暖かくなったら家族旅行はどこに行こう? と春休みに備えて考えているご家庭も多いのではないだろうか。関東圏から列車や車でアクセスしやすいうえに、歴史や自然を体験できるエリア、福島県いわき市の魅力を再発見する本企画は、中学受験指導の第一線に立つ教育家の小川大介氏が監修し、家族向けショートトリップのおすすめコースを策定。
「楽しかった!」だけで収まらず、「もっと知りたい! もっと教えてほしい!」と親子で探究したくなる学び旅のモデルコースを、小学4年生の娘と一緒に体験したリセマムライターがレポートする。(協力:いわき観光まちづくりビューロー/協賛:経済産業省大臣官房福島復興支援推進グループ 福島広報戦略・風評被害対応室)
小川大介先生に聞く“親子学び旅”の醍醐味と生かし方
今回の学び旅のモデルコースを監修したのは、学習、受験、子育て関連の著書も多く、教育家・見守る子育て研究所 所長の小川大介先生。親子で過ごす旅の醍醐味や学びへの生かし方などについて聞いた。
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今回紹介するスポットはどれも異なる特徴がありますが、共通しているのは、現地に足を運び、人々の話を直接聞くことで、風景や歴史、文化が一層深く味わえるということ。親子で旅をすると「来てみないとわからないことがたくさんある」と気付くと思います。水族館で目の当たりにした2つの海の生態系、魚市場の活気、自分の手で収穫したトマトの味、歴史ある寺院の静寂、ぶどうを育む土の手触り…まさに今回の旅は現地でしか得られない体験や発見の連続でした。インターネットやSNSでいくらでも情報が手に入る今、“SNS映え”を狙った観光や型通りの行程を追うのではなく、その場に行き、五感を通じて「生きた知識」として吸収することを大切にしてほしいと思います。
また、旅先で出会ったガイドさんや地元の方々に直接話を聞くことで、初めて知ることやその場でしか味わえない「旬の話」を親子で共有できるでしょう。旅では、親も子供も同じ「ゼロスタート」で新しいことを学び、その感動を共有できる瞬間がたくさんあるはず。一緒に驚いたり、興味をもつポイントが違うことで新たな会話が生まれたりするのも旅ならではの魅力です。その土地での体験をきっかけに、大人も自分の経験や知識を自然に話したくなりますよね。それは「知識を与える」ものではなく、「聞いてほしい」「分かち合いたい」と思えるものに変わります。その体験が親子の会話を自然に広げ、押し付けではない学びを生み出すのです。旅先でのこうした経験こそ、日常では得られない貴重な学びの場になると改めて感じていただけると思います。生成AIが広がる現代だからこそ、「予定調和から外れた実体験」をぜひ楽しんでください!
