【AO入試の基礎3】子どもは本当にAO入試で受験するべきですか?

 AO入試や推薦入試を受ける予定の子どもの保護者の質問に、教員経験をもち、総合キャリア支援団体「MyCareerCenter」を運営する岡村洋平氏が答える連載「AO入試の基礎」。第3弾では、AO入試の概要と特徴について聞いた。

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◆AO入試のデメリットやリスクとは何か【1】

 AO入試のデメリットやリスクは、大きくは5つ挙げられます。1つめは、学力による一般入試のような「わかりやすさ」に欠けるので、保護者にもお子さまにも、常に不確かな気持ちがつきまとうことです。AO入試には、一般入試のように、模擬試験や偏差値といった明確な指標がありません。そのため、合格と現在の自分自身との距離が非常に測りにくいです。

 このため、一般受験に比べ、「果たして合格できるのだろうか」といった不安感やプレッシャーは強くなりがちです。逆に言うと、「わかりやすさ」がある一般入試は、やるべきこともはっきりするので、対策を行うモチベーションが高まるというお子さまも、決して少なくはないはずです。

 2つめは、AO入試の勉強は、実は一般入試の勉強と両立しがたいことです。AO入試の対策は、本気で行う場合には、大学で学べることや、自分自身が学びたいことについて必要なことをリサーチしたり、自分の過去を振り返ったり、その過程でさまざまな人から話を聞いたりと、正直、時間と労力がかかります。

 それでいて、AO入試で求められる力は一般入試で求められる「学力」とは異なる部分が少なくありません。そのため、AO入試の対策に注力すればするほど、一般入試の対策には時間がとれなくなります。AO入試の試験日によっては、多くの受験生が一般受験の対策に最も熱が入る高3の夏休みが、AO入試の対策に費やされることになります。このことは、もしも一般入試での受験をすることになった場合は、ビハインドを抱えることになるでしょう。

 3つめは、一般受験で入学した学生と比べると、AO入試で合格した学生は、いわゆる基礎学力が劣ってしまうことがあることです。一般入試での合格者は、ある程度の学力を担保しているわけですし、また、大学側も、その学力レベルを基本として大学の授業を行うことがほとんどです。

 最近では、AO入試での合格者を対象に、大学に入学してから困らないように、合格後に補修を行うところやも少なくありません。とはいえ、AO入試での合格者が、入学後に授業についてこられないケースがあることは、多くの大学関係者が指摘しているところです。高い目的意識が評価されて入学が決まったところまではよくても、授業についていけないのでは入学後に苦労をすることになり、結局は本末転倒になってしまいます。

◆AO入試のデメリットやリスクとは何か【2】

 4つめは、人によっては、大学への目的意識を明確にすべき「ではない」ケースもありえることです。一般的には、大学入学前から学びたいことや将来の目標が決まっていると言えば、「意識が高い高校生」のように映るかもしれません。ただ、人によっては、実際、それはごく限られた経験・限られた視野の中で決めた、思い込みに近いものだという場合もあるでしょう。

 それよりは、むしろ「なんとなく」で大学に入ったとしても、入学後に大学生という立場を生かしてさまざまな活動に従事し、視野を拡げ、その中で自分が学びたいことや将来の目標を決めた方がよほどよいかもしれません。高校生までと大学生とでは経験できることの幅が大きく異なります。

 そのため、「大学に入ってから将来を模索する」というスタンスは、あながち間違っているわけではないのです。AO入試の対策ありきで、高校までの経験で将来の目標を決めにかかってしまうようなことがあれば、それもまた本末転倒ではないでしょうか。

 5つめは、AO入試で合格した場合、それは、受験勉強という重要な学習機会の1つを失なわせることでもある、ということです。というのは、いわゆる「受験勉強」は、お子さまにとっては、苦労や挫折を味わう経験だったり、なんらかの犠牲を伴う経験だったりします。しかしその一方では、一定の期間、目標に向かって努力を継続させる経験だったり、その結果として自信や成功体験を得る機会だったり、プロセスにおいては勉強の方法を学ぶ機会だったり、自分の得意・不得意を知る機会だったりもするわけです。

 受験勉強が、単に知識を得るに留まらない、大きな学習の機会であり成長の機会だったことは、受験を経験した保護者であれば、思い当たるところがあるのではないでしょうか。


 また、AO入試で一般入試よりも早く合格し、その分得られる「自分の時間」を、どこまで「活用」できそうかも重要です。もしもAOでの合格から大学入学までの期間が、単なる「受験勉強をしなくていい期間」になってしまうのであれば、積極的に一般入試を選択した方が、お子さまにとっての成長の機会を提供することになることもあるはずです。

◆メリットとデメリットを考慮したうえで、AO入試にするべきかを検討するべき

 以上、AO入試のメリットとデメリットやリスクについて説明しました。AO入試対策は、そのプロセスで、デメリットやリスク以上のメリットが経験できるようでなければなりません。あるいは、そのようにできるように指導がなされる必要があるでしょう。AO入試を受験するかしないかは、これ上述の観点を踏まえたお子さまにとって向いているか、そうでないかを判断していただきたいと思います。

 ただ、お子さまがAO入試に「向いていない」と感じたからといって、AO入試で求められるような、大学で学ぶ目的意識や将来への目標等をイメージする努力が必要だということは強調しておきます。というのも、実際、現在進められている大学入試改革は、現在のAO入試で取り入れられているような観点を、より多くの受験者に対しても適用しようとしているからです。

 今後、今述べてきたようなデメリットを抑え、メリットが生かせるように、大学入試全体が改革されていくことでしょう。その意味では、「向いているか向いていないか」は、「どの入試制度を選択するべきか」という現実的な判断にあたって必要とされるにすぎません。学ぶ目的や将来への目標は、一般入試を受験する際にも、必ず意識させるようにしてください。
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 連載「AO入試の基礎」は、AO入試や推薦入試を、学生やその保護者が受験をする際の「前向きな選択肢のひとつ」にするべく掲載されるシリーズ。

 次回からは、AO入試の対策についてより具体的に取り上げる予定。

《編集部》

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