「すべて子供の好きなようにさせている」はあぶない…支援・診断のタイミングとは?児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<後編>

 加藤紀子さん連載「教育の今と未来」。今回のゲストは「日本に生まれた時点で『人生ハードモード』『無理ゲー』であるという現実」に目を背けてはいけないという児童精神科医の黒川駿哉先生。子供たちに親ができること、医療や第三者の支援について聞いた。

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「すべて子供の好きなようにさせている」はあぶない…支援・診断のタイミングとは?児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<後編>
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  • 思春期ASDの子どもたちのための、ソーシャルスキルトレーニングプログラム「PEERS」
  • オンライン取材のようす

 諸外国に比べて自己肯定感が低い日本の子供たち。G7の中で唯一15~34歳の死因1位が自殺(令和3年版自殺対策白書)であり、少子化対策と選挙のたびに声高に叫ばれても、子供に割り当てられる社会保障費はOECD加盟国の中で最低レベルだ。

 そんな環境下で今、親やまわりの大人が子供たちにどんなことができるのか。子供たちのメンタルヘルスを考えるとき、「日本に生まれた時点で『人生ハードモード』『無理ゲー』であるという現実」に目を背けてはいけないという児童精神科医の黒川駿哉先生インタビュー後編では、家庭でできるサポートの他、医療や第三者の支援について話を聞いた。

気持ちをコントロールするためのステップ

--前編では、日本の若者の多くが「『何かをしたくない』というより『どうでもいい』になってしまっている」という「無力感」についてご指摘されていました。これは、自分が何をしたいのか、自分の内面から溢れ出る気持ちに向き合う機会がなかったから、といえるのではないでしょうか。

 僕もそこが問題だと思っています。

 僕の考えでは、子供は小さい大人と同じ。まだ自覚ができない、表現ができないだけで、内面に体感している感情はまったく大人と変わらない。そこをちょっとずつ表現できるように周りの大人がサポートしていく必要があります。「10才からの気持ちのレッスン~『気持ち』を考える18のヒント」(アルク)を書いたのもそのためなんです。

--子供は自分の気持ちをうまく言語化できませんよね。子供が自分の気持ちを表現できるようになるために、親や周りの大人が意識しておくべき大切なこととは何でしょうか。

 本のレッスン1「気持ちって何?」にも書いているのですが、感情は、赤ちゃんのころは「ここちよい=ミルクと抱っこで笑顔」と「ここちわるい=おむつが汚れた、お腹が空いている」の2種類だったのが、成長とともに徐々に分化していくものなんです。

 「ここちよい」の中でも、うれしいのかワクワクするのか、「ここちわるい」の中でも、悲しいのか怒りなのか。いろいろある中で、最初は大人がその感情にラベルを貼ってあげる必要があります。子供の話を聞いてあげたり、ようすから察してあげたりしながら、「こういうことがあったんだね。あ、それは悲しかったんだね」といった具合に大人がインプットして、子供も自身が感じた感覚と言葉の結び付けをしてあげる時期が必要なんです。

 大人が感情にラベルを貼ってインプット→子供がその言葉をアウトプットするという繰り返しを重ねながら、「ここちよい」「ここちわるい」の間にある曖昧なところを表現するプロセスを大切にしてあげてほしいですね。

オンライン取材のようす

--ご著書の中で、嬉しい=黄色、悲しい=青、怒り=赤、穏やか=グリーン、不安=グレーと、さまざまな気持ちを「色」で説明されているのも、子どもたちにはわかりやすいですね。そしてどのくらいその気持ちが強いかをコップのなかの色水の“量”で考えたり、心の中をパレットにたとえて、「絵の具を混ぜたら複雑な色になるように、色が混ざったような気持ちになることもあるよ」「時間が経つと変わることもあるよ」と言われたりすると、大人にとっても心の中に抱えている複雑な気持ちを客観的にとらえやすくなりますね。

 でも、そうやって早くから自分の気持ちをコントロールするステップを踏めればよいのですが、それをできずに反抗期や思春期を今、迎えていて、子供との関係で困っている親御さんはどうすれば良いでしょうか。

 それまでは気持ちをうまく引き出してもらえなかった関係の中で、小学校高学年くらいからは思春期特有の反発心も芽生えてくるので、いきなり親だけでなんとかそれを変えられるかというとちょっとしんどいかなと思います。だから僕は、子供が第三者に頼ることを勧めています。部活の先輩、同じ趣味をもつコミュニティの年上の大人とか、スクールカウンセラーや医者でも良いので、相談しやすい人をいろいろ試してみて、本人が「この人なら心を許せるかも」という人を見つけてあげると良いと思います。

