【NEE2012】教育クラウドで地域産業の活性化と児童の自発的総合学習

 いまや学校にPCを導入したりネットワークをにつなぐだけのIT化の時代は終わったといえる。現在、学校校務や授業においてもクラウド利用が進もうとしている。

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マイクロソフト 文教ソリューション本部シニアインダストリーマネージャーの滝田裕三氏
  • マイクロソフト 文教ソリューション本部シニアインダストリーマネージャーの滝田裕三氏
  • MSのクラウドソリューション。オンプレミス製品とほぼ対応している
  • セキュリティ要件を満たすべく豊富なセキュリティ機能をサポート
  • 和歌山市立教育研究所 専門教育監補の角田佳隆氏
  • 和歌山市のICT化は平成17年からの10か年計画の途中
  • 平成17年までのシステム
  • 平成17年からまずはホスティング利用でメンテナンスコストを削減
  • 平成23年からのクラウド化によって教育ICT環境が変わる
 いまや学校にPCを導入したりネットワークをにつなぐだけのIT化の時代は終わったといえる。現在、学校校務や授業においてもクラウド利用が進もうとしている。New Education Expo 2012において6月8日、教育現場でのクラウド利用について和歌山県和歌山市と千葉県印西市の事例を紹介するセミナーが開催された。

 両市の事例は、ともにマイクロソフトのソリューションを利用したもので、セミナーの冒頭、マイクロソフト 文教ソリューション本部シニアインダストリーマネージャー滝田裕三氏が、同社の教育クラウドへの取組みや製品を紹介した。

 マイクロソフトは、オンプレミス(使用者が管理する設備内に導入・運用する形態)のWindows Serverのほか、クラウドプラットフォームであるWindows Azureをベースとしたソリューションを2本立てで提供している。SQL、SharePoint、Exchange、Lync、Officeなどは、オンプレミス版とオンライン版が用意されており、学校のニーズに合わせてソリューションを提供しているそうだ。

 また、Windows Intuneというサービスは、Windows Serverなどオンプレミス製品のセキュリティや管理をクラウドサービスとして提供してくれるとし、学校校務や授業でのICT化支援に活用されているとした。

◆人口減、予算減だからこそICTに投資する…和歌山市

 このような製品やソリューションを使って、どのような学校運営や授業ができるのだろうか。事例の紹介は和歌山市の取組みから始まった。登壇したのは、和歌山市立教育研究所 専門教育監補の角田佳隆氏だ。

 和歌山市の場合、教育のICT化に力を入れることになった背景には、人口減の問題と地域の産業振興の施策があったという。同市は財政破たんの危機さえ迎えたことがあるそうだが、その対策として切り詰めるところは切り詰めながらも、地域の将来を担う子供たちへの教育へはむしろ投資を続けたそうだ。ITに力を入れたのは、今後の産業に不可欠なスキルのひとつであり、グローバルな考え方を身につけることができるのではないかという理由による。

 和歌山市は電子黒板の導入では全国1位であり、取組みの初期に小学生で、当時の授業からITやコンピュータに興味をもち地元の機械メーカーに就職し、デザインを担当しているという女性が紹介された。

 和歌山市のICT環境は教育委員会が所有するサーバーとINSなどのネットワークがベースだった。しかし、これにはメンテナンスコストや人員の問題があり、角田氏をはじめ研究所や教育委員会のスタッフ、教育指導主事などがSEのような業務に時間をとられるという課題が持ち上がっていた。そこで、平成17年からサーバーをデータセンターへホスティングすることにした。これで、システムのメンテナンスや運用に時間をとられることはなくなったが、ハードウェア、ソフトウェアの所有コストの問題は残った。ホスティングは6年ごとの契約だったそうだが、特にハードウェアやソフトウェアの入れ換えコストの負担が大きな問題だったという。

