ルネ中等部 岡山校に聞く「サードプレイス」の価値

 不登校児童生徒数は過去最多を更新し、学校でも自宅でもない子供たちの居場所として、フリースクールをはじめとした「サードプレイス」が注目されている。2023年9月に新設された「ルネ中等部 岡山校」が、eスポーツとプログラミング教育を軸に岡山市で開設に至った背景と狙いとは。

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ルネ中等部 岡山校に聞く「サードプレイス」の価値
  • ルネ中等部 岡山校に聞く「サードプレイス」の価値
  • 山本純平先生(左):ルネ中等部 大阪校・ルネサンス大阪高等学校梅田eスポーツコース責任者。西日本におけるルネ高eスポーツコースのカリキュラム開発、博多校と岡山校の立ち上げを統括。村上亜希子先生(右):ルネ中等部 岡山校の責任者。100名超の在籍者がいるルネ中等部 大阪校を3年間にわたり運営。
  • 「ゲームにも学びの要素があり、熱中できるなら将来的に自分の夢が見つかった時に同じエネルギーで子供たちは取り組める」
  • ルネ中等部の利用方法は、不登校の生徒が昼間に起きる習慣を身に付けるために昼の部に通うパターンと、中学校に通いながら放課後の居場所として利用する習い事のパターンの2とおりある
  • ルネ中等部 岡山校。eスポーツ用のハイスペックなデスクトップPCやゲーミングチェアが1人1台用意されている

 2023年10月3日に文部科学省が発表*した不登校児童生徒数は29万9,048名(小中学生計)と過去最多を更新し、学校でも自宅でもない子供たちの居場所として、フリースクールをはじめとした「サードプレイス」が注目されている。「ルネ中等部」は通信制のルネサンス高校グループを母体とし、eスポーツを通じてコミュニケーション力や問題解決力を養う教育機関。何らかの事由で中学校に通えない生徒の受け入れや放課後の習い事として利用され、現在は全国に7拠点(池袋・新宿代々木・横浜・名古屋・大阪・岡山・博多)を展開している。*文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

 2023年9月に新設された「ルネ中等部 岡山校」開設の準備を進めた山本純平先生と村上亜希子先生に、開設の経緯や思い、ルネ中等部ならではの魅力、体験に来る生徒や保護者がもつ悩みなどを聞いた。

山本純平先生(左):ルネ中等部 大阪校・ルネサンス大阪高等学校梅田eスポーツコース責任者。西日本におけるルネ高eスポーツコースのカリキュラム開発、博多校と岡山校の立ち上げを統括。村上亜希子先生(右):ルネ中等部 岡山校の責任者。100名超の在籍者がいるルネ中等部 大阪校を3年間にわたり運営。

好きなことに没頭しながら進路を見据える

--ルネ中等部 岡山校の開設の経緯や目的をお聞かせください。

山本先生:今年の9月、大阪と博多に次ぐ西日本3番目の拠点として岡山市に開設しました。これまで四国・中国地方から大阪校に通う生徒もいましたので、地域的にも家族世帯が多い岡山市にフリースクールを求める声が多かったという背景があります。また、岡山市にはeスポーツ全国大会の常連高校があり、専門学校にeスポーツコースが設置されるなど、県としてもeスポーツが盛り上がっています

--ルネサンス高校グループに進学することが前提なのでしょうか。

山本先生:特に前提条件ではありませんが、ルネ中等部に在籍した生徒の多くがルネサンス高校グループに進学してくれています。ルネサンス高校グループのeスポーツコースは週2回の通学ですが、中等部ではその練習として、まずは週1回でも家から出てみる、社会に一歩出ることからはじめます。自分の好きなeスポーツを通じて、コミュニケーション能力、戦略的思考、状況判断能力など、社会に出ても通じる力を養います。

