東大の本郷和人教授に聞く「gacco」と反転授業、4月に開講する講座の魅力とは

 「gacco」は、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)公認のMOOCサイトとして日本で初めて4月より講座を提供する。「日本中世の自由と平等」の講座を受け持つ東京大学の本郷和人教授に、講座のおすすめポイントや「gacco」に対する思いを聞いた。

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東京大学、本郷和人教授
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 「gacco」は、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)公認のMOOCサイトとして4月より日本で初めて講座を提供する。受講生募集開始から約1か月で1万人が登録するなど、注目を集めている。4月より「日本中世の自由と平等」の講座を受け持つ東京大学の本郷和人教授に、講座のおすすめポイントや「gacco」に対する思いを聞いた。

--募集開始から約1か月で、1万人を超える登録者。本郷先生の講義にもすでに約3,000人が登録されています。

 今回の講座は、「gacco」のロンチとともに公開される国内初の試みです。しかも史学の興味の低下が懸念される中、日本中世の歴史を扱う講座ににこれだけお申込みをいただいたことは嬉しいですね。無料ですし、途中でやめてもよいのですから、皆様には気負いせずどんどん登録してほしいと思っています。

--授業の魅力を教えてください。

 日本は島国であるために、諸外国のように外敵の侵入がなく、文化や社会システムが徹底的に破壊されるという経験がない国です。そのため、日本には良質な歴史的資料がたくさん残っており、そのレベルは世界一と言っても過言ではありません。

 このような環境で歴史を学ぶということは、とても恵まれたことなのです。むしろ学ばないのはもったいない。これからの時代、世界に出て活躍する人は多いでしょう。海外に出た時に、自分の国の歴史をしっかり語れるということは、アドバンテージになると思いますので、そのきっかけを作ることができる講座ではないでしょうか。

--日本史は地味なジャンルだと思われることもあるようですが、理由はどこにあるのでしょうか。

 歴史の不人気の理由は大きくは2つあります。1つは暗記科目と思われていること。もう1つは、理系の学問に比べ、目に見える成果が見えにくく、実社会にどのように役立つか実感しづらいことです。

 しかし、歴史とは本来、暗記科目ではなく、わくわくするような知的冒険なのです。過去の古文書や史料を読み解き、仮説を組み立てながら歴史を紐解いていく。それ自体楽しいことですし、このような学習で培われた歴史的思考法は、社会に出てからも必ず役立つはずです。

--高校生や保護者の中には、受験や就職に直接役立つかどうかを気にする方も多いのではないでしょうか。

 確かに受験や就職を避けることができません。しかし、よい大学、よい就職の先を考えてほしいと思うのです。世の中で抜きんでていく人または就職後活躍する人とは、人を引きつける人間的な魅力がある人。この人と話したら楽しいと思われるような、発想の豊かさや柔軟性がある人ではないでしょうか。

 人間的な魅力は、歴史的思考法に通じるものだと思うのです。どうしても進学がご心配なら、東大の入試問題を見てください。暗記したことを問うような問題は出ていません。与えられた史料をもとに自分の考えをどうまとめられるか、まさに歴史的思考を問う問題を入試でも扱っています。

--「gacco」についてはどのように評価していますか。

 「gacco」は、学びたいという気持ちはあるが、さまざまな事情で学べないという人に平等に学びの機会を与えることができます。学びたいと思う気持ちを大切にし、そしてその思いに応えることができるという意味で魅力的な取組みです。

 また、「gacco」のカリキュラムは、一般的な大学のように体系化されたものではなく、授業のおもしろい部分だけを抽出してまとめた、いわばいいところ取りです。私の講座も、30年間研究し続けてきたことの中から、もっとも興味深い部分をぎゅっと集めました。

 それを誰もがオンラインで、ちょっと時間が空いた時に自由に受講できる。ソファーに寝そべったままでもいいのです。そのくらい、気楽に受講してくれていい。そして、日本史の本来のおもしろさを少しでも体感していただければいいと思っています。

--「gacco」で取り入れる「反転学習」について教えていただけないでしょうか。

 オンラインの授業は無料ですが、それだけでは物足りないという受講生のために有料で、対面授業を組み合わせた「反転学習コース」を用意しています(高校生は無料)。映像授業を視聴するだけでなく、自らの意見を主張し、議論に参加できる場を設けたかったのです。

 反転授業では、映像授業や事前課題(宿題)で基本的な内容を学んだ後、実際に授業に参加し、講師から直接指導を受けたり、受講生たちと議論をしたりします。映像授業や事前課題で感じたことや気になったことを主張していただく場であればと考えています。

 受講生の中には、わざわざ飛行機で来て授業に参加する生徒もいますし、海外から訪れる学生もいるでしょう。そこまでして参加してくれるのだから、教師側も絶対につまらない授業はできない。いかに知的興奮を感じてもらえるか、いかに楽しんでもらえるか、教師の力が試されるところだと思います。正直申し上げますと、参加者に満足していただけるような反転授業が行えるよう、日々考え、悩み、頑張っています。

--そういった意味では、「gacco」の試みは大学教育に大きな変革をもたらす力になるのではないでしょうか。

 そのとおりです。MOOCの登場によって、すべての大学が世界的な競争にさらされるようになりました。教師も、いかに学生たちの興味を奮い立たせるか、いかに議論をファシリテートし、生徒たちの知的好奇心に答えられるか、力量が試されることになります。

 研究室にこもっているだけでなく、学生の教育にもしっかり力を入れていかなければ、どんどん淘汰されるようになるのではないでしょうか。

--高校生たちへのメッセージをお願いします。

 高校生という時期は、人生の中でももっとも自意識が強い時です。そのエネルギーを、多くの学生はツイッターなどで発言することで発散しているようです。ぜひ、反転授業に出て、そのエネルギーを白熱議論で発散してほしい。ツイッターでつぶやくのではなく、みんなの前で意見を言ってほしいと思います。

 反転授業に参加することなどで、仲間と考えることの楽しさ、研究することの楽しさを知ることができます。その道の専門家がどのようなことを行っているかを知ることもでき、いろいろなものの見方も共有できるのです。現代の社会システムの中での自分の立ち位置もわかってくるのではないでしょうか。

--ありがとうございました。
《石井栄子》

石井栄子

子育てから、健康、食、教育、留学、政治まで幅広いジャンルで執筆・編集活動を行うフリーライター兼編集者。趣味は登山とヒップホップダンス、英語の勉強。「いつか英語がペラペラに!」を夢に、オンライン英会話で細々と勉強を続けている。最近編集を手掛けた本:『10歳からの図解でわかるSDGs「17の目標」と「自分にできること」』(平本督太郎著 メイツ出版)、『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(増田史著 ナツメ社)『13歳からの著作権 正しく使う・作る・発信するための 「権利」とのつきあい方がわかる本』(久保田裕監修 メイツ出版)ほか多数

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