リミッターを外し「尖った人材」を伸ばす、千代田高等学院の文理探究

 千代田高等学院の「探究」は文系科目にも設置され、生徒ひとりひとりの多様な好奇心に応える。

教育・受験 中学生
PR
荒木貴之校長、数学の近藤宏樹教諭、アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏
  • 荒木貴之校長、数学の近藤宏樹教諭、アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏
  • 荒木貴之校長
  • アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏
  • 数学の近藤宏樹教諭
  • インタビューに応える荒木貴之校長、アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏、数学の近藤宏樹教諭(向かって左から)
 2016年4月、学校法人武蔵野大学と法人合併し、先駆的に高大接続を実現した千代田女学園が、2018年4月に大きく生まれ変わる。校名を「武蔵野大学附属千代田高等学院」と変更し、共学化するとともに、隣地には「千代田インターナショナルスクール東京」が開設される。

 千代田高等学院には、IB(国際バカロレア)・IQ(文理探究)・GA(グローバル・アスリート)・LA(リベラル・アーツ)・MS(メディカル・サイエンス)と、生徒の志向によって柔軟に個別化された5つのコースが設けられるが、前回紹介したIBに続き、今回はIQコースを取り上げる。

 2020年から施行される次期学習指導要領において、高等学校に新たな共通科目として「理数」ができ、「理数探究」「理数探究基礎」が設けられる。理系科目への関心を高め、教科横断的に「探究」していく力を養うのが目的だ。だが千代田高等学院の「探究」は文系科目にも設置され、生徒ひとりひとりの多様な好奇心に応える。

 荒木貴之校長、数学の近藤宏樹教諭、アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏に話を聞いた。

◆IQ(文理探究)コースは「尖った人材」を伸ばす

 前回紹介したIB(国際バカロレア)コースは、高い英語力や処理能力を持ったオールラウンダー向けだが、IQ(文理探究)コースは荒木校長がズバリ「尖った人材を集めたい」と言い切る。

 「現状の一般的な入試ではその多くがオールラウンダーであることが求められますが、新しく生まれ変わる千代田では、卓越人材を育てたいという強い思いがあります。ですから、中学時代の5教科の成績で1教科でも『5』があれば受け入れたい。IQコースでは1点突破を可能にします。」

荒木貴之校長
荒木貴之校長

 カリキュラムのデザインなど、アドバイザー役を担う中島氏も、IQコースを「生徒が熱中できる場所にしたい」と力を込める。

 「時代は大きく変化しており、正解のある整えられた学問だけでは通用しなくなっています。先が見通せないことや答えがわからないことに対して立ち向かっていく力をどう伸ばすのか? という視点でカリキュラムを作り直す必要があると思うのです。

 とりわけ日本では、学問と社会との繋がりが断絶しがちです。でも、学校にいる時からその連携が見える、さまざまなものと連動しているということが実感できれば、生徒の好奇心も伸びるでしょう。社会への応用という部分に積極的に触れていくことで問題意識を高め、探究に熱中できるような環境づくりをしていきたいと思います。」

 数学の近藤教諭は、幼い頃から無類の数学好きで、まさに数学の「探究」を自ら実践してきた人物だ。

 「数学では、答えが一つとは限らないような問いを立てることができます。世の中には正解が一つ、ということばかりではないですよね。数学の探究を通じて、そんなことに触れてもらいたいなと思いますね。保険会社でアクチュアリー(保険数理士)として働いていたこともあり、数学がどう社会に活かされているかについても伝えていきたいと思っています。」

◆充実した探究学習はICTの活用で授業を効率化

 次期学習指導要領では、新たに設けられる「理数」という科目において「探究」の授業が課されるが、千代田の場合は「探究」の対象が広範囲にわたる。荒木校長は次のように説明する。

 「IQコースでは主要教科にすべて『探究』の授業を設けます。まず、高校1年生の12月まではIBコースと共修で、高校卒業のために必要な単位を集中的に履修します。そして高校1年生の1月から探究のための基礎学習を行ったうえで、2年生からは文系と理系に分かれ、本格的な探究の授業を開始します。また、探究を進めるうえで、先生やTA(ティーチング・アシスタント)のアドバイスは欠かせませんから、随時彼らに気軽に相談できるようになっています。」

 理系に進む生徒なら、次期学習指導要領で新たに設けられる理数基礎探究のほか、数学、理科(物理・化学・生物)の探究を、文系なら、国語(現代文、古典)、世界史、日本史の探究が行え、さらには、テーマごとにゼミナールも開かれる。

 「ゼミナールの規模は1グループ2~3名の規模で、各ゼミに大学院生のTAをつけ、ファシリテートしてもらいます。探究活動の成果は、高校2年次までに卒業論文の制作が課されます。」(荒木校長)

 一方、将来も研究を継続するためには大学入試を突破する必要があることから、一般的な学習カリキュラムも同時並行でしっかりとサポートする。3か月を1タームとする4ターム制を採用し、従来より年間で11%多い授業週数を確保するとともに、ICTの活用で50分授業を効率化して45分に短縮する。これにより授業コマ数を従来比で47%増やす予定だ。1時限目はなんと7時半から。時間割の途中には軽食がとれる「ティーブレイク」を設け、45分の昼休みを挟んで、15時半に8時限目が終わるという。時間のやりくりとICTによって「従来型の学習+探究」のハイブリットが実現できるというわけだ。ICTでは「Classi」を採用、生徒の理解度に応じた最適な問題が出題されることで、効用の高い自学自習を可能にする。

