ルネサンス高校のカウンセラーが語る、子どもの自己肯定感を高めるメソッド

 通信制のルネサンス高等学校のカウンセラーに着任したリバティーコーチングの田島大輔氏、上杉絵理香氏、ルネサンス高等学校の養護教諭 春山藍先生に、同校のカウンセリングルームの概要や、子どもの自己肯定感を高めるために大人がもつべき視点などについて話を聞いた。

教育・受験 中学生
PR
ルネサンス高等学校 養護教諭 春山藍氏とリバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
  • ルネサンス高等学校 養護教諭 春山藍氏とリバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
  • ルネサンス高等学校 養護教諭 春山藍先生
  • リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
  • リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
  • ルネサンス高校の生徒たちの「夢」を温かく支える春山先生と田島氏
  • ルネサンス高等学校の「ほっとルーム」のプレートは養護教諭 春山藍先生の手作り
 通信制のルネサンス高等学校グループでは2020年7月、東京・大阪・名古屋の3か所にて、生徒たちのメンタル面を支援するカウンセリングルームを開設した。ルネサンス高等学校のカウンセラーに着任したリバティーコーチング代表取締役でプロコーチの田島大輔氏、同社プロコーチ・臨床心理士の上杉絵理香氏、ルネサンス高等学校で養護教諭を務める春山藍氏に、カウンセリングルーム(*)の概要や意図などを聞いた。
*リバティコーチング社はルネサンス高等学校のみカウンセリングルームを開設している

生徒が夢を語れる新しい場所



--ルネサンス高等学校グループでカウンセリングルームを開設した理由を教えてください。

春山先生:今、若い世代では、家庭や友人関係、学校、地域などのさまざまな環境に起因した問題を抱え、その原因は複雑に絡み合っています。本校では、小中学校や前籍の高校時代から人間関係などの悩みや起立性調節障害を抱える生徒、学校に行きたいが行けない生徒が在籍しています。そこで、保護者や担任だけではなく、第三者の立場で専門的な知識をもつスクールカウンセラーによる支援が必要と考え、東京・大阪・名古屋の3か所にカウンセリングルームを設置しました。

 カウンセリングルームでは、生徒本人の相談やコーチングを対面で実施し、保護者や教職員に対しても支援や助言、コーチングを実施します。また、当校の場合は、留学やスポーツなどの目標をもっている生徒もいますので、そうした生徒に対する心のケアやサポートも行います。

ルネサンス高等学校 養護教諭 春山藍先生
ルネサンス高等学校 養護教諭 春山藍先生

--昨今の生徒たちに心配なことはありますか。

春山先生:通信制高校なので、普段は対面でのサポートよりもLINEや電話での相談が多くなります。その中で感じるのは、生活習慣の乱れ。夜遅く寝て昼過ぎに起きるような生徒の心配です。ストレスへの対処方法がわからない生徒も多いと感じています。ストレスを発散する場所や方法が見つけられてないのでしょう。さらにストレスを発散できる場所のひとつであるSNS上での問題は、実生活の対人関係などが複雑に絡み合っていて対処が難しいと感じることもあります。話を聞いてあげることしかできない内容もありますが、まず生徒が気持ちを吐き出すことで発散させてあげることも大切だと感じています。

--田島先生はどのようなご縁でルネサンス高等学校のカウンセラーに着任されたのでしょうか。

田島先生:私は、企業のほかにも子どもたちや先生・保護者向けに、私たちのコーチング手法をわかりやすく、楽しく学べる教育プログラムを提供しています。そのプログラムを、ルネサンス大阪高校の先生と生徒が受講されて、先生から自分のクラスの子どもたちに継続して受けさせたいとお声がけいただいたのです。それをきっかけにルネサンス高等学校グループとのご縁がはじまり、子どもたちの自尊心を高める、あるいは自分の夢を実現していく動画コンテンツの制作や、eスポーツコースでの授業を受けもつことになりました。

 そうした折に、カウンセリングルームを作りたいというお話がありました。私が代表をしているリバティーコーチングには、ここに同席しているスクールカウンセラーを15年ほど経験した上杉をはじめとして経験豊富なメンバーがいます。そこで、生徒がおおいに夢を語れるような新しいカウンセリングルームを作ることになったわけです。