「親子で行く学び旅、福島いわき市の魅力再発見!」日程
1日目:● 福島の海の多様性と豊かさを実感「アクアマリンふくしま」
● いわきの人々が守り続ける“常磐もの”「いわき・ら・ら・ミュウ」
● 地中の歴史を辿る「いわき市石炭・化石館ほるる」
● 日本三古泉のひとつ、いわき湯本温泉郷「旬味の宿 うお昭」
2日目:
● トマト収穫体験から知る美味しさのひみつ「ワンダーファーム」
● 福島県が誇る国指定の重要文化財「願成寺 国宝白水阿弥陀堂」
● 持続可能な社会への取り組み「いわきワイナリー」
福島の海の多様性と豊かさを実感「アクアマリンふくしま」
品川を出発したJR常磐線特急「ひたち号」は、千葉県柏駅~茨城県水戸駅を経由し福島県の「いわき駅」へ。景色を眺めながらの約2時間半、あっという間に到着。東京より少し冷え込む気温差を感じながらレンタカーに乗り換える。いわき駅にレンタカー会社があるので、事前予約できてとても便利(※いわき市の中心駅はいわき駅だが、小名浜へ行くには電車の場合は泉駅が近い。泉駅にもレンタカー会社あり。東京から車でアクセスする場合は、三郷ICより常磐自動車道で約1時間50分、いわき中央IC下車。または小名浜に近いいわき勿来IC下車)。
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まず向かったのは、いわき市小名浜港の海沿いにある環境水族館「アクアマリンふくしま」。首都圏にある水族館では見られない「ここならではの展示」があると聞いて「何が見られるのかな」と親子でワクワク。
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「アクアマリンふくしま」は、福島の海の大きな特徴である太平洋の「潮目」をテーマにした水族館。広大な敷地内には、親潮の源流オホーツク海、黒潮の源域熱帯アジアの自然、福島県の海・山・川の自然環境が再現されており、なかでも見どころの1つは、福島県沖合に現れる「潮目の海」を表現した巨大な三角トンネルの大水槽だ。
「日本列島の南と北から何千キロもの旅をして、福島県沖で出あう海流が親潮と黒潮です。暖かく流れが速い黒潮側ではカツオやイワシ、エイが群泳するダイナミックな景色が見られ、水温が低くプランクトンなどの栄養分が豊富な親潮側では、海藻が繁茂する海中林や魚たちが生活するようすが見られます」と解説をしてくれたのは広報の西山さん。力強く泳ぐ外洋の魚と福島の海にすむ生き物たち。娘はしきりに黒潮と親潮の海を交互に見上げ、その違いを目の当たりにしていた。
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「環境水族館」というコンセプトのこちらの水族館はとても楽しく「勉強!」になります。僕もですが、生き物や自然が好きな子は、開館から閉館までここに居られるんじゃないかな。「潮目の海」をテーマにした体験展示は見て楽しく、知って驚き、”海を通して人と地球の未来を考える”きっかけを作ってくれるでしょう。飼育員の方々が作り上げた各展示の「本物」の木々や植物も見どころ。週末は館内に、水産資源の今を考えながら舌鼓が打てる寿司処「潮目の海」も営業しています。“命をいただく”という意識をもつことで、自然環境と人とのつながりを感じることができるでしょう。
震災を生き抜いた生き物たち
「アクアマリンふくしま」の魅力は、潮目の海やサンゴ礁の海、川と沿岸を再現したリアルな展示だけではない。屋外展示では、ゴマフアザラシやトドといった愛らしい哺乳類や海鳥たちの姿も観察できる。この日、大きな体を優雅に泳がせていたのは、200kgを超える巨体のトド「ラーズ」。
2011年の東日本大震災では、いわき市小名浜を襲った震度6弱の揺れで、水槽の破損や浸水が発生し、館内の生物の9割が失われた。そんな中で生き残ったトドの「イチロー」と「フク」は避難先の鴨川シーワールドや三津シーパラダイスで命をつなぎ、アクアマリンが再開した1年後、再び故郷の水槽で元気な姿を見せてくれたという。その裏には、被災直後から生き物たちを救うために全力を尽くしたスタッフの奮闘がある。命を守り、復興への道を切り開いた彼らの努力と思いに触れると、ただ感謝と敬意しかない。アクアマリンの水槽は、命の強さと、支え続けた人々の思いが詰まっていると感じた。
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いわきの人々が守り続ける“常磐もの”「いわき・ら・ら・ミュウ」
水族館を目いっぱい楽しんだあとは、いわきの観光と食・物産が一堂に会する観光物産センター「いわき・ら・ら・ミュウ」へ。東北地方有数の重要港として知られる小名浜港や久之浜漁港から水揚げされる新鮮な魚介類や、地元で加工された干物などの物産が一堂に会する海鮮市場、地魚を中心とした海の幸が定食や海鮮丼などで楽しめるグルメ通りがある。
