発電所やダムの見学、大自然探検、科学実験、食事、宿泊を含むすべてのプログラム参加費が無料(集合・解散場所までの交通費を除く)とあって、抽選倍率が10倍以上となるのも納得だ。
小川大介先生に聞く体験ツアーの魅力
人気の体験ツアー魅力を探るとともに、学習、受験、子育て関連の著書も多く、「かしこい塾の使い方」主任相談員で中学受験指導のカリスマである小川大介先生に、親子体験の効果やその生かし方などについてお話をいただいた。
小川大介先生の<五感で学ぶ体験型学習>のススメ
人は、年齢を重ねるにつれて「言葉で学ぶ」ことに慣れていきます。学校も、塾も、言葉で教えられます。そして私たちは、幼少期は自然に行えていた「体を通した五感の学び」を忘れていきます。言葉での学びは、定まった情報を短時間で大量に伝え理解するのに適している一方、「答え」をそのまま受け取ることになりやすいという一面ももっています。多様な価値観をもつ人々とつながりながら、自ら考え自ら行動することが重視される今の社会において、五感を用いた「体験の学び」に注目が集まることは必然なのでしょう。
中でも、親子で参加する体験ツアーには特別な魅力があります。親自身が五感の学びを取り戻せるからです。親自身がワクワクする、学ぶ楽しさを感じる。そのようすに子どもが触れることで、与えられる学習から自分で発見する学びの楽しさを素直に味わうことができます。
特に私がJ-POWERのエコ×エネ体験ツアーで素晴らしいと感じたのは、自然の中で人工物に出会えるところです。世界的に教育の場でSDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、人の営みと自然との関わりを身近に感じることから、社会課題への気付きが生まれます。
お子さんの学び(おもに言葉による)に一生懸命に関わってきた親御さんほど、最初は構えてしまうかもしれません。難しいことは考えず、プログラムに自分を委ねるつもりで、自分自身が楽しむようにしましょう。知っていることも反応するポイントも親子できっと違うでしょう。答えは必要ありません。親子で共通の体験をもつことは、これからの日常でお互いの考えを認めあう素地となってくれますよ。
2007年から13年目を迎えた同ツアーの「身近な秘境『奥只見(おくただみ)』でブナの森にふれる!」に小学6年生の娘と一緒に同行取材した2日間で実感したのは、“子どもと一緒に学ぶ”という共通の体験を通じてこそわかる水と自然と人の密接なつながり。参加者親子を毎年楽しみに迎え入れているスタッフの皆さんのエコ×エネ体験ツアーに対する熱い思いが心にしみ、“学ぶって楽しい!”と親子で実感した1泊2日の取材旅のようすをレポートする。
まず今回参加した1泊2日のスケジュールは以下のとおり(2019年8月実施内容。毎年プログラムは異なる)。
「身近な秘境『奥只見(おくただみ)』でブナの森にふれる!」スケジュール
1日目
越後湯沢駅集合→バス移動→二居ダム見学→奥清津発電所で昼食→科学実験「水力発電のしくみ」を再現→奥清津発電所見学→バス移動→奥只見ダム見学→緑の学園チェックイン→夕食→夕食後の「お互いを知る時間」→ナイトハイク→夜の交流会→お風呂・就寝
2日目
朝のお散歩→朝食→チェックアウト→遊覧船で奥只見ダム見学→銀山平キャンプ場で森を探索→ブナの森を探索→科学実験「水の集まる豊かな土」を再現→フレミングダンス→尾瀬三郎物語を即興実演→感想発表会・振り返り→バス移動→越後湯沢駅解散
お互い短い時間でも親しみやすく楽しく過ごせるよう“大人も子どもも同級生”をモットーにキャンプネームで呼び合った2日間。文中はキャンプネームのままで紹介していこう。
<1日目>エメラルドグリーンの水が満ちる二居ダム
家族旅行の機会はこれまでにもあったが、娘と2人きりという旅は初めて。子どもだけ参加の夏のキャンプツアーや学校の移動教室で大勢の旅経験はあるものの、同世代の親子ペアが集まるツアーというのは親子ともに初体験とあって、少々緊張しながら越後湯沢駅に降り立つとスタッフの皆さんが笑顔で出迎えてくれた。
16組32名の参加親子とスタッフを乗せた満席の貸切バスが走り出すと、スタッフが元気に挨拶し車内は一気に和やかな雰囲気に包まれた。J-POWER広報のよーこばさんによるJ-POWERの会社紹介や、これから向かう二居ダムや奥清津発電所に関係するクイズ、見学時の注意点などを聞いているうちに最初の目的地、二居ダムと奥清津発電所が見えてきた。J-POWERは、全国約100か所の発電所から地域の電力会社等を通して全国の工場や家庭に電気を送っているという。