--上杉先生はスクールカウンセラーとしてどのようなご経験をされてきたのでしょうか。

上杉先生:不登校やいじめ、発達障害や進路指導などさまざまなケースを、校長先生や担任の先生、保護者の方、時には児童相談所や行政と連携を取りながら対応してまいりました。

 あるとき、不登校の生徒さんについて、学年主任の先生から「なぜAくんは学校に来られないのですか」「どうしたらAくんは学校に来られるようになるのでしょう」と質問を受けました。それに対して、それまで学んできた知識や経験に基づいてお答えしましたが、この質問のみならず、あらゆる方の役に立つ、より明解な解がどこかにあるはずだと学びを続けました。

 そのような中で出会ったのが認知科学に基づくコーチングでした。脳の仕組みや認知のメカニズムを理解すると、問題が解決できるだけでなく、私たちはやりたいことも楽々に実現できることを知りました。

田島先生:メソッドの違いですが、これまでのカウンセリングでは、もとの状態がゼロだとして、何かしらの原因でマイナスになると、それをゼロまで戻すことを目指します。私たちの手法では、ゼロに戻すのではなく、今までとは違う方向に本人が向かうことを目指します。ネガティブな事柄がきっかけとなり、夢が見えてきたり、世の中の問題を解決する方向に目を向けるようになったりすることがあります。そうした気持ちの転換や発想は、単にマイナスをゼロに戻すという考えからは生まれません。

 学校に来ることをゼロと捉えて、なぜ来ないのか、どうやったら来るのかと考えるのが、今のカウンセリングです。そのときに、その子が夢をもてるようにすることは考えていません。学校に行くことが目的ではなく、学校に行くことが必要になるような夢やゴール(目標)が見つかれば、手段として学校に行くようになったり、自ら行動を起こせるようになったりするのです。

リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏

上杉先生:私の実体験ですが、小学生のころから不登校だった生徒さんが、東日本大震災を経験し、ある日、看護師になって人を助けたいと話してくれたのです。彼女は学校に戻り再び勉強をはじめました。本当にやりたいことを見つけられることは、とても幸せなことだと思います。専門家の支援を受けながら、やりたいことを見つけたり、自分にはできると確信したり、実際に実現する方法を見つけることで人の人生は大きく変わるのだと思います。

子どもたちの可能性を維持していく



--10代の子どもたちについて、心配なことはありますか。

田島先生:私は子どもたちに対して「心配」よりも「期待」のほうが大きいです。これからの未来を作っていくのは子どもたちです。大人の基準で考えれば心配になることもあると思います。その心配事や問題から目を逸らせば良いわけではありませんが、大事なのは、子どもたちに期待する大人たちが増えていくこと。子どもたちの「可能性を維持していく」ことが重要です。

 カウンセリングルームに来たお子さんに対して、ここが心配だ、ここが問題だと見るならば、それは既に周りの大人たちがたくさんしています。心配ではなく、その子のもっている良さや期待をどれだけ私たちが見ることができるのか。また、私たちがあなたのここが良いと言わなくても、本人が見つけて生かしていける仕組みを提供することが大事だと考えています。

--やはりポジティブな気付きがないために、子どもたちの自己肯定感が低くなるのでしょうか。

田島先生:子どもたちの自己肯定感は「自己評価」に関わるものですが、その評価基準は誰が作ったのかというと大人です。子どもたちは生まれつきあるものではなく、成長の過程で他人から評価されながら、それを受け入れて自分の評価にして生きています。

 大人は、何かしらネガティブな評価をしてしまう。子どもたちにとって、親や先生は重要な存在です。私たちは重要な人に何を言われたかを心に取り込んでいきます。成長の過程で、自分にとって重要な人に何を言われてきたのか。本人が覚えていないことも含めて、ひとつひとつがその人の自己評価を決定していくのです。

