先行事例に学ぶ「専門職大学」の未来、NZ工科大学・ポリテクニック留学事情

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「Nelson Marlborough Institute of  Technology」内を見せてもらった。“ワインを科学”する施設が充実している
  • 「Nelson Marlborough Institute of  Technology」内を見せてもらった。“ワインを科学”する施設が充実している
  • 「Nelson Marlborough Institute of  Technology」内を見せてもらった。“ワインを科学”する施設が充実している
  • 「Nelson Marlborough Institute of  Technology」内を見せてもらった
  • ニュージーランド南島・マールボロ地方にある工科大学・ポリテクニック「Nelson Marlborough Institute of  Technology」
  • 「Nelson Marlborough Institute of  Technology」のキャンパスは緑豊か。都会の喧騒を離れ、じっくりブドウに向き合う時間を持てる
  • マールボロ地方のワイン醸造企業でゼネラルマネージャーを務め、NMITの学生への技術指導や職業訓練の受入れを行っているMarcus Pickens氏
  • ニュージーランドの工科大学・ポリテクニックのひとつ「Nelson Marlborough Institute of  Technology」卒業生の安藤祐一氏(左)と岸田ヒロ氏(右)
  • 安藤祐一氏が勤務するマールボロのワイナリー「Allan Scott Family Winemakers」のワイン畑を見せてもらった
 平成31年度(2019年度)に創設される「専門職大学」および「専門職短期大学」。これまで高校卒業後の進路は大学、短期大学、専門学校などへの進学か就職が主流だったところ、2年後からは新しい選択肢として「専門職人」への道が拓かれることになる。日本の学校体系内に新しい高等教育機関が誕生するのは、「短期大学」制度が創設された昭和39年(1964年)以来、55年ぶりのこと。

日本で誕生「専門職大学」とは



 専門職大学および専門職短期大学は、専門職大学は4年、専門職短期大学は2年または3年の修業年限において、医学や歯学、6年制の薬学、獣医学を除く分野について学ぶことができる高等教育機関。大学制度の中に実践的な職業教育に重点を置いた仕組みとして制度化するものであり、平成31年度の創設が予定されている。産業界との密接な連携により専門職業人材の養成強化を図り、高校生や大学進学希望者にとって新たな選択肢になることが見込まれる。学問を追求する従来の大学と異なり、特定職種における職人や研究者などの専門家の育成を重要視する、新しい教育機関だ。

 ひとつの授業科目について同時に授業を行う学生数は原則、40人以下と定め、きめ細やかな指導にも配慮。従来の高等教育機関と比較すると、長期の企業内実習、いわゆるインターンシップや産学連携による専門性の高いカリキュラムを導入するなど、より実践的な教育を行う点に特徴がある。職業教育のためのカリキュラム編成を採り、卒業単位のおおむね3~4割程度は実習などの科目にあてられる見込みだ。

専門職大学と専門学校の違いは「学位」授与



 なお、専門職大学は前述のとおり大学制度の中に位置付けられるため、教育課程や教員組織については、大学として必要な水準が求められる。よって、専門職大学卒業者には「学士(専門職)」の学位が、専門職短期大学卒業者には「短期大学士(専門職)」の学位が授与される。これらの学位は、それぞれ「学士」、「短期大学士」に相当する。

 学位を取得でき、実践的な研究・実技を極める意味合いの強い専門職大学および専門職短期大学に類似する高等教育機関の在り方はすでに海外では馴染み深く、日本に先立ち導入・運用がなされている。たとえば、ドイツの専門大学やフィンランドの応用科学大学などは、産業界の要となりうる人材を輩出する重要教育機関とされており、子どもたちの進路選択のひとつとしても浸透している。

 今後、日本の「専門職大学」と「専門職短期大学」は子どもたちの進路にどのような影響を与えるのか。「工科大学・ポリテクニック」として親しまれる国立高等教育機関を有するニュージーランドでの学びを取り上げ、その道のプロフェッショナルの育成に取り組む海外先行事例を取材した。

