2026年8月2日、東京都港区で開催された「医学部進学フォーラム2026」で、駿台グループ 駿台医学部専門校 教務統括の細谷一史氏が「他では聞けない! 最新医学部入試情報!」と題した講演を行った。会場は立ち見が出るほどの盛況となり、医学部受験を目指す受験生や保護者の関心を集めた。

細谷氏が「医学部定員削減の動きに加え、受験パターンはますます多様化している。いかに早く正確な情報をつかみ、戦略的に準備を進められるかが重要になる」と強調する理由とは。本稿では、細谷氏が語った最新の医学部入試動向と受験戦略をレポートする。

医学部定員は減少傾向、今後はさらに狭き門に
医学部医学科の入学定員は、2024年度から減少傾向に転じており、今後も減少が続く見込みである。背景にあるのが、厚生労働省が示した定員適正化の方針だ。これまでは臨時定員が多く設置されていたものの、厚生労働省は2027年度の医学部定員について、地域の実情に配慮しながら臨時定員を削減する方向性を示し、特に医師多数県での削減を進める方針を発表した。

「『地域枠は楽だ』『地域枠はチャンスだ』という従来の認識は通用しなくなる可能性がある」と細谷氏は指摘する。今後も、削減されていくことが見込まれるため、今の中学生や高1、高2生は、より医学部に入学することが難しくなる可能性が高い。
学校推薦型選抜・総合型選抜が標準化し9月から入試本番へ
昨今の医学部入試におけるもう1つの大きな変化が、受験パターンの多様化である。ひと昔前の医学部入試は国公立大か私立大かの二者択一の様相があったものの、今は他学部他学科同様に学校推薦型選抜・総合型選抜が増えている。学校推薦型選抜・総合型選抜は早い大学では9月から出願・試験が始まり、その後、1月には共通テスト、私立大、国公立大前期、後期と3月まで入試が続くことになる。9月から翌年3月まで長期間にわたって入試本番が続くことになり、医学部受験はまさに体力勝負。細谷氏は「受験生本人だけでなく、それを支える保護者も倒れないようにしてほしい」と呼びかけた。

他学部では「チャンス・ねらい目」とされることもある後期日程や共通テスト利用入試は、医学部においては募集枠自体が極めて少ないため安易な期待は禁物だ。一方で、学校推薦型選抜・総合型選抜が医学部受験でも存在感を増している。医学部の学校推薦型選抜・総合型選抜の募集人員は毎年増加しており、全国で2,000名を超え、今や募集人員全体の23%ほどを占めるまでになった。医学部受験に戦略的に取り組むなら、10月から始まる推薦・総合型選抜に挑戦しない手はない。

ここで気をつけたいのは、学校推薦型選抜・総合型選抜による医学部受験は比較的新しい動きであり、経験値が十分ではない高校が少なくないことだ。細谷氏は「『うちの高校はまだその形で受験したことがない』『合格者が出たことがない』と言われたからといって選択肢から外してしまうのはもったいない」と話す。現在の医学部の学校推薦型選抜・総合型選抜は私立大・国公立大ともに10~11月ころから本格的な選考が始まり、大半で学科試験が課されるため、他学部以上に早い時期から高度な学力対策を進める必要がある。
共通テストの結果が国公立大医学部の志願動向を左右
学校推薦型選抜・総合型選抜が終了すると、いよいよ共通テストを中心とした国公立大医学部入試が本格化する。2026年度国公立大医学部入試の志望動向を振り返ると、志願者数は大きく減少している。学費が安い国公立大医学部を望む受験生が多い中、一見すると意外な結果だが、物理が難化し、理想とする点数が取れず出願自体を諦めたしまった層が非常に多かったことが背景と見られる。

しかし、受験生全体の得点が伸び悩んだ結果、物理の得点率が6割台でも国公立医学部に合格したケースもあった。そのため、細谷氏は「共通テストは昔のセンター試験とは別物と考えるべきだ」と指摘。「周囲の大人が『9割取れなければ医学部は無理』といった過去の感覚で判断すると、受験生が必要以上に自信を失ってしまう可能性がある。それだけ共通テストが難しくなっているので、周囲の大人が認識を変えていかなければならない」と警鐘を鳴らした。
関東地区の国公立大医学部(筑波大、群馬大、千葉大、東京大、東京科学大、横浜市立大)の入試結果を見ると、2026年度は全体的に前年度より倍率が低下したものの、多くの大学で依然として3~5倍前後の高倍率を維持している。
しかし細谷氏によると、これでも例年に比べ低い水準だったという。唯一前年度より上がっている千葉大は、他大学への出願を検討していた志願者が流入したことが要因で、関東圏の受験生は千葉大以外にも全国の医学部へ志望先を広げており、例年以上に志願者の動きが活発だった。

こうした中、細谷氏が特に注目したのが、群馬大の倍率2.3倍という数字だ。倍率だけ見ると「ねらい目だったのではないか」と思いがちだが「怖いのは倍率だけで判断すること」と釘をさす。
駿台全国模試データによると、群馬大合格者における英語・数学・理科2科目の平均偏差値は、2023年度53.7、2024年度53.4、2025年度54.7と推移し、2026年度は56.0まで上昇したという。細谷氏は、「倍率が下がった一方で学力上位層が集中したことを示している。倍率が低くなったから簡単になったわけではなく、むしろ少数精鋭の厳しい勝負になっているということ。群馬大はふたを開けてみたらやや上位の大学と同水準の偏差値帯で、『志望校を変えなければよかった』と感じた受験生も少なくなかった。こうした事例こそ『入試は情報戦』と言われる理由だ」と語った。

