京都大学は2024年9月6日、幼児期の不快情動の表出や、新奇な環境を積極的に探索接近する特性は、腸内細菌叢の構成の違いや多様性と関連することが明らかになったと発表した。炎症の誘発に関連する菌や抗炎症作用に関連する菌が、幼児期の気質と関連をもつことが示されたという。
同研究は、京都大学大学院教育学研究科 明和政子教授、上田江里子元博士後期課程院生、大阪大学 松永倫子研究員らの研究グループが、3~4歳の日本人幼児284人を対象に、気質と腸内細菌叢の関連を検討したもの。
気質とは、環境刺激に対する反応や、それを制御する行動の個人差で、生後すぐに現れ、一定期間持続する遺伝的要因が大きい特性と考えられているという。気質の中でも、不快情動やストレス反応の個人差は、後の問題行動や精神疾患と関連することが知られており、リスクを早期発見しうる指標のひとつとして注目されている。近年、ヒト成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが知られている。しかし、生後早期の気質、とくに精神行動リスクにかかわる不快情動やストレス反応特性が腸内細菌叢と関連するかどうかについてはわかっていなかったという。
同研究からは、腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連すること、腸内細菌叢の多様性が高い子供ほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。
日本人の子供を対象に、腸内細菌叢が気質と関連する事実を示したのは、同研究が初めてで、中でも、腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた点は重要だという。
従来、気質は生後すぐから現れ、個人が持続的にもち続ける行動特性であるとみなされてきた。しかし、気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性があるという。将来的には、子供の心身の健康を早期にかつ客観的にスクリーニングする手法や、個々の心身の特性に合わせた個別型の発達支援法の開発なども期待できるとしている。
研究成果は9月6日、国際学術誌「Developmental Psychobiology」にオンライン掲載された。