工科大学・ポリテクニックという選択肢



 ニュージーランドの義務教育は6歳から16歳まで。日本の高校1年生に相当するYear11の生徒は、全国統一の大学入試とも言えるNCEA(National Certificate of Educational Achievement:全国共通資格試験)を受験し、NCEAレベル1を取得すると、そのまま高校でレベル2に進級するか、「工科大学・ポリテクニック(Institutes of Technology and Polytechnic)」のサーティフィケート課程、または私立専門学校、就職のいずれかに舵を切る。工科大学・ポリテクニックでNCEAレベル2を取得すれば準学士課程(Diploma)へ、NCEAレベル3を取得すれば学士課程(Bachelor's degree)に進学可能。NCEAレベル3を取得すれば、総合大学課程にも進学できる。

ニュージーランドの教育システム 日本の教育制度との対応を表す 画像作成:Education New Zealand
画像:ニュージーランドの教育システム

 総合大学と同じく、工科大学・ポリテクニックはすべて国立であり、基礎レベルから大学院レベルまで、学術と職業訓練の両方のプログラムを幅広く提供している点が特徴だ。専門分野はたとえば、アート、デザイン、観光、ホスピタリティ、美容、環境学、航空、スポーツなど、高度な技術力や知識、現場経験を問う分野が門戸を開いている。

 特定分野の“職人”や“専門家”が生まれる背景には、その職業がなければならない国・地域特有の文化や地域性が隠れている。ニュージーランドの場合、それは「ワイン」にある。

現場×学問、骨から染み入る本物の技



 ニュージーランドのワイン生産量は国際的に見れば決して多いとは言えないが、世界的な評論家や消費者からの支持は厚く、海洋性気候と大陸性気候が育むワインの品質には定評がある。

 ワイン製造を支える職人を育成しようと、国内ワインの7割を製造するニュージーランド南島・マールボロ地方にある工科大学・ポリテクニック「Nelson Marlborough Institute of Technology(NMIT、ネルソン マルボロ インスティチュート オブ テクノロジー)」では、18歳以上の者を対象に高度なワイン醸造学やブドウの栽培技術を教育している。

Nelson Marlborough Institute of Technology



ニュージーランド南島・マールボロ地方にある工科大学・ポリテクニック「Nelson Marlborough Institute of  Technology」
画像:Nelson Marlborough Institute of Technology

 マールボロ地方のワイン醸造企業でゼネラルマネージャーを務め、NMITの学生への技術指導や職業訓練の受入れを行っているMarcus Pickens氏は、NMITの良さを「国内最大級のワイン生産地で、栽培から醸造まで理論・実践を通して総合的に学べるところ」と指摘。工科大学・ポリテクニックという教育機関の目指すべき姿とは「即戦力の育成」にあり、現場に携わる人が指導することで学生と産業界との連携を強化している点に賛辞を送った。

「Nelson Marlborough Institute of  Technology」内を見せてもらった。“ワインを科学”する施設が充実している
画像:キャンパス内には研究を後押しする設備が充実している

 NMITはカリキュラムの構成にあたり、地元のワインメーカーや従業員に協力を要請。その道のエキスパートが監修する授業構成は、工科大学・ポリテクニックならではの骨太な技術者養成方針を支えている。NMITの位置するマールボロではおよそ2,000人が正規雇用労働者(フルタイム)としてワイン醸造業に関わっており、醸造とブドウ栽培の技を身近に感じることができる。卒業生の就職あっ旋や直接の推薦は行っていないが、学生のころから企業に関わることが相互理解を深めていることは間違いない。Marcus氏によると、NMITで学んだ学生の多くは実際にマールボロ地方のワイン醸造業者へ就職しているという。

 日本における専門職大学および専門職短期大学もまさに、学生のうちから産業界との連携を強め、卒業と同時に現場で活躍できるだけの修練を積ませるカリキュラムに重きを置いている。おそらく専門職大学と専門職短期大学も、優先的な就職の確約はないと予想されるが、NMITから見る工科大学・ポリテクニック卒業生のようすを参考にすると、専門的な知見に触れた学生は、一般学生に比べ希望の業界へ就職するうえで優位にあると言えそうだ。