 小学生のころから不登校となり、学校の枠組みに疲れきっていて、先生が話すことを遮断し、聞く習慣を失っている生徒もいます。人の話を聞く姿勢を教え、自分のやりたいことに全力で取り組む場を用意し、気持ちのメリハリをつくってもらったり、インターネットやゲームでのリテラシーを伝え、人と接することに楽しみを覚えてもらったりすることで、コミュニケーションできるようになります。さらには英語に興味をもったり、中学校に通い出したり、全日制の高校受験を目指したりと目標をもつきっかけにもなります。

--「ゲームやネット=悪」と捉えている保護者もいるのではないかと思います。ゲームと不登校の関連についてはどのようにお考えでしょうか。

山本先生:生徒たちのようすを見聞きしてわかることは、ゲームによって不登校になったのではないということです。学校が楽しくないので家にいる、家ですることがないからゲームをする、ゲームが楽しくてはまった、だから家でずっとやり続けるという流れです。

 私たちは生徒たちに好きなことは全力でやりなさいと言っています。英語が好きで一日中、英語を勉強していても親御さんは何も文句を言いませんよね。でもゲームだと怒られます。ただゲームにも学びの要素があって、熱中できるなら将来的に自分の夢が見つかった時に同じエネルギーで子供たちは取り組めるんです。ルネサンス大阪高等学校でeスポーツの全国大会で準優勝した生徒が大学の情報系学部への進学後、それまでは興味のなかったプログラミングに没頭し活躍しています。

 私は、自分の好きなことを中高生の間にどれだけできるかが将来的に役に立つのだと思います。勉強やスポーツが得意な子がいるなら、eスポーツが得意な子がいても良い。もちろん体を壊し、心身が痛むことは良くないので、自分でコントロールできることは大切で、それらを大人が後押しできるかが重要です。

「ゲームにも学びの要素があり、熱中できるなら将来的に自分の夢が見つかった時に同じエネルギーで子供たちは取り組める」

--スマートフォンでゲームをする機会も多くありますが、eスポーツにはつながりますか。

山本先生:親御さんからすれば、いわゆるスマホゲームとeスポーツの区別はなかなかつきにくいと思いますが、今は高校生の全国大会や国民体育大会の種目にもスマホゲームが採用されるなど、スマホゲームはeスポーツのジャンルのひとつと捉えられています。サッカーとフットサルの違いといったイメージです。スマホゲームとeスポーツコースでの講義は違っているため、スマホゲームをはじめた生徒がeスポーツにいきつきます。

eスポーツによる社会性の獲得からプログラミングや基礎学力の習得へ

--ルネ中等部岡山校のカリキュラムを教えてください。

村上先生:ルネ中等部で行うeスポーツは「フォートナイト」「ヴァロラント」「リーグオブレジェンド」の3タイトルです。ヴァロラントやリーグオブレジェンドは5対5で戦うゲームで、戦略がかなり必要です。これらのゲームタイトルを講義に設定しているのは、「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0(全国高校対抗eスポーツ大会)」の正式種目になっているためで、ゲームタイトルのディベロッパー側が年齢制限をかけている「Apex Legends」などは中等部でもルネサンス高校グループでも扱いません。

 こうしたゲームタイトルを通じて私たちが伝えたいことは、チームワークや連携コミュニケーション力社会性です。またeスポーツ以外に毎週1時間、プログラミングや英語、数学の講義を実施しています。プログラミングはScratchを中心にし、パソコンの使い方やその中身を知るために解体してみたり、SNSの使い方などを学んだりもします。英語ではゲームで使う英会話を中心に自己紹介や実践的な英単語を学びます。たとえば、実際にゲームで使用するフレーズを先生が促しながら、Discordを使ってゲームでのコミュニケーションを英語で進め、英語に苦手意識がある生徒のサポートも含めて複数名の先生が担当します。

山本先生:基本的には自分の好きなeスポーツに取り組んで、そこからプログラミングや英語、数学に興味を広げてくれたらと考えています。ルネサンス高校グループでも同様の形式でプログラミングや英語の講義がありますが、中等部はその初歩の段階です。

