早稲田大学本庄高等学院 実験開発班の著書「魅了する科学実験2」(すばる舎)より、自由研究や理科の学習に役立ち、生徒をハッと驚かせる実験を紹介する。
難易度 ★★★☆☆
対応する指導要領:中学校理科
物質の溶解
実験のテーマ
水と油はなぜ混ざらないのか。当たり前のことでありながら、その理由をきちんと説明するのは難しい。混ぜるだけの簡単な実験を糸口に、科学の基本を学ぶ
水と油の違いが説明できますか?
とびっきり身近にありながら、いざ説明しようとなると難しいもの、それは水と油が混ざった「ドレッシング」です。ドレッシングといっても、クリーム状のものはどのように作られているのかや、味も十分興味深いものですが、ここではシンプルに水と油で構成されているドレッシングについてです。
ドレッシングとは、油と酢(あるいはレモン汁など)の溶けた水、つまりは油層と水層の2つをかき混ぜ、野菜などにかけるものです。
この水と油はどうして混ざったようでも完全には混ざらないのでしょうか?
そもそも油と水の違いとは?
何より、どうして油は水よりも軽いのか?
そうした単純極まりない質問にスマートに答えることもまた科学ではないでしょうか。
今回は、さらにそこから比重(密度)の話と、それらを駆使して、オイルタイマー(砂時計のように水滴が液中でしたたり落ちる化学玩具)を改造したり、ビー玉が浮く液体なども紹介して、科学好きを増やす実験の参考にしていただければ幸いです。
基本実験01 3色3層液体
用意するもの
・食用色素:スーパーなどでも売っている食用色素を使う。今回は青色1号
・灯油:できるだけ新しい灯油だと無色で使いやすい。臭いが気になる場合は流動パラフィンを使う
・ジクロロメタン:試薬でも汎用のほか、ホームセンターなどでアクリル接着剤として売られている
・油性マジック:試薬で色をつける場合は後述
・適当なフタつきの小瓶
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注意事項
換気の良い場所で行うこと。ジクロロメタンは目や皮膚につくと炎症を起こすことがあるため、目に入った場合はこすらず水で洗い流し、皮膚についた場合は中性洗剤とぬるま湯でよく洗う
実験手順
1.水は食用色素、有機溶剤には 油性マジックでそれぞれ色をつける。油性マジックは分解し、写真のようにインクを溶剤の中に入れてしまう
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2.ジクロロメタン、水、灯油の順に液体を瓶に入れていく。水を挟んだ上下の層は混ざりやすいので、ゆっくり注ぐ
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解説
3層に分かれる理由
水より軽い有機溶剤(1以下)というと、サラダ油はもちろん、シクロヘキサン(0.779) やトルエン(0.867) などがあげられます。しかし、ジクロロメタン(1.326)やクロロホルム(1.489)など水よりも重い有機溶剤も存在します。つまりこれらの溶剤に色をつけて水を挟めば、簡単に3層の液体ができるわけです。
一般的にドレッシングなどで2層の液体は見慣れている人が多いですが、3層以上となるとそうそう見かけることがないので、物珍しく感じるでしょう。しかし、それらが透明な層であると視認性に難アリなので、色をつけることで面白さが増します。
実験自体は非常に簡単で、それぞれの液体に色をつけて重い順にゆっくりと注いでいくだけです。
着色に使った油性マジックの染料は、有機溶剤に良く溶けるので、油性マジックを分解してインクを溶剤の中に入れてしまうとうまく色がつきます。この時にあえて水と溶剤を入れて攪拌することで、染料が酸化されて発色が良くなる商品もあります。
水は食用色素でより簡単に色をつけることができます。水を挟んだ上と下の層は触れると混ざってしまうので、混ざらないように気をつけつつ、液体を瓶に入れていきます。
また、砂糖や臭化セシウムなどの重い塩を大量に水に溶かせば、クロロホルムより比重を重くすることも可能です。ということは、原理的にはジクロロメタンなどの下に再度水層を作り、4層の液体にすることも可能です。

基本実験02 プカプカ浮かぶビー玉!?
