◆導入機器も活用方法も至ってシンプル どちらの授業も、電子機器はiPadと卓上プロジェクターのみだった。先生は卓上プロジェクターを利用し、黒板に自分のiPadの資料や動画などを表示させていた。生徒端末の画面を黒板に投影したいときは、そのタブレットを借りて直接プロジェクターにつないでいた。アドホックなやり方だが、その分操作ミスやトラブルも少なく、電子黒板などのシステムに頼る必要のない効果的な印象だ。◆生徒はデジタルと紙の両方を活用 桜丘中高では、今年の新入生の説明会や入試案内から、タブレット導入を謳い、生徒が学校指定のiPadを購入することを前提に募集を行った。実際の活用は5月からだそうだが、授業などでiPadを利用して、導入前と変わった点や効果を感じた点に関しては、メッセージ機能や資料をファイルで配布できる機能により、学校やクラスの連絡事項の漏れがなくなったことをあげた。授業の中では、板書の時間を減らす、またはなくすことで授業の密度を上げることができるという意見もあった。ただし、板書やノートをとる作業については、先生ごとの方針によるようだ。 先生から見ても、生徒はiPadの機能をうまく活用しているという。カメラをメモがわりに使う生徒は多く、教科書を忘れた生徒が友達にその日の授業範囲のページをカメラで撮影させてもらい、授業に使ったりという例も報告された。 タブレットの導入により、ノートをとったりと文字を書く時間が減る印象があるが、紙に書かないと記憶に残らないと述べる生徒も多い。生徒の好みや学習方法、用途などによってタブレットと紙のノートなどの使い分けができているようだ。中には、iPadは静電容量型のタッチスクリーンのため、細かい文字、細い線が書けないという意見も生徒側から出された。 生徒に、タブレットの活用を通じてどのような授業や機能がよかったかを尋ねた質問には、Google Earthは地図帳より便利、動画は物理(等速直線運動など)の勉強に効果的、Cyber Campusの掲示板機能で参考資料や動画のURLをみんなで共有して予習・復習に役立てることができるとなどと評価していた。◆欲張らずリーンスタート(小規模導入)で成功を積み上げる 桜丘中高で使用しているiPadは、Wi-Fi接続やコンテンツフィルタリングを学校仕様にした設定がされており、学校指定のアプリやツールがインストールされたものとなる。授業で使う主なアプリは、Puffin Browser(Flash対応)、iBooks(PDF他保管用)、Keynote、Google Earthなどだという。MDMソフトや指定プロファイルの管理のため、私物ですでにiPadを持っていても、学校指定の端末を購入する必要がある。 なお、学校指定とはいえ端末は生徒の私物であるため、iPadのカバーなど各自が好みのデザインの製品を利用していた。生徒の個性が発揮され、自分の端末への愛着も生まれることだろう。これも、私物端末を利用するメリットのひとつだといえる。 取材を終えて感じたのは、桜丘中高のできるところから確実にというポリシー、まず使ってみようという姿勢が強く感じられた。そのため、タブレット導入はこうあるべき、というような規制に縛られることなく、先生方も自分の授業スタイルや方針を大きく変えず、使えるところで活用している。 通常、タブレットなどの一斉導入となると、機器のメンテナンス、保管、さらに授業中のトラブル対応のため、教員以外にICT支援員の存在が欠かせないとされている。桜丘中高でも端末によってはインターネットにつながらないといったトラブルも発生するようだが、授業やカリキュラム自体が、タブレットの活用を前提としていないため、教師の柔軟な対応を可能にしている。 小学校や公立校では、このようなリーンスタートは、均一な教育の確保、公平性の確保、教師側の態勢、準備、セキュリティ対策など要件が複雑・多岐にわたるため難しいと思うが、私学、かつ中学・高校ならば、保護者や生徒への説明や合意形成をしっかり行えば参考になる部分が多いと感じた。