五感で学び、会話が学びを深める…親子で行く修学旅行<奈良>

 JR東海ツアーズの「親子で行く修学旅行」の人気は回を重ねるごとに高まり、リピーターも増えているという。何が参加者を惹きつけるのか? 魅力を探るとともに、小川大介先生に親子体験の効果やその生かし方などについてお話をいただいた。

教育・受験 小学生
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合格祈願で人気の「安倍文殊院」にある合格門
  • 合格祈願で人気の「安倍文殊院」にある合格門
  • 最初に訪れたのは合格祈願のお寺として知られる安倍文殊院。副住職の植田悠應さんによる特別授業
  • パンジーの花で描いた来年の干支「亥」と「合格」の文字
  • 巨大な切石が参加者を感嘆させる文殊院西古墳の内部
  • 安倍文殊院でお土産に頂いたえんぴつ。「帰ったらこれで勉強するのよ」といった親御さんの声も聞こえていた
  • 室生寺では僧侶の山岡淳雄さんによる特別授業
  • 法要の際に散布される散華に水彩色鉛筆で彩色(室生寺)
  • 室生寺の紅葉が美しい秋の風景
 遊びは学び。楽しい体験は子どもが自ら学び、考える力を育み、豊かな成長へとつながることから、親子での体験を大切にするご家庭が増えている。そんな想いに応える形で2013年にスタートしたJR東海ツアーズの「親子で行く修学旅行」の人気は回を重ねるごとに高まり、リピーターも増えているという。何が参加者を惹きつけるのか? 魅力を探るとともに、学習、受験、子育て関連の著書も多い中学受験情報局の小川大介先生に、親子体験の効果やその生かし方などについてお話をいただいた。

体験に特別授業…奈良で見て・聞いて・感じる旅



 中学生以下の子どもと家族を対象とする「親子で行く修学旅行<京都>・<奈良>」の魅力は、なんといってもツアー限定の「体験」と「特別授業」。歴史上の重要な出来事が起きた場の空気を感じながら貴重な文化遺産を間近で見たり触れたり、僧侶による法話を聞いたり、またさまざまな体験を通して親子で楽しみながら生きた学びができること。親御さんが自身の修学旅行の想い出を語れば、そこからも自然と親子の会話が弾む。新幹線やバスの車窓の風景にもさまざまな学びがある。

 2018年9月から11月に実施された「親子で行く修学旅行<奈良>」は、安倍文殊院・室生寺・海龍王寺<1日目>、元興寺・喜光寺・柿の葉ずしの平宗・東大寺<2日目>を巡る行程。お寺の歴史や作法の特別授業をはじめ、散華の色付け、拓本、写経、柿の葉ずし作りと体験も盛りだくさんの内容だ。閉門後の海龍王寺では、暗闇に和蝋燭(わろうそく)を灯した荘厳な雰囲気の中、奈良時代の祈祷が再現された。11月中旬、秋色に染まる美景の奈良で、子どもたちの真剣な眼差しと笑顔、そして学び多き2日間を追った。

小川大介先生の<歴史に触れる親子旅>のススメ


 子ども時代の記憶はなぜ鮮明に蘇るのだと思いますか? それは、子どもが「五感で学ぶ」力をもっているからです。名前を知って終わりではなく、実物そのものがもつ質感、その場所の雰囲気や風の匂い、光の移ろいをまとめて感じ取り、言葉の表現をこえた体験そのものを記憶に残すのです。奈良の大仏が像と台座合わせて約18mという情報も、見上げたときの首が痛かった思い出、口元の光の反射の具合、そしてまわりのガヤガヤという声など、五感を通した記憶と共にしまい込みます。歴史を学ぶとは、時間と空間を超えながら人の営みを見つめることであり、連綿とした流れの先に今現在を生きる自分たちを考えることです。深い学びには、時空を超える想像力、往時の人々の心に触れる感受性が欠かせませんが、歴史が動いたまさにその現地ほどに想像力をかきたて、感受性を刺激してくれる場はないでしょう。
 その現地に、車窓の移り変わりを眺めながら鉄道で移動することも、五感の学びです。高山の連なりを抜けると平野が広がり、川を越え、また山を抜けるようすを眺めたあとに、歴史の現地で講話を聞き、文化体験をするうちに、時間と空間、人の営みがつながり合っていきます。親子でへぇ~と顔を見合わせたり、感じ方の違いに気付いたり、親子参加の旅ならではの楽しみも加わります。そして、こうした学びの体験そのものが、子どもたちがもつ「自ら学ぶ回路」を刺激し、今後の学びに繋がっていくというところに、このツアーの一番の価値があるように思います。


