3人のノーベル賞受賞者を輩出、東大の「リブツ」ってどんなところ?研究室訪問記<理学部編>

 「東大研究室訪問記」シリーズでは、現役東大生が自身が所属する研究室の先生への取材を通して、あらためて東京大学の魅力を発見していく。今回は、3人のノーベル賞受賞者を輩出している東京大学理学部物理学科。同准教授の安東正樹先生に話を聞いた(聞き手:東京大学理学部4年生 亀田崚)。

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受験勉強で得たスキルが各所で生きる…東大研究室訪問記<理学部編>
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 1877年に明治政府によって創設されて以来、今日に至るまで国内最難関の国立大学として確固たる地位を築いている東京大学。進学先の多様化や海外大学進学が選択肢に加わろうとも、受験生にとっての東京大学の存在は不動と言えよう。

 この「東大研究室訪問記」シリーズでは、東京大学に在学する現役東大生がインタビュアーとなり、自身が所属する研究室の先生に取材を実施。取材を通し東京大学の魅力を再発見していく。

 今回は、東京大学理学部4年生の亀田崚が、東京大学理学部・准教授の安東正樹先生に話を聞いた。東京大学進学に関心のある中高生にも、ぜひ積極的にご覧いただきたい。

得た知識を最先端の研究に応用

--まず、安東先生のご経歴と研究内容を教えてください。(聞き手:亀田崚)

安東先生:高校は京都の洛南高校、大学は京都大学の理学部で、当時からおもに物理学を勉強していました。その後、東京大学大学院理学系研究科に進み、そこで今も続けている重力波の研究を始め、修士号・博士号を取得しました。その後に数か月間のポストドクターを経て、1999年8月から助教として勤務を始めました。その後は、京都大学・特定准教授や国立天文台の重力波プロジェクト推進室・准教授などを経て、2013年から東大の准教授としてこの研究室を運営しています。

--20年ほど前から重力波に焦点を当てて研究されている安東先生ですが、当時は「重力波」自体、今ほどメジャーな研究分野ではなかったと思います。なぜ重力波の研究をしようと考えたのですか。

安東先生:京都大学時代にはレーザー、今でいう量子光学の研究室に在籍していて、それを生かして何か新しいことをしたいと考えていました。研究の環境も一新したいと思っていた矢先、まだ未開拓な新しい研究(=重力波を使った宇宙の観測)ができる研究室が東大にあるということで、上京し、重力波の研究に着手した経緯があります。

--新しい研究に惹かれたのですね。現在は具体的にどのような研究をされていらっしゃるか、ご紹介いただけますか。

安東先生:重力波の観測自体は2015年に達成されたので、それ以降は重力波を手段として宇宙観測を行う重力波天文学の開拓に力を入れています。話題性もあって、他分野の研究者の方と共同で研究するようになったので、そういった方々の知識もお借りして、新しい「Science」を模索しています。具体的には、神岡にある重力波望遠鏡「KAGRA」を用いて、宇宙観測を行ったり、低い周波数帯の重力波の観測精度を向上させる実験などを行ったりしています。

コーチとして、学生の自主性に委ねる

--なるほど。研究室の運営方針や、学生を指導する際の理念などはありますか。

安東先生:私の研究室の学生に対しては、特に自主性を尊重するようにしています。研究は、何かを人から教えてもらうことではなく、人類で誰も知らないことを見つけることです。修士号や博士号を取得する段階に至れば、自分が研究してきた分野・実験内容について、指導する教授よりも詳しくなっている必要があります。自分の力で研究を進める技量がないと、到底その領域には辿り着けないため、実験の内容にはできる限り口を出さないようにしています。

 学生の実験を見て「この実験失敗しそうだな」と思っても何も言わず一度失敗させてみたり、「回り道しているな」と思ってもあえてそのまま挑戦させることもあります。もちろん本当に厳しそうなときはアドバイスすることもありますが、基本的には学生のやりたいようにやらせてあげるように意識していますね。自主性をもってもらうために、研究に対するモチベーションを与えるようにしています。

高3生対象イベント「東大入試の仕組みが分かる」

--自分も身をもって体感していますが、直接的に研究のヒントを与えるのではなく、研究を自走できるような環境を作り、モチベーションを維持してもらうようなサポートを行っているということなのですね。

安東先生:そうですね。高校で「先生」と言えば「teacher」のことを指す場合が多いと思いますが、大学の研究室においては「supervisor」つまりコーチのことを指します。野球の打撃コーチにたとえると、選手にスイングの方法を一から手取り足取り教えるのではなく、自分に合うスイングを自ら探している選手にアドバイスをする役割といえば分かりやすいでしょうか。大学院における「先生」とは、そういった役割を担うものだと考えています。

--そういった自主性は、そもそも学生が物理学というものに興味をもち、研究室に集まっているからこそ生まれるものですね。実際、私が理物(理学部物理学科の略)に入ったとき、学生同士で自主ゼミを開催したり、演習問題の解法について議論していたりと、皆本当に物理に向き合っていて「良いところだな」と感じた記憶があります。安東先生から見て、東大生の特徴はありますか。

安東先生:実は特徴をあまり感じないのです。私自身「東大生」という先入観をもたないように、心がけているからかもしれません。中には、非常に個性的な学生さんもいますが、他の学生と違うから良くないとか、そういったことではありません。むしろときにはそんな人が新しい理論や方法を思いつく場合もあります。 

