YouTubeの教育での可能性、東大卒ユニットSpesDenのokedou&okedicに込める想い

 東京大学出身者によるユニット「SpesDen」の二人にインタビューを実施。どういった想いからこうしたサービスを実施しようと思ったのかを聞いてみた。

教育ICT 高校生
ばってん氏の授業風景
  • ばってん氏の授業風景
  • ばってん氏のプロフィール画像
  • バン氏のプロフィール画像
  • ばってん氏 LAでの写真
  • バン氏 自室での開発風景
  • お二人のやり取りのようす
 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの学校が休校措置をとる中、あるサービスが誕生していた。【休校支援】高校生の学びを支援するサービス(まとめ)にも記した教育プラットフォームの「okedou」と「okedic」だ。

 「okedou」と「okedic」は高校生がいつでもどこでも1人で自立学習ができるようにと開発された。YouTube上には優良な学習コンテンツが数多く公開されているが、ほかの情報にもアクセスしやすく勉強以外の誘惑も多いのが難点。そこで、勉強のコンテンツのみを集約した「okedou」と、辞書機能を紐づけた「okedic」が作られた。

 この2つのコンテンツは東京大学出身者によるユニット「SpesDen」の2人が、個人として作成し運営しているといい、運営費も個人によりまかなわれている。あくまでも善意で運営されている教育プラットフォームと聞き興味をもち、この2人にインタビューを実施。どういった想いからこうしたサービスを実施しようと思ったのかを聞いてみた。2人の教育にかける熱い想いに圧倒されるインタビューとなった。

LAと大阪での「遠距離開発」



--まずは、今現在、お2人はどのようなお仕事をされているのかを教えてください。

ばってん:現在アメリカ・ロサンゼルスのUCLAという大学院で経営学を専攻しながら、教育学部の授業に潜る日々を送っています。専攻は技術経営です。土地柄を生かして、西海岸のビーチで思考にふけることもありますね。日本の外でさまざまな文化に触れながら、どうすれば教育を通じて日本を明るくできるかということを考えています。

バン:地元の大阪で映像関係の仕事をしています。ただ、やっていることはいわゆる「エンジニア」で、映像制作ではなく、映像をどうやって配信するかとか、どうやってITインフラを用いてたくさんの人に映像を送り届けるか、といったことに関することが多いです。また、その結果に対して、大学時代に学んだデータ分析を行うこともあります。あまりそういうことをしている人が仕事場に居ないので、必然的に幅広い知識を習得しています。

--こうしたサイトを作ろうと考えた背景にはご自身の体験が少なからず影響していると思われます。高校時代はどのように勉強していましたか、また勉強面で苦労していたことなどもあればお聞かせください。

ばってん:自分の場合はいわゆる三大予備校がない田舎の高校で、学校の集団授業のカリキュラムもあまり合っていなかったので、すべて自分で計画を立てて独学していました。「学校の授業について来い」という感じの先生が多かったので、独学していてわからないことがあっても、先生に聞くのが気まずかったですね。

 なので自分に合う勉強法から参考書まで、手探りで探さないといけなくて、本屋の参考書コーナーに入り浸ったりして、それが一番苦労しました。今だと勉強に関する知りたいことをYouTubeですぐに知ることができるのでとても羨ましいです。自分のときにYouTubeがあったら、高校生の大事な時間を半年間くらい節約できたんじゃないかと思うんですよね。上京して、東京の高校教育の環境の良さにおったまげました(笑)、塾に東大生のチューターがいて当たり前なんだと。チューターという言葉も上京して知りました(笑)。

バン:集団授業は知っていることも多かったりとか、周りのレベルに合わせて進行したり、ちょっと無駄が多いなと感じていました。わからないところがあっても進んでしまうし、「時よ止まれ!」と思ったこともありますね(笑)。

 どちらかというと自習室などで自習しているときが一番集中できていました。わからないこともすぐに聞くのではなく、じっくり考えてどうしてもわからないときだけ質問するタイプでしたね。当時で言うところの予備校の「VOD(ビデオオンデマンド)授業」をよく活用していました。必要なところだけ見られるし集中できるからそうしていたわけですが、今だったらそれこそYouTubeで学んでいたかもしれませんね、時を止められますからね(笑)。

--お2人の出身大学は東京大学とのこと。大学時代、何を専攻していらっしゃいましたか。

ばってん:工学部の計数工学科というところで、数理工学という学問を学んでいました。社会に役立つ数学・情報・物理の知識を幅広くかつ深く学べて、自分の興味にも合っていたのでとても楽しかったです。紙と鉛筆とコンピューターと、いいバランスで格闘していました。バンとは同級生で、学科に配属されてからすぐに意気投合し、しょっちゅう飲みに行っていましたね。彼のエンジニアスキルのすごさを目の当たりにし、自分は別の道に進みました(笑)。

