量的脱ゆとり顕著に、激動の25年間を振り返る…ベネッセ学習基本調査

 ベネッセ教育総合研究所は1月28日、社会環境や教育環境の変容が子どもたちの学びにどのような影響をもたらすか、1990年より25年間の小中高生の学びの変化を明らかにした「第5回 学習基本調査」結果を発表した。

教育・受験 その他
お茶の水女子大学の耳塚寛明教授 25年にわたり学習基本調査を監修してきた
  • お茶の水女子大学の耳塚寛明教授 25年にわたり学習基本調査を監修してきた
  • 1990年~2015年 教育業界の振り返り
  • ベネッセ教育総合研究所の谷山和成所長
  • ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室の邵勤風氏
  • ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室研究員の吉本真代氏
  • 調査目的
  • 学習日数/週
  • 平均学習時間の推移
 ベネッセ教育総合研究所は1月28日、社会環境や教育環境の変容が子どもたちの学びにどのような影響をもたらすか、1990年より25年間の小中高生の学びの変化を明らかにした「第5回 学習基本調査」結果を発表した。

 「学習基本調査」が発表されるのは、1990年、1996年、2001年、2006年の実施に続き5回目。調査は時代の節目に実施されており、1990年から25年の間に「詰め込み」型教育や「ゆとり」教育、学力向上などの教育施策が子どもの学習にどのような影響を与えたのか読み解く。調査は5年に1回行うが、2011年は東日本大震災の影響により実施されなかった。

 第5回調査は、2015年6月から7月に全国の小学5年生2,601名33校、中学2年生2,699名20校、高校2年生4,426名18校を対象に実施。対象となる学校の地域は、小中学生が東京23区内、四国の県庁所在地、東北地方の郡部。高校はさらに、九州地方の都市部と群部も対象。経年変化を調査するため、学校は過去調査と同一校もしくは同様の偏差値帯の代替校を指定した。質問項目は、教科の好き嫌いや授業で好きな学習方法、家庭での学習時間やICTメディアの学習利用、本・新聞とのかかわり、受験や進路など。

◆子どもを取り巻く「詰め込み」や「ゆとり」教育…25年間の調査背景

 学習基本調査第1回が行われたのは1990年。現行のセンター試験が実施された年である。子どもたちの置かれた教育環境は「試験地獄」と表現されることもあり、詰め込み型教育に対する批判が集まっていた。世論を受け、教育制度はこれ以降「ゆとり教育」に移行する。

 25年にわたり学習基本調査の監修を行ってきたお茶の水女子大学の耳塚寛明教授によると、ゆとり教育実施までは「社会的背景もあり、受験勉強は役に立たないとする言説が社会に浸透していた」。結果、少子化による受験競争の客観的緩和も受け、ゆとり教育の定着により第3回2001年調査までは子どもたちの学習時間は減少傾向をたどった。

◆小中学生の学習時間が増加へ

 ゆとり教育の成功とも読み解ける子どもの学習時間の減少だが、2006年の第4回調査以降からは「脱ゆとり」を受け小中学生の学習時間が増加に転じた。増加傾向はさらに、今回の第5回調査でも同様の結果が示された。

 2006年調査と比較し、小学生の平均学習時間は2006年81.5分が2015年95.8分へ、中学生の平均学習時間は、87.0分から90.0分へ増加した。同時に、宿題にかける時間も増加傾向にあり、ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室研究員の吉本真代氏は自学自習時間の増加は、学校からの宿題の増加によるものと分析する。高校生においても、平均学習時間は2006年70.5分から2015年84.8分へ増加傾向が見られる。

 小学生の学習時間は、中学受験に伴う都市部の小学生の学習時間や東北エリアでの宿題量の増加が結果に大きく影響している点も否めないが、耳塚教授はこの結果を「脱ゆとりの成功とも言える」とコメント。しかし、学習時間の量的増加は学校の働きによる物であり、自主的な学びによる結果ではない可能性を指摘した。今後の25年間では学習者の自立性を育てる、いわば質的な学びの向上が課題になると予想している。

◆新時代を測る2つの質問を追加

 学習時間や好きな教科のほか、第5回調査では「主体的・協働的な学び」や教育ICTに関する質問項目も追加された。

 近年の教育手法のトレンドのひとつ「アクティブラーニング」など、能動的な学習などの実施率を聞くと、グループ学習は高校生6割が「よくする」または「時々する」と回答。頻度は全体的に小学生が高く、「テーマについてグループで話し合う」などグループ学習に関することは高校でも6割程度が「する」と回答していた。

 新しい質問の追加により、教育ICT機器の浸透による家庭学習のようす、意識の変化も読み取れた。2006年に比べ、2015年は家で勉強する際に「授業で習ったことを、自分でもっとくわしく調べる」と回答していた子どもは小学生57.4%、中学生42.8%、高校生25.2%だったところ、2015年にはいずれも10ポイント以上、回答率がアップ。吉本氏はこの結果から「スマートフォン(スマホ)やパソコン、タブレットが身近になり、家庭でも気軽に調査できるようになった現われ」と見ている。

◆いい大学、一流の会社志向高まる

 勉強の効用に関して、学校の勉強が将来の生活や社会でどのように役に立つか聞くと、「一流の会社に入るために」「社会で役に立つ人になるために」は学校段階を問わず8割以上の回答を得た。小学生では「お金持ちになるために」が2006年調査47.8%より10ポイント以上アップし、57.8%となった。

 なかでも、小中高すべての学校段階で大きな伸びを見せた回答は「いい大学を卒業すると将来、幸せになれる」で、いずれも2006年と比較して小学生16.9%、中学生16.0%、高校生12.8%の増加があった。同回答は2006年調査までほぼ横ばいだったが、今回の調査で大幅増となった。同時に、尊敬される人になるために、社会で役立つ人になるために勉強は役立つという回答が増加しているのも2015年の傾向である。「(2002年の)学びのすすめ以降、学習の価値を説く言説が支配的になっているのではないか(耳塚氏)。」

◆AO・推薦が拡がるも希望者は減、今後の展開は未知数

 調査では中学受験や大学受験に関しても質問を行っている。結果、中学受験希望者は2006年以降横ばいだが、志望する学校区分は2006年に19.5%が志望していた公立中高一貫校が2015年には28.5%の回答をしめるようになり、私立中学校を志望する小学生の数に減少傾向が見られた。

 四年制大学への進学希望者に入試方法の希望をたずねると、「推薦・AO入試」を志望する者は2015年調査で初めて大きく減少。できれば推薦入試やAO入試で進学したいとする回答は、2006年40.4%から28.7%となった。

 2015年は東大で初の推薦入試が実施され、京大の特色選抜も話題にのぼったことが記憶に新しい。この結果は、推薦やAO入試で多様性のある選抜方法が求められている世論とは異なる結果だが、吉本氏は2013年にベネッセ教育総合研究所が行った高大接続に関する調査からも「高校の教育現場では、入学後に影響がでないよう学力を維持するためになるべく一般入試を受けるように進めている現状がある」とする。ただし、あくまでも調査は現時点のものであるため、第6回調査の結果には何らかの変化が起こりうると見込んでいる。

◆学習基本調査は「時代のポートレート」

 ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室の邵勤風氏は、学習基本調査は長期間にわたる経年変化を調査する貴重なデータであり、「子どもや子どもの成長を支える人々とともにこれからの学びを考える」材料にしていきたいと述べた。

 「第5回 学習基本調査」の結果は今後、ベネッセ教育総合研究所Webサイトで公開され、詳細な分析は、3月6日に行われるシンポジウムで報告される予定。
《佐藤亜希》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top