 大人はどうしても自己評価の下がる声がけをしてしまう。声がけの仕方を習ったこともありませんし、自分も同じように接してこられたということもあると思います。私たちの脳や心の仕組みをそもそも知らないとも言えます。

 また、親自身の自己評価が低いこともあります。私たちは、自分たちの自己評価に合わせて周りの評価を決めてしまいますので、大人たちの自己評価が高ければ、当然、子どもたちの評価もそれに合わせて高められます。

--親の姿勢や声がけが大事だということですね。

田島先生:子どもたちはもともと天才で、ずっと天才です。ですが、世の中のさまざまな価値基準、周りとの比較、世の中のものさしに合わないと、大人たちはネガティブな声がけをしてしまいがちです。入園や進学で集団生活が始まると、つい周りの子どもと比較してしまう。できないほうに目を向けてしまいがちです。

 あなたのためだからと言っていることは、命に関わること以外、親が周りにどう思われるかなど、ほとんどが親のためです。親が子どもたちを世の中にあてはめているのですね。「可能性を維持する」というのは、世の中のものさしで子どもを見ないということ。その子にはその子のものさしがあります。本当に興味のもてる、好きなものが見つかっていないのであれば、たくさんのことを経験させてあげることが親にできることでしょう。

 また、本人がやりたいことを見つけ、「やりたい」と言ったときに、ついそれをダメと言ってしまうことが多い。そのダメと言うのを、親がどれだけ我慢できるか。周りとの比較なしに、いかに信じて応援できるかが重要です。

リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏
「"可能性を維持する"というのは、世の中のものさしで子どもを見ないということ。」リバティーコーチング 代表取締役 田島大輔氏

日頃のコミュニケーションの積み重ねが大切



--子どもの危機的な状況でのサインに気付くにはどうすればよいでしょうか。

田島先生:日頃の接し方によって異なると思います。普段、あまり子どもに興味をもっていないのに、いきなり危機的な状況のサインに気付けるかといえば、やはりそれは難しい。ではどうしたらそのサインに気付けるようになるのか、あるいはそのサインを子どもが発してくれるようになるのか。

 たとえば、自分が本当にやりたいと思っていることに反対や否定をされたり、自己評価を下げるような接し方をされたりしたら、子どもはそのサインを隠そうとしますよね。

 危機的な状況でこの人に本音を言っていいのか、この人は自分の問題に対して親身になって支えてくれるのかどうかを子どもは選別しています。親だけではなく、先生に対しても同じで、子どもにとって本音を言っていい大人の存在が大切だからこそカウンセリングルームが必要です。ここは安心・安全な場で、利害関係がなく、本音で打ち明けられる。話す過程で解決することや、吐き出すことそのもので解決の方向に向かうこともあります。私たちのメソッドのベースにあるのは、本音で話しても傷つけられない関係性が築けるかどうかです。

ポジティブな感情からさらに視点を高く



--多感な時期の子どもたちが「折れにくい心」を養うにはどうすればよいでしょうか。

田島先生:仮に「折れにくい心」があるとしたら、なぜ折れてしまうのか。感情をなくせば折れないのではないか。ではコンピューターのようになればいいのかというと違いますよね。それが間違って伝わると、感情をどんどん殺してしまう可能性があると思います。多感な10代の子どもたちは、自分は何をすれば嬉しいのか、楽しいのかといったポジティブな感情を育てることを、もっともっとやったほうがいいと思います。

 どうしても私たちはネガティブなことを心のなかでリピートして、それを増幅していく性質があります。嬉しかったこと、楽しかったことは、その瞬間では感じますが、それを何度も思い出してみることはしませんね。でも、一度やった失敗は何度も頭の中で繰り返してしまう。だからこそ、ポジティブな感情は意識的にしっかりと増やしていくことが大切です。

 もうひとつは、自分だけではなく、どうやったら周りの人たちにも喜んでもらえるか、嬉しいと感じてもらえるかを探してやっていく。自分だけの嬉しさや喜びを追求することも大事ですが、他者にも喜んでもらえることを「視点を高く」して考えていくことも大切です。

