少子化にも関わらず、依然として狭き門の早慶(早稲田大学(以下、早稲田)・慶應義塾大学(以下、慶應))や明青立法中(明治大学・青山大学・立教大学・法政大学・中央大学)、関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)といった私立の名門大学。各大学の人気度や注目度は、志願者数や志願倍率などから計られがちだが、そうした数字には表れにくい人気の傾向を示すデータがある。
そのデータとは、東進ハイスクールが独自作成している「ダブル合格者進学先分析(以下、ダブル合格分析)」だ。これは、たとえば早慶を併願して、両方受かった場合に実際に進学するのはどちらかといった最終的な進学先を分析したもので、昨年の記事は公開直後から大きな反響を呼んだ。
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今年も最新のデータから、東進ハイスクール運営元であるナガセの広報部長・市村秀二氏に「早慶」「明青立法中」「関関同立」について、それぞれのダブル合格分析をインタビュー。第1回となる本記事では、私大のトップ2校である「早慶」にスポットをあてる。
早稲田政経での共通テスト「数学I」必須化の影響
--早稲田の最新の出願動向について教えてください。
2000年代から振り返ると、早稲田は2008年まではぶっちぎりの志願者数日本一。2009年に明治大にトップの座を譲るも、2020年までは10万人を超えていました。ところが2021年から10万人を切り、2024年は89,420人(全大学7位)と3年連続で志願者数が減少しています。
特にここ数年の減少は、2021年より行われている入試改革が影響していると考えられます。たとえば、昨年もお話したように、政治経済学部で共通テストの「数学I」を必須とするという、私立文系学部としては一見無謀とも言える改革を敢行。結果、その年の早稲田の政治経済学部の志願者は前年の71.9%、約3割減という打撃を受けました。
しかし、これこそが早稲田の狙う痛みをともなう改革だったのではないでしょうか。
実は早稲田は2000年代から、国際教養学部の新設や理工学部、文学部の再編と怒涛の入試改革をスタート。そして、2012年の「Waseda Vision 150」の中で、学部生数を絞り、大学院生を増やす(9,400人→15,000人)ことを掲げています。
つまりは慶應と比べて人数の多い学部定員を減らすことで少数精鋭化し、一方で大学院生を増やし高度な教育を行い、より多くの優秀な人財を輩出していくという方針なのです。
--志願者数を大幅に減らした2021年の早稲田の政治経済学部の入試改革は失敗だったという声も聞かれました。
確かにそういう声はありました。ところが実態としては、後ほど紹介するダブル合格進学先分析の結果、早稲田の政治経済学部が、一矢報いたとでもいうべき結果となりました。
それまで早稲田の政治経済学部と慶應の法学部の両方に合格した場合、慶應の法学部を選ぶ受験生の方が多かったのに、この2021年の志願者数を大幅に減らした年から早稲田の政治経済学部が逆転し、その後2024年までずっと進学者が慶應の法学部を上回っているのです。
これは、入試改革によって受験する層が変わったということ。数学を必須としたことにより、早稲田の政治経済学部への志望度が高い受験生の割合が増えたと言えます。そして、難関国立大の併願者が増え、優秀な受験生が集まるようになったのです。とりわけ東大の併願者の増加が注目されましたね。
本年6月に実施した「全国統一高校生テスト」での学部系統別志願動向を分析すると、2024年度の反動の影響もあるかもしれませんが、早稲田は全系統で昨年を上回っています。特に、社会系が大きく伸びています。
--昨今の大学入試では総合型・学校推薦型の入学者に占める割合が増えていますが、早稲田は最新ではどのような状況でしょうか。
早稲田の総合型選抜・学校推薦型選抜の募集人員割合は全体の3割程度です。
一般選抜の志願者数は、総合型選抜・学校推薦型選抜と比べてはるかに多く、志願倍率が過去4年間いずれも6倍を下回ることはなく、かなりの難関であることがわかります。対して総合型選抜・学校推薦型選抜の志願倍率は、過去4年で1.8~2.2倍程度(指定校制推薦含む)です。
志願者数の側面からも、総合型選抜・学校推薦型選抜志望者にチャンスが広がっていることは間違いないでしょう。
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--来年の早稲田の入試で押さえておくべき変更点があれば教えてください。
新課程が導入される2025 年度入試では、各学部で大幅な選抜方法の変更が予定されています。共通テスト利用の選択科目に「情報」の追加や募集人員の割り振りなどの変更ですが、特に大きな変更が行われるのが社会科学部と人間科学部です。
21年度に政治経済学部から始まった、大学入学共通テストと独自試験の併用方式を、社会科学部と人間科学部でも行うことになったのです。個別試験のみで判定する方式を廃止し、一般選抜のすべての方式で共通テストが必須になります。