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海鮮市場に足を踏み入れると、まるで競り市場のような活気あふれる雰囲気にテンションが上がる。観光客はもちろん、地元のお客さんからも愛される老舗「いちよし商店」の店長に、いわきの魚がおいしい理由を教えてもらった。
「黒潮と親潮がぶつかる潮目の海では、黒潮と一緒に北上してきたさまざまな魚が親潮で発生したプランクトンを食べて繁殖するため、質の良い魚がたくさん獲れるんです。浜通り沿岸地域で獲れる魚を“常磐(じょうばん)もの”といって、その品質には誇りをもっています。どれも新鮮でおいしいけれど、ぜひ食べてほしいのはメヒカリ。唐揚げにすると、皮がパリパリで身は脂がのっていておいしいですよ」。
その日に水揚げされた“常磐もの”は、鮮度を保ったまま市場まで運ばれ、都内や各地の高級店で提供される魚として高値で取引されているという。「漁に出て魚を獲る人、新鮮なうちに運ぶ人、魚を売る人、料理する人。たくさんの人がおいしい魚を食べてもらいたくて頑張っているんだよ。たくさんお魚食べてね!」と、素敵なメッセージをいただいた。
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さっそくおすすめの「メヒカリの唐揚げ」を求めて館内のグルメ通りへ。アクアマリンふくしまの大水槽で体感した“潮目の海”の恵みがあるからこそ、いわき沿岸で獲れる魚が抜群においしくなるという話を聞いたばかり。「見たもの、聞いたことが“胃袋”でつながる」という貴重な経験をすることができた。
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3.11いわきの東日本大震災展
もうひとつ欠かせない見どころが施設内の「ライブいわきミュウじあむ」で開催されていた「3.11いわきの東日本大震災展」だ。2011年3月11日、突然の大規模地震が起きてから、予想だにしない津波が押し寄せたときのこと、徐々に明らかになる被害のようすや長期間にわたる避難生活。パネル展示や実際の避難所の再現などを通じて、震災当時のようすがまざまざと思い起こさせられる。家族や大切な人を亡くした方、懸命に救助に奔走する方々のエピソード、そして震災の年に生まれ育ってきた子供たちの姿。3.11からまもなく14年を迎えるが、この場所で何が起こったか改めて知ることの意義は非常に大きいと思う。娘も真剣な表情で解説や展示パネルを読み「こんなに高いところまで津波が来たの?」と驚きを隠せないようすだった。
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大人は東日本大震災のことを体感として覚えていますが、当時まだ生まれていない子供にとってはどこか遠くのことのように感じてしまうかもしれません。でもそれで良いんです。「大事なことだから、あなたも考えなさい」と言ってしまったら、感じ方を押し付けることになってしまう。子供は、何かが親の心に響いている姿を気にして見ているはずです。子供自身が何かを感じたり、気になったりして、聞いてきたときに話をすれば良い。体験させよう、考えさせようとしないことも大事だと心得ておいてください。
地中の歴史を辿る「いわき市石炭・化石館 ほるる」
続いて向かったのは、いわき市各地から発掘された化石の展示と、周辺で栄えた「常磐炭田」の歴史を知ることができる「いわき市石炭・化石館ほるる」。正面玄関前では、いわき市の地層から発見されたフタバスズキリュウ「フタバサウルス・スズキイ」の実物大オブジェがお出迎え。さらに館内には、フタバスズキリュウの骨格模型や約400万年前に生息していた「イワキクジラ」など、多くの化石が展示されており、化石ファンにはたまらない場所として知られている。
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「骨格模型も迫力があるけど、発掘された“現場”にも注目してください」と案内をしてくれたのは主任学芸員の菜花(なばな)さん。フタバスズキリュウの化石から見つかった“胃石”は消化を助けるためではなく、海に体を沈めるための重りとして飲み込んでいたという説が近年は有力であること、アジア最大の首長竜マメンチサウルスがどうやって長~い首を支えていたかなどなど、溢れんばかりの知識をレクチャーしてくれた。
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人気の琥珀アクセサリー作りを体験
