【EDIX2018】高大接続・大学入試改革の最新動向、大学入試センター山本廣基氏

 大学入試センター理事長 山本廣基氏「入試改革・高大接続改革の最新動向」と題し講演を行った。

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2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」で講演を行った大学入試センター 理事長の山本廣基氏
  • 2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」で講演を行った大学入試センター 理事長の山本廣基氏
  • 2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「高等学校の教科・科目構成」
  • 2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「大学入学者選抜改革の方向」
  • 2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「参加要件を満たしていることを確認した英語の民間試験」
 2018年5月17日、東京ビッグサイトで開催された「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX2018)」において、大学入試センター理事長の山本廣基氏が「入試改革・高大接続改革の最新動向」と題した特別講演を行った。

改革の背景と全体像



 山本氏は講演の冒頭において、グラフを用いて「私が生まれたころは18歳人口が約250万人の時代。現在の18歳人口は約120万人、やがて100万人を切っていく。こういった時代に、教育の在り方はこれまでと同じでよいのか、ということが改革の背景にある」とコメント。同氏は、「大学教育は本当に社会に必要な人材を供給しているのか」という疑問を例に、入試改革と高大接続改革の議論の進んだ経緯と、高大接続改革に至った背景を説明した。

 山本氏によると、大学教育では実際にそういった教育(社会に必要な人材を育成する教育)が行われているのか、という疑問が政府・財界からあがっている。加えて、高校での教育は小中学校に比べて受動的な授業が多いという課題も指摘されているという。

 当日の講演において、山本氏は「高等学校の教育改革」と「大学教育改革」、それをつなぐ「大学入学者選抜改革」の3つを一体的に改革することが重要だという、改革の最新動向を語った。

新高等学校学習指導要領



 2018年(平成30年)3月30日に告示され、2024年度から適用される「新高等学校学習指導要領」。高等学校の教育課程の基準の改善と基本的な考え方として、山本氏は2つの点を抜粋した。

「高等学校の教育課程の基準の改善と基本的な考え方」


・予測不可能な未来社会において自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成することとしたこと。その際、子供たちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」を重視したこと。
・知識及び技能の取得と思考力、判断力、表現力等の育成バランスを重視する現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成することとしたこと。道徳教育推進教師を中心とした道徳教育の推進や体験活動の重視、体育・健康に関する指導の充実により、豊かな心や健やかな体を育成することとしたこと

 「知識の理解の質」を高め、資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」の実現に必要なことは、「何ができるようになるか」を明確化することと、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善のふたつ。「主体的・対話的で深い学び」、いわゆる「アクティブラーニング」の実現に向け、各学校におけるカリキュラム・マネジメントを確立し、教育内容を改善していくことが求められる。

教育内容のおもな改善事項
1、言語能力の確実な育成
2、理数教育の充実
3、伝統や文化に関する教育の充実
4、道徳教育の充実
5、外国語教育の充実
6、情報教育の充実
7、職業教育の充実


 基本的な考え方について、山本氏は「充実しなければならないことが多数あり、教える側も大変だし、勉強する生徒のほうも大変だなというところですが、こういったことを意識しつつ教育していかないと、将来の社会においてリードしていく、あるいは、社会の一員として生活していく力にならないのではないか」と述べた。

変わる高等学校の教科・科目



 高大接続改革および大学入試改革に伴い、高等学校における教育も変化する。

2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「高等学校の教科・科目構成」
画像:(新学習指導要領から)高等学校の教科・科目構成

 新しく変わる教科や科目は、上記画像のとおり。「世界史」と「日本史」を統合し「歴史総合」が新設されるほか、「情報I」は共通必修科目になる。

大学教育改革



 続いて山本氏は、2016年(平成28年)3月31日改正、2017年(平成29年)4月1日に施行された学校教育法施行規則について説明。大学教育改革を支えるため、一体的な策定が義務づけられている「3つの方針」である「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマポリシー、DP)」「教育課程編成・実施の方針(カリキュラムポリシー、CP)」「入学者受入れの方針(アドミッションポリシー、AP)」について触れ、この方針にもとづいた教育により、従来の大学入試が質的に転換されるとしている。

 山本氏はまた、認証評価制度の改善について述べる。「現在はどこの大学のWebサイトを見てもこの3つの方針が書かれている。これが共通評価項目として、平成30年度(2018年度)から認証評価に反映されている。大学がPDCAのサイクルを継続的に見回せるような仕組みになっているかどうか、大学の内部質保証に関して共通の項目として評価することが重要。」(山本氏)