合格祈願や留学の安全祈願、学業にゆかりのあるお寺で作法を学ぶ



合格祈願で人気の「安倍文殊院」

 ツアー1日目。新幹線から近鉄、そしてバスを乗り継いで最初に訪れたのは、合格祈願のお寺として知られる「安倍文殊院」。陰陽師・安倍晴明ゆかりのお寺で「三人寄れば文殊の知恵」の格言で有名な学問と智恵を授ける仏様である文殊菩薩や、日本一美しいと言われる古墳である文殊院西古墳でも知られる。僧侶による特別授業では、参拝の作法に続き、裏千家の茶の湯の作法の体験も。参加者は真剣な面持ちで、話に耳を傾けていた。

 特に唐獅子にまたがる国宝 文殊師利菩薩は高さ7メートルの迫力で、子どもたちを圧倒する。1,360年あまりも前に巨大な切石を用いて作られた文殊院西古墳の内部は、木の根が入り込む隙間もなく、その精美さには参加者から感嘆の声が上がっていた。親子で感動を共有できるのも、このツアーの醍醐味だろう。

巨大な切石が参加者を感嘆させる文殊院西古墳の内部
巨大な切石が参加者を感嘆させる文殊院西古墳の内部

 副住職で安倍文殊院53代目の植田悠應さんによると「受験シーズンには関東や九州からも受験生や家族が合格祈願に訪れる」のだという。親子で行く修学旅行については、「奈良という日本が始まった場所で、文化に触れる体験はとても良い企画だと思います。親子3代でいらっしゃる方もいますね。歴史を目の当たりにして驚き、感じることが大切。そのことこそ生きた歴史を学ぶということですね。」と話してくれた。

安倍文殊院でお土産に頂いたえんぴつ。「帰ったらこれで勉強するのよ」といった親御さんの声も聞こえていた
安倍文殊院でお土産に頂いたえんぴつ。「帰ったらこれで勉強するのよ」といった親御さんの声も聞こえていた

留学の安全祈願で有名な「海龍王寺」

 隅寺(すみでら)の別称をもつ「海龍王寺」は、遣唐使として唐に渡った玄ぼう(ぼう=日へんに方)が735年に無事に戻り初代住持となったことに由来し、留学や旅行の安全祈願のお寺として知られる。「海龍王寺」に到着したのは日没後の17時過ぎ。街灯のない境内を月明かりとスマートフォンの光を頼りに本堂に向かう。都会ではなかなか経験することのできない暗闇を歩くことは、子どもたちにとってはワクワクする冒険だ。本堂では、住職の石川重元さんが親子を優しく出迎え、奈良時代に玄ぼうが行っていた深夜の祈祷について説明する。参加者が絵馬に願い事を書き終えると、暗闇に和蝋燭を灯し、ご祈祷。荘厳な雰囲気の中で行われた祈祷では、子どもたちは物音一つたてることなく蝋燭の火を見つめ、お経に耳を傾けていた。

奈良時代の祈祷を再現。厳粛な雰囲気に参加者も真剣
奈良時代の祈祷を再現。厳粛な雰囲気に参加者も真剣

 石川重元さんは「音や空気感など、実際に経験してみないとわからないことがあり、そうした経験が大切です。これからの時代には、誰も教えてくれないことを自ら観じ、学校では習わないことを身に付けていくことも大切ですね。」と、子どもたちへの想いを語ってくれた。

