わる職業の紹介や、ゲーム関係の企業の方をお呼びして講演を開いています。また東京ゲームショウなどのイベントにルネサンス高校グループとして出展して、そこで業界に触れてもらい、自分の方向性や知識を得る機会にしています。
新畑先生:年に2回、ルネサンス高校グループ3校すべてが参加するeスポーツの学内大会を、基本的に生徒主導で行っています。我々が教えながら、ストリーミング配信もしています。校内で企業のインターンができるイメージですね。生徒は配信の待機画面を制作したり、ゲームの実況解説をしたり、実際の職業を疑似体験できます。
--そらさんは東京ゲームショウでは何か活動されましたか。
そらさん:高2の時はeスポーツ体験のお手伝いをして、高3のときはフォートナイトをされている芸能人の小籔千豊さんとステージでトークイベントを行いました。
内山先生:そらくんは小籔さんのクラン(フォートナイトで一緒に戦うグループ)にいるんだよね。そこで実際に小籔さんと会場でトークしているところを配信したんです。
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そらさん:とても緊張しました。質問も考えておきましたが、実際はやっぱり難しかったです。小籔さんの回しが上手でなんとかなりました(笑)。
ゲームネームで集う第3の居場所
--今、お子さんのゲームやネット依存、不登校などを案じて、ゲームと学びを対立構造と捉える保護者も多いと思います。それぞれの視点で保護者へのメッセージをお願いします。
内山先生:ルネ中等部、ルネサンス高校eスポーツコースは家の外に出て対面で顔を合わせて講義を受けるので、外に出るきっかけや生活習慣の改善に役立ちます。またゲームで成長するには考える力が必要で、戦術や戦略、状況判断の力も養われます。ルネサンス高校では、OODAループ*という考え方を講義に取り入れており、それらをゲームに生かしながら、さらに勉強やバイトにも応用しようという話もしています。*Observe(観察)、Orient(方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取った略称で、「ウーダ」と読む。 PDCAサイクルに類似した意思決定・行動のためのフレームワークで、変化の速い状況において強みを発揮する手法だといわれている
まずゲームをきっかけに、いろいろなことに興味をもってもらい、そうした大切な考え方をほかのことにも応用して使っていけば、人間的な成長につながると思います。
新畑先生:ルネ中等部は素の自分で居やすい場所です。生徒も職員もお互いにゲームネームで呼び合うなど、もともとのしがらみも何もない場所です。何かしら傷ついてここに来る生徒も多いですが、ゲームネームで呼び合うと実名とは気持ちが違うので、普通のフリースクールよりも、ゲームを通してもうひとりの自分になれるサードプレイスとして安心できると思います。
そらさん:自分もそうでしたが、やっぱり不登校の人にとって家の外に出る機会ができるのは良いことですし、ゲーム好きな人が多いので同じ話題で仲も深まります。僕のように学校は無理でもルネ中等部なら行ける場合もあると思います。ルネサンス高校に入るなら、まず中等部に行ってみて慣れることをお勧めします。
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--ルネ中等部に入ってから親御さんとの接し方に変化はありましたか。
そらさん:あまり変わってないですね。
内山先生:実はそらくんのお母様からときどきお手紙をいただくことがあるんです。
新畑先生:毎回、手書きで。とても良い内容で。
そらさん:え? そうなんですか? 知らなかったです。
内山先生:大会に出場して決勝に進んだときも感謝のお手紙をいただいて、本当に嬉しかったです。そらくんはeスポーツ講師のバイト代をちゃんと家に入れているので、しっかりしているなと感心しています。
そらさん:いや…入れているというか、母が病気になったときに薬代の足しにしてもらいたくて…。
--そうなんですね。お母様がまずいちばん、味方なのでしょうか。
そらさん:そうですね。
--ルネ中等部やルネサンス高校に来て、いちばん良かったと思うことは何ですか。
そらさん:信頼できる友達ができたことです。
新畑先生:友達とは学校がない日も遊びにいったりしてるの?
そらさん:ユニバやディズニーにも行きました。講義がなくて家にいる日も通話しますね。高校のeスポーツコースは週2日通学で、通学日以外は自由な時間が取れるので、ルネ中等部のアルバイトや、遊びに行くこともできます。昨日は友達の家に泊まって、今日は友達と一緒に来ました。
内山先生:いわゆる普通の高校生らしいことをしているなと思います。帰りに買い食いしたり、みんなで遊びに行ったり、ゲーム以外でもとても楽しそうです。
--中学校に通えず悩んでいたころのご自身と同世代の中学生に、どのような声を掛けたいですか。
そらさん:友達もできるし、ゲームから将来の仕事につなげることもできる。今居場所がない、普通の中学校・高校に通うのは難しそうだけれど高校に進学したい中学生にとって、ルネ中等部とルネサンス高校はぴったりだよ、と言いたいですね。
--ありがとうございました。
今回訪れたルネ中等部・ルネサンス高校 池袋キャンパスは、生徒たちの明るい声と活気が溢れていた。不登校、ゲーム・ネット依存のお子さんの保護者としては、まず先入観をもたずに目の前の子供が何を好きなのかを知り、どんな選択肢があるのかを探すことが端緒になるのではないだろうか。居場所が見つからない苦しい気持ちを軽くしたい、ゲームが好きな友だちが欲しいなど、さまざまなケースに寄り添う講師と、似た経験をしながら成長している生徒たちが集まるサードプレイス「ルネ中等部」。ぜひ一度訪れてその雰囲気を感じてみてほしい。
ここから未来の自分に手を伸ばすeスポーツ&プログラミング「ルネ中等部」