用意するもの
・ビー玉、適当なフタつきの小瓶
・テトラブロモエタン:試薬なので、学校等を通じて注文する。これ以外にも多くの実験に使えるので、買っておいても損はしない
注意事項
テトラブロモエタンは弱いながらも毒性があるので、扱う時は手袋を着用し、必ず換気しながら実験すること
実験手順
1.容器の中にテトラブロモエタン、水を入れ、 ビー玉を入れる
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2.見やすいように、ブラックライトをあててみたところ(写真ではウランガラス製のビー玉を使用しているので、蛍光に発色している)
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解説
ガラスより重たい液体
ひとつ前の解説に出てきたクロロホルムの比重は1.489でかなり重い液体ですが、さらに重い液体が存在します。それがテトラブロモエタンで、2.967という圧倒的な比重を持ちます。このずば抜けて高い密度は、大半のソーダガラスの 2.5前後の密度をも上回るために、ビー玉などのガラスや庭石なども浮きます。昔はこの重さを利用して、金などの貴重な金属を砂の中から見つけ出す「比重選鉱法」に使われていたそうです。
実際にビー玉をテトラブロモエタンと水の入った容器に入れると、テトラブロモエタンの上にビー玉がプカプカと浮かぶわけです。
発展実験03 逆さオイルタイマー
用意するもの
・オイルタイマー:ドリルで穴を開けてふさぐため、あまりに小さいものは加工が困難
・溶剤の染料:スーダンレッド(1-{[4-(フェニルアゾ)フェニル]アゾ}-2-ナフタレノール)
・水の染料:青色1号(ブリリアントブルーFCF)
・テトラブロモエタン:02の実験と同様のもの
・ジクロロメタン:アクリルの接着用
・アラルダイト接着剤:補強接着に使用
・細いアクリルの棒:2~3mmの細いアクリル棒があると良い
・スポンジ or シリンジ:ホームセンターに売られている農薬の計量用のポリエチレン製のものであれば溶剤負けしないのでオススメ。ゴムの注射器などは使わないこと
・電動ドリル:アクリル棒よりも0.1mmほど細いものを使うと良い
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注意事項
タイマーの液体は大抵が精製度の低い液体パラフィンと着色された水なので、新聞紙などに吸わせて燃えるゴミで廃棄する。また、テトラブロモエタンはプラスチック容器を溶かすので長期保存はできない
実験手順
1.ドリルでオイルタイマーに穴を開ける
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2.中の液体を捨て、スポイトやシリンジで着色した水とテトラブロモエタンを入れていく
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3.アクリル棒を短く切って、ジクロロメタンをつけて穴に押し込んで封印する
4.色のついた液体が上に上がっていく逆さオイルタイマーの完成
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5.応用として、テトラブロモエタンにスーダンレッド(または、赤色油性マーカー)で色をつけると、赤と青、2色の逆さオイルタイマーが出来上がる
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解説
コスパも良く、見た目の良い実験
最近は100 円均一ショップに水と油の性質をうまく使った砂時計の液体版、 オイルタイマーが売られており、安価な実験にはもってこいの素材です。これを改造して、降りていくオイルタイマーではなく、昇るオイルタイマーを作ってみました。注意点としては、テトラブロモエタンはジクロロメタンほどではないものの、プラスチック容器(アクリルやスチレン)を溶かすため、オイルタイマーの容器のままでは長期保存はできません。
また、テトラブロモエタンは少々有害ですが、水と一緒にすると水層がフタになるため、容器を移し替えれば、下の写真のようにアクセサリー的なものにすることも可能です。
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教育のポイント
「液体」を真に理解するために
この実験は簡単ながら、液体の極性と比重、溶質溶媒の性質という、非常に多くの内容を含んでいます。また、見栄えの良さから、化学に興味を持たせるにももってこい……と言えます。
まず、水と油は何が違うのでしょう。中高では「親水/疎水」という言葉を使いますが、水に対して溶けるか、弾くか程度の意味合いしか持たず、液体には「水と油」しかないというよくわからない理解で止まりがちです。そこで「液体」というものに「極性がある/極性がない」という話から始めましょう。
「極性がある」とは?
液体と言っても、世の中にはいろいろなものがあります。水をはじめ、酒に含まれるエタノール、除光液に使われるアセトン、ペンキの溶剤に使われるトルエン……これらの液体には極性と呼ばれる、それぞれの特徴があります。
水の分子は H2Oで、酸素と水素2つで出来上がっています。酸素は電気陰性度の高い元素です。電気陰性度は電子を引きつける力の大きさを表し、そこに水素が2つついている程度ということは、酸素の電気陰性度的にはマイナスに電荷が偏っていると言えます。
こういった電気的に偏りのある液体を「極性溶媒」と呼びます(ここではあえてプロトン性極性溶媒/非プロトン性極性溶媒の差は割愛しています)。
それに対して、ベンゼンやクロロホルム、ジクロロメタンといった溶媒は、プラスとマイナスが釣り合った分子構造をしているため、電荷的な偏りを持ちません(ないしは極めて小さい)。
つまり、極性がないことから「非極性溶媒」と呼びます。
この液体を構成する電荷的な偏りの有無が「水と油」の根本的な違いであると言えるのです。
溶ける/溶けないの本当の意味
次に、それらの溶媒に溶ける or 溶けないとはどういうことなのでしょうか?