 ただ、あえて「東大」の魅力を語るなら、優秀な人が周りに多く、勉強や研究に前向きに取り組める環境が整っているので、刺激を受けて自らを高めている学生さんが多いように感じますね。

--ありがとうございます。一方、東大を目指していたり、安東研究室を志望する学生さんに求める学生像はありますか。

安東先生:これも特段ないですね。ただ、高校時代はいろいろなものに興味をもつことや視野を広げておくと損はないと思います。

 とりわけ受験学年になると、入試に向けて受験科目と特定の範囲に限って深く堀り続けることになりますが、大学に入ると、その深掘りを利用して他の分野に学びの方法や知識を生かしていくことが大事になります。受験は、ある種の競技のようなもので、その枠組みの中で、人間の一部の能力を切り取って合否を判断しているに過ぎません。もちろん受験は頑張るに越したことはないですが、それがすべてではないのです。高校生活でいろいろなことに関心をもち、大学入学後の学びに生かせるような広い視野の基盤をつくっておくと良いと思います。

受験勉強で求められるのは「深さ」、それ以外の経験で「広さ」を補う

--なるほど、とても共感できる部分が多いです。僕自身、地方の公立高校から東大を目指したのは、学校の研修で訪れた東大のオープンキャンパスで安東先生の特別講義を受けたのがきっかけでした。でもそれだけではなく、実は複合的な理由がありまして。研修の1週間ほど前、ふらっと書店に立ち寄って、ふとブルーバックスを購入したんです。東京行きの新幹線の中でもその本を読み、東大に到着して特別講義を受けたのですが、なんとその本の著者も講義の担当教授もどちらも安東先生だったんです。図らずも本を購入し、意図せずテーマに惹かれて講義を受けたことで「僕が面白いと思うことはこれなんだ」とはっきり自覚し、それ以降進学先として東大を捉えるようになりました。オープンキャンパスの際に、サインしていただいた本は今でも大事に持っています。大学に入ってからの自分を形作る基盤になりましたし、受験時代の東大に行こうというモチベーションになりました。

安東先生:今となってはサイン本、恥ずかしいですね(笑)この本でこの研究室を知ってくれる人が多いようで、先日の大学院入試の面接でも「この本を中学生の時に読んだ」という人がいました。

 インターネットで調べればある程度の情報収集できる世の中ですが、私たち研究者が現時点での最新の情報を1冊の本にまとめることで、書店でいろいろな人に手に取ってもらい、科学そのものや私たちの研究分野、研究室での活動を知ってもらうことにもつながるので、書籍の執筆には大きな意味があると感じています。さらにその本が受験勉強のモチベーションにもなったのであれば、とても嬉しいですね。

 高校時代の経験が東大入学後の生活に役立っているエピソード、他にもありますか。

--そうですね。他には、高校のときに通っていた駿台予備学校の英語の先生が話してくれる、語源の話が印象に残っていますね。特に、語源としての古典ギリシャ語と英語の成り立ちの雑談が面白くて、入学してからも古典ギリシャ語の授業を履修しました。そこで得た知識が直接研究に生きるわけではありませんが、単純に面白いと感じたので、選択しました。東大では、進学選択前の1・2年生は特に、専攻にまったく関係ない授業に触れることができるので、興味関心の幅が広がります。東大に入って良かったなと思ったポイントの1つですね。

安東先生:私もだいぶ前ですが受験勉強での経験が、今に生きていると感じています。具体的には、受験勉強開始当初は苦手だった現代文(論説文)が得意になって、次第に楽しく感じられるようになったこと。それが今になって、論文や研究の申請書などを書くための文章力に生かされていると実感しています。元々得意だった数学や物理で培われた論理的思考力が、心理学、教育学や研究室をマネジメントする仕事などにも応用できることにも、気が付きました。

--教授や准教授は、世間的には「ものを教える人」のイメージが強いと思うのですが、実は業務の多くを「研究室の運営」が占めるということを、安東先生の近くにいることで知ることができました。そうした日ごろの業務においても勉強で得たスキルが生かせるとのこと。これもまた1つの受験勉強のモチベーションになりそうですね。

安東先生:受験勉強をがむしゃらに頑張ることを通じて身に付いた力は、他の学問を深めることにも応用できますし、私のように仕事するうえで役立っていると感じている大人も少なくないはずです。受験生の皆さん、今の頑張りは決して無駄なことはありませんよ。

--受験生への素晴らしいメッセージになったと思います。本日はありがとうございました。


高校時代から続く学びが入学後の生活に生きる

 当時通っていた高校での研修、ふと手にとった書籍をきっかけに東大への憧れを急速に強めた私。受験勉強は何をきっかけにモチベーションが上がるかわからない。安東先生も言うとおり、教科の勉強以外の高校時代の経験が志望校への原動力になることも多いだろう。

 とりわけ東大に入学して感じるのは、専門性を極めながらも、多角的に物事を捉えられる人が多いことだ。高校時代の多岐にわたる経験が、入学後の大学生活の充実度にも大きく関わっていると感じる。高校や予備校での授業における先生の雑談、行き帰りの道、仲間との会話も含め、すべての経験が自分の興味関心を広げるきっかけになり得る。無駄な経験は1つもない。受験勉強期間、「辛い」と塞ぎ込むのではなく、入学後の学びも展望しながら未来を見据えて頑張ってほしい。

駿台予備学校「冬期講習・直前講習」
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徹底した志望校対策で合格を掴む「スーパー東大実戦講座」
《亀田崚》

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