娘が楽しみにしていたのは「琥珀アクセサリー作り体験」だ。ここいわき市は、岩手県の久慈市、千葉県の銚子市とならんで日本の三大琥珀産地として知られている。「人工樹脂で作られた着色品と違って、この琥珀は天然もの。学術的にもとっても貴重です」と菜花さん。
「いわきからは古第三紀(約4000万年前)と白亜紀(約8500万年前)の地層から琥珀が採集されています。琥珀とは、樹液の中の水分などが蒸発したあとに残った樹脂が化石になったもの。樹脂の化石とはいえ琥珀は鉱物ではないので、ダイヤモンドなどと違って人間の手で削ることができるんです。細かなやすりや研磨剤を使って琥珀を磨くことで、琥珀の表面がどんどんきれいになめらかに、美しい濃淡や色合いが現れます」
恐竜映画の中で登場する“虫入り琥珀”のイメージが強いが、琥珀には昆虫だけでなく、花粉や砂粒、さらにはその時代の空気までもが閉じ込められていることがあるという。「琥珀の中の内包物を調べることで、その時代の環境や進化の謎に迫ることができるんですよ」と菜花さんは続ける。自分の手で磨いたこの琥珀は、まさに太古のロマンそのもの。想像以上の“宝物”を手にする経験ができた娘の目はキラキラと輝いていた。
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地下に広がる模擬炭鉱へ
もうひとつの見どころが、19世紀後半から20世紀前半までにいわき市やその周辺で栄えた「常磐炭田」のようすを再現した「模擬坑道」だ。地下へと続くエレベーターを降りていくと、あたりは急に暗くなり地底探検のような雰囲気に。入り口から奥へ向かって歩きながら、掘削が始まり炭鉱が栄えた当初から、エネルギー革命を経て閉山に至るまでに歩んできた炭田の掘削現場や石炭の歴史を知ることができる。石炭を掘っている坑道のようすが、人形や音響などとともに驚くほどリアルに再現され、ほかでは見たことのないような迫力ある展示内容に、良い意味で予想を裏切られた。娘にとってもインパクトが大きかったようだ。
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常磐炭田で栄え、また数多くの化石が見つかっているいわき市ならではの博物館です。ご当地の博物館を訪れるときの楽しみのひとつは、学芸員さんの話を聞くこと。展示の見どころはもちろん、なぜいわきで化石や琥珀が見つかるのか、その土地に根付いた話を深くわかりやすく教えてくれるでしょう。館内にある映像ガイドを利用するとよりわかりやすいので、映像をチェックしてからの見学がおススメです!
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いわき湯本温泉郷「旬味の宿 うお昭」
国内旅行の楽しみといえばやっぱり温泉。毎分5.5トンと豊富な湯量を誇るいわき湯本温泉は、千年以上の歴史をもち日本三古泉にも数えられている。今回は、JR常磐線の湯本駅から歩いてすぐのところにある「旬味の宿 うお昭」にお世話になることに。
女将さんの笑顔に迎えられ、チェックイン後はさっそく展望大浴場へ。泉質の硫黄泉は保温・美肌の効果があり「美人の湯」としても知られているそうだ。温泉でのんびりリフレッシュしたあとは、前身が魚屋だったという同館の板長が腕をふるう、海の幸や四季折々の素材を生かした料理を堪能。冬の味覚・アンコウの肝をスープに溶かし込んだ「浜仕立て鮟鱇鍋」におすすめの地酒もいただいて、お腹いっぱい。大満足の1日目を終えた。
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トマト収穫体験から知る美味しさのひみつ「ワンダーファーム」
2日目。早起きして朝食をたっぷりいただきエネルギーを満たしたあとは、国内でも珍しいトマトのテーマパーク「ワンダーファーム」へ。広大なビニルハウスの中で1年中トマトの収穫体験を楽しむことができ、オートキャンプもできるとあって、いわき市だけではなく近隣県までその名が知られている人気スポットだ。
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「ここではビニルハウス内の温度が30℃以上に保たれています。トマトは25~27℃が育ちやすいとされていますが、太陽光を効率的に取り込むビニルハウスの仕組みのおかげで冬でも温か。いわき市は日照時間が長くて昼と夜の気温差が大きいという、おいしいトマトの生育に最適な環境が整っているんですよ」と、スタッフの草野さん。
収穫方法を教わったら、あとは赤く実ったトマトを自由に収穫してOK。見渡す限りのトマト畑には、生食用や加工用の大玉トマト、ミニトマトの「フラガール」、オレンジ色の「フラガールオランジェ」、フルーツトマト「フルティカ」が鈴なり。なかでも人気の品種は皮が薄く甘さがぎゅっと詰まった「フラガール」。採れたてを食べた娘は、「甘~い! フルーツみたい!」と大感激!