バン:大学時代は数学の社会への応用例を学べるとても面白い環境でした。専攻は機械学習・データ分析といったいわゆる「ビッグデータ」に関するところで、修士号もそれを扱う研究室で取得しています。傍らでIT企業でインターンやアルバイトをしてスキルを磨いていました。学部時代のみならず、卒業後も年数回は飲みに行く機会をつくっていましたね。

苦しんだ経験が生かされた



--このユニットを結成するに至ったきっかけと経緯を教えてください。

ばってん:自分が高校のときに苦しんだ経験もあり、高校教育の地方格差をなくしたい、もっと教育を個別化したい、という想いは大学時代からもっていました。ただ、自分がまず社会を良くしないと教育を語る権利はないと考えて、ずっと悶々としていました。

 そんな中で、たまたまYouTubeで、Koga MasakiさんというYouTuberの方が、自分が受験した年の東大入試の数学を、鮮やかにわかりやすく動画で解説していたのを見たんですよね。受験の懐かしさよりも、「え?これ誰でも無料で受けられるの?」と衝撃を受けました。そこからいろいろ調べると、多くの方が熱意をもってわかりやすい授業動画をたくさん出されている。「これで地方の高校生が救われる」と感じて(笑)。何か自分たちもできないかとすぐにバンに連絡しました。

バン:LAから電話してくるんですよ、教育系YouTuberが今すごい、って(笑)。流石に無視はできないなということで、話を聞いて、ちょっと調べてみると、確かにすごいんです。僕にはとてもできないような高い品質の動画を皆さんが無料で公開している。じゃあ、僕に何ができるのかなと考えたとき、エンジニアとして、先生にとっても生徒にとっても効果を最大化できるようなサービスを作り上げよう、と。ばってんの教育に対する熱意は知っていましたから、ああだこうだ考えるより、2人でとりあえずやってみようかな、と。

コロナ対応のためのサービスではない



--2020年2月末のタイミングでサービスをリリースしていますが、いつから企画をスタートしたのでしょうか。

ばってん:昨年(2019年)の末頃にバンに連絡して口説きました。年明けから開発ができそうだという話になり、それまでに自分はコンテンツを揃えようと。LAと大阪で時差は17時間あるのですが、完全に分業してやってみたら何とかなりました。会社員をしながら開発してくれたバンには、頭が上がらないですね。

バン:僕は普段は会社員なので、年末は繁忙期だったりで、年明けから開発にとりかかったんです。仕事終わりや週末に取り組んでいました。

 自分で言うのもなんですが、LAと大阪で作るって結構滅茶苦茶だなと思っていたんです。でも意外といけるんですよ。週末に隔週くらいで電話をして、基本はチャットでやりとり、これで2月末にはほぼ完成していて。凄い時代だなと思いましたね(笑)。

--動画の作成者はYouTuberとのことですが、今どれくらいの人数が賛同し参加しているのでしょうか。

ばってん:サービスが仕上がったので、現在YouTuberの方々にも「こういうサービスいかがでしょうか」と伺っているところです。現在は、我々の方でYouTubeのコンテンツを探して、埋め込みの形で貼らせて頂いています。登録させていただいているYouTuberの方々は5人ほどで、毎日登録動画数を増やしています。その方々のものだけでも、すでに動画が2,500本あるんです。

 自分も授業をやってみようとYouTubeで数学の演習動画を毎日上げているのですが、動画を作るのがどれだけ大変か、身に染みてわかります。本当に彼らの教育への想いは凄いなと尊敬します。

バン:先生・生徒のどちらの皆さんにも、このサイトを見て「YouTubeでの教育」の可能性を感じてもらいたいです。僕自身「教育系YouTuberがすごい」という話を聞いたとき、正直半信半疑でしたから。でも、見てみると教育格差を埋める可能性があると感じています。賛同していただける方を1人でも増やしたい、という段階ですね。

--今後ほかの科目も掲載していく予定とのことですが目安としてはいつごろになりますか。

ばってん:とりあえずみなさんに使っていただけるサービスにするのが最優先ですので、一旦は数学に特化しつつ、サービスとしての使い勝手の良さを高めていければと考えています。YouTube上にはすでに、いろんな方が数学以外にもたくさんのいい動画を出されているので、その後で皆さんからの要望があれば、随時掲載していければと考えています。

バン:コンテンツについてはばってんに任せていますが、サイトの機能としても進化させていくつもりです。正直まだまだですから、ここから1年くらいかけて、本当に使い勝手のいいものにしていきたいなと。早めにリリースをしたのは、実際に皆さんに使ってみていただいて、こんなことができたらいい、あんなことができたらいい、とアイデアや改善点を上げていただいて、それを吸収して「みんなで作っていくオープンな教育の場」を完成させたいと思ったのです。

日本の地域的・金銭的な教育格差を減らしたい



--このサイトへの想いを改めてお聞かせください。

ばってん:学校や塾での集団での教科指導では、どうしてもひとりひとりのレベルやニーズに合わせられず、先生も固定されていて、なかなか満足のいく学びが受けられない子も多いのではないかと思うんです。自分が高校生のときもそう感じていました。また勉強していて不便なところとして、すぐに調べたいのに、自習室に参考書を持って来ていなかったり、とかもありますよね。

