JSTEM設立、いま問う学校×プログラミングのあり方

 JSTEM設立記念シンポジウムの第二部は、パネリストに基調講演を行った安西氏、赤堀氏に加え、CANVAS理事長の石戸奈々子氏、放送大学教授の中川一史氏、CRET研究員の谷内正裕氏を迎え、JSTEM学会長の新井健一氏をファシリテーターとしてパネルディスカッションを行った。

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日本STEM教育学会(JSTEM)パネルディスカッションのようす
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 日本STEM教育学会(JSTEM)は10月11日、東京・上野の国立科学博物館にて、設立記念シンポジウムを開催。第一部は日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏、ICT CONNECT 21会長の赤堀侃司氏、国立科学博物館副館長の佐藤安紀氏による基調講演を行った。

 第二部は、第一部で基調講演を行った安西氏、赤堀氏と、CANVAS理事長の石戸奈々子氏、放送大学教授の中川一史氏、教育テスト研究センター(CRET)研究員の谷内正裕氏をパネリストに迎え、JSTEM学会長の新井健一氏がファシリテーターを務めるパネルディスカッションを行った。

◆プログラミング教育×教科のねらい、合うのは何か

 放送大学教授であり、学校におけるSTEM教育、プログラミング教育に詳しい中川一史氏は、開口一番「プログラミング教育がとても心配」と発言。「最近、全国の学校を巡っているが、このままきちんと根付いていくのか。今、プログラミング教育のセミナーをやると人が集まる。20年前に『総合的な学習』が導入された時も同じだった。同じ轍を踏みたくない。小学校が特に心配。中高は『技術・家庭』や『情報』の中でできる。小学校はその受け皿がない」と語った。

 STEM教育やプログラミング教育の先行きを案じるのは、小学校教員の経験を持ち、全国の学校に多く関わっている中川氏ならではだ。同氏によると、大切なのはプログラミング教育を学校教育の中にどのように落とし込んでいったら良いのかを考えること。プログラミング教育と教科のねらいには、合うものと合わない内容がある。中川氏は、教科教育の中でプログラミング教育が馴染む内容は何なのかを探していく必要があると指摘した。

 慶應義塾大学理工学部長、慶應義塾大学第17代塾長などを経て、現在、日本学術振興会理事長を務める安西祐一郎氏も、中川氏が述べる学校における問題が重要だと指摘。「スキルトレーニングは学校の場とは違う場で行われることが多いが、学校現場で何かを取り組もうとすると、スピードが上がらなくなってしまう。(そのためには)現状の大学入試がネックであり、変えていく必要がある。高大接続改革を進めていくべき。多くの子どもが報われるような社会にしていくことが大切」と述べた。

 学校におけるログラミング教育に詳しいICT CONNECT 21会長の赤堀侃司氏は、「教科の目標と、プログラミング教育の目標との整合性をはかる必要がある。これまで行われてきたICT利用教育は教科の目標を実現するための手段だった。プログラミング教育は、学ぶ側がUserとしてではなく、Author(著者)として、主体的に関わる必要がある」と語った。また、プログラミング教育に熱心になり、時間を取れば取るほど教科の目標と離れてしまうことから、学校の授業時間は限られており、45分をいかに活用していくかが大事であると指摘した。

◆プログラミング“で”学ぶ環境を

 子どもの創造力や表現力をテーマに掲げ、さまざまな活動を展開するCANVAS理事長の石戸奈々子氏は、「社会に出てから求められる力は、ひとつだけの答えを出すものではなく、最適解を出すこと」と述べた。

 子どもたちが何かを創造しながら学ぶことのできる場を企画、開催してきた石戸氏。CANVASは2002年から活動している特定非営利活動法人で、映画やアニメなどのコンテンツづくりだけでなく、近年はプログラミングを楽しく学ぶ場も提供してきた。

 「この数年、プログラミングやデジタルものづくりに参加者が殺到するようになってきた。これまで、親や教師は、AIやIoTを悪者のように捉えていた。今はコンピューターが人間に近づいてきたと感じている。以前、『読み・書き・そろばん』と言われていたものがこれからは『読み・書き・プログラミング』となっていくのではないか。」(石戸氏)

 今後の課題について、石戸氏は「すべての子どもたちがプログラミング“で”学ぶ環境を作ること。学校外の活動の課題としては、どうしても参加する子どもが限られてしまうので、すべての子どもに行うことができるように学校で取り組めるようにしていきたい」と述べた。

 ワークショップについては、幼児向けのプログラミングに関する著書を持ち、CRET研究員である谷内正裕氏も言及。数か月前までシリコンバレーの小さな科学館にいた経験から、アメリカで行ったワークショップを紹介した。

 同氏によると、ワークショップは「チュートリアル」「プロジェクト」「プレゼンテーション」「プレゼント」の4つのステップを経て、いかに社会との接点を作るのかが重要。当日のシンポジウム会場では、実際にアメリカで行ったワークショップの例として、箱や光などを用い、アニメーションを作る実践のようすを紹介した。

◆Beyond STEM…これからの教育に資する学会に

 パネルディスカッションの最後には、STEM教育とプログラミング教育について、パネリスト5名が思いを語った。

 谷内氏は「日本人は海外の人たちと比べてもクリエイティビティはあると感じている。問題はどう見せるのか、どう世の中に出していくのかということだと感じている」と発言。石戸氏は「Beyond STEM(これからのSTEM)に関わっていきたいと思っている。現状は、産業革命のあとと同じ。どんな社会を作っていきたいのかを子どもも含めて一緒に考え、作っていきたい」と語った。

 安西氏は、第一部の基調講演でも期待を述べたように、プログラミング教育を受けるこれからの子どもについて「主体性を持って取り組んでいく子どもを育てていくことが大事」とコメント。「中高大と通じて、論旨明確にまとめ、伝える力を付けていくことが大事」と念押した。

 JSTEMの目的やこれからについては、中川氏は「子ども、保護者、研究者、現場の教員など、多くの人が参加できる学会にしていきたい」と発言。赤堀氏は「教科別の学会は価値を共有できるが、この学会は多様な価値観を持った人が集まっている。JSTEMはいろいろな人が手を取り合って、教育をより良くしていくような学会にしていきたい」と述べ、JSTEMの理論・実践研究のこれからと、STEM教育の普及に期待を込めた。

 STEM教育・プログラミング教育に関わるさまざまな立場の者の思いが混ざり合い、複雑な“化学反応”を起こした90分のパネルディスカッション。JSTEMが今後、どのような形で進んでいくのかが楽しみになる設立記念シンポジウムだった。
《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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