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「教育は楽しい!かっこいい!」を伝えるフェス、親子から行政関係者まで2,900人超参加

 2024年10月12日、13日の2日間「教育は楽しい!かっこいい!」を合言葉に、教育の魅力を発信するイベント「Tokyo Education Show(TES)」が開催された。のべ2,900人を超える参加者で賑わった本イベントをレポートする。

教育イベント 大学生
Tokyo Education Showオープニングのようす
  • Tokyo Education Showオープニングのようす
  • あたらしい公開研究会「サイエンスライブ 世界一楽しい科学の授業」
  • あたらしい公開研究会「不思議空間を奏でよう♪」のようす
  • 授業・校務支援アプリ「ClassCloud」を使って体験を振り返る
  • 「元素カルタ」を披露するレウォン氏
  • 「元素カルタ」で盛り上がる参加者たち
  • 教育サミット「STEAM×探究×グローバル ~探究学習のこれから~」のようす
  • 教育サミット「STEAM×探究×グローバル ~探究学習のこれから~」のようす

 Tokyo Education Show(TES)は、「教育は楽しい! かっこいい!」をテーマに、教育の魅力を追求する新しい形の教育研究フェスティバルだ。東京学芸大学を会場に、学生たちが中心となって2023年に立ち上げられた。

 開催2回目となる今回は、2日間にわたり、以下の4つのカテゴリーを柱に、多様なプログラムが実施された。

 ・あたらしい公開研究会:全国の魅力的な教員や教育クリエイターによる公開授業
 ・教育若者会議:未来の教育を変えていくための若者主体の企画・交流会
 ・教育サミット:教育業界のステークホルダーが集まり議論を交わすトークセッション
 ・エドチャレShowcase:教育に楽しくかっこよく挑戦している多様な団体や取組みの展覧会

 誰でもすべてのプログラムに無料で参加することができるイベントで、全国の教育関係者、教員志望の学生、行政関係者、民間企業、親子連れなど、2日間でのべ2,500人以上が参加した。

 本記事では、当日のようすをレポートするとともに、TES実行委員長である東京学芸大学教育インキュベーション推進機構専門研究員の田﨑智憲氏に、TESの概要およびイベントの目的について話を聞いた。

「教育」の魅力があふれる場に

 初日は午前9時30分のオープニングに合わせ、TES実行委員長の田﨑智憲氏、サイエンスアーティスト市岡元気氏、教育YouTuber葉一氏、数学教師芸人タカタ先生氏が登場。本イベントの趣旨である「教育の魅力を伝えたい」「日本の教育の最先端の動向がわかるイベントにしたい」といったメッセージが強調され、参加者の期待が高まるスタートとなった。

 この日、筆者は賑わう会場内を歩きながら、4つのプログラムを見学した。

あたらしい公開研究会「サイエンスライブ 世界一楽しい科学の授業」

 まずは、サイエンスアーティストの市岡元気氏によるサイエンスライブ。同氏は、登録者102万人の日本一の科学実験チャンネル「GENKILABO」の運営者でもありファンも多い。親子参加の申込みが多く、当日までにチケット完売となった人気授業だ。

 この日の実験は、エアバズーカ(空気砲)の紹介から始まった。人間が1メートル先にあるスクリーンに向けて口から空気を吐き出しても、スクリーンはほとんど揺れない。しかし、巨大なエアバズーカを使うと、3メートル離れてもスクリーンは大きく揺れる。空気の動きを視覚的に確認できるダイナミックなパフォーマンスとユーモアたっぷりの話術で、子供たちを科学の世界にどんどん引き込んでいく。

会場の子供たちも大喜びのサイエンスショー

 「なぜだろう?」という市岡氏の問いかけに、会場の子供たちから元気な答えが途切れない。「科学の楽しさや面白さを、子供たちに楽しく伝えたい」という市岡氏の想いが伝わる授業だった。

あたらしい公開研究会「不思議空間を奏でよう♪」

 北本市立北小学校・教諭の納見梢氏による音の世界。トーンチャイムとベルハーモニーを使い、音による不思議空間を楽しむ体験型授業だ。

 教室に並べられたトーンチャイムを小学生の参加者が軽く叩くと、優しく柔らかい音色が教室に響き渡る。2名の参加者が交互に好きなリズムでトーンチャイムを鳴らすと、まるで即興セッションのように楽しい音楽が次々と生まれていく。最初は恐る恐る音を出していた参加者も、次第にリズムに乗り始め、自由に大胆に打ち鳴らしていく姿が印象的だった。

