専門家が語るマインクラフトの教育的効果、学びを広げるための大人の役割

 ゲームを教育に活用することが注目されている。マイクラ教育の第一人者であるタツナミシュウイチ氏、広島大学の池尻良平准教授、日本マイクロソフトの青木智寛氏を招き、マインクラフトの教育的効果や、今後の展望などについて聞いた。

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専門家が語るマインクラフトの教育的効果、学びを広げるための大人の役割とは
  • 専門家が語るマインクラフトの教育的効果、学びを広げるための大人の役割とは
  • マイクラ教育の第一人者であるタツナミシュウイチ氏
  • 広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授の池尻良平氏
  • 日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部ソリューション エリアスペシャリストの青木智寛氏

 ゲームを教育に活用することが注目されている。マインクラフトは、ブロックを自由に積み重ねて建物などを作りながら、オリジナルの世界を創造する世界中で人気の3Dゲームだ。プレイヤーの創造力次第で、建築、冒険、農業、工業など、さまざまな遊び方ができる。

 マイクラ教育の第一人者であるタツナミシュウイチ氏、広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授の池尻良平氏、日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部ソリューション エリアスペシャリストの青木智寛氏に、マインクラフトを使った学習の効果や、今後の展望などについて聞いた。

タツナミシュウイチ氏

 マインクラフトを始めて15年。マインクラフトが学校教育に活用され、ものづくりのプラットフォームになるという可能性を強く感じて、日本におけるマインクラフトのエバンジェリストとして活躍。現在は教育現場におけるマインクラフトの導入および活用のコンサルティングを行っている。

池尻良平氏

 広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授。歴史を現代の問題解決に応用できる教材を研究開発、高校の授業で実践・評価している。東京大学卒業後に教育工学の大学院に進学。博士号取得後は東京大学で産学連携プロジェクトに携わり、先端テクノロジーがいかに学校教育を広げるかを論文で発表した。専門は教育工学・ゲーム学習・歴史教育。

青木智寛氏

 日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部ソリューションエリアスペシャリスト。日本全国の小学校・中学校・高等学校における教育ICT環境の整備やICT教育、先生方の働き方改革の支援を中心に活動している。

クリエイティビティとイマジネーション

--マインクラフトを通じて、子供たちはどのような学びや経験が得られるのでしょうか。

タツナミ氏:私はマインクラフトを、何でもできる「ものづくりプラットフォーム」あるいは「砂場」だと伝えています。また「何かを作りたい」という欲求を起こさせてくれる場でもあると考えています。大人と子供がマインクラフトをやると、子供のほうが楽しそうに取り組み、自由にさまざまなものを作ります。一方で、大人は「良いものを作らなきゃ」「どこから作れば良いのか」と悩み、本能的に動けなくなってしまいます。

マイクラ教育の第一人者であるタツナミシュウイチ氏

 マインクラフトは、子供たちに内包された創造力や表現力をうまく引き出してくれるツールです。そして、ゲームに出てきたブロックの種類を図鑑で調べたり、自動ドアや落とし穴など作るために論理回路を学んだり、遊び方次第で学びの幅が広がっていきます。

池尻氏:マインクラフトはイマジネーションが重要で、子供は大人の想像を超えるものを作り出します。大人が子供に教えるというこれまでの学びのスタイルとは明らかに違いますので、マインクラフトを教育に活用するためには大人の理解が必要だと感じています。ぜひ多くの大人に、マインクラフトから広がる学びの可能性を知ってもらいたいです。

タツナミ氏:そうですね。私も大人の理解が必要だということは以前からアピールしていたところです。最近は、保護者の理解が得られてきているように感じています。

青木氏:最近は、保護者から「授業でマインクラフトをやらないのですか」という意見が学校に寄せられて、どうしたら授業でマインクラフトが使えるのかと教育委員会からマイクロソフトへ相談をいただくことが増えてきています。

失敗から多くを学べる経験学習

--ゲームを通じて学ぶことの効果や意義について教えてください。

池尻氏:一般的にゲームはゴールが明確になっていて、成功と失敗がすぐにわかるという特徴があります。失敗をしたら、次の方法を考えて試してみるというように、長く継続して活動に集中できる点がメリットです。

広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授の池尻良平氏

 もう1つのキーワードは経験学習です。「学ぶ」という経験において、覚える・知識を詰め込むというイメージが強いと思いますが、大人になると経験を通して、自分で振り返りながら学んでいくというケースがほとんどです。ゲームでは、失敗した経験から、次の方法を自分なりに考え、自分自身に定着させていきます。このような経験ができるのは、ゲームならではだと思います。

 ゲームでは、失敗したときに音や映像、アクションなどでほめてくれるので、積極的なチャレンジも促されます。また、多くの失敗を経験でき、そこからさまざまな学びを得ることができます。ゲーム学習においてこのような概念を、グレイスフルフェイラー(Graceful Failure)と呼んでいます。

 また、ゲーム内で月に行ったり、昔の文明に入り込んだり、シミュレーション空間の中で、さまざまな経験ができます。時空間を越えた、普段の生活ではなかなかできない経験をしながら学べるというのは、ゲーム学習だからできることのひとつです。

