【高校受験2025】SAPIX中学部に聞く都立入試「共テ出題傾向が色濃く反映」夏の前から苦手単元の克服を

 東京都の難関高校受験において高い合格実績を誇るSAPIX中学部。教務部部長 青木茂樹氏に、2024年度の振返り、2025年度入試に向けた夏休みの教科別学習ポイント、志望校選び、保護者の心構えなどを聞いた。

教育・受験 中学生
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SAPIX中学部 教務部部長 青木茂樹氏
  • SAPIX中学部 教務部部長 青木茂樹氏
  • 進学指導重点校に指定されているトップ7校(日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川)受検者数推移
  • SAPIX中学部 教務部部長 青木茂樹氏
  • 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の評価
  • SAPIX中学部 教務部部長 青木茂樹氏
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 都立高校の普通科の男女別定員廃止、私立高校の就学支援金制度の所得制限が撤廃されるなど、制度変更の影響が気になる中、依然として都立トップ高校の人気は盤石な状態が続いている。高校受験を控える中学3年生、難関校・上位校合格を狙う中学1・2年生はどのように準備を進めていけば良いだろうか。

 難関高校受験において高い合格実績を誇るSAPIX中学部 教務部部長 青木茂樹氏に、2024年度の振返り、2025年度入試に向けた夏休みの教科別学習ポイント、志望校選び、保護者の心構えなどについて話を聞いた。

2024年度は安全志向

--2024年度の公立高校受験を振り返って、おもなトピックを教えてください。

 大きなトピックとして2点あります。1つ目は、2024年より男女別定員が完全廃止となり一般入試・推薦入試ともに男女合同定員へ移行したこと。2つ目は、就学支援金制度の所得制限が撤廃され、実質授業料が無償化となることが発表されました。

--倍率や人気校などの変化はありましたか?

 進学指導重点校に指定されているトップ7校(日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川)に関しては若干ですが倍率が下がりました。男女合同選抜という制度変更の影響に鑑みてなのか、“頑張ってトップを目指そう”というチャレンジ層が安全志向に走ったためだと考えられます。進学指導重点校に入りやすくなったのかというと、決してそうではありません

 また、2024年は入試当日の欠席者が例年よりも増えており、都立志望から国立・私立に流れた層も一定数いたと考えられます。私立高校授業料無償化の所得制限撤廃による波及なのか、早めに進学先を決めたいという保護者の方と生徒のマインド的なものか正確にはわかりませんが、そのような傾向があったということは言えます。

進学指導重点校に指定されているトップ7校(日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川)受検者数推移

--男女別定員の撤廃はどう影響しているのでしょうか。

 あくまで一般論ですが、男女別枠がなくなったことで、推薦入試における女子の合格率が上がるという予想はできます。というのも同じような学力の男子と女子がいた場合、一般的には女子の方が調査書の点数が高いという傾向はデータがあります。そうなると調査書の比重が高い推薦入試は女子の方が受かる可能性が高く、一方、推薦で先に合格していく女子が増えたぶん、一般入試では男子の方が有利になるということが考えられます。新宿高校や墨田川高校のように、以前から男女合同で選抜試験を行っていた学校のデータを見ても、推薦は女子の、一般入試は男子の合格率が高いという結果が出ています。

--先ほど、都立から国私立に流れているというお話もありました。私立の人気校についてはいかがでしょうか。

 早稲田、慶應義塾、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)といった大学の附属校は人気です。あわせて、都立の難関校を受験する生徒は、5教科入試を実施する私立校と併願するケースが確実に増えています。千葉の市川や渋谷幕張、都内では開成、巣鴨です。他には桐朋、城北といった男子校があげられます。女子については、早慶を第一志望で受験し、ダメだったら大学受験でのリベンジを狙い都立の進学指導重点校を受けるパターン、医学部を狙い、慶應女子を受験する生徒、渋谷幕張、市川を受験する女子生徒も多いです。筑波大附属、東京学芸大附属、お茶の水女子大附属といった国立校も人気を根強く維持しています。

2024年度の出題傾向を振り返る

--出題傾向の変化や特徴がありましたら教えてください。

 大学入試改革のもと、ここ数年は大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の出題傾向が色濃く反映された出題形式が続いています。教科ごとに共通問題および自校作成問題*の傾向をみていきましょう。