順番にトーンチャイムを叩くと、音楽セッションが楽しめる

 納見氏によると、ドリアモード(マイナースケールの6番目の音を半音上げた音楽旋法)を使うことで、どんな音の組み合わせでも、きれいなハーモニーを生み出すことができると説明。「楽譜が読めない子や、音楽に苦手意識がある子でも、ただトーンチャイムをたたくだけで、音楽を作る成功体験を味わうことができます。音楽教諭として、まずは誰もが一緒に音そのものを楽しむことができる、つまり本来の『音楽』を体験できる場を作りたいと思っています」と語った。

 音楽体験が終わると、参加者はひとりひとりタブレットの前に座り、授業・校務支援アプリ「ClassCloud」を使って体験の振り返りを行った。ClassCloudは、子供たちが質問に答えながら簡単に授業の振り返りを行うことで、「子供たちの学びの深化」と「教員業務の効率化」を実現することを目指したアプリで、興味がある学校関係者には無料トライアル期間を設けているという。

「1番ワクワクしたことは?」などの質問に答えていく

教育若者会議「元素カルタで遊んで学ぼう! ~学びの本質、知るって楽しい面白い~」

 次に参加したのは、教育若者会議というコンテンツ。未来の教育を変えていくための若者主体の交流会で、ファシリテータは中学3年生(14歳)のレウォン氏だ。レウォン氏は小学生のときに、自らのモヤモヤやイライラした経験をもとに社会課題の解決を目指す会社「polarewon」を設立。「元素カルタ」や「漢字mission」など、独自の商品やサービスを開発している起業家だ。

 この日は、元素カルタを使って、元素のおもしろさに触れる体験型ゲームが行われた。カードには、1つの元素につき3つの特徴が表記されているが、カードに書かれた文章はとてもシンプルで、小学生でも楽しめる。

元素カルタで盛りあがる参加者たち

 元素カルタが生まれるまでのストーリーについて、レウォン氏は「小さいころから本が好きで、特に科学系の本を好んで読んでいました。あるとき、『世界はすべて元素でできている』という言葉に出会って、『元素ってすごい』と興味をもちました。工作も好きだったので、元素のカードを作ってみたら、周りの人に『カルタみたいだから、商品になるかも!』と言われたのがきっかけです」と語った。

 構想から2年後、小学6年生で起業し、クラウドファンディングで資金を集め、商品化が実現した。「楽しい」「おもしろい」といった参加者の好意的な反応を見守りながら、レウォン氏は「元素カルタが商品化したことで、科学に興味をもつ子供たちが増え、将来的にノーベル賞をとるような人が生まれたら良いな」と生き生きと話した。 

「元素カルタ」を披露するレウォン氏

教育サミット「STEAM×探究×グローバル ~探究学習のこれから~」

 この日の教育サミットでは、現代の学校における探究活動の現状や課題について議論が行われた。登壇者は下記の通り。

【登壇者】
・京都精華大学 メディア表現学部教授、一般社団法人デジタル人材共創連盟代表理事 鹿野利春氏
・Inspire High 代表取締役 杉浦太一氏
・カシオ計算機 EdTech事業部 EdTech開発部 アプリ事業戦略室 森本真由氏
・グローバルSTEMオリンピック「FIRST Global Challenge」出場(プラスαの肩書きについて要確認) 武藤未紘氏
・東京学芸大学大学院 教育学研究科 教育実践創成講座、東京学芸大学先端教育人材育成推進機構 准教授 登本洋子氏(ファシリテーター)

探究学習について熱い議論が繰り広げられる

 印象に残ったのは、デジタルツールの使用に関する議論。登壇者たちがその利点や課題について話し合う中で、杉浦氏はデジタルツールを使用する際の子供たちの心理的安全性に触れ、「対面の会話とは異なり、デジタル上の発言はSNSで拡散されやすく、集中砲火を浴びるリスクがある。そこで、アウトプットは匿名性を基本にし、同じ学校の生徒同士のアウトプットが見えない設定にするなど、安心して本音を表現できる場を作ることが重要だ」と語った。

 続いて森本氏は、デジタルツールに対する教師と生徒の反応の違いに焦点を当て、「生徒は自分が興味をもった分野に対して積極的にデジタルツールを使うが、一方で教師側はデジタルツールを使うこと自体に不安を感じ、躊躇する傾向がある。教師をサポートすることで、ツールの活用を促進していきたい」と述べた。

 武藤氏は、グローバルSTEMオリンピック出場を果たした生徒側の視点から、「デジタルを駆使することで、教師から与えられた活動に受動的に参加するだけでなく、自らチャンスを見つけて挑戦することで、世界を広げることができる。オンラインを通じて世界各地の人と交流できるのも大きなメリット」と、デジタルツールのメリットを強調した。

熱心に耳を傾ける参加者たち

 また、探究学習の未来についても、登壇者たちはそれぞれの視点から意見を述べた。

 杉浦氏からは「日本は探究学習によって、学びの主導権を生徒自身に戻す動きが出てきている。素晴らしい取組みで評価できる。探究学習が生徒のウェルビーイングに寄与することを世界に示すことができれば良い」との趣旨の発言があった。 

