未来を見据え「子どもたちの学び方改革」に挑む新渡戸文化中学校

 新渡戸文化学園理事長の平岩国泰氏と、「なぜ『教えない授業』が学力を伸ばすのか」の著者であり、2019年度より同学園で英語および学校デザインを担当する山本崇雄教諭に、新渡戸文化中学校で進む“教育改革”について聞いた。

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新渡戸文化学園の平岩国泰氏と山本崇雄教諭
  • 新渡戸文化学園の平岩国泰氏と山本崇雄教諭
  • 新渡戸文化学園理事長の平岩国泰氏
  • 新渡戸文化学園で英語を担当する山本崇雄教諭
  • 新渡戸文化学園の山本崇雄教諭と平岩国泰氏
 近代日本の偉人で、世界的ベストセラー「武士道」の著者としても知られる新渡戸稲造は、1928年に新渡戸文化学園の前身である「女子経済専門学校」の初代校長に就任し、女性教育に注力した。その新渡戸文化学園が今、新たな挑戦を始めている。今回は、同学園理事長の平岩国泰氏と、「なぜ『教えない授業』が学力を伸ばすのか」の著者であり、2019年度より同学園で英語および学校デザインを担当する山本崇雄教諭に、新渡戸文化中学校で進む“教育改革”について聞いた。

すべての子どもを幸せにするために
新渡戸文化学園の教育理念



--共学化などの改革を経て、守ってきた伝統や時代に合わせた変化もあると思います。現在の「教育理念」を教えてください。

平岩理事長:建学以来の学園の教育理念として3本の柱があげられます。

 1本目は新渡戸稲造先生が当学園の校長就任時に示した「教職員心得」に書かれている「思慮と判断力の養成」。知識も大切ですが、社会に出たときに本当に役立つ力を育てすべての子どもたちが幸せな人生を生きる土台を作るのが、学校の役割だと思います。

 2本目が「多様性」です。新渡戸先生自身が国際人として活躍された背景から、多様性を大事にされたため、今もその考え方が根付いています。また新渡戸先生は、「社会と教育がもっと近づくべきだ」とよくおっしゃっていたそうです。新渡戸文化学園では教員に加えて非常に多くの社会人の方が教育にかかわっています。

 3本目は「女性の自立」です。それは今、共働きのご家庭をはじめとした、すべてのご家庭を応援するという理念に反映されています。新渡戸文化学園ではいち早くアフタースクールを導入しました。今でも日本中から視察がいらっしゃる先進的なアフタースクールです。学校も家庭も社会も一体となって、みんなで子どもたちを育てていっています。今後は子どもを中心に先生も保護者もみんなで学ぶ空間に、学校を進化させていきたいです。

 学園は本年度で92年の伝統があり、これまでにも優れた積み重ねをしてきました。そのようなこれまでの先生方の頑張りに、この春に新たな推進力が加わり、さらに良い学園になりつつあることを感じています。100周年を迎える2027年にはさらに1歩も2歩も進化しているようにしたいです。

新渡戸文化学園理事長の平岩国泰氏新渡戸文化学園理事長の平岩国泰氏

すべての子どもが笑顔で主役
学園の魅力を高める教育改革



--新たな教育改革も始まりました。新渡戸文化学園の魅力とは何でしょうか。

平岩理事長:生徒たちの学ぶ意欲が高いことが最大の魅力だと思います。もともと新渡戸文化学園は学習において実体験をベースにした学びを大事にする学校でした。その私たちの伝統的な良さに新たな先生方の学びのスタイルが加わって進化を遂げています。山本先生が担当する中1生の保護者から、「子どもが笑顔で学校の話をすることがものすごく増えた」という嬉しいお声をいただきました。本当の意味で意欲が出て、楽しい授業があるからだと思います。

山本先生:子どもたちが学ぶ目的もわからないままに、テストの点数だけを上げることを目指す教育から離れた授業を行っています。学ぶ意欲の出た子は、点数は結果としてついてくるので、むしろその先にある“何をしたい”のかを、ずっと問い続けています。また、子どもたちには、学校を本当に安心・安全の場にしてほしいので、安心して何でも言えるという関係性を、1学期には築いてきました。