*自校作成問題とは…都立高校入試では、理科と社会は全高校で共通の問題を使用しているが、一部の学校の英語・数学・国語は、高校独自で作成した問題を使用している。自校作成問題(英語・数学・国語)を使用している学校は、進学指導重点校の日比谷、国立、西、戸山、青山、立川、八王子東と、進学重視型単位制高校の新宿、国分寺、墨田川。国際高校は英語のみ


英語

 共通問題と自校作成問題では長文問題に大きな差があります。共通問題は1,800語前後の単語数で構成されている一方で、自校作成問題の長文は2,500語と問題用紙1~2ページ分に相当する差があり、読むスピードが求められ、内容自体も複雑です。2024年度の題材として、国立高校では、二進法を用いた暗号解読について、日比谷高校では環境に配慮した建築資材に関する論説文や、“物事を忘れる”という脳の機能を題材にした問題でした。自校作成問題は文章の内容をしっかり読んだうえで、何が言いたいかを分析し咀嚼していかないと正しい答えにたどり着きません。日本語で読んでも難しいテーマを扱い、かつ長文で読ませるというのは、かなり共通テストの出題傾向を意識しているでしょう。

数学

 数学に関しては、共通問題も自校作成問題も出題される単元がある程度決まっています。計算、関数、平面図形、空間図形、そこに作図と証明が入るというセットは長らく変わっていません。共通問題は作図が1題、証明が2題ありますが、解き方の糸口が比較的見つけやすい問題です。一方で自校作成問題は、作図が1題、証明が1題、解法を記述する問題が2題あり、解法や考え方の記述を重視しています。また、たとえば証明の場合、合同なのか相似なのかなど、求められたことを導くために何を示せばよいかを自分で考える必要があります。

国語

 国語の自校作成問題はひとことで言うと“スピード勝負”です。一般的な高校入試では文章読解が1題か2題のところ、自校作成問題は3題が出るというだけでもかなりスピード勝負であることがわかると思います。記号選択も、選択肢を読んでどれが合っているか一問一問確認しながら解くといった精緻な読解力が試される出題でした。青山高校や国立高校のように、複数の文章や資料を読み込んで解く問題や会話文、一部の学校では条件作文などもありました。

「都立入試では、共通テストの問題傾向が色濃く反映された出題形式が続いている」と語る青木氏

理科

 基礎問題や典型問題が大半ですが、かなり長い問題文を読んでから設問を解くという点では国語同様です。覚えるよりも運用力や思考力が求められる問題が増えており、見慣れない題材や図も多くありました。文章をしっかり読んで自分のもっている知識と結びつけて考えたり、必要な情報を問題文から抜き出したりする作業が求められました。

社会

 近年少しずつ難度が上がってきています。学習指導要領が変わり教科書に掲載されるボリュームが増えたため、扱う内容が単純に増えたのでしょう。教科書で強調されている太字のところだけではなく、欄外にある資料やコラムといった細部からも出題されるなど、隈なく知識を身に付けているかどうかが問われました。

英語スピーキングテストは平均点向上

--英語スピーキングテスト「ESAT-J」が都立高校入試に活用され2年経ち、平均スコアが上昇したと発表されました。

 2023年11月に実施されたESAT-Jの中学3年生全体の受験人数は7万1,205人。平均スコアは65.2で、2022年実施時より平均点が4.7ポイント上がりました。リスニングの力と、質問への回答を頭の中で組み立て話すことが必要になるわけですが、8割以上の生徒が自分の意見とその理由を具体的な事例を用いるなどして伝えることができていると評価されています。難度感も落ち着いていますので、過度に恐れる必要はないと思います。

 とはいえ対策なしで試験に臨むのは危険です。模擬試験を受ける、東京都教育委員会のWebサイトで内容をチェックするなど、準備しておくことが大切です。現中学1・2年生は、今年から「ESAT-J YEAR1」「ESAT-J YEAR2」として、スピーキングテストが学校で実施されるので対策しやすいでしょう。