--ルネ中等部岡山校の通学日は現在どのようになっていますか。

村上先生:岡山校では水曜日と金曜日にお昼のクラスと夕方のクラスを設けて、週1回からの通学を選択できます。遠方に在住しているために夕方のクラスに通えない場合は、土曜日の12時半~14時半に開講しています。不登校の生徒が昼間に起きる習慣を身に付けるために昼の部に通うパターンと、中学校に通いながら放課後の居場所として利用する習い事のパターンの2通りがあります。ルネ中等部では、eスポーツ用のハイスペックなデスクトップPCやゲーミングチェアが1人1台用意されているので追加の費用負担はありません

ルネ中等部の利用方法は、不登校の生徒が昼間に起きる習慣を身に付けるために昼の部に通うパターンと、中学校に通いながら放課後の居場所として利用する習い事のパターンの2とおりある

保護者も先生も本当に悩んでいる

--生徒や保護者からはどのようなご相談がありますか。

村上先生:ルネ中等部 大阪校では6~7割が不登校の生徒で昼間の利用、3~4割が放課後の習い事での利用ですが、相談に来るお子さまたちは、親に連れられてというよりも、意外と本人たちが調べて相談に来るケースが多いです。eスポーツやゲームをネガティブに捉えている保護者の場合、プロゲーマーになりたいというお子さまに対して、「先生から現実を見せてやってください」と言われることもあります。私たちもプロゲーマーになるための教室ではないという話や、プロゲーマー人生の短さ、限られた人が勝ち続ける厳しい世界だということ、どういう給与体系なのかなど、現実をお伝えします。ただ、多くの保護者の方は、家にいるお子さまが好きなことに夢中になってほしい、外に出て社会と接点を持ってくれたらうれしい、というポジティブな理由で子供の背中を押してあげたいとご相談に来られます。

山本先生:不登校の子の保護者の方は本当に悩んでいて、自分の子供が家から出てくれない、学校に行かない理由がわからないという声をよくお聞きします。またeスポーツという未知のものに対しての不安もあります。ただeスポーツは、これから生まれる仕事の1つだと私はお話しています。家で黙々とゲームを続けるお子さまが、体験に来て人と話しながらプレイしているようすを見て、親御さんはかなりほっとされるようです。「自分の子供がこんなに真面目に取り組んで、先生に褒められる」と、ネガティブなことばかり言われてきた保護者やお子さまはとても元気になってくれます。講義での先生からの問いかけやコミュニケーションから視野を広げ、プログラミングや他のことに興味をもつ場合もたくさんあることを、体験を通じてわかっていただけると思います。

--保護者としては所属の中学校との連携や出席の扱いが気になりますがいかがでしょうか。

村上先生:新設された岡山校はこれからですが、大阪校の例で言うと、保護者が望めばほぼ出席扱いの認定をいただいています。

山本先生:ルネ中等部では基本的に昼の部がフリースクールとして出席扱いの認定を受けていて、夕方の部はあくまで塾や習い事と同じ扱いです。基本的な流れとしては、まず保護者の方から出席にしてもらいたいというご希望を、所属の中学校に伝えていただきます。すると中学校からルネ中等部に面談や見学のお話をいただき、担任の先生や校長先生、場合によっては教育委員会の方が来られて、あらためて私たちから中等部のご説明をさせていただきます。そうしたプロセスを経て、校長先生に出席として認めていただきます。中学校には、私たちから毎月の報告書という形で出席日とルネ中等部で取り組んだ講義内容を提出しています。

 来られる学校の先生方もやはり、とても悩まれています。ルネ中等部に通う自分の中学校の生徒が、友達と和気あいあいと英語の講義を受けているようすを見るだけで、先生方もほっとした表情になり、本当に喜んでいらっしゃいます

