【司法試験】日本と海外の「弁護士資格」比較…試験は?学費は?

 日本だけでなく世界的に見ても人気の弁護士資格。日本国内で弁護士になるためには司法試験に合格する必要があるが、海外で国際的に活躍できる弁護士になるにはどのような資格が必要なのだろうか。多くの司法試験合格者を輩出している伊藤塾に話を聞いた。

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 日本だけでなく世界的に見ても人気の弁護士資格。日本国内で弁護士になるためには、法科大学院を修了するか、法科大学院予備試験に合格したうえで司法試験に合格する必要があるが、海外で弁護士資格を得るためにはどのようなシステムが設けられているのだろうか。国際的に活躍できる弁護士資格を得るために、踏むべき手順とは。

 本記事では、日本において多数の法律家・行政官・公務員を輩出している伊藤塾の協力を得て、特にアメリカにおける弁護士資格とその資格取得までの道のりについてまとめた。

「国際弁護士」という資格はない?

 一時期、メディアでも耳にする機会の多かった「国際弁護士」。グローバル社会の今、国際的に活躍できる弁護士を目指したい学生も多いだろう。「国際弁護士」になるためには、どのような条件が必要なのかが気になるところだ。

 ところが、実は「国際弁護士」という資格があるわけではない。ほぼ同義で法律家の間でより定着している「渉外弁護士」という名称があるが、前者は国内外で活躍する弁護士がメディアで肩書として使用したことから一般に流布するようになった通称であるという。

 上記の経緯から「国際弁護士」に明確な定義はなく、それと称される弁護士は、


(1)日本国内と海外の両方の弁護士資格をもっている
(2)海外の弁護士資格のみをもっている
(3)日本国内の弁護士資格のみをもって海外の案件を多く扱っている

のいずれかに当てはまるといえる。

 伊藤塾によると「『国際弁護士』と呼ばれるためには、文字通り外国に関わる案件を扱っていることが期待されます。外国企業とのM&Aやライセンス契約などの企業法務、国内の不動産投資や日本の投資家を対象とした有価証券の募集といったインバウンド金融案件、国際結婚の破綻に伴う子供の監護・引き渡し問題などを扱う渉外家事などその活躍のフィールドは多岐に渡ります。業務上、英語をはじめとする語学力は当然の前提ですが、案件の管轄によっては外国法そのものや商習慣への深い理解が求められる場合もあります」。

 なお、海外の弁護士資格のみで活動できないわけではないが、日本国内では領域が限定されるため、日本人の場合はまず日本の弁護士資格を取得し、実務を数年行った後に留学、海外の弁護士資格を取得するというパターンが一般的だという。

 今一度「弁護士資格」の取得の手順について、日本国内の場合、海外の場合の2パターンで整理しよう。

日本で弁護士資格を取得するには

 日本国内で弁護士になるには、国家試験である「司法試験」に合格し、その後約1年間の「司法修習」を修了する必要がある。なお現行の制度では、司法試験を受験する段階で受験資格が設けられ、司法試験予備試験に合格、もしくは法科大学院を修了していることが受験に際しての前提条件となっている。

 なお、2022年の司法試験の結果は9月6日に発表されている。
参考:「司法試験2022、合格率1位は「予備試験合格者」98%…法科大学院別結果」

海外(アメリカ)で弁護士資格を取得するには

 では、海外で弁護士資格を得るためにはどのような資格が必要なのだろうか。今回はアメリカを例にとる。

 伊藤塾によると、日本人が留学生として弁護士資格を得る場合、日本の法科大学院(法学部)で法律の学位を取得した後、ABA(American Bar Association)認定ロースクールの留学生向け課程「LL.M.(Master of Laws)」コースを修了してアメリカの司法試験(Bar Exam)の受験資格を取得するのが一般的だという。

 J.D.(Juris Doctor)コースを修了し、Bar Examの受験資格を得るという道もあるが、J.D.はおもにアメリカの4年制大学を卒業した学生が法曹資格の取得を目指して通う通常のロースクールと位置付けられている。

 日本の大学の卒業生であってもJ.D.に入ることは可能なのか、伊藤塾に聞いたところ「日本の4年生大学卒でもJ.D.に入ることは可能で、実際、そうした経歴をおもちの日本人の弁護士の先生も少なからずいらっしゃいます。たとえばコロンビアのJ.D.における入学資格は『candidates must have earned by the time of matriculation a bachelor’s degree from a regionally accredited institution or its equivalent as determined by the Law School Admissions Council(LSAC)』*、つまり地域において認証された学士号をもっていること、となっています」との回答だった。
 * 出典:Columbia Law School

