「データサイエンス」という言葉を耳にする機会が増えているが、「データサイエンスは理系の専門的分野」「うちの子は文系だから関係ない」と捉える保護者の方も多いのではないだろうか。しかし現在、社会のあらゆる分野でデータを読み解き、活用する力が求められている。大学ではデータサイエンス系学部の新設が相次ぎ、文系学部でも必修科目として導入する動きが広がっている。なぜ文系でもデータサイエンスが必要とされるのか。どのような社会的背景があり、どのような力が身に付くのか。まずはその基礎を知ることが、子供の進路を考えるうえで重要な手がかりとなる。
プログラミング能力検定(以下、プロ検)は、小学生から社会人までを対象とした、全国2,614会場(2026年2月時点)で受験できる資格試験だ。このプロ検を主催するプログラミング総合研究所の飯坂正樹氏と國學院大学 経済学部 経営学科 教授/情報処理学会データサイエンス教育委員会の高橋尚子氏に、「なぜ今、文系・理系を問わずデータサイエンスを学ぶべきなのか」をテーマに対談いただいた。

【プロフィール】
プログラミング総合研究所 代表 飯坂正樹氏
成果が見えにくいプログラミング教育の課題解決をミッションとし、学習効果を可視化する手法を研究。科学的アプローチに基づいたカリキュラムや評価指標を開発・提供することで、保護者が安心して子供を学ばせられる教育環境を整備している。
國學院大學 経済学部 経営学科 教授 高橋尚子氏
東京女子大学 文理学部 数理学科卒業。在学中に女子大初のマイコンクラブを結成。卒業後、女性SE第一期生として富士通入社、大型コンピュータからパソコンまで多数の業務システムを開発。その後、アスキーでのビジネスパソコンスクール開校、OAインストラクタを経て、ソフトウェアコンサルティング、人材育成、テクニカルライティング(マニュアル制作)を行う会社を起業。2007年から國學院大學経済学部で情報教育に携わる。情報処理学会元理事、情報教育と出版を担当、現在は会誌副編集長。
複雑化した社会をデータで論理的に紐解く
飯坂氏:データサイエンスという言葉を聞くと、理系分野なので難しいという印象をもたれる方も多いと思います。まずはデータサイエンスとはそもそも何なのか、今なぜ注目されているのかを教えていただけますか。
高橋氏:データサイエンスとは、世の中にある課題を関連したさまざまな大量のデータを使って分析し、判断して実行に移す手法です。数学や統計学を用いますが、目的は数学や科学に強くなることではなく、データを使って適切に判断して社会に生かす力を身に付けることです。今日では、売れやすい商品の分析や病気の早期発見、交通渋滞の予測など、非常に幅広く活用されています。
多くの人が何らかの課題を抱えていますが、その課題を解決する主体は、あくまで本人自身です。データサイエンスを使うかどうかに関わらず、データを扱う技術者に任せきりにするのではなく、自分の課題として向き合う姿勢が大切です。だからこそ文系・理系を問わず問題意識をもつ人ならば、誰でもデータサイエンスを理解できるはずです。漠然と感じている疑問や課題を、データを使って根拠を示すこと。データサイエンスが今注目されるのは、これがとても大切だと考えられるようになったからです。
飯坂氏:近年、いろいろな大学でデータサイエンス系学部の新設や、カリキュラム整備が進んでいますが、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。
高橋氏:最大の要因は、社会が非常に複雑になっていることです。何か問題があると、政治や経済、環境、テクノロジー、健康、文化、外交などさまざまな物事が絡み合います。一方で今は、さまざまな情報がデジタルデータとしてコンピュータに蓄積されており、こうした問題の原因をコンピュータで大量のデータを処理しながら解決を見出そうとするようになってきています。