ルネ中等部 岡山校。eスポーツ用のハイスペックなデスクトップPCやゲーミングチェアが1人1台用意されている

学校や家庭とは違うサードプレイスの価値

--他の地域の生徒との繋がりはあるのでしょうか。

村上先生:人数が集まらないと楽しくないゲームが多いので、現在、大阪校と岡山校では密に連携を取っています。大阪校では中等部卒業の高校生や、現在中等部に通っている生徒に、岡山校との共同練習を快く受けてもらっています。また全国の拠点が参加する高校生向けの校内大会で、中等部でメンバーを組んで高校生チームに混ざるといった交流もありますので、先輩から教えてもらう機会もあります。

山本先生:今、eスポーツの指導者は全国的に足りていません。フリースクールでeスポーツを扱う学校や高校、専門学校も増えていますが、「教えてもらってゲームが上手くなった」という大人や大学生が少ない。その点、私たちはeスポーツを教えるノウハウをもっており、eスポーツの指導者になる夢をもつ生徒も出てきました。ルネサンス高校グループで学ぶ生徒たちが中等部の講師として参加するケースもあります。教えることで自分がわかっていること、わかっていないことを把握し、どう教えれば人に伝わるのかという経験を通じて、深い学びにつながります。私たちとしてはこうした良い循環も作っていきたいです。

--不登校が右肩上がりに増え、フリースクールについても注目が高まっています。あらためてその価値についてどのようにお考えでしょうか。

山本先生:日本がかつて経済発展してきた時代は、集団で学んで一律に成長することが重要だったと思いますが、今、これだけ集団行動で苦労する子供たち、既存の学校の枠組みで苦しむ子供たちがいるならば、そうした子供たちが将来しっかりと生きていく、自分でご飯を食べていける、行動していける枠組みを大人が作っていくべきだと考えています。フリースクールやeスポーツにどのような価値を創出していくかは私たち大人の課題です。将来、多様な子供たち皆が元気に、世の中に出て活躍できる社会になってほしいです。

村上先生:中等部を見に来られた中学校の先生たちは皆さん、eスポーツが社会性を育てる教材となり、こんなにみんなで楽しめるんだと知り、帰っていかれます。私たち大人は、自分が育ってきた環境がすべてだと思いがちですが、自分が育ってきた環境だけではない、経験していない部分を見て理解しようとする、想像することが大事だと感じます。学校もフリースクールも保護者も、もっと同じ場で話し合い、お互いの現場を行き来できる環境があれば、さらに改善に向かうのではと思います。

--保護者へのアドバイスをお願いします。

村上先生:自分の言葉で話すことが苦手というお子さまは、まずお母さまだけでも来ていただいて、写真に撮って「こんなところがあるよ」と紹介してもらえたら、お子さまも見学に来やすくなるのではと思います。多くても生徒6人程度が教室にいるような少人数の場所なので、敷居は低いと思います。見学や体験の前にまず話を聞いてほしい、という形でも構いませんので、悩んでいたら一度連絡を頂ければと思います。

山本先生:いろいろな選択肢がある良い時代になってきていると感じます。英数国理社すべての教科を頑張らないといけないといった、保護者の時代の価値観にお子さまを当てはめるのではなく、お子さまが自分の好きなことをとことん突き詰めるという選択肢を認め、保護者の方が全力で応援し、子供とともに成長していく環境をルネ中等部では作っていきたいです。eスポーツを好きなお子さまが何か新しい行動のきっかけを得られるよう、ルネ中等部一同で準備し、お待ちしています。

--ありがとうございました。


 子供たちが同じ興味をもつ人に出会う場は今、オンライン上に広がっているが、実際に人と会う機会をもち、リアル社会との接点を保つことは生きていく上で大切だ。学校でも家でもない、子供たちの好きなものを頭から否定しないオフラインの“サードプレイス”の価値はさらに高まっていると感じた。eスポーツを軸に仲間と集い、社会性を身に付ける「ルネ中等部」を今後も注目したい。

ここから未来の自分に手を伸ばす
eスポーツ&プログラミング「ルネ中等部」
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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