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おいしいトマトに欠かせない“ある生き物”とは?
「スーパーで並んでいるトマトは、まだ青い状態で収穫され店頭で赤くなりますが、ここでは完熟直前まで育ててから収穫しています。そのため糖度が2~3ほど高く、トマト本来の甘さと味わいを楽しめます。トマトが苦手な子供でも、ここで食べたら好きになったという声をたくさん聞くんですよ」と草野さん。
おいしいトマトの見分け方も教えてもらった。ポイントは3つ。まず、ずっしりと重いこと。次に、トマトのおしりに星型の筋「スターマーク」があること。そして、水に浮かべると、おいしいトマトは実がぎっしり詰まっているため浮きにくいのだという。
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「ワンダーファーム」では日照、温度管理、水やりの管理などをすべてコンピュータで制御している。トマトはもともと南米ペルーなどの乾いた地域が原産地。必要以上の水を与えないほうが、トマトにストレスがかかり甘みが増すということを初めて知った。また、ビニルハウスは天候や害虫の影響を受けにくいのが利点。娘は「どうやって受粉しているんだろう?」と疑問を抱いていたが、その答えは温室内を飛び回るハチたちだ。ここではクロマルハナバチという受粉専用のハチが、花粉を運んで受粉を助けているという。生き物のおかげで美味しいトマトが育っている。“自然と人間の食”がどのように繋がっているか、改めて考えさせられる体験となった。
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「ワンダーファーム」での体験は、アブラナ科の花の構造や風媒花や虫媒花の受粉方法、さらにはスマート農業の最先端技術など、学校の理科や社会、さらには受験問題に関連するような知識があふれるものになるかもしれません。子供の勉強に関心をもっている親御さんほど、「ほら! これ、テキストに載ってたね」と声をかけたくなるかもしれませんがそこは少し我慢(笑)。大切なのは、お子さんがどんなことにワクワクして、どんな場面で“心が動いた”のかをしっかり観察すること。その興味や感動を見つめ、共感する。このような気付きの積み重ねが、我が子を深く理解するきっかけになります。
レストランにキャンプ…1日中いても飽きない!