水は多くのイオン結晶を溶かします。イオン結晶というのは、水に溶けた時にイオンになる固体のことで、多くの金属塩、身近なモノでは食塩(NaCl)などがあります。
我々がごくごく当たり前、当然のことだと思っている、食塩(NaCl)が水に溶ける……とはどういうことなのでしょう?
さっきも説明したように水分子は酸素側にマイナスに偏っていますが、同時に水素側にプラスの部分もあります。すると NaCl は Na+(ナトリウムイオン)と Cl-(塩化物イオン)に分かれます。
この2つに分かれたイオンはそれぞれ水分子のプラスの部分とマイナスの部分が集まって取り囲んでしまいます。この状態が「イオン化している」状態と言え、また見かけ上「溶けている」状態と言えます。
もちろん、分子がイオン化して溶けるものと、そのまま溶けるものがあり、食塩はイオン化して溶けていますが、砂糖(ショ糖)はそのままの分子が水分子に囲まれる形で溶けています。
この溶ける/溶けないを見る時も、分子の電気的な偏りによって、非極性のものは非極性溶媒によく溶けて、極性を持つ物体は極性溶媒によく溶ける……わけです。
当然、両方の性質を持つ分子もあり、そうしたものは、極性/非極性に両方に溶けますが、溶解しやすさが異なるため、溶ける量が異なったりします。
液体の比重
最後に本実験の肝である液体の比重について紹介しましょう。
比重というのは水(大気圧下の4°の水)1.0 g/cm3 に対してそれぞれの物質の1cm3(立法センチメートル)あたりの重さ比較です。比重と密度は地球の重力下では同じ意味合いですが、比重は「水に浮く/沈む」の時に使う言葉で、水以外の比較にはあまり使いません。
油が水に浮くのは、多くの植物油は0.9程度で水より軽いので、水の上に浮きます。しかしフッ素油(例:パーフルオロカーボン)は比重は1.7(25°C)となり、水に余裕で沈みます。
本実験でも紹介したテトラブロモエタンは、2.9という圧倒的な重さを持っており、アルミニウム(2.7)、石英(2.6)より高いため、ビー玉や1円玉が浮くわけです(テトラブロモエタンとアルミニウムは日光下で危険な化学反応を起こすため、実際に浮かばせるのはあまりオススメしない)。
逆に、それ以上重い金属、銅や銀は8や10といった重さなので浮かずに当然沈みます。故に、昔はレアメタルなどを含む重砂や金などを得るため、こうした重い液体を使って比重選鉱を行う工場などもあったようです(今はほとんど機械的なふるい分けで分けられています)。
※実験に当っての注意事項
・本書に掲載されている実験は、主に高校生以上を対象に、教師が立ち会って行うことを想定して書かれています。教師の目が届かないところで、生徒だけで実験することは絶対に避けてください
・火を使う実験では、火の取扱いには十分注意してください
・書かれている薬品は、必ずSDS検索(https://www.j-shiyaku.or.jp/Sds/)などで注意事項を確認し、事故防止に努めてください
・使用する実験器具、薬品は実験前に異常がないか確認してから使用しましょう
・実験の手順はあらかじめよく読んだ上で、必ず手順どおりに実施してください
・実験時はなるべく肌の露出は避け、必要に応じて防護眼鏡、手袋などを着用してください
・電気を使った実験では、感電、火傷の恐れがあるので注意してください
・難易度が高ければ高いほど、危険を伴うことがあります。その場合は、予備実験および徹底した安全管理を行った上で実験してください
・万が一事故が起こった場合は、まずは落ち着いて事故の内容・程度を把握した上で、適切な応急処置を取ってください
・上記を踏まえて上で、本文中に記載された注意事項は必ず守り、安全第一で実験に臨みましょう
・本書を参考に実験を行い、事故等により何らかの損失・損害を被ったとしても、著者並びに出版社、その他関係者には一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください
<協力:すばる舎>
発行:すばる舎/著:早稲田大学本庄高等学院 実験開発班
数々のサイエンスコンペティション入賞者を輩出した、科学部による「学校の理科室でここまでやるか!?」と驚愕間違いなしの実験を15収録。
日常生活に役立ちながらも科学的好奇心を爆発的に揺り起こす!誰もが夢中になる実験手法を大公開です。大好評を博した「魅了する科学実験」の続編がついに出ました!第2弾は、光や音、超音波といった「目には見えない」事象を大きく扱っています。授業でとりあげたくても、なかなか生徒たちに興味を持ってもらえない分野ですが、エキサイティングな実験の数々が、生徒たちの好奇心を満たします。中学校理科から高校化学・生物・物理と幅広く網羅しているので、「理科」の先生は必見です。ご家庭で実験を行うには危険な実験もありますが、ご家庭でもトライすることが可能な実験も収録。実験マニア・科学マニアにもうってつけの1冊です。