【EDIX2018】プログラミングは「楽しい」 学ぶ力を養う導入例…帝塚山小学校・池田節校長

 奈良県奈良市の帝塚山小学校 校長の池田節氏は、2018年5月16日に「教育ITソリューションEXPO」で開催された専門セミナーで講演を行った。テーマは、「楽しい」が魅力のプログラミング教育実践方法。

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第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX) 学びNEXT専門セミナーで講演を行った 奈良・帝塚山小学校校長の池田節氏
  • 第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX) 学びNEXT専門セミナーで講演を行った 奈良・帝塚山小学校校長の池田節氏
  • 第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX) 開幕後のようす 2018年5月16日(水)
 「何でもかんでもはできない。教師と子どもには限界がある。でも、子どもたちには最先端の教育を与えたい。では、どうすればいいのか」―奈良県奈良市の帝塚山小学校 校長の池田節氏は、2018年5月16日に「教育ITソリューションEXPO」で行われた専門セミナーにおいて、プログラミング教育導入の意義と魅力について説いた。

 約20年にわたり「英語教育」と「情報教育」のふたつを掲げ、子どもたちによりよい学びの場を授けようとしてきた帝塚山小学校。2020年に向けて活気づく、学校教育現場への「プログラミング教育」導入のヒントを得ようと、講演会場を訪れた。

最先端の教育を子どもに…「情報科」の進化



 帝塚山小学校(てづかやましょうがっこう)は、2017年で創立65周年を迎えた、奈良県奈良市に所在する私立小学校。池田校長は2012年に同小学校校長に就任した。

 帝塚山小学校が「情報科」授業のカリキュラムにプログラミング教育を組み込んだのは、2016年のこと。当初は3年生から5年生を対象に「プログラミング学習」を導入した。2017年からは、全学年が独自カリキュラムのもと、低学年は文部科学省の「プログラミン」、高学年は「スクラッチ」を活用し、プログラミングによるアニメーション作成や「卒業論文」制作(小学校6年生)に取り組んでいるという。

 もともと同小学校にはICT教育の中心を担う「情報科」という授業があり、その時代とその先での需要が見込まれるITスキルを習得できるカリキュラムを展開してきた。コンピューターの扱い方や文書作成、インターネットとの付き合い方やHPづくりなどに挑戦し、1年生から6年生までを通して体系的にITスキルを養おうとする取組みだ。

 時代に応じて進化する「情報科」カリキュラムにプログラミングを導入した理由を、池田校長は「2030年代を生きていく子どもたちに必要なこと」だからと説明する。現に、2020年からの新学習指導要領でもプログラミング教育の必修化が示されている。ただし、学校教育現場は「今のカリキュラム、時間割だけでもパンパン」(池田校長)。しかし、プログラミング教育を「今(学習指導要領に)入れなければ、10年後になる。そうすると、日本はIT後進国になる」(同)。池田校長は学習指導要領の改定意図を読み解きながら、子どもたちの未来を思えばこそ、小学校からのプログラミング教育導入には意義があると述べた。

プログラミング教育、導入のヒントは「企業」



 単に導入・運用といっても、実際に教育現場にプログラミング教育を落とし込むのは容易でない。IT業界とは遠く離れ、予算が厳しく管理されている教育現場ならなおさらで、「教える人(指導者)」「導入・運用資金(カネ)」「ICT機器・プログラミング教材(モノ)」という、3つの課題をクリアするのは至難の技だ。

 最先端のプログラミング教材やロボット教材を活用しながら、子どもたちの学習意欲を向上させる十分な人数の指導者を確保するのは難しい。教材も、大量に一括購入するには多額の資金が必要であるうえ、買い切る形であれば数年後に“古く”なる可能性もある。

 これらの課題を解決するため、池田校長が出した方法は「企業の力を借りること」。専門外の学校教育現場がプログラミング教育を導入するうえで、池田校長は「何でもかんでもはできない。だからこそ、“教師と子どもには限界がある”、これをまず知ること」が大事だと述べる。「でも、子どもたちには最先端の教育を与えたい。では、どうすればいいのか」―そのひとつの答えが、企業と協力することだった。

 実際に協力を要請したのはCA Tech Kidsやヤマハ、プログラボといった、ITや最先端教育に取り組む企業、いわば“プロ集団”だ。学校から企業へ積極的に働きかけ、教育課程外での活動や体験授業を実施した。

学校×企業、見えてきた課題



 企業との取組みから見えてきた課題はふたつ。

 ひとつは学校内の指導者をどのように確保するか、ということ。出張授業や体験授業にせよ、企業から毎回派遣講師や授業をサポートする「メンター」を学校へ呼ぶのは難しい。IT企業に務める現役のビジネスパーソンなど、授業に協力してくれるボランティアスタッフに依頼するにも、平日の実施ではなかなか人が集まらない。実際に学校内で運用していくには、やはり教師に対する研修やサポートが必要だ。

 もうひとつは、企業にお願いするばかりではいけない、ということ。指導を受けるのみで、調査研究に協力しない、得られた教育データは渡さないなど、非協力的な態度では企業との協力体制にヒビが入る。池田校長は「要求ばかりではいけない」とコメント。「学校と企業がWIN-WINの関係でいることが必要」だとアドバイスした。

 なお、企業に協力を要請する際に忘れていけないことは、池田校長いわく、「丸投げしない」こと。学校の教育方針やカリキュラム、授業のねらいなどは学校側がきちんと設計し、企業に伝えなくてはならない。どちらかに任せきるのではなく、学校と企業がそれぞれ得意分野、専門領域で智恵を出し合い、子どもの学びを活性化させることが最重要課題だと言えそうだ。

勉強は、遊びか仕事か? すべての子どもへ「楽しい」を



 池田校長が講演を終え、聴講者からは「わたし自身ワクワクした」とする感想があがった。池田校長が講演で述べた、「プログラミング教育の魅力」とはまさに「ワクワクする気持ち」。

 少子高齢化やAI・ロボットに仕事が“取って代わられる”など、消極的な将来像が叫ばれる昨今。池田校長は「子どもたちは自分たちの将来がどうなるのかを知っている」とし、プログラミング教育の意義について「マイナーなイメージが叫ばれるなか、プログラミングに触れることで『コンピューターは新しいものを作れるんだ!』という、ワクワクする、明るい気持ちを渡すことができる」と表現。仲間と試行錯誤を繰返し、答えのない「プログラミング」という活動を通し、子どもたちが「失敗してもいいんだ」「楽しい」という思いを胸に「学ぶ力」を身に付けていくことができればと期待を寄せた。

 教育分野における日本最大規模の展示会「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」は、2018年5月16日(水)から18日(金)まで、東京ビッグサイトで開催中。業務支援システム、ICT機器、デジタル教材、eラーニング、各種学校向けサービス、セキュリティ、災害対策のほか、ロボットやプログラミング教材など、教育ICTに関するあらゆる技術・製品・サービスの展示が行われる。基調講演や各種セミナーの詳細はWebサイトで確認できる。
《佐藤亜希》

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