2024年度の大学入試が幕を閉じた。難関の医学部にチャレンジした受験生たちも、それぞれの春を迎えている。
2024年度の医学部入試に新しい動きはあったのか。結果の振り返りとともに、次年度の展望について、駿台予備学校入試情報室の城田高士室長に話を聞いた。
コロナ禍をきっかけに医学部人気が再燃
--少子化に伴い大学全入時代を迎えつつある今も、「医学部入試は別物」と言われます。2024年度もその傾向は続いたのでしょうか。
おっしゃるとおり、近年の少子化傾向により受験生の数は減少しており、大学全入時代の様相を呈していますが、医学部受験については依然として高い難易度が維持されています。
まず、国公立大医学部医学科の志願倍率を見ると、前期の倍率は、昨年(2023年度)が4.44倍でしたが、今年は4.47倍と0.03ポイント上昇しています。今年の国公立大・全学部の前期志願倍率の平均は2.89倍でしたので、それと比較しても医学部の人気の高さは明らかです。
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国公立大医学部医学科の前期志願者数は、2012~14年あたりをピークに減少傾向が見られた時期もありました。ところが、コロナ禍となった2021年ごろから再度、上昇に転じています。コロナ禍では、生徒たちの活動がことごとく自粛され、社会の幅広い情報に触れる機会が減少した一方、医療に関連した報道を目にする機会が多くなりました。その結果、医療に興味・関心をもつ生徒が増え、「社会の役に立ちたい」という気持ちから、医学部を志望するようになったのではないかと考えられます。
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私立大医学部については、(取材が行われた4月4日の時点では)データが公表されているのはまだ一部の大学ですが、現時点での数字を見る限り、2024年度の志願者数は前年対比115、つまり15%増となっており、右肩上がりの傾向です。
--国公立も私立も医学部は依然として人気が高く、2024年度も一段と狭き門になったと言えますね。
医学部離れが見られた一時期は、成績上位の学生が医学部ではなく旧帝大の理工系学部に進学する傾向もありましたが、最近では再び医学部志向が強くなっているように感じます。
特にコロナ禍の不安定な状況下では、地方都市の受験生が首都圏や他地域に出ず、地元の大学に進学する動きが見られました。
医学部は各都道府県に存在するため、成績上位者が地元の医学部に目を向けるのは自然な流れだったと思われます。
つまり、コロナ禍における医療への関心と地元志向の高まりが、医学部志向を押し上げたのではないでしょうか。この傾向が数年続いているわけですが、コロナ禍が収束して人々の移動が再び活発化する中、今後は受験生の関心にも再び変化が出てくるかもしれません。
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新課程への移行が医学部受験生に与えた影響は
--2025年度から大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の科目に「情報 I」が加わるなど、大学入試は新課程へ移行します。これは、2024 年度の医学部受験生の動向に影響を与えたのでしょうか。
2024年度は翌年に新課程入試を控えていることから、当初はかなり安全志向になると予想されていました。しかしながら、国公立大医学部については目に見える影響はありませんでした。
具体的に、国公立大の志願者状況の前年対比の指数を見ると、医学部は98とやや減っているものの、前年に105まで上がったうえでのマイナス2ですから、ほぼ例年並みと考えられます。
つまり、翌年の新課程入試を恐れ、「医学部受験をやめて安全に受験しよう」という受験生はほとんどいなかったと言えるでしょう。
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共通テスト受験まで挫けずに頑張ってきた受験生であれば、「ここまで頑張ってきたのだから」と初志貫徹で出願したのではないかと思います。さらに、今年は共通テストの全体平均点が上がりましたので、共通テストの点数が後押しとなり、強気の出願につながったのではないでしょうか。
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私立大医学部受験者については、興味深い現象が見られます。前述のとおり、すでに結果データが公表されている13校の合計では志願者数が15%増えましたが、実は秋の模擬試験までは、私立大医学部の志願者数はほぼ前年並みでした。にもかかわらず、いざ蓋を開けてみると受験者数は増えていたのです。