反抗期・思春期の子供の自己肯定感をアップする3つの方法

--子供の反抗期&思春期で、第三者を見つけること以外に親が日常的にできそうなことはないのでしょうか。

 “I”メッセージで話すようにするといいかもしれません。

 “You”メッセージだと、「(あなたは)~しなさい」「~するべきだ」と命令口調で、受け手は責められているような気持ちになってしまうものですが、”I”メッセージだと「~してくれると(私は)助かるな」といった柔らかいニュアンスになり、優しく伝えられます。

 うちの母親は意図していたのか本当に天然なのかわからないですが(笑)、ちょうど僕が思春期のころ、「こういうことがあってお母さんはこう思うんだけど、駿哉はどうかな?」と、よくアドバイスを求めてきたんです。当時の僕は「しょうがないなー」と思いながらも偉そうにアドバイスをしていて(笑)。でもそれって今振り返ると、お互いにとってとても良い関わり方だったなと思います。

--ちょうど反抗期に入る10歳あたりから、子供は人と自分を比べて見るようになり、自己肯定感が下がってくるといわれています。とりわけ日本の子供は、成長とともに自己肯定感が下がる傾向があるようですが、家庭で自己肯定感を高めてあげられるような工夫としてどんなことができるでしょうか。

 親御さんによく伝えているのは次の3つです。

 1つ目は、結果で判断するのではなく、プロセスに注目することです。「実況中継」って呼ぶことも多いのですが、たとえば一緒にゲームをやっていて「へー、そうやって戦わせるんだ。すごいね」とか、食事の時「食器を下げてくれているんだね」といったリアルタイムの声かけは、「親からの注目」という最大のご褒美なんです。これはとても効果的で、子供はいつの間にか片付けたり、手伝ったりしたくなるんです。

 2つ目は、片づけにしても宿題にしても、親から見て1人でできそうだなと思えるところまでは一緒にやってあげて、最後だけ1人でやらせること。どうしても、「できるところまで自分でやらせて、最後できなかったら手伝う」というパターンを選びがちなのですが、途中まで手を貸して最後は1人で、というほうが、自分ができたという感覚を積み上げやすいんです。

 3つ目は、“25%ルール”です。親がやってほしいことの25%ができたらそこで褒めるんです。子供もは褒められる機会が増えるので、「自分はできる」という自信が育ちやすくなります。特に小さいうちから習慣化するのがお勧めです。

医療・薬との付き合い方

--先ほどおっしゃった「第三者に頼る」という点についてですが、子供のことで悩んでいる、困りごとがある時、医療に頼った方が良いタイミングはあるのでしょうか。

 残念ながら今の日本の現状では子供の心を専門に診られる医師の数が足りておらず、3か月~半年待ちのような状況になっています。だから実際は僕らにたどり着いている人は本当にごく一部だと思うのですが、「もっと早く支援につながっていたら」と思うケースも少なくありません。だからこそ、こうした限られた資源の中では難しいこととは言え、タイミングとしてはなるべく早めに相談して頂けたらと思います。

 目安としては、感情のコントロールが難しいとか、どうしても集団と馴染めないといった困り事が“複数”の場面で見られることが診断の目安になっています。家でも学校でも起きているなら、早めに相談してください。

--お医者さんはどのように探せば良いでしょうか。

 子供の心を専門に診られる医師は大きく分けて、小児科出身か精神科出身かの2つです。

 私見ですが、小児科の先生は定型発達のお子さんを多く診てきているのが最大の強みで、「これもこの子の個性だから」「お母さん心配しすぎだけど大丈夫だよ」などと見守ることを得意としている先生が多いかもしれません。

 一方、僕のような精神科は「大人になったらどうなるか」という観点で診ています。子供のころに発達障害と診断されながらも、うまく社会適応できてイキイキと働いている人も、子供のころに発達障害に気付かれず、社会人になって初めて本格的な挫折や落ち込みを経験して、死にたくなってしまうような人も両方知っています。「精神科はすぐに薬を出したがる」という批判をされることも多いのですが、環境を整える他に一時的に薬を飲むことで、子供が抱えている困り感が大きく軽減されて、長期的に見ればメリットの方が大きいケースもたくさん経験しています。

