【EDIX2019】すぐそこにある未来の学び…経産省「未来の教室」浅野大介氏

 「第10回学校・教育総合展(EDIX2019)」初日の、学びNEXT特別講演「Society5.0と『未来の教室』」に登壇した経産省の浅野大介氏は、全国から集まった教育関係者に向けて、教育現場での実証事業をもとに思い描く「すぐそこにある未来の学びの姿」について語った。

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EDIX2019 学びNEXT 特別講演「Society5.0と『未来の教室』」経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野大介氏
  • EDIX2019 学びNEXT 特別講演「Society5.0と『未来の教室』」経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野大介氏
  • EDIX2019 学びNEXT 特別講演「Society5.0と『未来の教室』」
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 「第10回学校・教育総合展(EDIX2019)」が2019年6月19日から21日まで東京ビッグサイトの青海展示場をメイン会場に開催された。

 初日の講演のひとつ、学びNEXT特別講演「Society5.0と『未来の教室』」に登壇した経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長の浅野大介氏は、全国から集まった教育関係者に向けて、教育現場での実証事業をもとに思い描く「すぐそこにある未来の学びの姿」について語った。

ひとりひとりが未来を創る当事者に



 「Society5.0」で実現する社会とは、IoT(Internet of Things)ですべての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、課題や困難を克服する社会だ。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画(2016年1月22日閣議決定)において日本が目指すべき未来社会の姿として内閣府が提唱している。

 浅野氏が初代室長として着任した教育産業室が立ち上がったのは約2年前、2017年の7月3日。教育にイノベーションを起こすために集まった「未来の教室」と「EdTech研究会」では、2030年頃には日本全国の当たり前であってほしい「未来の教室」の姿(誰もが「創造的な課題発見・解決力」を育むことができる「学びの社会システム」)について議論を重ねてきた。

 「『未来の教室』というと、遠い未来の話と感じる人もいるかもしないが、我々が目指しているのはすぐそこにある未来のこと。」と語り始めた浅野氏。「すぐそこにある未来に向けて子どもたちがどんな学びをしていくべきか、すぐそこにある未来に出ていく子どもたちのために、学校ですぐにでもできることは何か、もっと良い学びができるようになるために、もっと良い環境をつくるにはどうしたらいいのか。今まで取り残されてきた子どもたちも取り残されることなく、ひとりひとりが未来を創る当事者になれる未来。」を具現化するために、6時間座って一斉に皆が同じことを同じように学ぶのではなく、アクティブで個別に最適化された学びが必要だと語る。

 「巷で言われるSociety5.0というのは、ビッグデータの力とAIを最大限に活用しながら未知の課題をどんどん解いていく、未来を創り出していく社会。AIという言葉が注目され、人間は何をするのだという話がよく出てくる。AIの出現で人間がやることがなくなる、尊厳がなくなる、といったディストピア的な未来を描く議論もあるが、AIは人間をいろいろな雑務から解放し、人知のみでは成し得ないことを実現できる。たとえば医療・健康のように、ひとりひとりのパーソナルなヘルスデータがあって、そこに人工知能が初めて機能することでカスタムメイドされたヘルスケアが実現する。これが教育の世界にも当てはまる。」

 Society5.0を生きる子どもたちには、課題設定力、デザイン思考、コミュニケーションの力が必要だ。ワクワクする、楽しい、没頭できる、という思いをもちながら「創ること」と「知ること」を循環する学びを子どもたちにしていきたいという。「創ること」と「知ること」は循環するべきであり、その循環する学びを「STEAM化」とよび、「子どもたちに新しいSTEAM教育が登場するのではなく、今まで教えてきたことを学ぶうえでの時間の使い方、学び方を組み替えることで、すぐそこにある未来に向けて相当アクティブな学びを作っていける」と近い未来の学びの姿を思い描く。

「コミュ障」は人によってコミュニケーション手段を変えられない人



 時間を有効的に活用してアクティブな学び方に変えていく、という考えは働き方改革と近い。経産省では驚くほど多くの仕事をテレワークでこなすようになったという。「こんなに働き方が変わると思っていなかった。人と会話することが驚くほど簡易簡便になった。居場所が問われず仕事ができる。逆に言うとこれからは居場所を問うてはいけない社会になって行く。さまざまな事情や能力をもっている人たちが、ひとりひとりの環境に応じて活躍できるようになっていかなければならない。」と、浅野氏は「物理的に同じ空間にいることを強制すること」に警笛を鳴らす。