 私は英語の担当ですが、教師のペースで授業は進めません。もっとも大切にしているのは“英語を使って何をしたいか”を問いかけること。4月当初は「英語でやりたいことは特にわからない」と言っていた中1生が、夏休み前には「世界中の子とSkypeで話したい。100人と話したい」という“やりたい”を見つけました。一方的に教えずに待った結果、“やりたい”が生まれた。これはすごく象徴的なことだと思っています。

 “やりたい”を待つときに、放任してまったく何もしないわけではありません。生徒が社会課題に興味をもち始めていれば、関連した英語の動画を見せたり、英字新聞をもってきたりして、1つでもいいからわかる情報を見つける喜びを経験してもらう。英語ができれば世界が広がり、思考が深まるという経験ができるわけです。そうすると子どもたちの学ぶ目的が見えてきます。

 この学園の子どもたちは、とても素直でやる気があります。勉強をする意味を伝えながら進めるので、スイッチが入ったときに著しく成長します。実際に、4月からいきなり教科書を開いて教員主導でアルファベットを始めることはしませんでしたが、導入している「楽天スーパーイングリッシュ」では、夏休み前にすでに中学3年間で学ぶほどの単語を学んでしまっている子も出てきています。導入に際しては、楽天の社員さんにも来ていただいて社内公用語が英語になった楽天さんのお話も聞き、学ぶ意欲も高まりました。

 純粋に知りたい、表現したい、誰かの役に立ちたいなどの気持ちを大切に育てると、学びが深くなり学力も一気に上がっていきます。

平岩理事長:新渡戸文化学園では「自律型学習者」を目指す生徒像としました。自分で学ぶ目的をもち、自分で問いを立てて学習していく姿です。反対なのが「他律的」、つまり「人のせいにしてしまう」「自分で考えられない」「言われたとおりにしかできない」という姿です。このような他律的な姿勢ではこれからの時代を生き抜くには厳しくなってきています。

 自律型学習者になるために、「誰かのために学ぶ」という考え方があります。受験のためと言われてもあまり実感がつかめないうえに学ぶ意欲もなかなか湧いてこない。ところが「誰かの役に立ちたい」という思いをもったときに、学びのスイッチが入る。この「誰かのために」は、この学園の学びの柱のひとつです。いつか誰かの笑顔を作るために自分が学校で学習をする、そう思えた子どもたちは非常にイキイキと学ぶ姿に変わります。新渡戸稲造先生のお考えにもそのような利他的なものが多くありました。

 もうひとつの学びの柱は、「すべての子どもが主役になれる」こと。我々はすべての子の“やりたい”を見ています。当然ひとりひとり考えることもそのスピードも違いますが、先生方の待つ力が本当にすごいです。“やりたい”が、それぞれ違う方向で出てきても、誰ひとり置き去りにしないで、それを学習指導要領の学びや教科書と結び付けて学習を進めていきます。そうすることで、テストのための一夜漬けの勉強ではない、しっかりと定着する学びになります。

新渡戸文化学園で英語を担当する山本崇雄教諭新渡戸文化学園で英語を担当する山本崇雄教諭

自律的学習者を育てるために必要な
待つ力



--自律的学習者の育成について詳しく教えてください。

山本先生:エンターテイメント的に、勉強は面白いと火をつけたりはしません。火がつかないことも選択肢として認めます。むしろ、それを無理にやることも“自律”ではないという考えです。

 もともと子どもには発見したいという欲求があるので、それを認めて待ちます。ただ放っておくわけではなく「こういう面白い世界もあるよ」「こっちもあるよ」「あ、そっかまだだね」って感じですね。

--待っていれば火がつくものでしょうか。

山本先生:つきます。ポイントはリアルな社会とのつながりです。学びが主体的にならないのは、目的と他者がないからです。社会課題の解決を目的に置くと、みな共通して同意できます。たとえば、「貧困を解決したい、それがない世界を作りたい」それならどうするかを、いろんな教科を通じて学んでいく。学習は他者である誰かを笑顔にするためだと話して、すべての先生がその子のペースを見ながら進めます。