 いずれにしても相性の問題はあるので、まずは身近なスクールカウンセラーや行政窓口で保健師さんなどに相談して紹介してもらい、お子さんとの相性を見るのが良いと思います。

--薬への依存については、不安に感じている親御さんはとても多いのですが、実態はどうなのでしょうか。

 世間で不安視されているような、一度飲み始めたらやめられないということはありません。たとえば、衝動的で落ち着きがない、不注意などの症状を改善する「メチルフェニデート」という薬は、年に1回は環境の変化や薬によるメリットとデメリットの影響をあわせて、中止や減薬について検討することがガイドラインでも推奨されています。また、服用中止後も効果が残ることが多くの研究で示されています。実際に「メチルフェニデート」を使っている子供の中には、「集中して授業が聞けるようになった」「頭の中のゴチャゴチャがなくなった」「周りの音が気にならなくなった」と言語化してくれる子もいます。些細なことでかんしゃくを起こさなくなったと言っている親御さんも少なくありません。

 もちろん、基本は環境を整えることが一番です。けれど今、薬を使わないことに固執することで、困っている子どものつらさを放置することのリスクが大きくなっていく場合もあります。そこは見誤らないようにした方が良いと親御さんにはいつもアドバイスしています。

普通学級か?特別支援学級か?

--進路についても不安を抱えている方多いと思います。「普通学級でいいのか」といった迷いについては、どう向き合えばよいでしょうか。

 よく「本人も普通学級でやってみたいと言っている」「一回チャレンジさせたい」といった相談を受けます。特にお子さんが小さいうちは最終的に決めるのは親御さんですが、もちろんケースバイケースではあるものの、僕は「迷ったら特別支援学級に行ったほうが良い」とアドバイスをすることが多いです。

--まだ、特別支援学級に対して、「ずっとそのまま社会に戻れない」「自立できない」というようなイメージをもたれやすいですが、普通学級に行くことのマイナス面はどういったところですか。

 実態として、たとえば小学校の1、2年生では何とかなっても、学年が上がってくると勉強も難しくなってくるので、大きな問題はないけれど、ついていけず、ただ教室にいるだけになってしまうケースもあるんです。そうすると、子供本人は辛いので、ものすごく自信をなくしたり、学校に行けなくなったりします。

 普通学級に行ったとして、そうやってうまくいかなくなった時にちゃんと撤退できるのか。本人がそこに残りたいというかもしれないし、どのタイミングで何をもって支援学級に移るのかという決断が実際にはすごく難しく、本人が苦しみを我慢しなければならない時間がずるずると長引いてしまうことがしばしばあります。

 だから安全な方から始めて、本人が意欲的に余裕をもって勉強をし、ステップアップしていく形で進めていけば良いと思います。

--支援学級から普通学級に移るというケースはありますか。

 数として多くはないですが、あります。自治体によっては、特別支援学級も知的のクラスしかない場合があって、知的な面だと普通学級でも全然問題ないけれど、情動的にはどうしてもやっていけない子はどうすれば良いのかという相談も受けます。それでも僕は支援学級を選んで、学校以外のところで勉強を支援するのが良いと思います。

子供ひとりひとりが安全に社会とのつながりを保つために

--慶應義塾大学医学部教授で小児科医の高橋孝雄先生は、子供の発達障害とは、「発達が進むに従って、次第に明らかになってくる日常生活上の困難さ」であり、「子供が育ち、社会生活を営むにつれて次第に明らかとなってくる『強い個性』」という言い方もできるとおっしゃっています。強い個性があっても、日常生活に困難を感じることなく幸せな社会生活を送れている人たちはたくさんいる。だから子供に「あれ?ちょっと困ってる?」と感じることがあれば、医療なり、学校や家庭でできることなり、早い段階で介入してあげると、その困難さとうまく付き合えるようになるということなんですね。

 そうですね。早い段階で介入してあげれば脳の機能が追いついていくこともありますし、あるいは苦手なところはそのままでも「自分はこれで良いんだ」と思えるだけで、自尊感情が高まり、幸せに生きていけることの方が多いです。自分にはどんな困りごとがあるのか。どんなことが苦手なのか。そういった自分自身のことが理解できないうちは、親や周りの大人が環境を整えてあげる必要がありますが、そうやって周りが少しずつ介入を重ねてあげるうちに、いずれは「自分はこういう特性があって、これは苦手だから誰かに頼ろう」とか、「こういう仕事には向いていないからやめておこう」といった賢明な選択ができるようになっていきます