 これまでは人と会って話せない人を「コミュ障」とよんでいたが、その定義が変わり、コミュニケーション手段を変えることができない人間が「コミュ障」となるという説には大きくうなずけた。個別最適化された環境で学ぶことを自分自身がやることで、他者が同じように個別最適化された環境で学ぶことを認めることができる。「才能、個性を認め社会として保証していくこと、相手や場面に応じてさまざまなコミュニケーション手段を自在に組み合わせる力が必要になってくる」と説いた。

実証事業での成果、そして第2次提言へ



 実際に一斉授業を止め、個別に最適化されたカリキュラムによって新しい「創造」の時間を生み出した例がある。千代田区の麹町中学校の取組みでは算数・数学を学べるAIアプリ「Qubena(キュビナ)」を導入したことで数学の授業時間が大幅に減り、プログラミング教育にあてる時間ができた。「批判はあるがすべて的外れ。数学の学習がこれで十分だと言っているわけではなく、探究学習にあてる時間を作ることが目的だ。」と浅野氏は個別最適化とSTEAM化の成功事例を語った。プログラミング教育には理数の要素が多く含まれている。ほかにも、タグラグビー、サッカー、観光産業、農業など、課題解決型の授業を行うことによって複数の教科を組み合わせ、産業の未来を意識して学ぶ事例が紹介された。教科書の理解などに費やす時間をどの程度まで効率化し、知識の活用に時間を使えるか。学校、民間教育、産業業界を巻き込んだ実証事業では、個別最適化された学びから新しい学びが生まれるようすから教育現場の課題が浮き彫りになった。

 EdTechを活用した学びを推し進めるためには、インフラの整備や教育現場の意識改革といったさまざまな課題がある。文部科学省には2022年に3人に1人がパソコンを利用するよう進めることを明言しているがそれでは遅い、と浅野氏は言う。早急に1人1台がパソコンを使い、EdTechの力を活用した教育を受けられるようインフラも整備する必要がある。そのためのロードマップを今年度中に示せる予定だという。また、標準授業時数を下回ることや、他学年の単元に進むことを良しとするのかなど、カリキュラムマネジメントが柔軟にできる方針を文部科学省に提案し議論をしていくと明言し、私立学校では速やかに判断できることが公立校ではなかなか難しいというのが現状で、公式に「良し」とする方針が「個別最適化」を進める鍵となることを伝えた。

 少子高齢化で社会構造が変化してきているなかで、戦後からの経済成長、安定的な社会発展による大人たちの成功体験が邪魔をして大きな改革がなかなか進んでいかない。成功体験から抜け出し、新しい、前例を問わないソリューションを創っていくことが求められている社会で、子どもたちが自分ごととして考え、解決し、また、他者や他校とともに考え、大人にも意見を話し、海外ともつながっていくことを子どものうちからやって、力をつけていく。「働き方改革がされた社会で、自分で最適な学び方をしていかなければ、一生学び続ける力をつけるとができない。自分で自分に合った時間割をつくれないと一生学び続けることができない。」と浅野氏は説き、教育改革を急ぐための具体的なビジョンを描く「未来の教室」とEdTech研究会の第2次提言を来週示すことを伝え、講演をしめくくった。

 「未来の教室」とEdTech研究会の第2次提言は2019年6月25日に公表、記者会見を行う予定だ。

 これからの未来を担う人材とは、超スマートな社会の中で手際よく仕事をこなす大人ではなく、超スマートな社会になることで確保できる時間を、新たな物事を創造する時間に変え、イノベーションを起こせる人間なのだろう。

 イノベーションを起こせる人間になるための教育機会は年齢に関係なく与えられるべきだろう。大人になるまで待たなくても、子どもたち個々の特性や進度によって何歳からでも変革を実現できるのかもしれない。来週ビジョンとして示されるという「未来の教室」とEdTech研究会の第2次提言によって、時代の変化のスピードと足並みを揃えた速度で教育変革が進み、日本各地の教育現場で子どもたちがワクワクするイノベーションが生まれるよう期待したい。
《田口さとみ》

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