大学入学者選抜改革



 大学入学者選抜改革は、2017年(平成29年)7月13日に文部科学省が公表した「学力の3要素」―「1.知識・技能」「2.思考力・判断力・表現力」「3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」―を多面的・総合的に評価する入試への転換をはかる改革のこと。現行の「大学入試センター試験」の運営・実施を行う大学入試センターは現在、2021年1月に実施する「大学入学共通テスト」に備え、準備や検討を進めている状況だ。日程は以下の通り。

<大学入学共通テスト検討・準備スケジュール>(2018年5月現在)


2017年
 11月…5万人規模の試行調査(高校会場・実施済み)
2018年
 2月……6千人規模の試行調査(高校会場・実施済み)
 11月…10万人規模の試行調査(大学会場)
2019年
 初頭…「実施大鋼」の策定・公表(試験期日、科目選択方法等)「出題教科・科目」の策定・公表
2020年
 初頭…「実施要項」の策定・公表(時間割、出願方法等)
2021年
 1月…「大学入学共通テスト」の実施
 年度内 新学習指導要領に対応した「実施大鋼」の予告
2023年
 年度内 新学習指導要領に対応した「実施大鋼」の策定・公表
2025年
 1月…新学習指導要領に対応した「大学入学共通テスト」の実施

 なお、大学入学者選抜では、DP、CP、APにもとづき、活用する評価方法(実施時期・内容等を含む)や比重等について各大学の募集要項等で明確化するよう新たなルールが示されている。入試区分については、各々の特性をより明確にする観点から、「一般入試」は「一般選抜」へ、「AO入試」は「総合型選抜」へ、「推薦入試」は「学校推薦型選抜」に変更される。

 出願時期と合格発表時期にも変更がある。たとえば、「総合型選抜(現・AO入試)」は従来の8月以降から9月以降へ、合格発表は11月以降へ変更される。「学校推薦型(現・推薦入試)」の出願は11月以降へ、合格発表は12月以降へ変更する方針だ。試行テストの問題や正答率などは、大学入試センターのWebサイトで確認できる。

2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「大学入学者選抜改革の方向」
大学入学者選抜改革の方向

英語試験・成績提供システム



 大学入学者選抜における注目要素のひとつである、「英語」の変革。外部試験活用については、「英語は外部試験を活用するが、経済的、地域差などで受験チャンスに格差があるのではという意見もある。さまざまな議論があったなかで、英語の現行の共通テストは平成35年度(2023年度)までは継続して実施することになった」と説明した。

2018年「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」特別講演「入試改革・高大接続改革の最新動向」投影資料「参加要件を満たしていることを確認した英語の民間試験」
画像:「大学入試英語成績提供システム」参加要件を満たしていることを確認した英語の民間試験

未来を含めた改革を



 山本氏によると、「今のセンター試験問題は、2年をかけて作成している」。従って、「大学入学共通テスト」の問題は2019年4月から作問を始めることになる。山本氏は、英語の外部試験利用にあたり、「資格・検定試験実施団体や大学や受験生それぞれが管理すると管理が大変なことになることから、大学入試センターで一元的に集約し、要請のあった大学に提供する『大学入試英語成績提供システム』を構築し支援する」と述べた。

 講演の終わりに寄せ、山本氏は「知識・技能は測りやすい、思考力・判断力・表現力はやや測りにくい、主体性・多様性・協働性は極めて測りにくい。どう測って公正・公平感をもってもらうか、実はテストをやる側としては悩ましいところ」と課題を指摘。高等教育は「研究ばかりではなく社会に役立つ人材を育てる、というプレッシャーがかかっているが、大学は、高校の延長のさらに高度な知識だけではなく、知を生産する現場。生産された知を、その知の生産された手法も含めて共有する場でもある」とコメントした。

 「臨教審で『共通一次みたいな試験をしていたら、ノーベル賞を日本では獲れなくなる』と言われていたが、実際は共通一次を受けた山中教授もノーベル賞を獲っている。今は役に立たない研究に見えることも、いつか貢献することがある。そういったことも含めて日本の教育を国全体で議論していただきたいと思う。」(山本氏)

 高大接続改革、大学入試改革後の日本の社会はどのような変化がみられるのだろうか。予測不可能な未来社会を担う子どもたちの教育について議論は続いていく。
《田口さとみ》

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