社会科学部は、共通テストで英語・国語・【数・歴・公・理から1科目】の3教科3科目を課します。個別学力試験では、総合問題型と数学型が設けられています。共通テスト利用入試は継続されます。
人間科学部は、個別学力試験が英国型の場合は共通テストで国語・【数・歴・公・理・情】の2教科2科目、英数型の場合は共通テストで数学2科目・【国・歴・公・理・情】の2教科3科目を課します。以前から実施している数学選抜方式や共通テスト利用入試は継続されます。
必ず大学のホームページを確認して最新の情報を確認するようにしましょう。
慶應の人気は? 志願者数は昨年と同等か
--次に、慶應の最新の出願動向について教えてください。
2000年代から振り返ると、慶應は2019年まで志願者数が4万人(ピークは2008年で5万人)を超えていましたが、2020年から4万人を切り、それ以降概ね37,000人前後で推移しています。2024年は37,600人でした。ただし、減少幅は早稲田と比べると緩やかで、志願者数は安定しているとも言えます。早稲田はコロナ禍前年の2020年度と直近の2024年を比較すると、13学部すべてで志願者数を減らし、全体で85.5%(対2020年)となったのに対し、慶應は10学部中、商・理工・医・薬の4学部で2020年を上回っており、全体としては97.8%と人気の高さを維持しています。
本年6月に実施した「全国統一高校生テスト」での学部系統別志願動向を分析すると、文・人文系、理学系、工学系、環境・情報・国際系などで昨年を上回っています。一方で、薬学は大きく昨年を下回り、医学系、法・政治系、経済・経営・商系がそれに続きます。慶應全体をみると昨年同等の志願者数となることが予想されます。
--慶應の人気は堅調なのですね。では、昨今の大学入試増えている総合型・学校推薦型の入学者について、慶應は最新ではどのような状況でしょうか。
慶應では、募集人員全体の約4割を総合型選抜・学校推薦型選抜(指定校制・内部進学・IB入試・帰国生入試含む)が占めます。特にSFC(総合政策、環境情報学部)では、2020年度入試から2021年度入試にかけ、一般選抜の募集人員を100名減らし、その分AO入試の募集人員を100名増加。
ところが合格者数の推移を見ると、SFC(総合政策、環境情報学部)のAO入試では、2020年度入試からの5年間で募集人員である300名の合格は出ていません。この結果から、募集人員枠を拡大しても、アドミッションポリシーに合致する人財がいなければ合格を出さない、ということがわかります。
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--来年の慶應の入試で押さえておくべき変更点があれば教えてください。
慶應では、ここ数年目立った変更を行ってきませんでしたが、今回は一部の学部で変更が行われます。
文学部では、外国語の選択科目に英語(外部試験利用)を新設します。ただし、実用英語技能検定(英検)CSE 総合スコアが 2500 以上(準1級合格レベル)と高い基準です。
法学部では、地歴公民の配点が100点→150点、また試験時間も60分→90分となり、マークシート方式のみから記述式を含む形になります。また「論述力」試験を「小論文」試験へと変更し、試験時間も90分→60分と短縮されます。
総合政策学部、環境情報学部では、これまで「情報」が単独科目として選択できましたが、「数学」とセットになります。「数学」「情報および数学」「外国語」「外国語および数学」の中から1つを出願時に選択します。
薬学部では、数学の試験範囲に数学III・Cが追加され、試験時間も90分→100分となります。
その他の学部でも、出題範囲の変更などがあり、必ず大学のWebサイトを確認して最新の情報を確認するようにしましょう。
早稲田と慶應、W合格者はどちらを選ぶか
--早稲田と慶應、両方に合格した場合には、どちらを選ぶケースが多いですか。
まずは、大学全体としてみた場合です。これは学部関係なしに、早慶両大学を受験して両方受かった場合の進学率から大学の力を見たものです。弊社がダブル合格のデータを取り始めたのは2018年からですが、当時は、慶應への進学が71.5%、早稲田が28.5%と慶應が早稲田を圧倒していました。しかし、本年のデータでは、慶應への進学率51.6%に対して、早稲田が48.4%と、慶應が上回ってはいますが、ほぼ同数に近づいてきました。昨年までは慶應のリードと言える状況でしたが、今後は激しい凌ぎ合いとなることが予想されます。
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同系統学部同士のダブル合格では、まず早稲田の政治経済学部と、慶應の法学部または経済学部と併願した場合にどちらに進学するかを見てみましょう。この場合、まず、2018年の進学先を見ると、慶應の法・経済に多く進学しています。同様に、両大学の法学部同士、商学部同士、文学部同士、いずれも慶應に多く進学しており、早稲田の先進理工学部のみわずかに慶應より高かったということで、早稲田の1勝8敗ということができます。2018年は慶應の圧倒的な強さが目立ちます。