 そういう皆さんに対して、自分が学びたいものを、学びたいときに効率よくスマホで学べる、そういうサービスになればと考えています。また、常に魅力的な動画に誘惑されるYouTubeのサイトから、教育のコンテンツを少しだけ離すことで、勉強に集中しやすい環境を提供できればと考えています。YouTuberの方々の優れた動画を発掘しつつ、日本の地域的・金銭的な教育格差を減らすことができれば幸いです。

バン:辞書サービスokedicを含めて勉強の近道を提供したいと思っています。okedouはただのまとめサイトじゃない、という認識をもってもらえるよう頑張らないとダメですね。

 ちなみにokedicのコンテンツはすべてばってんのオリジナルですが、Wikipediaなどだと専門性が高すぎてよくわからない、という生徒の方たちのために程よいレベルで短く仕上げるようにしています。いつか、生徒の皆さんにこのサービスのおかげで成績が伸びたとか、本当に助かった、と言ってもらえるようなサービスにしたいなと思っています。

 僕は何よりYouTuberの皆さんを本当にリスペクトしていて、これだけの良質な動画を野放しにしておくのは本当にもったいないと思いますし、その効果を可能な限り最大化できるようなサービスにしたいです。先生の皆さんにとっても、生徒の皆さんにとっても有用なサイトにして、「開かれた教育の場」として教育格差を解消しつつ教育レベルの底上げができれば言うことはないです。

しっかり学びしっかり青春を謳歌してほしい



--高校生を含め、今現在「学んでいる」子どもたちへのメッセージをお願いします。

ばってん:自分の高校はゴリゴリの男子校だったので、とにかく上京して彼女が欲しいと思っていました。とにかく東京に行けば、人が多いので彼女がすぐにできるものだと信じていました。田舎で、将来の夢を考えるような機会もなく、漠然といい大学に行けたらいいなと考えて勉強をしていました。いま、同じような状況の子も多いのではと思います。しかし、それでは「受験までの人」で終わる可能性が高いです。

 いま勉強しているすべての知識が将来役立つとは今の僕は言い切れませんが、一つ言えるのは「自分で考えて動く力」をつけておくと、それは一生ものの武器になるということです。上京して、モチベーションを失っていた僕を助けたのは、独学で培ったこの力でした。

 時代は変わっています。田舎に住んでいても、自分は何がしたいか、そのために大学で何ができるのか、スマホで調べて考えることができます。「受験からの人」になるためには、自分が打ち込めそうな夢をもって、そのために何をすべきか、自分で作戦を考えて動くことがとても大事だと思います。すべての大人が正解を言っているとは限らないです。自分でしっかり考えましょう。そのほうが、「未来の自分」から感謝されると思いますよ。

 そして、自分が進みたい道へ進むうえで、大学受験の勉強は避けられないかもしれません。そのときに、効率よく勉強するためのツールとして、「okedou」や「okedic」を使っていただけたら嬉しいです。目標を持ち自主的に勉強に励む皆さんを、微力ながらサポートさせて頂きます。

 高校でしかできない経験は、たくさんあります。やらされる勉強を理由に、貴重な時間とエネルギーを犠牲にしないでください。この長い休暇中、集中力を維持するのは難しいと思いますが、集中できないときは未来の自分がどうなっていたいか思いを馳せて、勉強する理由を少しでも見つけてみてほしいです。それが自主的な学びにつながり、一生ものの「自分で考えて動く力」が身に付いていくと思います。

バン:今回の新型コロナウィルスに関する件では、本当に突然状況が急変して大変だと思います。まずはしっかり心を落ち着ける時間をとることですよね。落ち着いてから、自分のペースでいいので勉強にも手を付けていってほしいですが、自習は結構難しいと思うんです。今はスマホもあって、魅力的なコンテンツが沢山ある。

 そんな中で、しっかり自律して勉強をし続けることは大人でも難しいと思います。でも、勉強をする時間を最小限に絞って最大の効率を出すためのツールも増えています。今回僕らのつくっていく「okedou」や「okedic」をそういったツールのひとつとして活用していただければ幸いです。メリハリをつけて学んでいただければと。

 「okedou」「okedic」はコロナウィルス対応で公開したというわけではないので、これからも生徒の皆さんには無料で学べるように動いていく予定です。もちろん運営にお金はかかっていますが、大人にできるのはそのくらいなので(笑)。

 ピンチはチャンスという考え方もあります。これを機に自習のやり方をマスターしてしまえば受験のみならず今後の人生でとても有効です。自習をマスターして、しっかり学んでしっかり青春を謳歌してほしいです。もっとも、僕は男子校だったのもあって青春といっても汗臭いものでしたが(笑)。

--この度は急なお願いにもかかわらず、インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。
《鶴田雅美》

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