ダムというとコンクリートの塊の大きな壁が思い浮かぶが、見えてきたのは岩が積み重ねられた大きな山のような壁。この地を切り開いたときに削った岩を利用した「ロックフィルダム」と山々の美しい風景に思わず見惚れてしまう。坂道を上っていくと車窓の向こうは山の谷間に美しく映えるエメラルドグリーンの水が満ちるダムが見えてきた。青緑色の理由はこの地域の温泉の成分(硫黄泉)が含まれている影響によるものだそう。「すごい!」「きれい!」と感嘆の声があがった。

天端(てんば)というダムの一番上に到着すると全員バスから降り、近くを流れる清津川をイメージしてつくられた天端の道を歩きながらJ-POWER奥清津発電所の藤原所長代理と高﨑さんの解説を聞いた。ダムの長さ(頂長)は280m、高さは87m、標高(満水位)は825m。大きなダム湖の総貯水量は1,830(有効貯水量1,140)万立方メートル。わかりやすいように「東京ドームの約15杯分」「学校のプール(25m×10m)の73,200杯分」と教えていただき親子ともども納得。

目の前に広がる二居ダムは「下池(したいけ)」で、さらに高い位置にカッサダムという「上池(うわいけ)」があり、落差は470mもある。日本最大級の揚水式発電所「奥清津発電所」では、工場や家庭で電気をたくさん使う昼間はこの上池から下池へ水を落として水車を回転させて電気を作っている。電気をあまり使わない夜間にはほかの発電所の発電した電気を利用して下池から上池へ水をくみ上げて翌日の発電に備えている。揚水発電は、大容量の場合は貯めることができないという特質をもつ電気を、昼間のために水の形で夜のうちに貯めているというわけだ。
<1日目>人々の暮らしのために電気を作る奥清津発電所
奥清津発電所の会議室に移動してこの地域の名物弁当「開高めし」を食べた後は、水力発電を実際にやってみる実験体験タイム。子どもたちの心をわしづかみにするドクターの軽快なトークで始まった科学実験ショーでは、子どもたちが「雲」「水」「司令塔」を演じて、位置エネルギーから電気がつくられるようすを五感で表現し盛り上げた。

ダムに見立てたペットボトルから水を送り出す司令塔がスイッチオン。水圧鉄管に見立てた透明ホースに勢いよく水が流れる。水のエネルギーによって発電所に見立ててつくられた小さな発電機の水車が回転。回転の力=エネルギーが、コイルの側で磁石を動かすことで誘導電流が発生。電磁誘導で電気が作られライトが点灯!

昭和53年に発電運転を開始した奥清津発電所と平成8年に発電運転を開始した奥清津第二発電所の2つの発電所を合わせてOKKY(オッキー)という愛称で、新潟県湯沢町の地域の人々に親しまれている。実験体験で仕組みを学んだあと奥清津発電所に潜入し本物の大きさと迫力を体感するために移動した。
奥清津発電所では160万キロワット、約50万世帯分の電力が作られ山々を越えて東京方面へ送られている。その距離は約200キロメートル。越後湯沢から東京駅間は新幹線で約1時間30分の時間がかかるが、電気は光と同じ速さ(1秒間で30万キロメートル)で届く。