中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の評価

夏は苦手教科の克服と得意教科を伸ばす

--夏休みの過ごし方と学習のポイントについて教えてください。

 2学期以降、一般的には12月ぐらいから過去問に取り掛かりますが、過去問を解く前の段階でどういう力を付けておけば良いのかというところで、夏休みの過ごし方が大事になってきます。夏休みに意識するべきことは2つ。まずは苦手教科を克服すること。2点目は、苦手ばかりやっていると強みが生かせなくなるので、自分の得意教科を伸ばすことも意識してほしいですね。夏休みに入って急に勉強しようと思っても、いきなりダッシュはできないので、夏休み前から少しずつでも始めていくのが得策です。

--5教科について、これから秋までに取り組むべき学習アドバイスを、それぞれの教科ごとにお願いします。

英語

 まとまった時間がとれる夏にこそ、腰を据えて長文問題に取りかかってほしいと思います。長文を読むときはスピードも大事ですが、日本語訳や解説を読んで、正誤はもちろん内容をきちんと読み取れているか意識してください。また、単語や熟語の対策の手を抜かないことが大切です。単語熟語が頭に入っていないと長文も読めませんので中3生はしっかりと取り組んでほしいです。

 中1・中2生はまだ時間があるので、声に出して単語を覚える学習法を強くおすすめします。小学校の授業で聞く・話すことに取り組んでいた生徒も多く、発音も良いし、話しながら書くことに抵抗感がないと思います。声に出すことが、いずれは長文を読むうえでのスピードアップやリスニングの向上にも繋がります。

数学

 先ほども述べたように、計算、関数、平面図形、立体図形、作図と証明から出題されます。これらの中で苦手な単元があるようだったら、まずは弱点を洗い出してほしいです。数学が苦手な生徒は特に「この問題のときにはこうやって解けば良いんだ」とパターンで覚えてしまいがちですが、それでは進学指導重点校には対応できません。解説を読んで、自分はどこまで出来ていてどこから理解が不十分だったのか振り返ること。線が引けなかったのか、相似に気づかなかったのかなど、設問を解くうえで自分なりのポイントを意識してください。初めは結構大変だと思いますが、これを意識していくと必ず数学は伸びます。

国語

 3題にも及ぶ文章題を読むためにはとにかくスピードが大事です。さまざまなタイプの問題に触れて経験を積むことが、最終的に問題を解くスピードアップにも繋がります。ぜひいろいろな問題にチャレンジしていただきたいと思います。また、古文単独での出題はありませんが、古文を理解していた方が圧倒的に解きやすくなる問題もあります。古文を後回しにせず、あわせて文法や漢字、慣用句もしっかり押さえておきましょう。

理科

 8~9割は基礎基本を問う典型問題なので、数学と同様とにかく苦手分野を潰してください。出題傾向のところでもお伝えしましたが、条件や前提を説明する問題文が長いので、読み飛ばしてなんとなく解くのではなく、しっかり読む。用語を暗記するだけでなく、仕組みを理解して、周辺知識も身に付けていくことが大事です。中3生でこれから履修する天体、イオン、運動といったいわゆる物理系の単元は例年差が付く分野なので、早めに対策を立てておきましょう。

社会

 基本は教科書からの出題ですが、細かい周辺知識まで含めて問われます。用語だけではなく、どうしてこういう出来事がおこったのかという時代背景など、周辺知識を関連付けて身に付けましょう。また、地理はできないわけではないけれど世界地理は苦手…といったスポット的に不得意分野がある場合も、早め早めに補強しておくことですね。

 理社に関しては、総じて中3範囲は覚える内容も多いので早め早めに基礎固めを行っていくと良いでしょう。理社の知識が入っているかどうかというのは、過去問を使って、身に付けた知識がちゃんと引き出せるかどうか確認作業していくこともかなり有効です。理社は共通問題なので他県の公立高校の過去問に取り組んでみるのも良いでしょう。

この学校に行きたいという気持ちが本番の強さに

--小学校高学年~中2生のうちから高校受験に向けて備えておくと良いことなど、アドバイスをお願いします。

 中学校生活の3年間というのは、勉強だけではなく部活や行事もあり、心が成長していく大事なときです。自分で考えて自分で選択をして、良くも悪くもいろいろな失敗や経験をすることが、ひいては高校受験でも大きく役に立つと思っています。