お待ちかねのランチタイムは、施設内になる人気のイタリアンレストラン「CROSS WONDER DINING」へ。ここでは「ワンダーファーム」自慢のフレッシュトマトを使った前菜、石窯で焼かれた本格ピッツァ、ミネストローネなど、トマトを中心とした創作料理がビュッフェスタイルで味わうことができる。パスタや肉料理などのメインディッシュも充実しており、パスタ好きな娘は迷わず「丸ごとトマトのワンダーポモドーロ」を注文。大きなトマトにたっぷりのモッツアレラチーズがとろける一皿を前に「いくらでも食べられそう!」とご満悦だった。
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「ワンダーファーム」には収穫体験やレストラン以外にも楽しみがたくさん。広い敷地には「森のマルシェ」と名付けられた地産食材を楽しめる売店に全天候型のBBQエリア、ドッグランにキャンプサイトなどを備えている。さらに、近隣にはハイキングコースや温泉施設もあり、近くの海では釣り体験も可能。常磐自動車道の「いわき四倉IC」から車で数分という便利な立地のため、関東をはじめ多くの地域から訪れる人が絶えないというのも納得だ。アウトドア好きの我が家にはぴったりの場所! 次回のキャンプ地に即決まり。
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福島県が誇る国指定の重要文化財「願成寺 国宝白水阿弥陀堂」
「ワンダーファーム」から、のどかな田舎道を車で走ること約30分。願成寺という寺院のなかにある白水阿弥陀堂へ到着。こちらのお寺は、平安時代末期の建築様式がほぼ原形のままに現存しているというその貴重さから、福島県内では建造物として唯一の国宝として指定されている。
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「この阿弥陀堂は、当時のいわき地方の国主であった岩城則道公を弔うために、夫人であった徳姫が建立したと伝えられています。徳姫は、陸奥の豪族であり平泉文化を築いた藤原清衡の娘。この阿弥陀堂は平泉の中尊寺金色堂を模倣して建立されたといわれています。阿弥陀堂の「白水」という地名は、平泉の「泉」を「白」と「水」に分割して名付けられたという説もあるんですよ」とお話ししてくれたのはご住職の赤土さん。
撮影不可の本堂の中には、国指定の重要文化財に指定されている本尊阿弥陀如来像、観世音菩薩像など5体の仏像が安置されている。本堂内には、かつて極彩色に彩られた壁画や家紋のもととなった円紋など、当時の装飾の形跡があちらこちらに残されており、平安文化の美意識の高さを感じさせてくれる。
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極楽浄土が再現された日本庭園を散策
阿弥陀堂などの仏堂の周りには、仏教の教えに基づき極楽浄土を模した庭をつくるようになっているという。訪れた11月下旬はちょうど紅葉が見ごろを迎え、色づいたモミジやイチョウと浄土庭園の美しい光景を楽しみに多くの参拝客が訪れていた。
「紅葉はもちろんですが、緑が萌える新緑の時期もおすすめです。朝靄にお堂が包まれる風景はとても幻想的なんです」とご住職。7月から8月にかけては、池にピンクのハスの花が咲き誇る、蓮の名所としても知られている。
「仏教では極楽浄土には蓮の花が咲いていると説かれています。ぜひ振り向いて、周囲を囲む山々の形に注目してください。山々が、まるで蓮の花びらのように阿弥陀堂を包み込む地形になっていることに気付くでしょう」。まさに、自然と建築が一体となり、極楽浄土の世界観を現代に伝えている。見れば見るほど学びがあって、住職のご説明をずっと聞いていたい気持ちになった。
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歴史的建造物や文化財の見学は、歴史を習っている子や歴史好きな子にとって、教科書で見た時代や人名、地名が実際に目の前に広がるワクワクする体験になるでしょう。「子供が歴史に興味をもつにはどうしたら良いですか?」とよく相談を受けますが、実はそれほど難しく考える必要はありません。旅行や地理が好きなら、その土地の歴史を地名や地図と結びつけて話をするのもおすすめです。また、旅先の郷土料理に目を向けると、意外にもその土地の歴史背景や風土に根ざしたエピソードが隠れていることがあります。身近なものや、子供が興味をもつテーマと関連付けることで、歴史がより親しみやすく、生き生きとしたものになるでしょう。
持続可能な社会への取り組み「いわきワイナリー」