タツナミ氏:現実の世界では建物を間違って作ったからといって、壊してもう一度、作り直すことはなかなかできません。しかし、マインクラフトではダメなら更地にできて、その失敗を次に生かせます。

 また時間と空間を超えるマインクラフトの教育活用で思い出すのは、2023年・2024年に実施した広島と長崎の平和学習です。戦前の在りし日の建物を再現し、壊されるときの悲しみを体感するという学びが実践されました。

マインクラフトを学習に活用する際の課題と解決の工夫

--ゲームは学習の妨げになるという声は多いのでしょうか。

タツナミ氏:昔に比べれば、だいぶ減ってきたと思います。マインクラフトの中で、元素や化合物について学ぶこともできるので、教科書に出てくる内容を学習することも可能です。

 ただ私は、テストの点数だけでは測れない非認知スキルの育成にもマインクラフトが活用できると考えています。これまでの学校教育の中には非認知スキルを育成する場がありませんでしたが、マインクラフトを学校教育にうまく組み込むことで、教育に生かすことができると思います。

池尻氏:昔は、どんなゲームでも教育現場での活用はダメという拒否反応が非常に強かったように思います。学校でのゲーム利用は、2010年頃から少しずつ広まりました。

 ただ商業的なゲームを学校に導入するには課題もあります。1つは切りどころが難しく、授業時間内に終わらないこと。もう1つは教科にカスタマイズしたゲームとは違って、いろいろな学びが発生するので、授業のテーマに落とし込むのが難しいことです。最近は探究学習の位置づけで、教科に限らず利用するケースが増えています。

タツナミ氏:マインクラフトは、際限なくブロックを積むことができるため、時間を忘れて没頭してしまうことがあります。授業時間内で収めるためには、プロジェクトとしてマネジメントすることが大切です。

 ですので、私は「与えられた時間の中で最高のものを作ってみよう」と伝えています。スケジュール管理は子供に任せ、子供たち同士で話し合い、役割分担を決めて進めていきます。これは、小学生でも大学生でも同じです。

青木氏:マイクロソフトの教育部門は、子供たちがこれからの国際競争社会を生き抜いていく力を「Future-ready skills」(フューチャー レディ スキルズ)として、議論しあう力・協働しあう力・好奇心・計算論的思考・創造力・疑問を逃さない思考性が求められていると考え、それらを育成することを目指しています。マインクラフトで得られる経験は、これらの力の育成にも役立つのではないかと思いました。

日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部ソリューション エリアスペシャリストの青木智寛氏

教育現場でマインクラフト導入について

--学校現場でのマインクラフトの利用について、どのような声が寄せられていますか。

青木氏:教育委員会からは、ライセンスに関する相談が多くあります。現在自治体で一般的なライセンスとなっているMicrosoft 365 EducationのA3とA5ライセンスがあれば、無償で教育版マインクラフトをご利用いただけます。

 また、マインクラフトを学校で使うときに発生するコミュニケーションやモラルの問題について、教育委員会や先生でどのような対策を行ったら良いのかという相談も多く寄せられています。多くの学校で導入してもらうためにも、既に展開が進んでいる自治体の例を積極的に発信していきたいと思っています。

大人の理解と学びへのつながりが重要

--今後、マインクラフトを通じて子供たちがより良い学びを得るために大人たちはどうしたら良いでしょうか。

タツナミ氏:多くの保護者にとって、マインクラフトは経験がなく、得体の知れないものかもしれませんが、マインクラフトは子供たちの可能性を広げるプラットフォームで、さまざまな世界の入口になる可能性を秘めています。マインクラフトを15年間愛し続けてきた人間として、保護者や学校の先生に役立つ実践と結果を積みあげていくのが、これからの私の仕事です。どうかマインクラフトを怖がらずに、楽しく使ってみてほしいです。

池尻氏:今の子供たちはとても忙しいと思います。その中で、1つのことに没頭できる時間を作ってほしいです。ゲームは集中して深い経験ができる貴重な時間になります。特に教育向けゲームは没頭すればするほど、さまざまな学びの可能性が広がっていきます。

 私は文化祭の発表や夏休みの自由研究として、じっくりと時間をかけてマインクラフトに挑戦することをお勧めします。そして、楽しかったという経験で終わらせずに大人が学びにつなげることも大切です。学びにつながるストーリー作りを大人がデザインすれば、文化祭や夏休みの自由研究に没頭できる時間が作り出せると思います。

青木氏:さまざまなICTツールを使って自分の意見や考えを表現するときに、Wordで文章を書く、PowerPointでスライドを作るなどの方法が頭に浮かぶと思いますが、ICTでものづくりを実現できるのがマインクラフトです。ものづくりで自分を表現するのが得意なお子さんは、ぜひマインクラフトに挑戦してみてほしいと思います。


 マインクラフトを通じて子供たちの学びを深めるには、まず大人の理解が大切であると痛感した。安心して失敗できる環境を基盤に、経験から学べるマインクラフトの今後の可能性に期待したい。

パンフレット「教育版マインクラフト徹底解説!」
《佐久間武》

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