散華色つけ・拓本・写経・から柿の葉ずし作りまで心に刻まれる体験



散華の色付け体験

 かつて女人禁制であった高野山に対して、女性の参拝を許し女人高野と呼ばれる「室生寺」は、紅葉も美しく観光客で賑わっていた。ツアー最初の体験は、仏様を供養するために散布する蓮の花びらをかたどった紙「散華(さんげ)」の色付け。室生寺を象徴する花「シャクナゲ」、寺の「五重の塔」に水彩色鉛筆で彩色する。そして3枚目の花びらには願いごとを書き、ご祈祷いただく。「家族が健康でいられますように」「志望校に入れますように」など内容はさまざま。すぐには願い事が思いつかないお子さんもいる。自分について考えること、そして家族の願いを知ることも、良い経験になったのではないだろうか。

 僧侶の山岡淳雄さんは「普段はあまり馴染みのないお寺に、足を運んで空気を感じてもらうこと、そして何かをしたという体験が記憶に残ることが大事なのです。親子で体験したことが、お子さんを褒めるきっかけになるという良さもありますね。」とこの旅の良さを語ってくれた。

法要の際に散布される散華に水彩色鉛筆で彩色(室生寺)
法要の際に散布される散華に水彩色鉛筆で彩色

古代瓦の拓本体験

 世界遺産「元興寺」は、日本で最初の本格的寺院である飛鳥寺が平城遷都にともない移築されたお寺で、今も飛鳥寺時代の瓦が残っている。このツアー独自の特別授業として、元興寺では古代瓦の拓本体験が人気だ。1,300年以上前の瓦に実際に触れて、その模様を紙に写しとる「拓本」という貴重な体験に、大人も子どもも真剣そのもの。出来上がった拓本は、持ち帰ることができる。

古代瓦の拓本体験に親子とも真剣(元興寺)
古代瓦の拓本体験に親子とも真剣

いろは写経体験

 行基が東大寺大仏造立の布教活動の拠点とし、また大仏殿の参考にしたという伝承から「試みの大仏殿」として知られる喜光寺は、インスタやFacebookでも情報発信し、参拝者にも投稿を促している。ユーモアたっぷりな僧侶のお話には笑いが沸き起こり和やかな雰囲気に。2日間でお寺の作法にも慣れてきた参加者たちは、参拝したあとで「いろは写経」体験に向かった。

 写経は墨をすることから始める。写経が始まると、静寂に包まれた会場で、大人も子どもも一心に筆を進めていた。

いろは写経(喜光寺)
いろは写経について説明する喜光寺の高次喜勝さん

 副住職の高次喜勝さんは写経の効果として「誰かを思い、集中することで脳が活性化する効果もあるのです」と語る。「この便利な時代にあえて使いにくい道具で、時間をかけて取り組むことで得られるものがあります。そして親子で写経し、お互いの姿を見ることも良い経験になるのではないでしょうか。」と話してくれた。

 喜光寺には、祖父母と一緒や、学校単位で体験に訪れる児童生徒も多いようだ。ある有名私立小学校の児童は、写経の際にとめ・はねにこだわり通常より長時間を要したが、その人に合った写経ができることも良さだと高次さんは語る。またグローバル教育で有名な中高一貫校も体験に訪れるそうだ。国際交流においては自国の文化を知ることが重要だと言われるが、お寺で日本の心に触れることは、これからの時代を生き抜くための糧になるのではないだろうか。

柿の葉ずし作り体験

 最後の体験は、平宗(ひらそう)奈良店での、柿の葉ずし作り体験だ。奈良の特産品でもある柿は、この旅の行程でもあちこちで目につき、気になっていた参加者も多い。その柿の畑で葉を収穫する作業から柿の葉ずし作りまでをビデオで学んだあと、いよいよ柿の葉ずし作りに挑戦。鯖と鮭のすしを柿の葉で包み、計8個を箱につめてお土産に持ち帰る。無事の帰りを待つ家族への良いお土産になったのではないだろうか。

お昼に頂いた柿の葉ずしを、今度は自分で作る。旅も終盤にかかり皆打ち解けたようす
お昼に頂いた柿の葉ずしを、今度は自分で作る。旅も終盤にかかり皆打ち解けたようす

世界遺産、日本最大の奈良の大仏様に圧倒される



 修学旅行で東大寺を訪れた人なら、大仏様の大きさに圧倒された感覚を鮮明に覚えているのではないだろうか。東大寺へ向かうバスの中では、初めて大仏殿に行ったときの話をする親御さんと、その話に期待を高めるお子さんとの会話が盛り上がっていた。

