埼玉県立熊谷高等学校の課題探究学習「熊高ゼミ」にMOOC活用、伝統校の先進的な挑戦

 埼玉県立の伝統校で男子校である熊谷高校では、総合的な学習の中で1年生に対して「ひとり一研究」という活動「熊高ゼミ」を5年ほど続けており、今年はプレゼンテーションの事前学習にMOOCを活用した。

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熊高ゼミのようす
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  • 熊高ゼミは2011年度、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定された
  • FisdomにアクセスするためのQRコードを1年生の各教室に張り出し、希望者はそれを読み取ることで、受講できるようにした
 アクティブラーニングや反転授業の有効性が注目される中、MOOC(大規模公開オンライン講座;Massive Open Online Course)に代表される講義映像を、授業の事前学習や予習に使い、議論やディベートを展開する学校が少なくない。また、授業の補助やスキルアップにも利用できるのがMOOCの特長だ。

 埼玉県立の伝統校で男子校である熊谷高校では、「総合的な学習」の授業の中で1年生に対して「ひとり一研究」という活動「熊高ゼミ」を5年ほど続けており、今年はプレゼンテーションの学習にMOOCを活用した。「熊高ゼミ」の取組みとMOOCの活用について、細川佳代教諭に聞いた。

◆SSH指定校のMOOC活用

 「熊高ゼミ」は、同校がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定された2011年度(平成23年度)に始まった取組みで、細川教諭によると「ゼミに参加する形で、生徒たちが教員の指導のもと個々に研究テーマを設定し、その研究結果を学年末に全員が発表します。MOOCは、プレゼンテーションの方法やコツを学んでもらうために利用しました。」と説明する。

 SSH指定のタイミングで始まった「熊高ゼミ」であるが、必ずしも理系に特化した取組みではない。ひとり一研究で生徒全員参加を促し、全員に発表の場を与えることで、研究のモチベーションを上げるとともに、これからの社会で求められる課題解決能力や、自分の意思や考えを伝える能力を身に付けてもらうことを目指しているという。

◆プロに学ぶプレゼンテーション

 ゼミは、各教諭が担当科目や得意分野をベースに理系、文系問わず立ち上げる。歴史、英語、論語や古典のほか、数学、物理、化学、生物といった理系のゼミなど、今年度は全16のゼミが設定された。中には「柔道」の型を研究、披露するゼミもあった。

 研究の指導はゼミの担当教諭が行うが、研究発表会のプレゼンについて、指導できる先生は多くない。資料の作り方、ストーリー立て、話し方、アイコンタクトの方法など、プロフェッショナルの指導が本来は必要だ。

 これを補うため、昨年10月、プロの講師によるプレゼンのセミナーを開催した。セミナーは富士通の教育関連会社でビジネスパーソン向けに提供されていたセミナーを高校生向けにアレンジしたものだった。生徒の評判もよく、先生方からも参考になるという声が上がった。

 「生徒がいつでも復習できるよう、コンテンツによるサポートがあればいいと思いました。」と細川教諭は語る。これをきっかけに、富士通が制作したのが、今回活用した、無料で学べるオンライン講座Fisdomの「伝わるプレゼンテーション ~想いの伝え方と聞き方~」だ。

 Fisdomは、富士通が提供するMOOCのプラットフォームで、同講座のほか、歌唱発声法を学べる「人生が輝きだす!YUBAメソッド 声の力で夢をつかむ!」、情報リテラシーや技術系の基礎科目シリーズを誰でも無料で、時間の縛りなく学ぶことができる。

 「MOOCのオンデマンド配信なら、学校の先生が専門でない分野を専門家の指導で、生徒の空き時間に学べることが魅力です。今回の事例は、プレゼンテーションスキルという、いわば教科の授業では学ぶことのできない『隙間』を埋めてくれるものでもありました。」と細川教諭はMOOC活用のメリットを説明してくれた。

 近年、教育改革の議論では、課題解決能力、グループディスカッション、教え合いといったスキルが注目されている。これらを実践するためには、プレゼンテーションスキルも問われる。このような状況で、MOOCやオンライン学習は授業内容を拡張するツールとなりうる。情報リテラシーやプログラミング教育についても、同様なことがいえるだろう。

◆発表を工夫することで質疑応答も活発化

 「伝わるプレゼンテーション ~想いの伝え方と聞き方~」のベースとなったコンテンツは、ビジネスパーソンの研修にも使える内容だった。発話方法、アイコンタクト、スライドと説明バランス、要点のまとめ方、時間配分といったポイントごとに5分から10分程度の講義にまとめられており、すべてを受講すると40分程度となる。聞く側の態度や受講後に知識の定着を測る課題テストも用意されており、実践的な内容となっている。

コース内容

学習目標

 「熊高ゼミ」に合わせた活用では、FisdomにアクセスするためのQRコードを1年生の各教室に張り出し、希望者はそれを読み取ることで、受講できるようにした。

 発表会の準備が活性化する中、発表会直前には講座のアクセス数も急伸した。発表会当日は、「質実剛健・文武両道・自由と自治」を校風とする熊谷高校のカラーが生かされ、おおいに盛り上がったという。

 今年度の「熊高ゼミ」の発表で、細川教諭をはじめとする先生方が感じたことは、「発表そのものの質の向上」「生徒のスキルアップ」とともに、「以前より質疑応答が活発になったこと」だという。生徒たちは特に、講座の中でも語られていた「聞く意識」の定着により「よい質問をすることを意識していた」ようだ。

 プレゼンテーションや質疑応答の大切さを、発表準備時での声かけに加え、プロによるセミナー、MOOCによる自習環境を提供することで問いかけ続けた効果ではないかと、細川教諭は分析する。Fisdomを受講した生徒たちは、それぞれプレゼンテーションのポイントや、人にものを伝えるコツなどの知識を身に付けている。そのため、「人の発表も注意深く聞くようになり、気付きも増えたのではないか。」と細川教諭は話してくれた。

 子どもたちは、知識や教養としての教科だけでなく、実践的な応用力も求められている。特に文部科学省は、アクティブラーニングの視点である「主体的・対話的で深い学び」を次期学習指導要領の目玉のひとつとしており、今後、学校現場においても、熊谷高校のようなMOOC活用の取組みが活性化することが予測される。「熊高ゼミ」でのMOOCの取組は、そんな可能性を示してくれた。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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