Z会×KDDIの新学習プラットフォーム、まずは私立中高一貫校から導入へ

 KDDIとKDDI研究所、通信教育のZ会を運営する増進会出版社の3社は、8月18日、2015年度中に文教市場に向けた教育サービスを共同で提案・販売することを発表した。Z会ICT事業部長の草郷雅幸氏に話を聞いた。

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Z会ICT事業部長の草郷雅幸氏
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 KDDIとKDDI研究所、通信教育のZ会を運営する増進会出版社の3社は8月18日、2015年度中に文教市場に向けた教育サービスを共同で提案・販売することを発表した。3社は、2016年春に学校向け学習プラットフォーム「StudyLinkZ(スタディリンクス)」の稼動を目指す。

 StudyLinkZは、「デジタル教材」「授業支援システム」「校務支援システム」を搭載した学校向け学習プラットフォーム。文教市場における教育ICT機器の利用や通信環境の構築については、教育現場で実証実験を行ってきた経験を持つKDDIとKDDI研究所の知見が生かされる。

 StudyLinkzで提供されるデジタル教材は、Z会が提供。Z会は私立の中高一貫校へ教材を提供してきた実績がある。ネットワーク構築のサポートやデジタル端末の提供など、ハード面はKDDIの2社が担い、教材コンテンツのソフト面にはZ会の経験が生かされる。

 政府が閣議決定を行った「2020年までに1人1台の情報端末を配備」という提言をはじめ、学校教育のICT化が進むなか、3社はどのような新サービスを文教市場に提供する考えなのだろうか。3社の業務提携に携わった、Z会ICT事業部長の草郷雅幸氏にStudyLinkzの具体的内容や今後の展開について話を聞いた。

◆ハードのKDDI、ソフトのZ会

--業務提携に至った経緯を教えてください。

草郷氏:2020年に大学入試のあり方が変容することを受け、高大接続や「1人1台に情報端末」といった環境を整えるために今、教育現場が大きく変わり始めています。Z会はこれまで紙を基盤とした学習コンテンツを提供してきましたが、教育の未来を考えるとZ会もこの学校教育のICT化に対応する必要があると考えました。

 そこで、学校教育の現場でネットワークを整えサービスを提供してきた実績を持つKDDIと、学校現場での実証実験経験が豊富なKDDI研究所に共同のお声掛けをし、より良い教育ICTサービスを開発、提供していくことを目標に業務提携契約を結びました。KDDIグループには、2015年の春から具体的に提案に伺いました。3社それぞれの強みを生かしたプラットフォームとしていく予定です。

--3社の役割はどのようになるのでしょうか。

草郷氏:StudyLinkzは、「デジタル教材」「授業支援システム」「校務支援システム」を備えた文教市場向け学習プラットフォームです。2016年春からの稼動を目指しており、プラットフォームの販売にはZ会の販売チャネルを利用します。また、「デジタル教材」はZ会の英語教科書「NEW TREASURE(ニュートレジャー)」を利用します。

 KDDIグループには、ネットワーク構築やデバイスの提供、ICT指導を担って頂く予定です。KDDIグループは通信環境の整備からサービスの提供、ICT利活用に関する豊かな経験をお持ちのため、それらをグループ内で一度にまとめて行える、つまりワンストップな環境であることが魅力的、かつ最大の特長ですね。KDDI研究所には、今後デジタル教材への搭載が検討されている「理解度推定技術」の面でサポートをして頂く予定です。

◆デジタル教材には中高一貫校向け英語教科書「NEW TREASURE」を採用

--StudyLinkzで利用できる3つのサービスについて教えてください。

草郷氏:まず、「デジタル教材」にはZ会の英語教科書「NEW TREASURE」を利用します。NEW TREASUREは、現在全国の中高一貫校で利用されている紙を媒体とした英語教科書です。実際に利用している先生や生徒さん方からは「難しい」との声も頂きますが、問題集や音声CDが付属されており「バランスよく学習に取り組める」と好評を得ています。