飯坂氏:今、文部科学省が大学等でデータサイエンスを学習するよう推進している「MDASH(数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度)*」というプログラムでは、カリキュラムに2段階のレベルが設定されています。まずはデータを読み解いて判断できる素養を身につける「リテラシーレベル」、そしてその上には、自分たちの専門分野でデータを活用できる「応用基礎レベル」があります。こうした制度が生まれた背景には、日本の国際競争力が下がったこと、そして先生がおっしゃった世界の複雑化から、さまざまな課題をデータで論理的に紐解く必要性が高まったことがあると思います。*MDASH:Mathematics, Data science and AI Smart Higher educationの略。数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度:デジタル時代の「読み・書き・そろばん」である数理・データサイエンス・AIに関する、大学(短期大学含む)・高等専門学校の正規の課程の教育プログラムのうち、一定の要件を満たした優れた教育プログラムを文部科学大臣が認定/選定することによって、大学等が数理・データサイエンス・AI教育に取組むことを後押しする制度。
國學院大學のデータサイエンス教育「データに基づいて論じる力を養成」
飯坂氏:高橋先生がいらっしゃる國學院大学では今、どのようなデータサイエンス教育が行われているのでしょうか。
高橋氏:國學院大學は文系学部が充実した大学ですが、世界の流れにしっかりとキャッチアップできるよう、MDASHのリテラシーレベルの認定を受けています。講義科目としては「データリテラシー」と「コンピュータと情報II」という実習科目があり、その2つを取得するとMDASHのリテラシーレベルが認定されます。私はどちらの科目も1コマずつ担当していますが、学生の人気は高く、データサイエンスに取り組む意識は高いと感じます。
飯坂氏:大学生と接する中で、データサイエンス教育の効果をどのような場面で感じますか。
高橋氏:経済学部では4年生でゼミでの卒業論文、ゼミに参加しない場合は卒業レポートを書くのですが、いずれも必ずデータを用いて可視化して、それに基づいて書くよう指導していきます。そのため、オープンデータやさまざまな白書からの統計データを用いて、自分なりに考え、グラフを作成し、論文やレポートを作成する学生が増えてきました。
マーケティングに興味のある学生も多いので、データを読み解くスキルと伝え方のスキルの両方が身に付いていると感じます。
データサイエンスとプログラミングの関係とは
飯坂氏:データサイエンスとプログラミング、この2つにはどのような関係性がありますか。
高橋氏:データを処理するには複数の手法がありますが、もっとも手軽なのは表計算ソフトを用いた集計やグラフ化です。ただ、それでは追いつかないほどのデータ量の多さ、あるいは複雑なデータの関係を分析するとなれば、やはりプログラミングの力が必要です。プログラム開発においては、まず「どのような処理を行うか」という設計が重要です。調査や課題解決を担当する人にプログラミング言語の知識があれば、プログラマと共通の言語で対話できるようになり、設計や仕様を的確に伝えて開発をスムーズに進めることが可能になります。
飯坂氏:Excelもギガ単位でデータが大きくなると開かなくなる場合がありますよね。そうした時はやはりプログラムが必要ですし、たとえば、分析に長い時間がかかる場合は、プログラムによるバッチ処理で夜中にずっと動かしておくこともできますよね。また考え方としては、プログラミングは必ずデータを扱いますので、データサイエンスと密接につながっています。論理的にデータを分解して扱うという意味では、思考力が求められる点も同じだと感じます。

「プロ検」はデータサイエンス教育にどのように役立つとお考えでしょうか。
高橋氏:プロ検ではプログラミング言語の文法や言葉がわかるようになりますし、データサイエンスで使われるプログラムの処理も読めるようになります。私が最初にプログラミングを始めた当時は他の人のプログラムを読むことからはじめました。読めれば書けるようになりますし、最初はものまねでも良いと思います。そこからここを直したらどうなるのか、データを変えたらどうなるのかを体験すれば、どんどんわかるようになります。
飯坂氏:先生も私も元システムエンジニアですが、若いころにプログラムを書いていた感覚は覚えていて、今でもコードを読めますよね。これは一生ものだと思います。今はAIにプログラムを書いてもらうこともできますが、それが正しいかの確認や痒いところに手を届かせたいときに自分でコードを読んで直せるのは大きな強みです。やはりプログラミングの基礎力は必要で、自分のスキルを測る手段としてプロ検は非常にリーズナブルで有効です。
まずは比較。日常を数値に置き換える
飯坂氏:データサイエンスの超入門として、親子で一緒に取り組めることはありますか。
高橋氏:発達心理学によると、お子さんが最初に覚える「量」は「大きいか小さいか」なんだそうです。
たとえば、天気の話で平年より暑いです、寒いですと言いますよね。するとその平均値はどこで取得しているのか疑問をもちますよね。東京と札幌では気温が違うよねといった比較もわかりやすいかもしれません。また体育の授業でスポーツテストをやった時に、自分の良かった運動とできなかった運動を比較するとか、お子さんが持ち帰ってくる成績表などの結果を、平均点と比べて高いか低いかを一緒に見て体験すると良いですね。もう少し大きくなると受験がありますが、模試で受験者平均点より高くても、自分が志望校の志望者平均点より低い場合や、志望者平均点より上でも、その学校が募集する定員の枠内には入れているのか、データを見て「もっと頑張ろう」と考えるわけです。このような身の回りの物事の比較は、データサイエンスの基本のキですね。