 火がつくまでは中学生だと1年くらいはかかると思いましたが、5月の連休明けから少しずつ、1学期の終わりには、ほぼ9割以上の子に。新渡戸文化学園の子はとても早かったと思いました。

平岩理事長:残念ながら「どうせ無理」という考え方が、教育現場にはたくさんあるように思います。「子どもに任せるのはどうせ無理、どうせ騒ぐ、どうせ遊ぶ、どうせ自分たちではできない」だから大人が仕切り回ってしまい、それに乗らない子を叱り続けることになります。私はその「どうせ無理」を取り除きたいです。

 子どもは“できる”と信じています。最初からはできないし、できない日もあるけど、いずれ“できる”と。そのためには、子どもたちに色々と任せないとできない。信じないとできない。それを信じて待つ。

 そうして成長すると、本当に自律的な子になります。その日だけ見れば、朝礼で大人が大声で号令をかけたほうが整列は早い。だけどそれをしていると、結局、大人に言われるまで騒ぐようになる。それは他律的です。短期的には大人が叱って黙らせればその日一日は安定するでしょう。しかし中長期的には短期的にできない日があっても子どもたちに自分たちが今何をすべきかを考えてもらうことを重ねたほうが、教育としては高い目標だと思うのです。

大人や社会につながる
開かれた学校



--今後の取組みを教えてください。

山本先生:100人の大人につなぐ」を掲げています。生徒が卒業するまでに100人の大人を授業で紹介して、実際に会って話を聞き、その中でロールモデルが見つかったら良いというものです。

 実際に多くの社会人が教室に登場し、子どもたちは、1学期だけで名刺を30枚も手に入れました。もちろん会う大人は誰でもOKではなく、この人はという人がいれば事前に会って、教育理念を理解していただくようにしています。大人が本当に困っていることに対して、子どもたちは利他的な心が動き始めて、学びが主体的になるのです。そんな場面をたくさん目にしているので、まさに「開かれた学校」ですね。

平岩理事長:学校が社会に開かれている度合いでいえば、日本有数だと思います。次々と社会で活躍する人が授業に来てくれています。授業だけでなく、放課後の部活も一流の外部講師です。バスケットはBリーグのヘッドコーチ、女子サッカーのプロチームコーチ、紅白に出場する歌手のバックで踊るプロのダンサー、プロの料理人など、多彩な人々が揃っています。

 部活が外部講師になっていることは、先生の働き方改革にもなっているので、今後も魅力ある先生が集まってくると思っています。

 最近の面白い放課後の動きでは、「脱プラスティック問題」などの“プロジェクト”に自発的に取り組む生徒が出てきたことです。放課後に、希望者を年齢問わず集めて、取組みも期限も自分たちで決めます。そんなプロジェクトが次々と生まれていますね。一部のプロジェクトでは、他校の生徒とも活動します。たとえば、週末に学校の垣根を超えて社会課題に触れる活動を行い、最後はアースデイなどで発表しよう! といった流れになります。

 修学旅行では、社会課題のリアルに触れるスタディツアーを行っていきます。今年は三重県の過疎の村に行きました。スタディツアーで原体験をして、誰かの役に立ちたい思いが生まれ、その後の学びを自分でデザインしてほしいと思っています。

それぞれの“やりたい”や多様な進路を
認めて育てる環境へ



--生徒のようすなど、日常の雰囲気を教えてください。

平岩理事長:素直で伸びしろの多い子どもたちです。学園にはかねてから「どの子もわが子」というスローガンがあり、生徒と先生の距離が近いのが良き伝統としてありました。そのような温かい先生方の中で子どもたちは自分のペースで着実に育ちます。自己肯定感も高い子が多いと感じます。そのようにその子の育ちのペースを大事にするご家庭や、加えて変化の激しい時代に育つ子どもへの先端的な教育へのご興味の高いご家庭が新渡戸文化学園を選んでくれています。また、外部から大人を招くことも多いため、好奇心の目が開かれていて、外の社会に対する興味関心も強く、吸収力の高い子が多いと感じています。