発電所見学の後は、上池に貯めた水を発電所に送り電気を作るという重要な役割を果たす「水圧鉄管(すいあつてっかん)」や資材を運ぶために作られた搬入路「水の路」に潜入。






奥清津発電所の会議室に戻りキャップの解説で水の力、電気の力を再確認。「電気は貯めておけないので、活きのいい電気を今、皆さんは使っています。家に帰ってコンセントを差し込むとき、その向こう側ではいつも電気が安定して供給できるよう暮らしを支えている人たちがいることを少し思い出してくれると嬉しいです」というキャップの言葉で締めくくられ、奥清津発電所を後にした。

奥清津発電所は冬になると雪が3m以上積もるそう。この二居ダムは常に水を動かしているので凍ることはないのだそうだ。
<1日目>奥只見ダム~緑の学園へ
ダムカードやOKKYのぬいぐるみなどお土産をたくさんいただき次は奥只見へ移動。再びバスに乗り込みダム開発のために作られた22キロ続くシルバーラインを(なんとそのうちトンネルは18キロ)クイズを楽しみながら抜けると、奥只見湖に到着。二居ダムとは違う重力式コンクリートダムは大きく総貯水量は6億トン。人造湖としては日本最大級で、小河内、黒部ダムの約3倍だ。新潟県と福島県の県境がダムの中心部で、ダムの高さは157メートル、長さ480メートル、水位標高は満水時750メートル。冬になると最大積雪深は4~5メートルにもなる地域にある。
天候の都合で天端を歩くことはできなかったが、「あ!送電線だ!」という子どもたちの声があがり、山々の間をつなぐ送電線を眺めながら、静かに水とエネルギーを感じる時間となった。

<1日目>ナイトハイク~夜の交流会
奥只見ダムからほど近い宿泊先「緑の学園」は奥只見丸山スキー場内にある施設。夏は林間学校や合宿、冬はスキー客の宿泊に利用されているとあってとても広い。部屋に荷物を置くとすぐにお楽しみの夕食の時間に。同じテーブルに座ったメンバーで、お互いの小学校の修学旅行の行き先や、運動会の話題などで和気あいあい。賑やかな夕食タイムとなった。

夕食後の「お互いを知る会」ではスタッフの楽しいダンスで盛り上がり、全員が参加動機や楽しみにしていることなどを交えて自己紹介し合った。「娘をリケジョにしたい」「倍率が高いなんて知らずに応募したら当ってラッキーだった」「自宅の近くに発電所があるので気になった」など動機はさまざま。

食休みが終わると夜の世界を散歩するナイトハイクへ。小雨も降り出し参加も自由だったが多くの参加者が集結。暗闇で生きる生き物は何を頼りに活動しているのかを想像しながら、自分の足音、葉に落ちる雨音、虫の声に耳を澄ませ、夜に活動する生き物たちの世界を感じる体験となった。暗闇をじーっと見つめて待つとホタルの幼虫の小さな光も見えた

ナイトハイクから戻ると食堂で夜の交流会。こちらも自由参加だったが、子どもたちも親たちもスタッフも大勢集まり、お菓子を食べたりジュースを飲んだりしてリラックス。科学の不思議をドクターに質問したり、J-POWERオリジナル エコ×エネかるたで白熱の試合を繰り広げたり、朝からびっしりのスケジュールにも関わらず終了時間まで楽しんでいた。


大浴場でゆっくりお風呂に浸かった後は、娘がぴったりくっつけて敷いてくれた布団で並んで就寝。娘はもっとも楽しみにしていたナイトハイクを思い出しながら「ここに修学旅行で来られたら肝試ししたいな! 真っ暗で盛り上がりそう!」「スキーにも来たいなぁ…」「ダムの水の色綺麗だったね」など、1日の思い出を振り返り、まだまだ喋りたくて眠れないようす。こんな風に枕を並べたことは今まで何回あっただろうかと思い起こしながらいつのまにか眠りについていた。

2日目は奥只見湖を遊覧船で移動し銀山平へ。親子の感想とスタッフの熱い思いをインタビュー。