 森本氏は企業の立場から「探究的な学びはこれからの教育の中心になると考えている。学校だけでなく、企業も一緒になって取り組み、探究学習を広げていきたい」と述べた。

 武藤氏は「探究学習は、若い世代にとって非常に貴重だが、さらに充実させるためには、大人のサポートが不可欠だ。加えて、世界に挑戦する機会を得たくても、学校を長期間休むことが難しいなどの課題もある。ラーケーションなど、探究学習をさらに深めるための制度が必要」と訴えた。

 鹿野氏は、「探究学習は社会と直結した学びであり、その時間を増やすことは必要不可欠」としたうえで、「一方で探究の時間が増えれば教科学習の時間が減るという問題が生じる。そのため、教科学習での基礎をしっかり押さえつつ、探究学習の時間を設計することが重要だ」と学びのデザインと評価の在り方に対して課題を提示した。

 また、探究学習では評価指標が一律ではなく、生徒それぞれが異なる学びの成果を得ることになることに触れ、「大学や卒業後の社会もそれを許容しない限り、探究学習に軸足を移すことは難しい」と述べ、学びのデザインと評価の在り方に対する課題を指摘した。

教職の魅力を再発見するイベント、全国への波及を期待

 TESの発起人であり実行委員長を務める田﨑智憲氏に、TES開催の目的とその想いについて話を聞いた。

 田﨑氏がTESを発足させたのは、教職に対するネガティブな情報がクローズアップされている現状への危機感がきっかけだという。「教育現場における大変な側面が強調され、教員を目指して大学に進学した学生が自信を失い、途中で進路変更してしまうケースも少なくありません。教育学部の人気低迷や教員採用試験受験者数の減少を目の当たりにし、教職の魅力を伝える場が必要だと感じました」と田﨑氏は語る。

 教員を務める両親のもとで育ち、子供のころから教職に就くことに憧れをもっていた田﨑氏。「教育の面白さをストレートに伝えたい」「教育の未来を考える仕組みを作りたい」という強い思いから、TESはスタートした。

 TESは学校現場の教員や教員志望の学生に限らず、行政、民間企業、クリエイター、さらには親子連れなど、多様な立場の人々が一堂に会し、教育の魅力を共有する場だ。イベントの対象を幅広く設定しているがゆえ、「誰のためのイベントかわからない」との声もあるというが、田﨑氏は「あえて、すべての人のためのイベントとしています。なぜなら、学校教育はすべての人に関わるものだからです」と力強く語る。

実行委員長の田﨑氏は「教育イベントが全国に波及したら嬉しい」

教育の未来を創る学生スタッフ・運営スタッフたち

 教育の担い手となる若い人材の育成に寄与することも、TESが目指す大きな目標のひとつだ。そのため、学生スタッフが中心となって運営することの意義は大きい。2024年は、運営スタッフ160名のうち130名が高校生や大学生で、そのうち40%が今回会場となった東京学芸大学の学生、残りの60%は他大学からの参加だ。田﨑氏は「教育に関心のある若者たちが、大学の垣根を越えて繋がる場ができたことが嬉しい」と語る。

 スタッフは運営資金の管理、協賛企業との連携、クラウドファンディングの実施など、年間を通じてプロジェクトに取り組んでいる。「これからの教師には、社会で通用する力が求められています。TESの運営を通じて社会や企業とつながる経験は、教師を目指す学生にとって非常に貴重です。この経験が、広い視野で教育について考えるきっかけになるはずです」と田﨑氏は期待する。

 TESを通じて教育に対する熱意が高まる参加者も多いという。昨年ボランティアとして参加した高校生が教育学部への進学を決めるなど、すでに未来へ繋がるストーリーが生まれている。

準備から運営までを160名の運営スタッフが支えた

 2024年には85の企業・団体が協賛し、全国各地から親子連れが集まるなど、TESに対する関心の高さがうかがえる。TESのこれからについて、田﨑氏は「そのときのニーズに合わせて形を変えながら、継続したいと考えています。動員数増だけを目標とするのは本質ではないと思っています」と話した。「教育の面白さを体感できるイベントが全国に広がり、アクションが連鎖するプラットフォームになることを目指しています」と今後の展望を語った。


 キャンパス内では、学生スタッフが忙しく走り回り、子供たちは目を輝かせて学び、隣の教室で大人たちは教育について熱い議論を交わしていた。外の並んだキッチンカーには行列ができ、年齢や立場を超えた人が「教育」というキーワードのもと集い、ともに楽しむ学園祭のようだと思った。教育と学びが表裏一体であることも改めて感じさせられる。TESでの各人の体験が、どのようなアクションに繋がっていくのか楽しみだ。

《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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