飯坂氏:子供たちが興味のあることを比較すると、なぜこの数字になっているのだろう、自分はなぜこの数字なのだろうと考えるので、とても良いアプローチですね。
高橋氏:何かと比べるという行為は、日常生活の中で頻繁にやっているので馴染みがあります。それが数字になれば、データサイエンスに近くなる。感覚ではなく、数字に置き換えてみることが大事ですね。
共通テスト「情報I」が映し出すデータサイエンス教育の現在地
飯坂氏:この1月に行われた大学入学共通テストでは、「情報I」が導入後2回目の実施になりました。総評的には難しくなったという意見がありますが、高橋先生はどう見られましたか。
高橋氏:確かに平均点が中間集計で昨年より12点ほど下がり、他の科目と同じぐらいのレベルになったと思います。データサイエンスは第4問に出ていますが、設問のすべてが、示されているデータとグラフを読み解き、数式に基づいて予測するという内容でした。桜の開花予測をテーマにした第4問は、既成概念がありすぎると逆に解けない問題でしたね。小問の問2、問3では回帰分析という統計学の技術を使いますが、その言葉を知らなくても、開花予測と気温との関係性を理解し、数式に従ってグラフが読め、データを読み解く力があれば解ける問題です。素晴らしい問題でしたので、ぜひみなさんも挑戦してみてほしいです。

飯坂氏:プログラミングの知識を問う第3問でも、昨年の文化祭の来訪者データをもとにシミュレーションしていましたし、どの問題にもデータサイエンスが散りばめられていた印象でした。さまざまなデータを日々、気をつけて見ていくと共通テストの対策にもつながると思います。
さらに今年の問題は、「情報」の授業のあり方についてや、「探究」の時間に対して、「自分の仮説を立てながら実証し、確認するというアプローチをデータサイエンスの醍醐味として味わってほしい」というメッセージが込められていたようにも感じています。

最後に、お子さんの進路や学校選びを考える保護者の方にメッセージをお願いいたします。
高橋氏:今はどの大学でも一般教育や教養教育で、情報に関する教育あるいはデータサイエンスに関する教育を設けています。1年生の最初のうちに講義を受けて終わることもありますが、その上の講義を用意している大学や、学部ごとに情報系の科目をもつ大学もありますので、ぜひ4年間、1年に半期ずつでもデータサイエンスやコンピュータに関することを学び続けられると良いですね。情報技術は日々進化していますし、そうした環境で研究し、教えている先生たちは非常に熱心なので、ぜひ最新の技術や情報を学び取ってもらいたいと思います。
飯坂氏:データサイエンスは文系・理系や大学での学年・バックグラウンドも関係なく、取り組めばすぐにキャッチアップできる学問で、日常に役立つとわかりました。また、細かい分析手法を知っているかどうか以前に、データに興味をもち、その分析から何かを判断するという考え方自体がデータサイエンスであり、それはお子さんをはじめとして誰でもスタートできると理解できました。ぜひみなさんもデータサイエンスに興味をもっていただけたらと思います。高橋先生、わかりやすく楽しいお話をありがとうございました。
高橋氏:ありがとうございました。
「プログラミング能力検定」とは
プログラミングの基礎力を客観的に評価する検定試験。小学生から社会人まで幅広い層を対象に、プログラミングの基本知識を「順次処理」「繰り返し」「条件分岐」「乱数」「変数」等の概念に分類、それぞれの概念の得意不得意を測定できる問題設計となっている。試験は全国2,614会場(2026年2月時点)で実施され、ビジュアル言語とテキスト言語の両方に対応。学習順にレベル1からレベル6と段階的にスキルを測る。学校や塾での導入も進み、学習成果の可視化や指導の改善にも役立っており、学習意欲の向上のみならず、大学進学、就職時にも活用されている。
プログラミング能力の証明に役立つプログラミング能力検定