 Bar Examの受験資格は、出願者の自国の法学教育やLL.M.での学習内容等による個別審査で判断されると言い、LL.M.を修了したからといって直ちに受験資格を得られるわけではないそうだ。そのため、もしロースクール留学を検討しているならば、留学前にアメリカの各州の司法試験委員会に対し、自身のBar Exam受験資格の有無について確認しておく必要がある。なお、Bar Examは年2回、7月と2月に実施される。

 また、アメリカでは日本と異なり、活動をする州ごとに弁護士資格を取得する必要があるという。日本人留学生の多くは、ニューヨーク州またはカリフォルニア州のBar Examを受験するという。試験同様、合格率も州ごとに異なり、先日発表のあった2022年7月実施の試験における合格率はニューヨーク州の場合、初めての受験での全体(外国人を含む)の合格率は75%。一方、再受験者の合格率は23%で、全受験者(初受験者と再受験者)における合格率は66%だった。
参考:「ニューヨーク州法審査委員会、7月の司法試験の結果を発表…合格者リスト10/21中に公開予定」

 とはいえ、Bar Examに合格しただけでは、弁護士登録の要件を充たすことにはならず、他に、MPRE(Multistate Professional Responsibility Examination:全州統一法曹倫理試験)において各州の定める基準点をクリアすることが必要とされているという。この試験は年3回行われ、2時間という制限時間の中で全60問が課される。ロースクール在学中に受験する学生が多いようだ。

 なお、ニューヨーク州の場合、MPRE のほか、


◆UBE(Uniform Bar Examination:特定の州に関するものではない統一試験)で合格基準点を超えること
◆New York Law Courseを受講し、New York Law Examを受験し合格すること
◆50時間のプロ・ボノ活動(専門家が持っている職業上の知識やスキルを生かした社会貢献活動)を行うこと
◆Skills Competency Requirementを充たすこと(弁護士としての実務能力・職業倫理を有するかをみるための要件)

が必要とされている。

 「Skills Competency Requirement」に関しては、日本人の場合は、日本における実務経験(フルタイムで弁護士をしていれば1年間)をすることでこの要件を充たすこともできるそうだ。

アメリカでの学費・諸経費は?

 ランキングでトップ10に入るロースクールの場合、学費は1年間で700万ドルほど。2022年11月2日午後0時30分現在、為替レートは1ドル約147円のため、年間1,000万円以上の学費が必要という計算になる。その他、滞在中の生活費などが必要となる。ちなみに以下の表がアメリカのロースクールトップ10の学費である。 

ロースクール

学費・諸経費(単位:ドル)

 Yale University

69,433

 Stanford University

66,396

 University of Chicago

72,081

 Columbia University

76,088

 Harvard University

68,962

 University of Pennsylvania

70,042

 New York University

73,414

出典:US News & World Report「2023 Best Law Schools」

 奨学金は各ロースクールが提供するものとそれ以外のものがあるというが、どちらの種類であっても奨学金の審査は競争が激しく、英語力やGPA(Grade Point Average、大学の成績を評価したもの)等の客観的な数値、奨学金を申請する機関に提出する書類の他、面接などでの評価もあるため、しっかりと準備をする必要がありそうだ。

【日米比較】司法試験合格発表までの流れ

 では、日米両国の司法試験の合格発表までの流れを見てみよう。

 日本の場合、司法試験は年に1回実施されている。2023年度(令和5年度)の予定は以下の通り。

日本

願書受受付:2023年3月22日~4月4日
試験実施:2022年7月12日~7月16日の4日間
短答式試験成績発表:2022年8月3日
合格発表:2022年11月8日

 アメリカの場合は前述の通り、年に2回、2月と7月に試験が実施される。ニューヨーク州の場合、2023年度の試験の予定は以下の通り。

アメリカ

【2月試験】
 出願期間:2022年12月1日~12月30日
 試験実施:2023年2月21日~22日
【7月試験】
 出願期間:2023年4月1日~30日
 試験実施:2023年7月25日~26日

 ちなみに、直近に行われた7月の司法試験のニューヨーク州の合格発表は2022年10月20日(アメリカ時間)だった。


 日本と海外、どちらを活躍の場として選ぶにせよ、綿密な準備、勉強、対策を行って試験を突破する必要があり、たとえ司法試験やBar Examに合格したとしても、その先には司法修習やプロ・ボノ活動などの関門が待ち受けている。地道な努力でもってそれらを乗り越えた先に、ようやく「弁護士」としての活躍のフィールドが見えてくることがわかる。しかも、努力はその後も必要とされる。

 「弁護士」とは、その切符を手にするのも、その先活躍し続けるためにも、日々研鑽の必要な、たゆまぬ努力が必要とされる職業だといえよう。

《編集部》

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