 NEW TREASUREをデジタル化する際には、リスニングのほか、スピーキングにも対応した機能を搭載する予定です。タブレットを利用し、ペアワークを可能にすることも考慮しています。学習履歴もデータとして残せるようになり、個人の成績データも閲覧可能です。

 また、まだ先の予定ですが、デジタル教材にはKDDI研究所の「理解度推定技術」をさらに発展させてアダプティブラーニングサービスを共同研究開発し、生徒ひとりひとりの学習の効率化も図る予定です。この技術は、一部の解答結果から各学習単元の理解度を推定する技術のことで、苦手な学習単元の原因を推定でき、より効果的な学習や指導が可能になります。

 カリキュラムが決まっている学校教育の場に理解度推定技術によるアダプティブラーニング(適応学習)を適応させるのは現状、難しいことですが、学習指導要項が変化したり、生徒ひとりひとりが自分に合った進度で学習を進めるような未来が来たならば、その際に個人学習に効果を発揮するものと思い、開発を予定しています。

 2016年春のサービス開始時のデジタル教材はNEW TREASUREのみですが、その次は数学のデジタル教材化を検討中です。また、スタート時には先生方の校務や授業を支援するサービスも同時に利用可能となります。

◆授業支援システムはテスト後のフィードバックにも対応

--「授業支援システム」と「校務支援システム」について教えてください。

草郷氏:「授業支援システム」は、先生方が授業で電子黒板やタブレットを利用する支援を行うものです。教育ICTを授業にフル活用したい、という先生の期待にも応えられるものになるでしょう。

 授業支援システムの特徴のひとつは、「テストエディタープラス」ですね。従来の支援システムにもテストを作成する機能がよく搭載されていたと思いますが、作成後のフィードバックを支援するものは珍しいでしょう。テストエディタープラスは、範囲を指定するとテストを自動的に作成する前工程と、作成したテストを自動採点し、成績を記録するまでの後工程をサポートします。

 授業のほか、先生と生徒の連絡手段やスケジュール管理、生徒情報を管理できる「校務支援システム」も搭載予定です。学校行事を管理できるカレンダーや、生徒との面談記録を残せる個人情報管理機能が開発される予定で、順次内申点や成績管理もできるよう開発を進めています。

◆ICT利用のサポートも検討

--StudyLinkzの導入校は決定していますか。

草郷氏:まさに今各学校へのお声掛けを始めたばかりです。NEW TREASUREを利用している私立の中高一貫校を中心にお声掛けをしていますが、教育ICT情報に関心が高い学校に向け販売プロモーションを行っていきたいですね。教育委員会単位ではなく、学校単位で導入をして頂くことになりそうです。

--教育ICTの導入に不安をお持ちの先生も多いと思いますが、そのような先生へのサポートはお考えですか。

草郷氏:どのような形態でサポートをするかは未定ですが、先生方がICTをうまく利用する手助けをする必要はありますので検討しています。

 私見ですが、学習プラットフォームが必ずしも細かい機能を備える必要はなく、シンプルに使えることのほうが重要だと考えます。先生方が創造力を働かせながら授業にICTを導入できることが望ましく、機能の細分化が使い方を制限することのないようにしたいものです。

 教育ICTを導入している学校では、「(雑務が減り授業が効率化されたことで)先生が授業をしている時間が長くなった」「生徒が学習している時間が増えた」「生徒が集中するようになった」などの声を聞いています。3社が共同し、先生や子どもたちにより良質なコンテンツや教育ICTサービスを提供していきたいと思っています。

--ありがとうございました。

 3社による新プラットフォーム「StudyLinkz」の開発はまだ始まったばかり。サービス名や機能は、導入校の反応や3社による研究によって変更になる場合がある。今後のStudyLinkzに関する新情報は、Z会やKDDI、KDDI研究所が都度発表する予定だ。
《佐藤亜希》

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