妊娠中のダイエットやストレス、子の生活習慣病の原因に

 東京大学先端科学技術研究センターは2018年11月2日、「胎生期の悪環境が成人後に生活習慣病を発症させる記憶のメカニズムを解明した」とする研究成果を発表した。妊娠中の過剰なダイエットやストレスが、子どもの生活習慣病の原因となりうる可能性を示唆している。

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 東京大学先端科学技術研究センターは2018年11月2日、「胎生期の悪環境が成人後に生活習慣病を発症させる記憶のメカニズムを解明した」とする研究成果を発表した。妊娠中の過剰なダイエットやストレスが、子どもの生活習慣病の原因となりうる可能性を示唆している。

 発表者は、東京大学名誉教授、東京大学先端科学技術研究センター 臨床エピジェネティクス寄付研究部門フェローの藤田敏郎氏。同センターの藤田氏、森典子特任研究員、西本光宏特任助教らの研究グループは、妊娠中の栄養不足などのストレスで出生体重が小さくなると、成長後に高血圧をはじめとするさまざまな生活習慣病を合併しやすくなることに着目。妊娠時低栄養の子の高血圧発症過程において、遺伝子発現の調節にかかわるDNAメチル化異常の関与について検討した。

 研究グループによると、正常妊婦は妊娠後期にストレスホルモンである糖質コルチコイドのコルチゾールの血中レベルが高くなるが、胎盤で代謝分解されるため、胎児には移行せず保護されている。一方、低栄養の妊婦は、この防御機構の破綻によりコルチゾールが胎児に移行するため、胎児が高濃度のコルチゾールに暴露される。

 実験では、最初に低タンパク食(LP)を妊娠時に与えたラットと、胎盤透過性の人工的に合成されたコルチゾール同様の機能をもつ糖質コルチコイド(デキサメサゾン、DEX)を妊娠時に投与したラットを分析。いずれのラットも子の出生児体重は低下し、成長後には過体重(肥満)となり、食塩負荷によって血圧が上昇する食塩感受性高血圧を発症した。

 ラットの高血圧発症機序をさらに検討するため、血圧調節を司る視床下部の室傍核(自律神経の最上位の制御中枢、PVN)に着目し、網羅的遺伝子解析を行った結果、912個の遺伝子の発現増加を見出した。その中で、脳内レニン・アンジオテンシン系は交感神経を活性化させ高血圧を生じることから、血圧調節に関連するアンジオテンシンI型受容体(AT1a)遺伝子に焦点をあててさらに実験。エピゲノム解析の結果、DNAメチル化が減少し、AT1a遺伝子発現の増加を認めた。

 培養PVN神経細胞を用いた実験でもDEX添加により、DNAメチル化酵素DNMT3aの発現低下とDNA脱メチル化によるAT1a発現増加を認めた。最後に遺伝子操作によって室傍核の神経細胞でのみDNAメチル化酵素DNMT3aを発現できなくしたマウス「PVN特異的DNMT3a欠損マウス」を作成したところ、肥満とともに、LPやDEX投与を行うことなくAT1a発現増加が認められ、食塩負荷により血圧が上昇し、食塩感受性高血圧となった。これに対して、AT1a欠損マウスでは、妊娠時DEX投与にも関わらず食塩負荷による血圧上昇反応は消失した。

 これらの実験結果により、妊娠時低栄養による食塩感受性高血圧発症機序として、脳内糖質コルチコイド過剰によるDNAメチル化異常がAT1a遺伝子発現を増加させ、それが記憶として残り、成長後に食塩接種によって高血圧を生じさせることが明らかになった。胎児への過剰なストレスやそれに伴う脳内の遺伝子発現調節の破綻が、成人後の高血圧発症に関与することを示す内容となっている。

 研究グループでは、「日本では『小さく産んで大きく育てる』ことが良いとする考えが根強く残るとともに、妊娠年齢女性のやせの増加が進んでいるが、本研究の結果はその風潮に警鐘を鳴らすもの」と指摘。「妊婦の物理的、精神的ストレスが生活習慣病の増加につながっている可能性も示唆された。妊婦の置かれた環境の整備や、妊娠中栄養摂取の見直しといった課題は生活習慣病予防の観点からも重要であり、さらに研究をすすめる必要がある」としている。

 研究成果は、2018年11月2日に米国医学会雑誌「JCI-Insight」に掲載された。
《奥山直美》

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