2026年4月29日、ジーニアス、エルカミノ、早稲田アカデミーの3塾は、「算数CHAMPIONSHIP」をベルサール渋谷ファーストで初開催した。算数オリンピックの“前哨戦”として位置付けられた本イベントには、1,300人を超える小学生が参加し、大きな注目を集めた。
当日は、「算数オリンピック」を想定して3塾が用意した特別問題を受験、その後の解説授業に加え、成績上位者への表彰も行われた。また、3塾による保護者向けのセミナーも実施。各塾の講演とパネルディスカッションからみえてきた最難関中学入試における算数の変化や、子供の力を伸ばすための学び方についてレポートする。
「難しいけど楽しい!」1,300人超えの小学生が難問に挑戦
「算数CHAMPIONSHIP~算数オリンピック前哨戦~」は、午前に小4・5対象「ジュニアオリンピック編」、午後に小6対象「オリンピック編」を実施。どちらも6月に地方大会が開催される算数オリンピックの公認を得た「算数オリンピック前哨戦」として、多くの算数好き小学生が集結した。編集部が取材した「ジュニアオリンピック編」では、1,000人にせまる小学生が前哨戦に挑んだ。

テストは3塾の算数講師が練りに練って作問した全9問を出題。算数オリンピック本番を見据え、本番さながらの雰囲気の中で、子供たちは60分間のテストに臨んだ。終了後は各塾の講師が解説授業を実施。先ほどまで向き合っていた難問が紐解かれるたびに、会場の子供たちからは「そうか!」「なるほど」など、興奮と感嘆の声があがった。

解説授業の裏では約80人のスタッフによる採点が行われ、迅速に結果を集計。速報値の平均点は30点台と難度の高い内容で、子供たちにとってはかなり手応えのある挑戦となった。
表彰式では得点上位5名が壇上に呼ばれ、トロフィーとともに特典が授与された。今回の最高得点は87点。表彰者には特典として、東京大学大学院のダイワユビキタス学術研究館見学への招待も用意され、算数好きの小学生のモチベーションをさらに高めるイベントとなった。

3塾が斬る、難関中算数の最新動向
子供たちの受験と並行して行われた保護者向けセミナーでは最難関中学入試における算数の特徴と、そうした算数の問題に立ち向かう力を伸ばすための学び方について、3塾それぞれが講演を行った。共通していたのは、「考える力」そのものをどう育てるかという視点だ。一方で、そのアプローチには各塾の個性が色濃く表れていた。
中学受験専門塾ジーニアスは教材統括責任者の相阪亮佑氏が登壇し、問題を“解く”前に“捉える”ことの重要性を繰り返し伝えた。最難関中学の算数では、与えられた条件をどのように整理し、どの視点で問題を見るかによって、その後の展開が大きく変わる。「この問題は何を問うているのか」「どういう構造なのか」を一問一問丁寧に、かつ素早く分析する力が求められるという。講演では、最難関中の過去問を例にあげながら、条件の読み取り方や考え方のプロセスを分解し、問題の構造をどう捉えるかを解説。相阪氏は「一度自分で最後まで解き切ること。そして間違えたときの振り返りが何より大事」と語り、こうした積み重ねが、近年最難関中の算数で合否の鍵となっている「初見問題」に対応できる、応用力の獲得につながると話した。

一方、論理思考で中学受験を攻略するエルカミノの副代表・古庄歩氏は、“自分で考え抜いた経験”の価値に重きを置いた。講演では、「ただ早く答えを出すこと」で満足せず、最適な解法に向けて、「どう試行錯誤したか」が重要であると強調。たとえば、補助線の引き方ひとつをとっても、「最初から正解にたどり着けることは稀。いくつもの仮説を試しながら少しずつ構造を見抜いていく過程こそが力になる」という。また、問題には必ず出題者の意図があり、それを読み取る「メタ認知」の視点をもつことが肝要だと説く。作問者の視点をもつことで理解は一段と深まるという点は、多くの保護者に新鮮な気付きを与えていたようだ。

そして、早稲田アカデミーの講演では、こうした思考力の土台となる「子供の特性」に焦点があてられた。中学受験部部長の丸谷俊平氏は、子供の特性を大きく“天才型”と“秀才型”に分け、それぞれに適した学び方があると語った。好奇心に突き動かされ、興味のあることに没頭する天才型と、コツコツと積み重ねることで成果を実感していく秀才型。どちらが優れているということではなく、我が子がどちらのタイプなのかを見極め、その特性に合った学習環境を整えることが欠かせない要素だとした。
丸谷氏は、「解けなかったけれど楽しかった、という状態は順調。一方で、解けたけれど楽しくなかったというのは危険」と指摘。また、「たとえ答えが間違っていても、そこに至るまでの思考に価値を見いだすことで、子供は安心して挑戦できるようになる。未知の問題に向き合う力は、寄り道や失敗を含む試行錯誤の中で育まれる」と話し、保護者が無意識に結果を重視してしまいやすいことへの注意も促した。

3塾の講演はアプローチこそ異なるものの、「思考力をどう育てるか」という点で共通していた。問題を構造的に捉える力、試行錯誤を重ねる経験、そして子供の特性に応じた学び方。これらが組み合わさることで、最難関中学が求める力へとつながっていく。単なるテスト対策にとどまらない学びのあり方が、セミナーを通じて浮き彫りになった。
最難関中の算数は“思考力勝負”へ
セミナーに続いて行われたパネルディスカッションでは、早稲田アカデミー教務本部長の竹中孝二氏がファシリテーターを務め、ジーニアス相阪氏、エルカミノ古庄氏、早稲田アカデミー丸谷氏による議論が展開された。