◆大学や社会にオープンな教育手法の実践

 近藤教諭は、探究活動には高校の教員だけでは限界があるとし「大学教員や大学院生の知見やサポートを得ることが必要」と言う。千代田区という立地から、周囲には東大や東京理科大、上智大など、多くの大学がある。千代田高等学院では、これらの大学の大学院生やポスドクに、探究活動やゼミナールのファシリテーションを委ねる。

 「自分自身が探究を経験した人だからこそ、本物の探究とは何かを伝えられるのです」と荒木校長は期待を込める。「堀川の奇跡」と呼ばれ、今や全国有数の京大合格者を輩出する京都市立堀川高校では、京大の大学院生やポスドクが現場に入り、生徒の探究学習を支え、鼓舞する。年齢的にも近い身近な存在が、自信とやる気をもたらしてくれるのだ。

 また、近藤教諭は「先生は何でも知っている」という教員像とは異なる、新しい教員のあり方を追求したいとし、「生徒と同じ俎上で、共に考え、学ぶ姿勢を大事にしたい」という。

 「ユニークなアイデアを生徒が投げかけてきたときに、思いつかなかった自分を恥ずかしがるのではなく、『お、それは面白いねぇ!』と肯定してあげられる存在でありたい。むしろ生徒はそういうところから大きく成長していくと思うのです。そういう生徒の小さな芽にも気づいてあげられるには、自分も常に探究し続けなければならないと思っています。」

数学の近藤宏樹教諭
数学の近藤宏樹教諭

 千代田高等学院では、教員が大学院で研究したり、他の教育機関で教鞭を執るなどの兼業も認める。それも教員としての肥やしになり、生徒にも良い刺激になるという荒木校長の考えからだ。

 中島氏の存在も貴重だ。音楽と数学という2足のわらじでやってきたユニークなバックグラウンドから、集中講義の場などで、科目の枠を超えた総合プログラムを実現したいと意気込む。

 「海外ではダブルメジャーは珍しくありません。数学と音楽、アートやロボット、スポーツなど、いろいろなところで数学が活かされていることを一緒に探究できたらと思っています。また、最近は人の繋がりが増えてきているので、教員だけにとどまらない、いろいろなプロフェッショナルを集めた教育プログラムを作りたいですね。」

 学校だけに閉じない、大学や社会の人々にもオープンに関わってもらう教育手法の実践が、千代田の探究学習の強みだ。

アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏
アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏

◆IQコースの使命は「生徒のリミッターを外す」

 近藤教諭は、開成高校在学時、国際数学オリンピックに3回出場し、銀メダル1個、銅メダル2個を獲得、現在は数学オリンピック財団の理事を務める。中島氏もフェリス女学院高等学校在学時に国際数学オリンピックに2回出場、日本人女性として初の金メダルのほか、銀メダルも獲得している。荒木校長が願うのは、こうした「突き詰める経験」をしてもらうこと。探究はまさに「突き詰める経験」だ。

 「突き詰める経験は応用が効きます。自信になり、社会での成功につながると思うのです。」

 中島氏も近藤氏も、自ら突き詰めた数学で世界に羽ばたいた経験をもとに、「生徒のリミッターを外すお手伝いがしたい」という。

 中島氏は自身の高校生活を振り返る。「私自身、高校での3年間は、さまざまな機会や人との出会いに恵まれ、そのことは後の人生にとても大きな影響を与えました。音楽と数学の両方を探究し続けている私のように、興味があることが1つではなく、いくつも点在していてもいいと思うんです。とにかくその点を掘り下げてみることが大事なんじゃないかと思います。何となく気恥ずかしいとか、周囲からそんな役に立ちそうもないことはやるもんじゃないとか、いろいろと言われるかもしれないけれど、今は、ネットを使えば世界にも簡単に飛び出せるし、そうすればその小さな点がいろいろなものにつながっていくこともあるはず。まず自分が思い切ってリミッターを外してみてほしいと思いますね。」

インタビューに応える荒木貴之校長、アドバイザーを務める数学者でジャズピアニストの中島さち子氏、数学の近藤宏樹教諭(向かって左から)
インタビューに応える荒木貴之校長、中島さち子氏、近藤宏樹教諭

 探究と同様に、リミッターもそれを自分で外したことのある人だからこそ、外す方法やコツがわかるはず。尖った人材のリミッターを外す。突き抜けていく先には、広い世界が待っている。

 自分がこれから高校生だったら、と思うほどの贅沢な環境が素直に羨ましい。荒木校長自身も「ずるい」と思ってしまうそうだ。2020年からの新学習指導要領に謳われているから、新たな大学入試制度と連動するから、などという間に合わせの動機ではなく、純粋にこんな一流の逸材と若いパワーに囲まれる授業は間違いなく楽しいはず。むしろ探究力とは、そんな熱中できる場所だからこそ育まれるものなのだろう。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top