 先ほど上杉が話した、震災を経験した生徒の話では、どうやったら震災から自分が立ち直れるかという視点だけだと、夢にはなりません。でも、視点を上げて、世の中の問題だと考えると、自己評価も上がるわけです。視点にはさまざまなレベルがあります。まず自分という視点。そして、家族、所属しているコミュニティや学校、自分が住んでいる街。さらに、日本という国、その上にはアジアや世界もある。世界の問題を解決したいとなったら夢も大きくなります。

ルネサンス高等学校の生徒たちの「夢」を温かく支える春山先生と田島氏
ルネサンス高等学校の生徒たちの「夢」を温かく支える春山先生と田島氏

 私たち大人はどうしてもやり方がわからないものに対して、ダメとか無理とか言ってしまいがちです。ですが、私たちの認知の仕組みは、夢やゴール(目標)があると、それに対して達成するための方法が見えてくるようにできています。ですから、どうすればできるかは、あとから見つければいい。

 まず、夢(ゴール)が先で、達成方法は後です。そうすれば、大きな夢を描くことができる。それが脳の可能性を最大限引き出すための、脳の上手な使い方です。

 ほかの人に大きな夢を語ると、無理だよと言われることもあるでしょう。だからこそ、このカウンセリングルームは、無理だと言われるような夢でも、言えるような場にしていきたいと考えています。悩みを話すことからのスタートでもいい。視点を上げていくことで、悩んでいた問題が解決することがあります。そうした子どもたちの視点を上げることが、私たち専門家のいる意味だと考えています。

eスポーツコースではマインドの仕組みと使い方を学ぶ



--eスポーツコースでのメンタルトレーニングの授業はどのような内容でしょうか。

田島先生:授業内容は、マインドの仕組みと使い方をお伝えするものです。パフォーマンスが低い人と高い人がいますが、それは、もともともっている能力の問題ではなく、もっている脳や心を使うのが上手いか下手かの違いです。

 パフォーマンスに関わる脳の仕組みはどのようなものかを知り、脳の使い方を身に付けると、脳のもっているポテンシャルを引き出して、夢が見つかり、実現していける。実はそうしたことを学校の授業では教えてくれません。

 eスポーツは、競技の中で脳と心を使って成果を出していくものです。その競技におけるパフォーマンスが上げられるようなマインドの使い方を学び、同時にコミュニケーション能力や対人関係を学んでいきます。

生徒に向き合いながら、視点を高くしてより良い学びの場へ



--カウンセリングルームはどのように運営されていくのでしょうか。

田島先生:7月から本格的にスタートしましたが、今、春山先生と一緒に作り込みをしています。私たちは週1回、水曜日の10時から17時にカウンセリングルームに来て、1回50分で相談者のお話をお聞きします。生徒向けの予約システムもできました。カウンセリングルームの名称は「ほっとルーム」で、「ほっとする」という意味を込めました。リラックスして大きな夢を語れる場所にしていきたいとの想いも込めています。

 まずは個々の生徒の相談が中心になりますが、生徒たちにとってさらに良い場所にしていくために、私たちカウンセラー自身も視点を一段高くして、学校の仕組みやシステムの改善などのご提案もしたいと考えています。子どもたちの夢を支えるルネサンス高等学校グループの理念、雰囲気が私はとても好きです。この学校の生徒たちや先生に役立つよう、私たちの経験と知見を生かしていきたいと考えています。

--ありがとうございました。

 「子どもの自己肯定感を高めるためには、親もやりたいことを見つけて、どんどんやって、子どもにその姿を見てもらったほうがいい」という田島先生。ルネサンス高等学校の取材を通じて感じたのは、先生たち自身が新しいことにチャレンジする姿勢、生徒を中心に据えた大人たちによるサポートのきめ細やかさ。新しいカウンセリングルームから数多くの夢が生まれるのが楽しみだ。
ルネサンス高等学校

ルネサンス高等学校「ほっとルーム」のプレートは養護教諭 春山藍先生の手作り
ルネサンス高等学校「ほっとルーム」のプレートは養護教諭 春山藍先生の手作り


(※ルネサンス豊田高等学校、ルネサンス大阪高等学校にもスクールカウンセラーの先生が来ています。)
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top