これはおそらく、翌年に新課程が導入されるということで、直前に国公立大医学部受験生にも安全志向が働き、私立大の併願校数を増やした人が多かったからではないかと思われます。また、私立大医学部専願の受験生も、スケジュール的に多少の無理をしてでも受験校を増やした可能性があります。
--共通テストの受験者の動向と、今後の展望についてお聞かせください。
少子化が進み、共通テストの志願者数は減少しており、さらにセンター試験に比べて共通テストは受験率も下がっています。共通テストに出願はしたものの一般入試を避け、年内入試で合格を決めてしまう受験生が増えていることが一因です。こうした動向からも、今後さらに「共通テスト離れ」が進むことが予想されます。
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センター試験には、「学校で学んだ内容が身に付いているか」を判断するテストの要素がありましたが、共通テストに変わってからは、「大学入学後の勉強についていけるか」を判断するための学力を測るものになっています。
さらに、新課程に変わる2025年度からは、教科によっては問題数、制限時間ともに増えたり、「情報」が加わったりと、受験生の負荷がさらに大きくなりますが、それに加えて実は、共通テストを受ける受験生のレベルも上がっているのです。
少子化のあおりを受け、一口に国公立大学と言っても、引き続き厳しい競争にさらされる大学と、入学が極めて易しくなっている大学とで二極化し、必ずしもすべての受験生が共通テストでの高得点を求められるわけではありません。ですが、医学部志望の受験生に関しては、8割以上を死守するという覚悟で、入念な準備を進める必要があります。
奈良県立医大・前期では出願者激減、山形大・前期も減少
--そのほか、2024 年度の医学部入試において、特筆すべき変化があった大学があれば教えてください。
奈良県立医大が前期日程の欠員補充の2次募集をかけたことが注目されました。今年度の前期日程の募集人員は22名でしたが、出願者は57名でした。前年は224名が出願していますので、志願倍率が10.2倍から2.6倍に下がったことになります。
この大幅な倍率低下の主な要因としては、前年までは「学科試験+面接」だった2次試験が、「小論文+面接」に変更されたことが考えられます。学科試験で勝負したい受験生にとって小論文は不確定要素であり、出願しづらいと感じた可能性が高いです。
また、同大の前期日程での2次試験の配点比率は10%で、共通テストが重視されています。そうした中、今年度は共通テストの平均点も高かったうえに、募集人員も22名と少ないため、「自分よりも共通テストの成績が良い受験生が出願したら不利になる」と出願をためらった受験生が多かったのかもしれません。
結果的に、大学の基準を満たした合格者は12名。定員を埋めるには、2次募集を行わざるをえませんでした。今回は珍しいケースですが、共通テストでしっかりと点数が取れた受験生であれば、こうした入試でも非常に有利に戦えたでしょう。
国公立大医学部の入試では、さまざまな事態を想定したうえで、共通テストで高得点を獲得しておくことが大変重要です。
もうひとつ、山形大学の事例もご紹介しましょう。これまで2次試験に国語を課す珍しい大学のひとつでしたが、2024年度入試から国語が廃止となり、国語を苦手とする受験生にとって有望な受験先と見なされるはずでした。当然、志願者数が増加する可能性が考えられたのですが、実際の志願者数は前年比83%という意外な結果となりました。実は国語が得意な医学部受験生の貴重な受け皿となっていたのか。今後の志願者の動向が注目されるところです。
医学部合格のカギは? 面接対策も必須
--新課程への移行に伴い、医学部入試の内容にも変化は表れていますか。過去と比較してどのような変化があるかお聞かせください。
共通テストの傾向からも、昨今の入試は「思考力重視」などと言われますが、医学部入試を見る限り、オーソドックスで標準的な問題をスピーディーかつ正確に解く力が重視されています。したがって、まずはしっかりとした基礎学力をつけておくことが肝心です。
もちろん、医学部入試でも大学ごとに特徴的な出題傾向があり、志望校対策も大切ですが、志望校の傾向に合わせた問題に偏るような勉強は避け、まずはオーソドックスな問題にも対応できる力を養うこと、総合力を問われる模擬試験で高得点を目指すことが、医学部合格のカギになると言えるでしょう。
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--面接の重視、定員の増加、高大連携などについての展望はいかがでしょうか。
以前は面接がない大学もありましたが、今はすべての大学で必須となり、確実に重視されています。この背景には、「成績が良いから」と医学部に進学した学生が、モチベーションを維持できずにドロップアウトしてしまうケースが少なくなかったことがあげられます。