旅の最後の目的地、梨畑に囲まれた小高い丘の上にある「いわきワイナリー」へ。いわき市唯一のワイナリーで、ぶどうの栽培から販売までを一貫して行い、丁寧に造られたその品質と味わいは国内外のワインコンクールで多数受賞するなど、ワイン愛好家からも高く評価されている。
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「いわき市は福島県の中でも温暖で、雪もあまり降らないのでぶどう栽培に適しているんですよ」と、ぶどう畑を案内してくれたのはマネージャーの四家さん。かつて耕作放棄されていた畑でぶどうの木を植えたのが2010年。その翌年に東日本大震災が起こり、一時的に栽培を中断せざるを得なかったものの、その1年半後には栽培を再開。2015年には果実酒製造免許を取得し「いわきワイナリー」の名称で本格的なワインづくりをスタートさせた。現在は「いわきワイナリー」に隣接する好間田代農園をはじめ3つの農園で、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールなど10種類のぶどうを栽培しており、赤と白合わせて30種類ものワインを製造しているそう。
「その年によって異なるブドウの個性を見極め、それぞれに最適な醸造方法を見出します。ブドウの個性を最大限引き出すために、慎重かつ細やかで愛情溢れる手作業でワインの醸造を行っています。おいしさを追求するのはもちろんですが、ワイン造りを通じてこの土地の文化を担う、そんな存在でありたいと思っています」(四家さん)。
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共生社会を実現する場として
「いわきワイナリー」では、ハンディキャップをもつ方々が一緒にワイン造りに携わっている。ワインの生産を通じて就労の機会を提供する取り組みについても四家さんは話してくれた。
「ハンディキャップを背負った人たちが安心して自立した生活を送るようにできないだろうか。ゆったりした時間のなかでのワイン造りは障がい者に向いている仕事もあるはず…という思いから始まり、現在15名前後のメンバーさんがワイン造りに従事しています。ぶどうの摘み取りから醸造、瓶詰め、ラベル貼り、販売までひと通りの工程に携わっていただいています。外に出て体を動かすことや自然が好きな方も多く、畑作業を楽しむことはもちろん、自分たちが造ったワインが喜ばれるというやりがいをもって働いてもらっています」(四家さん)。
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娘は学校で“福祉”や“共生社会”について触れたことはあるが、あくまで授業であって実経験をともなうものではない。そんな小学生に向けて、四家さんがメッセージを伝えてくれた。
「ハンディキャップのある方に対して、どう接していいかわからないと戸惑うこともあるかもしれません。でも、無理に関わろうとするのではなく、ここに来て、保護者の方はワインを、お子さんはジュースを一緒に飲んで、ゆったりくつろぎながら“このおいしさは、障がいのある人もない人も、みんなが心を込めて育てたぶどうから造られているんだ”とポジティブな気持ちで過ごしてくれたらうれしいです」(四家さん)。
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ここでは、知的障がい者や地域の人々が携わりながら、土地の恵みを生かして農作物やワインを生産しています。生産者の方の話を聞くことで、土づくりから醸造、熟成に至るまでのこだわりや作り手の情熱を感じていただけるはず。大地に広がるぶどう畑と広い空の中で、「ただの産業」ではなく、持続可能な社会への取り組み、土地とさまざまな人とが結びついた産業の意義を親子で感じられる場所になると思います。大人はお土産にワインを買って帰る楽しみもあります。帰宅後に学び旅を思い出しながら味わってみてください。
<1泊2日の親子旅を振り返って>
小学4年生の娘と旅をした2日間を通じて実感したのは、親が特別に「何かを体験させなければ」と構えなくても、子供は旅の中で心が動く経験をし、意図せず自然に学んでいるということ。それは、ただ旅の思い出として残るだけでなく、子供の心の深い部分、根っこのようなところにしっかりと届いているように感じた。小川先生からいただいたアドバイス「感じ方や見方が違うのは当然のこと。親は親の楽しみ方をすれば良いんです。そして大人が楽しんでいる姿を見ることが、子供にとっても楽しいことなんですよ」のとおり、親も肩の力を抜き、子供の目線と自分の目線、それぞれの楽しみを大切にした今回の親子旅。読者のみなさんも、この機会にぜひ家族で福島県いわき市に足を運び、体感を通じた新たな気付きを得てほしい。
福島県いわき市観光サイト