山本先生:先生が「できないことは可能性」だと本気で伝える学校なので、まだできないことを可能性だと捉えて伸びていく子たちだと思います。それぞれに学びのやり方やスピードが違っていて、本来は個々に合わせた学習メニューがあるべきですが、今はテクノロジーがそれを可能にしています。

 今後も、受験や模試だけを目的とする学習はしませんが、私をはじめ複数の先生が進学校だった高校での経験がありますので、海外の大学や東大に行きたいという“やりたい”があれば、ガイドも可能です。今までも実際にたくさんの子が実現をしてきました。入試のあり方も変わってくると思うので、非認知能力が高くてアイデア満載で、実際に新渡戸文化学園でさまざまな活動に取り組んだ生徒たちは、志望大学への進学も実現できると思います。これから中学に進学する子どもたちが大学に進学する時代には、選考方法もさらに変化していると思い、追い風だと感じています。

2030年代とその先を見据えて
子どもの幸せを考える



--私立中学への進学を検討している親子に向けてメッセージをお願いします。

山本先生:子どもたちの学び方改革をしています。学校でしっかり学び、自分の時間を確保して、もっと学びたければ学ぶ。他にやりたいことがあれば、それもやっていく。自分でコントロールできるようにしたい。ヘトヘトになって毎日塾に行くことに疑問をもち、大量の宿題をこなすだけで1日や夏休みが終わることに疑問をもつような保護者の方やお子さんには、ぜひ新渡戸文化学園に来てほしいと思っています。

平岩理事長:塾に行っている子の中で、何のために学んでいるかわからなくなった子もいるのではないかと思います。そうした場合は、ぜひ私たちの学校で答えを見つけてもらいたいです。学びは本来とても楽しいもので、誰かのためになるものです。また、私たちはペーパーテストだけでその子がこれから伸びる力が測れるとは考えていないので、塾に行っていない子たちにも、ぜひ学校を見に来てもらいたいです。

 保護者の方も、これだけ時代が変化して、従来のスタイルだけでは時代に合わないのでは? という認識はあると思います。でも、どうしていいか答えが見つからない。だからとりあえず良い大学には入れておかなければとなる方も多いと思います。

 そのどうしたら良いかの答えは、私たちが出し始めていると考えています。

 その新時代の教育に期待を寄せてくださる方は、ぜひ学校を見てください。今の小学生たちが社会に出るのは2030年代。2030年はSDGsではゴールとされている年で、もう空飛ぶ車が動いていると言われています。子どもの幸せを本気で考えれば、自分で自分の道を見つけられる力が大事です。そのためには、新渡戸文化学園以上にお勧めの学校はないと、私は確信しています。

新渡戸文化学園の山本崇雄教諭と平岩国泰氏山本崇雄教諭と平岩国泰氏

--ありがとうございました。

 中野区と杉並区の区界の閑静な住宅街にある新渡戸文化学園の構内では、生徒の活動のようすが写真で掲示されており、その表情がイキイキとしていたのが印象的だった。今後学校説明会もあり、また教育改革を進める山本崇雄先生と山藤旅聞先生の公開授業「未来授業デザイン」(クロスカリキュラム 理科×英語×SDGs)は、予約制で毎週水曜日に開催されており、関心のある保護者は実際に授業を見学することができる。これからの新渡戸文化学園における教育改革の取組みに注目したい。

新渡戸文化中学校学校説明会


2019年8月24日(土)10:30~11:30 *11:30~ランチ試食会
2019年9月14日(土)14:00~15:00
2019年10月5日(土)14:00~15:00
2019年11月30日(土)14:00~15:00
2019年12月14日(土)14:00~15:00
2020年1月11日(土)14:00~15:00

公開授業


・「未来授業デザイン」(クロスカリキュラム 理科×英語×SDGs 中学)
※ 毎週水曜日10:40~12:20開催。予約制
・公開授業
2019年11月16日(土)9:35~11:25

※学校説明会・公開授業の予定の確認や予約は下記のボタンより

学校説明会および学校見学ガイド
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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