地元のボランティアガイドさんも協力

 ツアーの最後は鹿で有名な奈良公園を通り、世界遺産の東大寺へ。人気の観光地だけあって多くの観光客で賑わう境内を、なら・観光ボランティアガイドの会の村田伸宏さんの案内で拝観する。「やっぱり大きい!」「子どものときはもっと大きく見えた!」など大仏様を見た大人の感想はさまざまだが、子どもたちは一様に、その大きさに圧倒されていた。

ボランディアガイドさんの案内で見学した東大寺。この企画は多くの方の協力に支えられている
ボランディアガイドさんの案内で見学した東大寺。この企画は多くの方の協力に支えられている

 天候に恵まれた秋の2日間。参加者たちは何を感じ、学んだのだろうか。東大寺では「次は友達と一緒に来て、柱くぐりに挑戦してみたい」と話してくれた小学生もいた。喜光寺での「奈良の大仏様の建造には、延べ260万人以上の人々が関わっている」という説明を覚えていたお子さんは「何年かけて作ったのかなど、家に帰ったら調べてみたい」と話してくれた。楽しい体験をお友達に共有したい、さらに知識を深めたい…まさにこのツアーに参加した親御さんたちの想いではないだろうか。

 ツアーに参加した親御さんは「普通に生活していたら、決して知り得なかったことが学べました。それを子どもに経験させられたことがとてもよかったです。大人にとっても良い経験でした。」と話していた。

小川大介先生に聞く<学びを深める旅>

 旅はパンフレットを見るときからすでに始まっています。「どんなところに行くのかな?」「誰のお話が聞けるのかな?」「このお寺はお母さんの修学旅行で行ったよ」「この前の授業で習った!」などと、親子でおしゃべりを楽しんでください。ツアーの学習テーマの中で、自分が一番興味あるものにそれぞれ○を付けてみるのもいいですね。時間があるなら、ゆく先々のことを調べてみるのもオススメです。本物体験は、見るもの・聞こえるもの・感じるものがたくさん得られるのですが、少し知識をもって参加すれば、気付けることが格段に増えて楽しみが増します。
 特に今回のツアーのように、お寺の僧侶が直接案内をしてくれるなど、関わってくれる人も本物体験の一部となっている場合は、ちょっとしたお話の中に歴史の厚みが隠されているものです。話を聞いてもっと知りたいということが出てきたら、遠慮せずに質問してみましょう。歴史そのものの空間で、実際に見ながら聞く説明は、教室での学習とはまったく違った経験となります。最後に、こうした旅の一番のポイントは、「子どもに学ばせよう」という気持ちは捨てていくこと! どのように学ぶかは、お子さん自身が決めるものですし、楽しい時間であれば親があれこれ考えなくても子どもは学びます。ですから、親御さんは、子どもそっちのけで自分が楽しむ気持ちで、ワクワクして参加するのが良いですね。


 小学6年生で学ぶ歴史。奈良の旅は、すでに歴史を学んだお子さんには理解を深めるきっかけに、これから学ぶお子さんには歴史に興味をもつ良い機会になったのではないだろうか。なにより家族で楽しんだ経験は、お子さんたちの心に幸せな記憶として残り、今後の豊かな成長につながっていくことだろう。

2019年1月~3月の親子で行く修学旅行 <京都>・<奈良>


 JR東海ツアーズでは文部科学省、文化庁、国土交通省、観光庁、京都市、京都市観光協会、奈良県・近畿日本鉄道協力のもと、2019年1月~3月にも「親子で行く修学旅行 <京都>・<奈良>」を実施する。京都では総本山知恩院で僧侶のご案内と廊下掃除体験や、奈良では教科書に必ず登場する石舞台古墳や高松塚古墳などの見学もあり、見どころたっぷりなコースとなっている。いずれの行程も出発14日前まで、JR東海ツアーズ各支店、Webサイト、電話にて申し込みを受け付けている。
《田村麻里子》

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