【EDIX2019】公立小でもICTはもっと活用できる…みどりの学園と前原小の事例から

 「第10回学校・教育総合展(EDIX2019)」2日目、EXPO特別講演「つくば市立みどりの学園義務教育学校全職員が実践する先進的ICT教育/日本で最もICTを活用する公立小学校で行われている授業とは-MDM(MAZDA Disrupt Model)が創る新しい『学び』」が開催された。

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「つくば市立みどりの学園義務教育学校全職員が実践する先進的ICT教育/日本で最もICTを活用する公立小学校で行われている授業とは-MDM(MAZDA Disrupt Model)が創る新しい『学び』」
  • 「つくば市立みどりの学園義務教育学校全職員が実践する先進的ICT教育/日本で最もICTを活用する公立小学校で行われている授業とは-MDM(MAZDA Disrupt Model)が創る新しい『学び』」
  • つくば市立みどりの学園義務教育学校 毛利靖校長
  • MAZDA Incredible Lab代表で前・小金井市立前原小学校校長の松田孝氏
 「第10回学校・教育総合展(EDIX2019)」2日目。教育ITソリューションEXPO特別講演「つくば市立みどりの学園義務教育学校全職員が実践する先進的ICT教育/日本で最もICTを活用する公立小学校で行われている授業とは-MDM(MAZDA Disrupt Model)が創る新しい『学び』」が開催され、公立の学校でICTを活用するための方法や、導入したことによる児童生徒・教員双方の変化について具体例とともに語られた。

新しいプログラミング用教材はまず子どもに渡す



 前半は、つくば市立みどりの学園義務教育学校の毛利靖校長が登壇。ICTを導入した授業を行うことを決定してから、たったの1年という期間で児童生徒・先生の双方に目覚ましい効果をあげたつくば市立みどりの学園義務教育学校のケースを紹介。

 つくば市立みどりの学園義務教育学校は2018年に開校したばかりの新設校で、近隣に住む1年生から9年生までがともに学ぶ、公立の小中一貫校だ。ICT環境はというと、校内無線LANが整備されてはいるが、移動式タブレットが80台、パソコン40台(児童・生徒5人につき1台)が設置されたパソコンルームは小・中学校合わせて1室のみ。多くの公立校とそれほど変わらない環境であるという。

 小学校の担任教員20名のうち、多くは50歳以上。そのうち2018年4月段階でプログラミング経験のある先生は2名のみだった。しかし、すべての先生が努力・工夫し、各教科や総合の時間などの授業に「プログラミング」を組み込んだ結果、2019年4月1日より2022年3月31日まで、日本教育工学協会によって「学校情報化優良校」に認定されるまでになった。

 つくば市では全域で「つくば教育クラウド」というeラーニングシステムを導入している。また「つくば版MOOC」という、アクティブラーニングのためのソフトも運用。「つくば版MOOC」は、いつでも、どこでも、誰とでも、どんな学習でも出来るという理念のもとに作られており、たとえ学校で教えていない単元でも、個人のペースで学習を進めたり、反対に苦手なところはいつでもさかのぼって学ぶことが出来るようになっている。学校だけでなく、病院や公民館でも使用出来る。

 このシステムの使用を続けることで、今後つくば市では、子どもたちの学習履歴をビックデータとして集約・分析し、子どものタイプ別の指導方法の確立などに生かしていくのだという。

 また、みどりの学園では大型提示装置を教室に備え、デジタル教科書を使用した授業も先生たちが積極的に行っているといい、セミナー中にも具体例として、デジタル教科書を使用した各教科の授業のようすが会場に流された。

 音楽の授業の映像を流しながら、毛利校長は「今までのアナログな授業では、作曲をしようと思っても楽器演奏の素養と作曲の能力がないと出来なかった。しかし、デジタルであればそうした素養のあるなしにかかわらず、すべての子どもが『作曲』し、再生することが出来る。授業がアクティブで、楽しいものになる」と、デジタル教材が子どもにもたらすメリットを話すシーンもあった。

 ICT、とりわけプログラミングを授業に導入する際、大事なのは「子どもと先生が一緒に楽しむこと」と毛利校長は言う。同時に、みどりの学園で大切にしているのは先生から子どもたちという方向の教えのみならず、生徒同士、特に上級生から下級生に対して教える機会だという。

 先日、みどりの学園ではスクラッチで動かせるドローンを数台購入したそうだ。通常の教材ならば先生たちが理解してから子どもに渡すというプロセスを踏むものなのだろうが、みどりの学園ではいきなり子どもに渡してしまう。すると、子どもたちは新しいものを楽しみたい気持ちが優先するため、試行錯誤しながら自らプログラミングを体得していく。

