「虫歯」だけじゃない、子どもの口腔内に潜む危険と対処…第7回歯科プレスセミナー

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日本私立歯科大学協会が行った「第7回歯科プレスセミナー」
  • 日本私立歯科大学協会が行った「第7回歯科プレスセミナー」
  • 日本私立歯科大学協会 会長 井出吉信氏
  • 松本歯科大学歯学部部長・同学歯学部口腔病理学講座教授で、口腔病理医でもある長谷川博雅氏
  • 愛知学院大学歯学部口腔病理学講座教授・日本病理学会口腔病理専門医研修指導医である前田初彦氏
 日本私立歯科大学協会は3月9日、歯科医学・歯科医療から国民生活を考える「第7回歯科プレスセミナー」を都内で開催した。「虫歯」と「歯周病」以外の口腔をめぐる病気、アジアにおける歯科医療と日本の立場について、講演を行った。

 「日本私立歯科大学協会」は昭和51年(1976年)設立、約40年の歴史を持ち、日本のすべての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟している。日本の歯科医学教育・研究・医療の発展のため、情報発信や交換を行う団体として活動しており、今回のセミナーもその一環として実施した。それぞれのエキスパートが、最新の研究状況などを平易に紹介するというものだ。

◆歯にもがんがある?―長谷川博雅氏

 講演にはまず、松本歯科大学歯学部部長・同学歯学部口腔病理学講座教授で、口腔病理医でもある長谷川博雅氏が登壇。「お口のなかのあんな病気、こんな病気―虫歯と歯周病以外にも驚くほどたくさんの病気が!」というテーマで講演を行った。

 長谷川氏が携わる「病理学」とは、治療より原因や過程などの成り立ちを解明することに重きを置く分野だ。長谷川氏は、講演にあたり病理医のことを「顔は見ないようにしているが、足を見れば誰だかわかる」という意味から“風呂屋の番台”と表現し、患者自身の顔は知らなくても、症例、患部写真、X線写真など、得られる情報すべてに目を通し、臨床医と連携する重要な役割であることを説いた。

 長谷川氏はまず、「虫歯」と「歯周病」という二大疾患の原因が「細菌感染」だと説明。適切に治療されないと顎の骨を溶かし、感染病巣が周囲に広がり、重症になることもあると警鐘を鳴らした。さらに、この二大疾患以外にもさまざまな病気があるという。具体的には、「感染症」「嚢胞(のうほう)」「アレルギー」「先天奇形・先天性疾患」「腫瘍」「外傷」など、種類は多岐にわたる。

 歯そのものががんになることは、基本的にはないが、歯と顎の間に腫瘍ができることがある。骨肉腫より多く、これががん化することもある。また、歯のなかに空洞ができることがあるが、これは皮膚がんと同じ遺伝子原因だという。病気の種類はさまざまだが、結論からすると「放置して悪化すると、がん化するものもある」とのことだ。

 長谷川氏は、講演中に口腔・咽頭がんについて触れたが、子どもについては、きわめて症例は少ないとのこと。まず基本的に、子どもがかかるがんは、血液のがんと骨のがん(骨肉腫)であり、一般的な口腔・咽頭がんは見られない。一方で、子どもは免疫力が弱いため、さまざまな感染症にかかることは多い。ただこれについても、「水ぼうそう、はしかと同じで、小さいころにかかったほうがいい場合もある」と指摘。「感染症にかかること自体はけっして怖いことではない」とした。

 子どもも含め、「虫歯」はここ数年減りつつある。また受診患者もけっして多くはない状況だという。たとえば「キシリトール」に関する知識は、一般人でも知っているぐらいに普及し、そういう点では、患者側の意識が高まったことで予防が進んだという面もある。

 ただ、実際には「だから安心」と思ってしまい、隠れて悪化している現実があるのではないかと、長谷川氏は分析している。特に子どもは若年性歯周炎が治りにくく、やっかいだという。

◆子どもは「感染症」に注意

 口内の粘膜は、皮膚とは異なる点を持つ。「メラニン色素がない」「汗腺や毛がない」「角質が少ない・ない」といった違いだ。こうした特徴から、かかる病気・かからない病気もあるが、前述したように、さまざまな病気がある。若年層でも感染症、いわゆる「口腔カンジダ症」「ヘルペス」が見られることがあり、特に、慢性疾患を抱えている子どもは、健康な子どもの倍近く、ヘルペスやカンジダを持っている子どもが多いことがわかっているそうだ。

 水疱を作る病気はさまざまあり、ヘルペスはその代表的なものだ。そのほかに真菌感染症などもあるが、口腔カンジダ症は長期間放置すると、ごくまれにがん化することもあるという。実際に、国立がんセンターの2015年調査によると、全がん死亡数37万人のうち、口腔・咽頭がんは2%を占めていた。またこの数値については、1950年代と比較すると、ほぼ10倍になっているという。これについては、長寿命化が進んだことで、従来はほかの死因だった人が、口腔・咽頭がんで死に至ったと分析されている。

