神奈川県内の最難関公立高校である横浜翠嵐高校(以下、横浜翠嵐)に2025年度の神奈川県公立高校入試で155名の合格者を送り出した臨海セミナー。首都圏を中心に全国549校(2025年冬時点)を展開し、小学生から高校生まで幅広い受験・学習指導を実施している同塾は、神奈川県の公立トップ高校合格実績を伸ばしている。
横浜翠嵐合格の鍵を握る特色検査対策に、同塾はどのように向き合っているのか。神奈川県公立高校入試の基本情報と、横浜翠嵐をはじめとするトップ校入試の特徴、生徒を徹底的にサポートする教材開発の工夫や、ひとりひとりの力を引き出す伴走法について話を聞いた。
【話を聞いた人】
ESC難関高校受験科事業部長 飯沼徹氏
小中学部事業部本部教務部神奈川責任者 山田翔太郎氏
ESC難関高校受験科教務部神奈川文系課 上席係長 青木陽介氏
ESC難関高校受験科教務部神奈川文系課 主任 長澤裕文氏
根強い公立人気の神奈川県高校入試
--神奈川県の公立高校入試の特徴について教えてください。
山田氏:神奈川県の公立高校入試は、「内申(調査書)」「学力検査(5教科)」「特色検査」という3つの要素で構成されています。推薦入試はありません。一部の高校が実施している特色検査は、大きく分けて、「自己表現検査」「実技検査」「面接」の3つの形式があります。
自己表現検査(以下、特色検査)は、18校(学力向上進学重点校およびエントリー校 ※横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校は、横浜市教育委員会から進学指導重点校に指定されているため除く)で共通して実施されるペーパーテストです。思考力が問われる教科横断型の内容で、各校の教育方針や重視する能力が色濃く反映されているものといえます。
この3つの要素「内申(調査書)」と「学力検査(5教科)」「特色検査」の配点比率が、高校ごとに異なるというのは特徴的な仕組みです。

たとえば、横浜翠嵐の配点比率は「内申3:学力7:特色3」、湘南高校(以下、湘南)は「内申4:学力6:特色2」など、トップ校は学力検査重視、中堅校は内申重視の傾向があり、大半の高校は「内申4:学力6」または「内申5:学力5」といったバランスで選抜しています。東京都は「内申3:学力7」という比率ですので、神奈川県は比較的内申の重要度が高いといえるでしょう。

また、神奈川県の入試には「第1次選考」と「第2次選考」があります。第1次選考で定員の9割、第2次選考で残りの1割を選抜します。たとえば定員300名の高校では、上位270名が「調査書の評定」「学力検査の得点」「特色検査の得点(実施校のみ)」(例:「内申3:学力検査7:特色検査3」)を用いる第1次選考で選抜、残り30名は「学力検査の得点」「調査書の観点別評価(ABC評価)のうち主体的に学習に取り組む態度を点数化したもの」「特色検査の得点(実施校のみ)」(例:「学力検査8:主体的に学習に取り組む態度2:特色検査2」)を用いる第2次選考で選抜されます。これは全国的に見ても珍しく、さまざまな理由で内申に不安のある生徒にとっても志望校合格への道が開かれます。
--公立高校を第一志望とする生徒が多いのでしょうか。
山田氏: 神奈川県では、公立高校を第一志望とする生徒が多く、進学率は「公立2:私立1」という比率です。全日制の公立高校の募集定員は約4万人、受験者数は約4万5,000人にのぼります。公立受験者のうち約5,000人は、私立高校に進学するという構図になります。
飯沼氏:公立高校全体の実質倍率(実際に受験した人数を合格者で割ったもの。出願したが受験しなかった人数が除かれるため、より実際の入試状況に近い数値となる)は、平均して1.20倍程です。ただし、これはあくまで平均であり、県内でもっとも倍率が高い最難関の横浜翠嵐の2025年度の実質倍率は1.89倍でした。
山田氏:人気校の倍率は依然として高い一方で、2025年度入試の二次募集実施校は38校になり、県内の公立高校のおよそ4分の1で定員割れが生じている状況です。
長澤氏:私立高校の設備面の充実や、学費に対する自治体の支援制度の拡充もあり、私立校を第一志望とする生徒も少し増加しています。
--東大合格者を多数輩出する横浜翠嵐高校が注目を集めています。
飯沼氏:志望校選択の際、大学進学実績を重視する傾向があります。近年は、東大合格実績を毎年伸ばしている横浜翠嵐の倍率が、湘南よりも高くなっています。2025年度入試の合格者平均点は、横浜翠嵐のほうが湘南より10点以上高いという結果でした。
進学実績を見る際に留意していただきたいポイントが2つあります。1つ目は、合格実績には「現役合格者数」と「既卒を含めた合格者数」があるということです。高校自体の実力を知りたい場合には、現役合格者数が参考になるでしょう。2025年度の横浜翠嵐の東大合格者数は74名で、全国で8位でしたが、そのうち現役合格者数は67名、既卒は7名でした。都立日比谷高校(以下、日比谷)の東大合格者数は81名で、現役65名、既卒16名ですので、現役合格者数は日比谷よりも横浜翠嵐のほうが多く、日本の公立高校でトップです。