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そのように両大学の推移をみていくと、しばらく慶應の圧勝が続きますが、2020年に早稲田の文学部と文化構想学部が慶應の文学部に勝って早稲田の2勝5敗になり、2021年にはなんと逆転して早稲田の6勝3敗になります。
そして本年2024年の分析では、法学部同士の慶應優勢を除き、早稲田が8勝1敗となりました。
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補足をすると、慶應合格者の中には、早稲田で比較的合格しやすい学部と併願しているケースがあり、全体をみると慶應選択が多いという結果になっています。早稲田には人間科学部やスポーツ科学部という慶應にはない学部がありますが、偏差値や難易度から見ると慶應の学部よりも合格しやすい。そのため、「どうしても慶應か早稲田に行きたい」と思っている受験生は、志望する学問系統にマッチしていなくても、そのような学部とも併願します。実際、慶應の文学部と早稲田の教育学部・人間科学部・スポーツ科学部と併願し、ダブル合格している受験数が一定数いますが、その場合はほぼすべてが慶應に進学しています。
世界大学ランキングで過去最高に 変革の勢いは続く
--両大学は、世界大学ランキングといったグローバルな指標ではどのような評価を受けているのでしょうか。
世界的な高等教育評価機関の英国クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds:QS)が発表した世界大学ランキング2025において、早稲田は過去最高の世界181位に入り、昨年に続き、日本の私大トップとなりました。また、慶應も188位と同大学過去最高となっています。両大学ともに雇用者の評価が高く、早稲田が世界30位、慶應が46位となっています。
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--早稲田の動向について、今後の展望をお聞かせください。
早稲田においては、21年度入試から始まった入試改革で、数学を必須として注目を集めた政治経済学部において、志望度が高い受験生の割合が増えました。そして難関国立大の併願者が増え、優秀な受験生が集まるようになりました。25年度に入試変更が行われる社会科学部や人間科学部では、数学が必須というわけではありませんが、より志望度が高く優秀な受験生が集まる可能性が高まるでしょう。
一方で、受験生にとって負担が大きい入試となることも否めません。また、各学部によって選抜方式が異なることで、受験生にとっては、他学部の併願をしにくい状況になっていきます。これまでどうしても早稲田に行きたいと複数出願していた受験生も、併願受験を敬遠していくことで、志願者数にも影響があるかもしれませんので注意が必要です。
早稲田は、来たる2032年の創立150周年に向けた「Waseda Vision 150」を掲げ、グローバル化を進めて「アジアのリーダーになる」というビジョンを打ち出しています。グローバルエデュケーションセンターを設置するなど改革を推進し、次々と目標を達成しており、これからもその勢いは続くでしょう。
--慶應の今後の動向について、その展望はいかがですか。
1990年代から入試改革の先陣をいち早く切ってきたのは慶應です。ここ数年は、早稲田に関する話題が多いため控えめですが、慶應のブランド力はきわめて強く、健在です。
さらにここ数年、大学発のベンチャー企業が増えていますが、中でも慶應は2023年度、東大に次ぐ2番目のベンチャー企業数となっています。大学発ベンチャーは革新的な研究成果をもとに、経済社会にイノベーションをもたらす担い手として期待されています。大学全体でスタートアップを支える取り組みを行っており、今後が注目されています。
メインのキャンパスの立地について見てみると、早稲田は高田馬場、慶應は三田に位置しています。早稲田は、4年間キャンパスが変わらないこともあり、大学周辺はまさに学生街で、学生に愛される有名店も多くあります。一方の慶應は、1・2年生は日吉で過ごし、3年生から三田キャンパスを利用します。ビジネス街に位置する三田キャンパスに代わるタイミングで、慶應の学生は就職への意識が上向きます。慶應には、「三田会」という日本最強とも称される同窓会があります。この存在も慶應が就職に強い一因であり、経済界における一大派閥としての影響力は今後も健在でしょう。
--両大学を目指す受験生にアドバイスをお願いします。
早稲田、慶應とも双璧をなす日本最難関の私大です。時代に合わせて入試方式が多様化し、大学が求める人物像がより明確になってきています。大学で何を学び、成長したいのか、そしてその先でどのように活躍したいのかをしっかりと考えてほしいと思います。
--ありがとうございました。
学部別で見ると、2024年は法学部を除き早稲田が圧勝という結果だった。このデータは保護者世代にとって隔世の感があるのではないだろうか。
昨年に続く今回の取材でも、両大学とも現状に甘んじず、未来を見据えた変革を続けていることがわかった。最新の動向を理解する上で、ぜひ本記事を参考にしてほしい。
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