 そういう観点では、口腔・咽頭がんは「高齢者の病気・死因」ではあるが、口腔の病気が虫歯と歯周病だけではないこと、そうした病気ががんの予備軍となりうることは、覚えておいたほうがよい知識だろう。とくに、こうした病気は見た目だけではほぼ判別できず、検診を受けることで発見できる。

 小さなころからも油断できない口腔病だが、逆にしっかりと注意し、習慣づけていれば怖いことはない。口腔の健康は全身の健康にもつながるし、それは子どものころから守る必要があるのだと長谷川氏は力説。「そうすれば大人になっても大丈夫だし、その責任はお母さん(お父さん)にある」と、子どものころからの習慣づけを推奨した。

◆虫歯や口腔がんが多い、アジア独特の事情―前田初彦氏

 続いて、愛知学院大学歯学部口腔病理学講座教授・日本病理学会口腔病理専門医研修指導医である前田初彦氏が登壇。「口腔病理学から観たASEAN経済共同体後のアジアにおける歯科医療への日本の戦略的役割」をテーマに講演を行った。

 ASEANの発展途上国では、「ビンロウ(檳榔樹)」と呼ばれるヤシの種子を刻んで噛む文化があり、これが原因で口腔がんの発生率が高いという。また、菓子や甘味の普及で、アジアの子どもに虫歯が増えているという傾向もある。一方で、歯科医師および関連医療従事者の数は圧倒的に不足している。郡部には歯科医や診療所などの施設もなく、経済的にも診断を受けることが難しい。そのため、治療とともに予防として親への指導啓蒙も必要だといえる。

 そこで前田氏らは、2010年から2012年にかけて、ASEAN諸国での口腔病理診断・歯科医療の現状をJSPS科研費の助成を受け調査。

 その結果、「マレーシアとスリランカは、イギリスの植民地であったため、イギリスの教育方法に従い口腔病理学の教育と口腔病理診断が行われていること」「インドネシア、カンボジア、スリランカ、ネパール、ベトナム、モンゴル、ラオスには、口腔病理専門医の資格制度がないこと」「カンボジア、ネパール、ベトナム、モンゴル、ラオスの5か国においては、歯学部での口腔病理学教育も行われていないこと」などが把握された。マレーシアとスリランカは日本同様の施設・設備を有しているが、たとえばマレーシアは2年の契約教員を集めていて、病理医自体は少ないといったこともわかってきた。

 こうした状況に対し日本私立歯科大学協会は、教育環境および人材に対し、あらゆる支援を展開しているという。日本は、アジアの口腔病理診断・歯科医療を牽引しているようだ。

 このように、限られたインフラを活用して簡便な遠隔診断を行うことは、日本の無医村などでも活用できる。こうした「リバースイノベーション」には、日本の医療格差を解消するヒントもあるとして、その役割の重要性があらためて認識された。ただ、アジア諸国の貧困が背景にあるだけに、ビジネス的な収益は度外視となっているのが現状であり、政府には、箱物支援だけでなく、医療教育補助といった“継続できる支援”への注力が望まれる。

◆受験生は「使命」を意識した大学選びを

 講演の最後に、長谷川博雅氏と日本私立歯科大学協会事務局長の白石薫二氏に、歯学部を目指す生徒に向けたアドバイスを聞いた。そもそも、近年は「歯科病院がコンビニより多い」といった言説も見られ、歯科医に対するマイナスイメージが独り歩きしている現状もある。だが、これは正しい認識だろうか。

 歯科医が過多ではないかという報道に対して、長谷川氏は高齢者はますます増え、患者の要望は多様化していると述べた。ただし、受診率が4割程度という現状にこそ問題があり、むしろ今後、歯科医は不足するのではないかとも分析している。高齢化による在宅口腔診療の需要も高まっているが、その認知もまだまだこれからだ。実際に現場では、在宅口腔診療の医師・医院も増えており、ハイエンドな専用機材も充実しつつあるという。

 また、近年はアジアからの留学生が多く、そうした学生は私費で留学してきているとのこと。自国に戻って牽引役になるという部分もあるが、「まずは日本の歯科医師になってもらいたいと思って育てている」とし、教育に隔てはないと述べた。実際、日本の学生も卒業後にアジアを目指したり、ハーバード大学などの著明な大学への留学を希望したりと、その活動は多岐にわたっており、大学に入ってからの勉強で、可能性はさまざまに広がっている。「スポーツデンティスト」のように、アスリートの支援に特化した歯科も近年注目を浴びている。実際、長野県塩尻市ではミニ講座を開いて、子どもにマウスピースを付けさせて運動するといった取り組みを行っているという。

 「どういう使命を持って、大学に入ってくるか」が重要であり、そうした意識を受験生(高校生)には持ってほしいとのことで、長谷川氏は今後に期待すると締めくくった。
《赤坂薫》

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