大学側はこうしたミスマッチを防ぐために、なぜ医学部を志望するのか、医学部でのハードな勉強についていけるのか、医師としての適性があるのかなどを確認することに重きを置いています。私も受験生の模擬面接に立ち会うことがありますが、既卒生でも志望動機が曖昧な学生がいて、「面接が敗因だったのでは」と感じることがあります。「人の役に立ちたいから」という通り一遍の志望動機では弱く、今一度、「自分はなぜ医学部を目指すのか」について自分なりに解像度を上げ、しっかりと言語化して、面接対策をしていく必要があると思います。
定員については、人口減の局面で全体としては減少していくことが想定されるものの、地方では少子高齢化が加速する中、医師不足は喫緊の課題です。そのため、国公立大・私立大を問わず、医学部の地域枠は間違いなく定着・拡大していくと考えています。
高大連携に関しては、順天中・高が北里大初の付属校となるほか、宝仙学園中・高が順天堂大の「系属校」となる協定が締結され、同大医学部への内部進学枠が数名設けられることが発表されました。そのほかにも、豊島岡女子学園中・高と東京慈恵会医科大、吉祥女子中・高と東京医科大など、高大連携協定を締結する動きは続々と出ています。少子化が進む中、中学生・高校生のころから生命科学に関わる交流を通じて興味・関心を深め、視野を広げていくことで、医療を志す人材を養成していきたいという大学側の真摯な思いを感じます。
医学部受験の先には、多彩な選択肢が広がる
--厳しい受験を潜り抜けなければいけない医学部受験ですが、あらためて医学部にはどのような魅力があると言えるでしょうか。
一般的に子供というのは、「人の役に立ちたい」という欲求が強いものです。人の役に立つ仕事は多方面にありますが、その気持ちを、もっとも明確にわかりやすく表現できる職業のひとつが医師の仕事です。「人の役に立ちたい」というモチベーションがある人にとっては、医学部はほかのどの学部にも代え難い魅力的な学部となっています。
さらに、医学部といっても、卒業後の選択肢は臨床医に限られません。研究医として活躍するほか、国内外の公的な機関で公衆衛生に携わったり、テクノロジーと掛け合わせ、起業して医療ビジネスを展開したりする道もあります。医学部卒業後にはこのように多彩なキャリアが開かれ、それぞれの個性と才能を生かして活躍する場がある点も、大きな魅力と言えるのではないでしょうか。
--最後に、医学部を目指す中高生、既卒生に向けて、それぞれアドバイスをお願いします。
中学生は苦手科目を作らないこと。これが一番大切です。特に理数系が苦手になると、医学部入試では有利に戦えません。理数系科目が嫌いになる分岐点となるのは中2前後が多いので注意しましょう。
高1・高2では、英数国を中心に、学校の勉強をおろそかにせず、教科書をベースにしっかりと基礎力を身に付けて下さい。また、高校生活も後半になると勉強が忙しくなりますので、早いうちにオープンキャンパスに参加し、各々の大学の魅力や医学部の雰囲気を感じてみて下さい。さらに、医療に関する本を読んだり、医療従事者の話を聞いたりして、さまざまな情報に触れる機会を増やすことで、志望理由や志望動機を明確にできれば理想的ですね。何よりもそれが勉強のモチベーションになり、受験期の小論文や面接の準備もスムーズに行えます。
また、高2からは、理科にも力を入れておくことが大事です。医学部ではごく少ない例外はあるものの、基本的に理科2科目が必須であり、高2の間に理科の基礎固めを進めておくと、高3で少しでも早く入試対策に取り掛かれます。
高3は、基礎で抜けている部分を埋めることはもちろんですが、スポーツで筋トレばかりしていても試合での感覚が掴めないのと同様、どれだけ実戦的な演習が積めるかが重要なカギです。
2025年度は新課程に変わるものの、新しく加わる「情報」については、1000点満点のうち配点比率が10%を下回る大学が大半ですし、初年度なのでそれほど難しい出題はないと予想されます。また、既卒生については「地歴・公民」「数学」を旧課程による出題科目で受験ができる経過措置が受けられますので、現役生も浪人生も過度に心配しなくて良いと思います。「情報」も旧課程での出題がありますが、新規の科目で過去問もないので選択には注意が必要です。
依然として厳しい医学部受験ですが、その道を志す皆さんは今日の話を参考にしっかりと準備し、医師になるという夢をつかみ取ってください。
--ありがとうございました。
医学部受験は厳しいものでありながら、「人の役に立ちたい」という強い志を胸に勉強に励む人がこれほど多いことには頭が下がる思いだ。2025年度に再チャレンジする人も、これから挑む人も、今回のアドバイスを参考に、夢への道を切り拓いていってほしい。
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