 平成23年からは、システムの陳腐化対策、リプレースコストを低減するため、ホスティングしているサーバーを可能なものからクラウドへ切り替えているという。

 現在、同市はOffice 365とLyncを2400ライセンス契約し校務や授業に活用しているという。校務用や児童用のPCや端末についてはWindows Intuneを導入し、端末やソフトウェアのリソース管理を行っている。校務では、ポータルサイトやグループウェアを駆使し、授業では各種の電子教材を活用している。Lyncは海外を含む他校との共同授業や遠隔授業などで効果を発揮しているという。角田氏によれば、テレカンファレンスやテレプレゼンスは、Skypeでも可能だがLyncのほうが海外とのやりとりでもファイル共有やデスクトップ共有、画像の動きなどがスムースで品質が安定しているそうだ。

 また、クラウド利用によって、職員や児童は家からも校内イントラネットに接続でき、仕事や勉強ができるようになった。自宅でも作業をすることを問題とする考え方もあるが、効率や時間の有効活用という面では効果があるようだ。

 和歌山市では、教育のICT化には災害対策という側面も取り入れている。災害時の情報収集、緊急連絡、遠隔授業などへのクラウドおよび校内イントラネットを活用する。このとき、WiMAXとWiMAXルーターも積極的に利用しているという。災害時に有線ネットワークが遮断された場合のバックアップ回線としても利用できるからだ。また、耐震工事のため、後から校内LANを敷設することが困難な校舎についても、ネットワーク化するためにも無線接続は必要だったという。

◆児童のブログ、学校HPに広告掲載し総合学習につなげる…印西市

 続いて印西市の事例紹介として、印西市立内野小学校 教頭の松本博幸氏の講演に移った。

 印西市では、成績データなど機微なデータはオンプレミスのサーバーで管理しているが、学校ホームページなど可能なところからクラウド化を進めているという。将来的には利用を広げて全面的にクラウド化したい意向だそうだ。

 同校では、クラウド活用の目的を、児童の情報リテラシーと言語能力の育成、21世紀型コミュニケーションスキルの習得、主体性のある児童を育て、職業生活に前向きに考え、社会に積極的に参加、貢献できるようにする、としている。

 そのため、「学校こどもサイト」を立ち上げ児童にその運営をまかせるという取組みを行っている。学校こどもサイトは、自分たちの学校をいろいろな人に知ってもらおうという広報サイトだが、その企画、コンテンツ作り、コメント管理など運営のほとんどを児童に任せている。

 その活動の中で、どんなコンテンツがいいのか、どうすれば内容を伝えることができるのかを考えるようになり、個人の日記などと違う責任感や考え方を身につけてもらうことを狙っている。さらに、PVやコメントなどによって読者の反応から、どうすればもっと見てもらえるかといった課題克服のための戦略的な発想も育てることができる。

 その結果、学校こどもサイトでは、児童が自主的に地域調べを行って、コンテンツを作ったり、CMを作ったりという活動が生まれているそうだ。そして、このような取り組みを学級新聞にも広げている。

 講演の中で興味深かったのは、学校こどもサイトはJimdoというCMSを利用しているのだが、無料版には広告が表示されてしまう、フル機能が使えないといった制約がある。これをなくすには、有料版を導入すればよいのだが、その原資確保のため地域企業などのバナーの導入を検討しているという。

 学校のサイトであり児童が運営しているということで、広告バナーの導入には異論や問題もあるかも知れないが、金額も月1,000円程度のターゲットであるため、児童の主体性を育てる、社会とのかかわりを深めるといった当初の目的とも整合するのではないかとの判断だ。

 なお、同校のクラウドシステムには、Exchange Online、SharePoint Onlilne、Lync Online、Office Web Appsなどをソリューションとして利用している。学校こどもサイトは、前述のJimdoがベースだが、コンテンツ作りのための作業予定や連絡にExchange、サイトの下書きにOne NoteやShrePointのファイル共有を活用している。コンテンツ作りにはWordなどのOfficeアプリを活用し、LyncはWeb会議などに使っている。

 同校では、校務や授業にもこれらのシステムを活用しているが、今後はクラウド環境をベースに、児童全員にタブレットを持たせOffice 365とデジタル教科書と組み合わせ、全体の学習プログラムを再編成していきたいとした。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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