2つ目のポイントは、大学合格実績は、「高校受験時の生徒の実力」を表しているものではないという点です。たとえば、2022年当時、当塾から横浜翠嵐と湘南に合格した生徒の高校入試の平均点には、ほとんど差がありませんでした。しかしながら、3年後の2025年の大学進学実績、たとえば東大の現役合格者数では3倍以上の差が出ています。これは、高校3年間の間に「どれだけ生徒の実力を伸ばしたか」という差です。
また、併願する私立高校の選択にも、横浜翠嵐と他トップ校では傾向に違いが見られます。臨海セミナーのトップ校志願者は、併願で山手学院高校などの上位の私立高校を選ぶ生徒が多く、通常は地域の公立トップ校と併願の私立を1校受験というパターンが多くなりますが、横浜翠嵐を志望する生徒の多くは、併願に加えオープン入試で慶應や早稲田など、難関私立校を複数受験しています。これは横浜翠嵐と他トップ校の受験者の違いを示す象徴的な動きであり、現在は「翠嵐一強」といっても良いでしょう。
もうひとつ、トップ校の動向で注目しているのが、多摩高校(以下、多摩)の台頭です。近年、多摩の受験者の平均点、倍率が上がってきています。かつては横浜翠嵐・湘南・柏陽、その次に緑ケ丘・川和・厚木、そして多摩という位置付けでしたが、最近では横浜翠嵐、湘南に次ぐ存在として、多摩の名前があがることが増えてきているように感じます。その要因は、同程度の合格者平均点をもつ他校と比べて、多摩は近年の国公立大学の合格実績が伸びていることと川崎市の人口が増えていることだと考えられます。また、所在地の影響もあります。たとえば、柏陽のエリアの上位層の生徒は「もう少し頑張って湘南を目指そう」という選択が可能な立地ですが、多摩の近辺エリアには選択肢が少なく、そのエリアの優秀な生徒が集まりやすい環境といえます。入学後に生徒たちが切磋琢磨し、進学実績が上がっているのではないでしょうか。
神奈川県公立難関高校入試ならではの「特色検査」
--神奈川県公立難関高校入試で行われている「特色検査」の特徴について教えてください。
飯沼氏: 難関校や上位校で実施されている特色検査は、大問が4題、配点は各25点で、問1と問2はすべての学校で出題される「共通問題」、問3から問6までは4題の中から各校が2題を選んで出題する「共通選択問題」となっています。配点比率は学校によって異なります。横浜翠嵐の比率は、内申3:学力検査7:特色検査3です。学力検査の比率は高いものの、横浜翠嵐のような最上位校では、5教科の学力検査ではほとんど差がつかず、内申点も高い生徒が集まるため、特色検査の結果が合否を大きく左右するのが現実です。
--特色検査対策が「難しい」と言われている理由を教えてください。
長澤氏:特色検査対策が難しいと言われる要素はいくつかありますが、第一に、特色検査では、普段の学習とは異なるスキルが求められます。通常の入試では、これまでに習った内容がどれだけ定着していて、それを再現できるかが問われますが、特色検査ではそうはいきません。授業で習ったことの単純な再現ではなく、目の前の問題にどれだけ柔軟に対応し、知識を組み合わせて活用できるかが問われます。中には「暗記して完全に再現することが求められる問題より、かえって解きやすい」という生徒もいますが、多くの生徒にとっては、経験したことのないタイプの問題や、自分の学習観と異なる「その場での理解」が必要な問題が出るため、難しく感じることが多いと言えます。
第二に、明確なパターンが存在しないことにあります。「こうすれば必ず成功する」という型がなく、同じ問題が再び出る可能性も低いのです。だからこそ、生徒自身がその場で判断し、対応する「思考力」や「問いを立てる力」が必要になります。