まずテーマの1つ目として取り上げたのは、近年の最難関中入試の算数の傾向だ。早稲田アカデミーの丸谷氏は、「出題のされ方が変わってきている」と指摘。「単元別の学習はカードを覚える作業に近いが、近年の入試ではどのカードをどの順番でどう切るか、自ら判断する力が問われている」と表現し、思考のプロセスそのものが評価対象になっていると語った。
エルカミノの古庄氏も、「図形や場合の数といった分野を中心に、試行錯誤を前提とした問題が増えている」と分析する。特に図形については、単純なパターン暗記では太刀打ちできず、補助線の引き方やどの情報に着目するかといった判断の積み重ねが不可欠な問題が増えているという。「典型問題の延長線上にはあるが、それだけでは解けない領域に踏み込んできている」とし、より本質的な理解が求められている現状を説明した。
一方、ジーニアスの相阪氏は、“問題文そのものの変化”に言及する。近年は条件設定やルールが複雑化し、文章量も増加傾向にあるという。「まず問題を正確に読み取ることが前提になっており、そこが崩れると、どれだけ計算力があっても正解にはたどり着けない」と述べ、読解力と処理力を組み合わせた新たな力が求められていると指摘した。
こうした変化を受けて、「入試算数は難化しているのか」という問いも議論にあがった。古庄氏は「最難関校は難化傾向にある」とし、入試において算数の比重がますます高まっている現状を指摘。一方、丸谷氏は「難しくなっていること自体は悪いことではない」とし、「難関校で難度の高い初見問題が出ると、塾がその対策を行い、数年後には標準化されていく。子供たちの学力が上がることで、さらに新しい問題が生まれる」と説明。良質な難問が増えることは、子供たちの学びの深化と表裏一体であるという認識を示した。
計算ミス、教科の偏り…悩める中受保護者へのアドバイス
パネルディスカッションでは、保護者から寄せられる悩みについても取りあげられた。多くの保護者が抱えるのは、「計算ミスがなかなか減らない」「算数ばかりやって他教科が進まない」といった悩みだ。
早稲田アカデミーの丸谷氏は、「計算ミスを完全に防ぐ方法はない」としたうえで、「計算練習は有効だが、処理速度を上げる訓練と、ミスを減らす訓練は別物」と指摘。また、日頃から過度にミスを責める環境は子供にとって大きなストレスになると注意を促し、「普段はある程度のミスを許容し、感覚や思考を磨く時間に充てることも必要」と述べ、塾と家庭の役割分担の重要性を強調した。
一方で、算数に偏った学習をしてしまう子供については、エルカミノの古庄氏が「算数が圧倒的に得意な子であれば、それを無理に止める必要はない」と、強みを伸ばすことの価値を認めた。最難関中入試では算数の比重が高いという背景もあるが、入試直前期になると子供自身が危機感をもち、自然と他教科にも向き合うようになるケースが多いとし、「そのタイミングで適切に背中を押すことが大人の役割」と語った。
さらに、教科バランスについてジーニアスの相阪氏は、「志望校によって戦略は変わる」という。たとえば最難関校の中でも、算数で大きく差がつく学校もあれば、社会や理科が合否を分けるケースもあるからだ。「どの教科で差がつくのかを見極めたうえで、学習の配分を決めていくことが重要」とし、画一的な勉強法ではなく、志望校に応じた戦略的な学びの必要性を示した。
計算ミスへの対応も、教科バランスの取り方も、子供の特性や志望校によって最適解は異なる。目の前の結果や状況だけで判断するのではなく、子供の特性や状態を見ながら柔軟に調整していく姿勢が、保護者に求められるサポートのひとつといえそうだ。

「正解だけが価値ではない」算数との向き合い方
終盤では、算数との向き合い方そのものについて、保護者に向けたメッセージが語られた。
ジーニアスの相阪氏は、算数オリンピックを例にあげながら、「これは試験ではなく、問題にどう向き合うかを楽しむもの」と強調。点数や順位ではなく、目の前の1問に対して「どうすれば解けるのか」と考え続ける時間にこそ価値があるとし、「夢中になって自ら考えている時間は、子供が飽きるまで見守ってほしい」と語った。
エルカミノの古庄氏は、「作問の意図を見抜いたときの爽快感こそが算数の魅力」だとし「これはこういうトリックだったのか」と気付いた瞬間の喜びは、正解すること以上の価値と感動を子供にもたらすという。「子供が夢中になって考え、ひらめき、そして納得する体験こそが、算数を好きになる原点であり、親としても大切に育てたい人生の糧となる種だ」と訴えた。
そして最後に丸谷氏は、保護者に対して「丸がつくことが正しいという評価基準を一度外してほしい」と力強いメッセージを送った。中学受験ではどうしても点数や塾のクラス分けの結果に目が向きがちだが、それ以上に、どれだけ考えたか、どんなふうに向き合ったかが真の成長の原動力になるのだ。「子供が一生懸命考えている時間を、ぜひ楽しんで見てほしい」という言葉は、保護者にとって大きな励みとなるに違いない。
算数オリンピックの前哨戦として開催された本イベントでは、難問に挑み、答えにたどり着けなくても思考の過程を楽しむ子供たちの姿が印象的だった。「できたかどうか」ではなく、「どう考えたか」。その価値観を、子供だけでなく保護者も体感する1日となっていた。知識量や処理速度だけではなく、未知の問題にどう向き合い、どう考え抜くか。その姿勢そのものが問われる時代になっている。
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