 たとえば、中間テストや期末テストで失敗した経験も、なぜ失敗したのか考え、もう少し早めにテスト勉強をしておけば良かった、提出物が不十分だった、苦手教科を後回しにしないほうが良い…と自分で考える。中1で失敗を経験しておくと、中3になったときに同じ失敗は繰り返さなくなります。中1・中2の保護者の方は大らかに見守っていただけたらと思います。

「中1・2年のうちに失敗を経験すると、中3で同じ失敗は繰り返さない」

--学校選びについてはいかがでしょうか。

 首都圏は学校の選択肢が多いのが特徴ですが、同じ都立でも学校ごとに本当にカラーが違います。部活を一生懸命やりたいのか、文武両道を目指すのか、文化祭や行事に力を注ぎたいのか、お子さまによって違うと思います。フィーリングがあう、あわないというのは、やはり行ってみないとわからない。まだ時間がある中1・2のうちに文化祭や学校見学会に足を運んでほしいと思います。

 「倍率が高い」「男女の枠の影響があるかもしれない」など、学校選びについて相談を受けることがよくありますが、まずは行きたい学校を見つけることが先決。成績的にはかなり厳しいところから、本人の強い意志で合格を勝ち取った生徒はたくさんいます。「この学校に行きたい」という気持ちが、本番の強さつながるのです。早めに自分の行きたい学校を決めると、そこに向かって勉強できると思います。

--中3生の保護者へのアドバイスをお願いいたします。

 中学受験は保護者の方が伴走する部分も大きいと思いますが、高校受験生には“(保護者の方が)勉強をさせる”というのは馴染まない表現かもしれません。保護者の方はつかず離れずのポジションにいて、本人が勉強したいと言ったとき、集中できる環境をつくってあげること。情報を集めたり、学校見学に付き添ってあげたりといったサポートをしていただけたらと思います。

 しっかりしてきたようでも、まだまだ15才です。塾では強気なことを言っていても家では不安で泣いているというお子さんもいれば、塾ではすごく打たれ弱そうに見えるのに家だと飄々としてゲームばかりしているお子さんもいます。健康面やメンタルケアはご家庭のサポートが不可欠です。ひとりひとりに道標を示し、受験という山の登り方を教えるのが塾だとしたら、後ろからそっと背中を押しつつ支えてあげるのが保護者の方です。ご家庭との役割分担として私どもを利用していただく気持ちで、勉強面についてはプロにお任せいただけたらと思います。

--夏を迎える受験生にメッセージをお願いいたします。

 中学3年生の皆さんは“大事な夏”ということはわかっていると思います。皆が勉強に力を入れる夏を迎える前に、自分は夏に向けてどういうことをすれば良いのか、まず考えてみてください。苦手単元の克服を夏から始めるのか、夏の前から少しずつ取り組み、夏休みに時間をかけてしっかり仕上げるのか。どちらが良いかは自明だと思います。

「夏は苦手単元の克服と得意科目を伸ばすことが大切。夏の前から少しずつ取り組んだ方が良い」と語る青木氏

 隙間時間を見つけたり、1日の過ごし方を振り返って、圧縮できそうな時間を見直したり、時間配分を工夫したり、夏をどう過ごすか今のうちから考えておくと実りの多い夏を過ごすことに繋がります。

--部活動が終わった夏以降、受験勉強に本腰を入れ始める中3生も多いと思います。途中から入塾する際の心構えはありますか。

 途中入塾の生徒に向けて、抜けている単元や知識を補う教材や授業動画もあります。授業では教材の問題演習だけでなく、実際の過去問を解く練習も含めてバランス良く行います。9月からは志望校対策に特化したSS(サンデー・サピックス)特訓も始まります。何よりハイレベルな生徒たちが多いので、ぜひ切磋琢磨していただきたいですね。夏から受験勉強を始めて、そのような環境のもとで、ぐんと成績が上がっていく生徒は大勢います。お子さんの実力を引き出して伸ばすカリキュラム、楽しんで勉強をしていただける環境に自信がありますので、ぜひ授業を体験してもらえたらと思います。

--ありがとうございました。


 「中学から高校への進学は義務教育ではなくなる分岐点です。自分で高校受験をする道を選んだという“自覚”をもってこの夏を迎えてください」と青木氏。来たる夏に向けて、お子さんを次のステップへ引き上げてくれるSAPIX中学部の指導カリキュラムを体験してみてほしい。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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