--介入について、大人の都合に合わせて子どもを矯正することと捉える誤解からか、「子供は何もせずに放っておくのが一番良い」「すべて子どもの自主性に任せる」といった考え方もありますが、それは親としてはどうしても不安に感じてしまうんですよね。

 そういうのはネグレクトと紙一重みたいなところがあって、それはそれで危ないですよね。「うちの子は子供がしたいようにさせている」という家庭でしんどい思いをしている子供は多いですから。やはりその子が安全に社会とのつながりを保つために、誰かが伴走してあげる必要はあると思います。

 「矯正」ではないという意味で、なんでも良いから好きなことに熱中することが大事だと思うのは、もっと深く知りたい、極めたいと思った時に、必ず自分だけではどうにもならないところに行き着くから。人に聞かなきゃいけないとか、相手がいないとできないこととか、そこで人と関わる必要性が自然とできてくるわけです。時には人とぶつかったり、トラブルに巻き込まれたりするかもしれないけれど、好きなことであればそれはポジティブな経験になります。

 そういう環境を整えてあげること。そのためには、子供の「好き」「夢中」のとっかかりを見つけてあげたい。となると、子供をよく観察する、話を聞いてあげるという、やはり子供とのコミュニケーションが大事になってくるのかなと思います。

--親自身も、子供のことで悩みが深まるほど孤立しがちですが、「助けて」と言える場所、自分の気持ちを話せる場所が大事ですね。

 子供に苦手や困りごとが増えてくると、自然に親子のグループから身を引いてしまう親御さんが多くて、ひとりで悩みを抱えてしまい、視野が狭くなってしまうんです。

 僕はPEERS(Program for Education and Enrichment of Relational Skills)という、社会的なコミュニケーションや人間関係に課題がある子どもたちにソーシャルスキルを学んでもらうプログラムの実践に関わっていますが、そこでは親御さん同士にもつながってもらっています。そのコミュニティでは、子供同士が成長していくと同時に、親同士もお互いに励まし合って、「うちの子こういうことができているな」とか「こういうところが頑張れそうだわ」と、自信を付けていけるんです。

思春期ASDの子どもたちのための、ソーシャルスキルトレーニングプログラム「PEERS」(詳細は記事下の「関連リンク」から)

--SOSに気づいてほしいのは子供だけではなくて、親も同じです。そういう意味で先生のご著書で じっくりと“気持ち”に向き合ってみることは、“気持ち”を客観的にとらえ、SOSを発信しやすくするための大切な足がかりになりますね。

 子供や親だけが自己責任を問われてしまう社会ではなく、親も子も「助けて」とためらわずに言える社会に。そして、親子を攻撃するのではなく、支える社会になってほしいと思います。

--今日は長い時間ありがとうございました。

***

 疫病、戦争、天災。あらがえない変化が目の前で次々と起きている今、子どもたちにしてみれば、「未来に夢をもて」と言われてもそれこそが「無理ゲー」である。

 黒川先生の著書のタイトルには、気持ちの“レッスン”とある。気持ちを伝えあうコミュニケーションは練習を続ければ上手になり、お互いへの信頼も深まっていく。子供は自分を信じてもらえたら、自分自身を信じることができるようになる。「もう自分なんてどうでもいい」という無力な気持ちにはならないはずだ。

 親も周りの大人も練習すればいい。子供のネガティブな気持ちに寄り添い、ポジティブな気持ちに共感してあげられるような時間を大事にしていきたい。

10才からの気持ちのレッスン

発行:アルク

<著者プロフィール:黒川駿哉(くろかわ しゅんや)>
 1987年生まれ、児童精神科医・医学博士。山形大学医学部卒。慶應義塾大学大学院博士課程修了。児童・思春期に関連する国内外の研究に携わりながら臨床を行っている。幼少期を過ごした英国での生活が原体験となり、思春期の友達づくり支援団体「COROBO project」の立ち上げ、知的/発達障害児・者サッカースクール「認定NPOトラッソス」チームドクターを務めるなど、子どもの主体性を引き出す様々な団体の活動支援に力を入れている。「優れるな異なれ」がモットー。twitter:@shunya5


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《加藤紀子》
加藤紀子

加藤紀子

1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。一男一女の母。

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