工科大学・ポリテクニックが持つ「社会人の学び直し」の側面



 工科大学・ポリテクニックへの進学者は、Year11から13までの若者だけでなく、一度社会に出てからもう一度教育の場へ戻ってくる社会人も多いという。

ニュージーランドの工科大学・ポリテクニックのひとつ「Nelson Marlborough Institute Technology」卒業生の安藤祐一氏(左)と岸田ヒロ氏(右)
画像:NMIT卒業生の安藤祐一氏(左)と岸田ヒロ氏(右)

 日本のIT産業勃興を支えたのち、新たな生き方を探すためNMITに学びを求め、夫婦でニュージーランドへ渡った岸田ヒロ氏もそのうちのひとり。もともとピノ・ノワール(ブドウ品種のひとつ)が好きだったことからフランスでの学びを検討するも、英語圏での就業を目指し、新たな活躍の場をニュージーランドに決定。現在、同氏はニュージーランド国内最大級のワイナリーに勤務しており、日本人ながら責任の重い仕事を任される立場にあるという。NMIT卒業生である岸田氏は、NMITは通学していた数年前と比較して施設的かつカリキュラム的にも進化を積み重ねており、より実践的な学びができる場に改革されていると評した。

 ブドウの収穫作業に関わるワーキングホリデーをきっかけにニュージーランドを訪れた経験が縁となり、現在はマールボロのワイナリー「Allan Scott Family Winemakers」で勤務している安藤祐一氏もNMIT出身者のひとり。NMIT入学当初は「英語がまったくできなかった」が、職場では「人の3倍」働き、不得手な英語は「とにかく喋りまくる」ことで補った。取材当日は仕事が休日だったにも関わらず、時間があればその後、畑のようすを見に行くという熱心さからは、ブドウに精魂を傾ける「職業人」としての姿が垣間見えた。

 NMITを筆頭に、工科大学・ポリテクニックの高い専門性と実践性、そして学生の勉強熱心な姿は、カリキュラム考案や職業訓練を受け入れる企業からの折り紙付き。多くの工科大学・ポリテクニックは少人数制を採り、実務や応用力に重点を置く研修や教育を行っていることから、じっくりと腰を据え、実力と理論を兼ね備えた専門性の高い技術者を目指す者には明るい進路となるだろう。

 無論、日本に誕生する専門職大学および専門職短期大学は、社会人の学びの場としての浸透も期待されている。NMIT出身の岸田氏と安藤氏を見ると、多くの経験を得たのちに挑む新天地での学びからは、刺激や発見、日々の成果と、年齢に関わらない無限の可能性を得られたことがわかる。

出願・入学時期やコース・期間はじっくり検討を



 工科大学・ポリテクニックへの入学時期は2月と7月。多くはコース開始の1年前から2か月前まで入学願書を受け付けている。願書を提出するまでは、学校情報や奨学金情報、授業料免除制度などについて、Education New ZealandのWebサイトや留学サポート団体から詳細な情報を収集しておきたい。決して安くはない“教育投資”なだけに、学校所在地やコース、期間はじっくり検討し、有意義な専門留学先を決定したいものだ。

 なお、工科大学・ポリテクニックに通学する者は、一定の条件を満たせば、就学中は週20時間まで、休暇中は無制限の就労が認められ、さらに卒業後1年間は、ニュージーランド国内で就労できるワークビザも取得可能だ。なにかと工面に苦労する授業料や生活費に不安が残る留学生にとって、工科大学・ポリテクニックを進学先とすることのメリットのうちのひとつは、この独自制度にあるとも言えるだろう。

 「第四次産業革命」とも称される変革の時代にある今、専門的な知識・技能をもって未来を切り拓く力が求められているのはなにも子どもに限ったことではない。これから大学に進学しようとする者や、すでに社会で活躍するビジネスパーソンのうち工科大学・ポリテクニックに興味がある場合は一度、留学フェアや各情報誌などで情報を集めてみてはいかがだろうか。新たな進路は、海外に拓けているのかもしれない。

※編集部注:年齢や学年、滞在期間など、時間にかかわる発言はすべて2017年3月時点のもの
(協力:ニュージーランド大使館 エデュケーション・ニュージーランド、ニュージーランド航空、JTBニュージーランド)
《佐藤亜希》

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