第三に、市販の教材の中には、神奈川県の特色検査に完全に対応したものはほとんどありません。過去問はありますが、同じ内容・形式の問題が出るわけではありません。テキストもなく、ただ教科書や本を読むだけでは十分な対策にならないため、特色検査が導入された当初から、生徒・保護者の皆様からは「どうすれば特色検査の点数を伸ばせるのかわからない」という声が多く寄せられていました。
飯沼氏:特色検査のテキストは、教材業者に依頼しても作ってもらえません。なぜなら、ニーズが神奈川県の公立高校受験者、それも上位層に限られるため、労力に見合う利益が見込めないからです。「だったら自分たちで作ろう」と完成したのが、オリジナル教材『Refine』をはじめとする合計1,000ページを超える教材です。
「特色検査のテキストを作れるのは長澤先生しかいない」と白羽の矢を立てました。長澤先生だけでは手が足りなかったので、初年度は知識とリサーチ力のある当塾の卒業生に声をかけ、東大をはじめとした難関大に通う学生と6~7名ほどのプロジェクトチームをつくりました。当塾は生徒と講師のつながりが強く、その強みが生かされました。
--『Refine』はどのように作られているのでしょうか。
長澤氏:共通テスト問題や大学入試問題、中高一貫校の入試問題、資格試験など、さまざまな試験問題をリサーチし、良問を探し出します。そこから特色検査の内容・形式に合わせて改題をしたり、必要に応じてオリジナル問題を作成して加えたりしています。私だけの観点で選ぶと偏りが出てしまうので、卒業生スタッフや教科の専門の講師など、いろいろな視点を取り入れるようにしています。作成した問題は「主に読み取った内容に基づいて答える問題」「読み取った内容をもとに作業して答える問題」「数理的関係をとらえて答える問題」の3タイプに分類して章立てしています。
問題の解答・解説の執筆も分担して行うほか、最近はAIも駆使しています。初年度の教材はプリント形式でしたが、2023年からは冊子化して今年で3年目になります。毎年、実際の入試が終わってから見直しを行い、問題の入れ替えなどの改訂を重ねながらブラッシュアップしています。
飯沼氏: 特色検査は、知識ではなく“思考力”を問う試験です。「これをやれば大丈夫」という決まった型がない分、どんな生徒にも伸びる可能性があります。だからこそ、上位校を目指す誰もが挑戦できる教材を作りたいと思っています。
英語や数学のように「見たことがある問題」は基本的に出ません。初めて見る問題に向き合うには心の安定が大切です。生徒たちは、中3生の9月以降から過去問や『Refine』を2周も3周も繰り返しますから、本番は「これだけの量を解いたから大丈夫」という自信をもって取り組めるのではないでしょうか。当塾の先生方の知見が集結したテキストですから、「これはうちにしか作れない」と思うほどの自信作ですし、実際に『Refine』に魅力を感じて入塾してくれる生徒もいます。また、当塾では特色検査の模擬試験も独自に作成し、実施しています。

“解くべき問題”を選ぶ力が合否を分ける
--初めて見る問題に対して、どのようにすれば最大限の得点ができるか、授業では、その判断力をどのように育てていらっしゃるのでしょうか。
青木氏:どの問題に取り組むか。その判断基準は、生徒それぞれの得意・不得意によって異なります。ですから、模試でも授業でも必ず制限時間を設け、その中で自分の得点を最大化することを意識させています。また、講師が一方的に「こう解くのが理想」と教えてしまうと、思考力の育成になりにくいので、「なぜそう思ったの?」と問いかけることを大切にしています。生徒が自分の考えに根拠をもち、解き方を選択できるように伴走している感じです。
横浜翠嵐ではグループワークが実施され、生徒同士で意見を交わす時間も大切にしています。『Refine』を一緒に解きながら、ああでもない、こうでもないと話し合う姿がよく見られます。お互いの考え方を共有することで、思考の幅が広がっていくのです。受験が近づく1月や2月になると、生徒たちは初めて見る問題に対する抵抗がなくなり、最初は思考停止していたような内容でも食らいつけるようになります。

--最後に、志望校合格を目指す中学生と保護者にメッセージをお願いいたします。
長澤氏:特色検査は「目の前の問題をどう解決するか」が問われます。答えのない問いにあふれる社会で生きていくうえで、特色検査はその入門編です。トップ校はゴールではなく通過点ですので、大人になってからの訓練の場と捉えていただくと良いと思います。
青木氏:近年の横浜翠嵐は全国的にも注目され、雲の上のように感じる保護者の方もらっしゃると思いますが、どうか保護者の方がお子様の上限を決めないでください。本人の「合格したい」という強い気持ちがあれば、「あと5分」「あと10分」という頑張りが効き、その蓄積が合格につながるはずですので、ぜひ応援してあげていただきたいです。
飯沼氏:2025年度入試において横浜翠嵐の合格者の通塾開始年齢を調査すると、合格率がもっとも高かったのは小3生から通っていた層でした。トップ校合格のためには、お子様が早い段階から、良い教材と正しいカリキュラムで学習習慣を身に付けられるようサポートしてあげていただきたいですね。また、繰り返しになりますが、ぜひ高みを目指してください。「成績が上がったら翠嵐に挑戦する」ではなく、「翠嵐に行きたいから成績を上げる」という考え方の方が、合格に近づきます。ぜひ、お子様の可能性を信じて、前向きに支えてあげてほしいと思います。
臨海セミナー臨海セミナー「特色検査対策」