 一方で、子どもだけでなく、先生が益する部分も大きい。毛利校長は「こうしたものを導入していくことで、先生たちの負担も少なくなる。楽をするつもりでの導入では決してないが、自分の専門教科ではない授業の準備も大変でなくなるという意味で、教員にとってはとてもメリットがあると思う」と語った。ICTの活用は、教師の働き方改革にとっても有意義なものであるとして、講演を締めくくった。

Society5.0の時代を生き抜くための「令和」の学習モデルへ



 後半は、MAZDA Incredible Lab代表で、前・小金井市立前原小学校校長の松田孝氏が登壇した。松田氏は2019年3月31日まで校長職に就き、退職後はMAZDA Incredible Labを設立し、現在、総務省地域情報化アドバイザー、金沢市プログラミング教育ディレクター、小金井市教育CIO補佐官をして活動をしながら、早稲田大学大学院の博士後期課程に所属をし、研究をしているという。

 財政的には潤沢とは言い難い自治体の公立小学校で、松田氏はICTの導入に踏み切った。ICTの導入に際し大事なこととして「ICTを活用しようとする気を削ぐシステムは、やる気のある教員を潰す」と警告する。そのため、意思決定者、導入担当者の責任はとても大きいと松田氏は言葉を続けた。

 小金井市はICT導入のための年間予算として5,000万円を5年間計上。今年から児童用にもchromebookを導入することになり、今後5年間約600台ずつ整備する。chromebookを選択したのは、端末購入価格を抑えられるのと同時に、充電が長期間持ち、メンテナンス費用も抑えられるという点が大きい。

 それに対し、同じような児童生徒数の別の自治体では初期投資8億円、毎年のランニングコストを8億ずつかけて整備している。「導入担当者は、視察には絶対に2地区回ったほうがいい。同じような規模の市町村でも、その自治体の財政状況その他で、かけられる予算がまったく違っていたりする」と松田氏は指摘。「ICTの大前提は使えるシステムとつながる環境。それを誤ってはいけない」(松田氏)。

 環境整備の重要さに加え、今後の子どもたちには「タイピング力の向上が必須。国でも情報活用能力検査を7年前に実施しているが、それによると文字入力検査の結果は、小学5年生は1分間あたり5.9文字。中学2年生は17.4文字。小学5年生は5.9文字と言いながら、5文字以下の子が半数以上いる。でもこれからの時代を生きるのに、これではキャリア形成に大きな影響を及ぼす」と松田氏は警鐘を鳴らす。

 2020年から大学入試のやり方が変わり、学力の測り方の内容と方向性が変わるが、2024年にもう一度大きく変化する。「2024年は新学習指導要領で学んだ子どもたちが大学入試に臨む時期。その新テストはCBT(Computer Based Testing)。実際に出来るかどうかはわからないが、方向性としてはそういった流れになっており、子どもたちに課されるのは択一問題をラジオボタンで選択するようなテストではなく、記述式になる。記述式の採点のブレを防ぐためにCBTを導入する。そうなったとき、タイピング力がなければ話にならない」(松田氏)。

 時代はSociety5.0。その時代を生きる子どもたちの育成を考えたとき、内容も環境も方法も昭和・平成の時代のままで良いのか、と松田氏は指摘。求められる能力が変わってきている以上、次代を切り開く資質や能力を身につける「令和」の学習モデルに切り替えるべきであると、松田氏は語った。

優れたモデルはすぐにでも真似をすることが大事



 両氏が共通して訴えていたのは、「良いと思った取り組みは真似をしてほしい」という点。

 自治体によっては既存の学習モデルがうまく機能しているが故に、子どもの学力向上の視点から判断して新しい学習モデルの導入を喫緊の課題として捉えられていないところもあるだろう。

 松田氏も、「学校の現場を規定しているのは『教科教育法』で、戦後の復興・発展と結果を出しており、完成度と完結性が高いものであるが故にここから離れられないという真面目な先生たちが多い。特に全国学力テストで好成績を収めている県ほどその傾向が強く、新しいモデルを取り入れるのは難しいと感じている」という。

 しかし、移り変わる時代の中で、次代を担う子どもたちに求められる能力が「今までと同じ」では通用しないのは明白だ。指導する内容も方法も、変わるべき転換期がまさに今なのだと痛感させられる講演内容であった。
《鶴田雅美》

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