国公立医学部受験において、合格へのカギは「共通テスト」にある。たとえば、2次試験の配点比率が高いことで知られる横浜市立大や筑波大でも、2025年度入試のデータを分析すると、共通テストで高得点を獲得した受験生がそのまま合格しているケースが見られた。「2次試験の比率が高い大学であっても、共通テストが難化している現在は、まず共通テストでしっかり得点することが合格への近道になる」と細谷氏は強調した。
しかし、共通テストが難化しているからといって、「東大入試レベルまで勉強しておけば医学部も受かるだろうという思い込みは危ない」という。「東大受験と医学部受験は勉強の方向性が本質的に異なる。駿台で東大コースと医学部コースで校舎を分けているのは、医学部受験がそれだけ専門性の高い受験だということ。医学部合格を目指すなら、その入試に最適化した準備を進めることが何より重要だ」(細谷氏)。
私立大は入試スケジュールが志願者数を左右、偏差値のみの判断は危険
私立大医学部入試の動向については、2026年度の医学部入試では国公立大志望者が減少した分、私立大志望者が著しく増加し、延べ11万人を突破した。共通テストの結果を見て急遽私立大に転向したり、「浪人するくらいなら受験機会を広げたい」と出願可能な私立大を複数受験したりするケースも目立った。共通テストの結果によって志望校を変更する流れは2027年度以降も続くだろう。

大学別に見ると、2026年度は志願者数が増えた大学と減った大学の差が大きかった。各大学の志願者数に大きな影響を与えるのが、入試スケジュールだ。
受験生は複数の大学を併願するため、試験日程を踏まえながら受験プランを組み立てる。その中で「どの大学なら合格しやすいか」を予測し、特に試験日が集中する2月1日から4日にかけては、「偏差値の低い大学を受験したほうが有利ではないか」と考える受験生も少なくない。しかし「偏差値を参考にすることは大切だが、本番では偏差値1~5の差が決定的な違いになるわけではない」と細谷氏は指摘する。

同日に複数の大学の入試が重なった際、偏差値が比較的低いとされていた大学に受験生が殺到し、合格者の学力層が跳ね上がる「逆転現象」が起こることがある。駿台全国模試の偏差値では比較的低いとされていた大学に、実際の入試では「受かりやすいのではないか」と考えた受験生が集中した結果、合格者の学力層は必ずしも模試の偏差値の序列どおりにはならなかったケースも少なくない。
「偏差値が低い大学ほど受かりやすい、という単純な見方は成り立たない。2027年度も2月1~4日に多くの大学の試験日が重なり、特に4日は6大学が集中する。だからこそ、偏差値だけで受験校を決めるのは避けてほしい」(細谷氏)。

受験校の選定においては、偏差値が多少違っても、過去問との相性が良い大学を選ぶべきだが、「『ここだけ対策すれば良い』という近道思考は非常に危険」とも指摘。医学部入試は基礎力の上に成り立つ試験。その土台を固めたうえで、大学が何を求めているのかをしっかり調べ、個別相談会なども活用しながら、各大学の出題傾向に合わせた対策を積み重ねることが不可欠だ。
増える受験対策と生成AI時代の面接改革
現在の医学部受験において、求められる対策の「質と量」は大きく変化している。かつてセンター試験の時代は、センター試験対策がそのまま私立大対策につながっていたため、受験生はセンター試験対策と国公立大2次試験の2つの対策を中心に進めれば良かった。しかし、共通テストになった現在は状況が大きく変わり、共通テスト、私立大、国公立大2次試験で求められる力や出題傾向が異なるため、それぞれに対応した対策が必要になっている。

「今は基礎固めだけでは合格できない。いかに効率よく3つの対策を進めるかが重要になる。多くの大学の過去問に取り組む時間を確保するためにも、少なくとも8月から過去問演習を始めるべき」(細谷氏)。
さらに、9月以降は学校推薦型選抜・総合型選抜の出願、志望理由書の作成も始まる。加えて、医学部入試ではすべての大学で面接試験が課されるため、学科試験だけでなく、早い段階から書類や面接の準備を進めておく必要がある。
こうした中で注目されるのが、生成AIの普及による変化だ。学科試験対策の負担が大きいことから、受験生の中には生成AIを活用して志望理由書を作成したり、面接対策を行ったりするケースが増えているという。その結果、志望理由書や面接の受け答えが似通った内容になるという問題が生じている。

当然、大学側も生成AIへの対策を進めている。面接試験において、複数の受験生で討論を行わせたり、複数の面接室を巡らせてさまざまな問いを課す「MMI(Multiple Mini Interview)」を実施したり、定型的な受け答えが通用しない形式を増やしている。2026年度入試でも、多くの大学がMMI方式を採用している。AIの進歩とともに面接の形も変わっている。ありのままを話せば大丈夫、この回答を覚えておけば大丈夫、といった従来型の対策ではもはや通用しない。その場で考え、自分の言葉で説明する力がこれまで以上に求められている。

ICTツールを使いながら学習の効率化を図る一方で、志望理由書や面接といった自己表現が求められる場面では、生身の人間による指導やフィードバックは依然として重要だ。細谷氏は「AIやICTを上手に使いながらも、使われる側になってはいけない」と語り、医学部合格に向けて主体的に学び続けることの大切さを訴え、講演を締めくくった。


