抑制から活用促進へ…オンラインセミナー「with コロナ時代の情報モラルを考える!」

 文部科学省は2021年2月16日、 オンラインセミナー「with コロナ時代の情報モラルを考える!」をメディア開発綜研とともに開催した。青少年がインターネットに正しく向き合うためにすべきことについて、具体的な事例の紹介を通じて考える機会の創造を目的として実施された。

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お茶の水女子大学教授の坂元章氏による基調講演
  • お茶の水女子大学教授の坂元章氏による基調講演
  • 日本ユニセフ協会広報アドボカシー推進室長の中井裕真氏による事例紹介
  • ソーシャルメディア利用環境整備機構常務理事/Facebook Japan執行役員の小堀恭志氏による事例紹介
  • コンピュータエンターテインメント協会事務局主幹の横戸健介氏による事例紹介
 文部科学省は2021年2月16日、「令和2年度ネット安全安心全国推進フォーラム」をメディア開発綜研とともに開催した。

 同セミナーは「with コロナ時代の情報モラルを考える!」をテーマとし、青少年がインターネットに正しく向き合うために大人は何をすべきなのか、青少年を取り巻く現状や取組みなどの紹介を通じて考える機会を創造することを目的として開催されたもの。会場となるZoomウェビナーには、青少年のインターネット利用に関心のある保護者や学校関係者が集まった。

突然訪れた「ニューノーマルの時代」



 基調講演では、お茶の水女子大学教授の坂元章氏が登壇。「withコロナ、afterコロナ時代の情報モラル教育」をテーマに、海外の動向を踏まえて講演した。

 まず坂元氏は、2020年のコロナ禍による人々の生活の在り方の激変により、テレコミュニケーションの活用を前提として生活が構成される「ニューノーマルの時代」が訪れたと述べた。

 日本における従来の情報モラル教育においては、子どもの安全を守るために情報通信技術の活用を抑制する一面があったという。一方、海外では情報安全教育の分野において、デジタルシティズンシップ、サイバーウェルネス、デジタルレジリエンスといった活用を前提にした前向きな言葉が多く用いられており、さらなるデジタル活用をポジティブに捉える立場が大いに反映されているとした。

海外の事例から見た、インターネット活用面における7つの示唆



 次に坂元氏は、海外の動向から日本の情報モラル教育の在り方を考えるうえでヒントとなる、情報通信技術の活用面における7つの示唆を取り上げた。

 1つ目は「適切な選択を教える」こと。海外では安全を守るというよりも、情報通信技術のさまざまな取扱いの中から、リスクを踏まえたうえで適切なものを選択できる力をつけることが強調されているという。

 2つ目は「有益性と危険性の両面提示」。海外の教材などを調べたところ、情報通信技術の有益性と危険性を同じ重みで提示することに、かなり配慮していることがわかったという。坂元氏は「情報通信技術の不適切な取扱いや危険性の例だけが扱われるのであれば、それは活用に対する良くない印象を与え、子どもの活用を抑制する。有益性と危険性の両面を提示することで、個々の選択の問題であるということを浮かび上がらせ、むやみな活用の抑制を避けることができる」と説いた。

お茶の水女子大学教授の坂元章氏による基調講演お茶の水女子大学教授の坂元章氏による基調講演

 3つ目は、教師が「情報通信技術を使いながら教える」ということ。これにより子どもたちに対し、体験の中で、安全に注意しながら活用していくという心構えを示すことができるという。坂元氏は「GIGAスクール構想に基づいて1人1台端末を導入する取組みが進んでいけば、情報通信技術を実際に使いながら情報安全を学ぶということが現実に近づいていくのではないか」と予想した。

 4つ目は「レジリエンスを高める」こと。坂元氏によれば、近年海外の情報安全教育において「抵抗する」というニュアンスを持つ「デジタルレジリエンス」という言葉を見かけるようになったという。具体的には、トラブルに遭遇したときはその記録を残すことがあげられる。また相談窓口に関する情報やトラブルの解決事例を集めることなども、レジリエンスを高める効果があるとした。

 このほかにも坂元氏は、インターネット活用について悩みながら選択するロールモデルを、教材などを通して見せる「語りの多用」や、情報活用時の「創造性を強調する」ことの有効性を指摘。また、情報通信技術について「生涯学習を促す」ことも重要だとした。「情報通信技術は遠ざかることなく、生涯にわたって前向きに活用していくべきものである」と述べ、激しい変化の中で今後も発展を続けていくであろう情報通信技術との向き合い方を提案した。

海外における情報モラル教育の動向



 続いて、坂元氏は海外では日本の情報モラル教育ではあまり扱われていない領域があるとして、2つの具体例をあげた。

 1つ目は、海外においては情報通信技術を活用した社会参加や政治参加が重要視されているということ。たとえばインターネットを通じて政治的な主張をする場合、対立する相手に誹謗中傷をせず誠実に議論し対話を求める姿勢を保つということが望まれ、それは情報モラルとも深く関わる問題だと説いた。

 2つ目は、情報モラル教育の中で国際理解を扱うことだ。インターネットの普及によって国と国の間の垣根が低くなり、文化的多様性を理解して交流する重要性が増している。テキストベースのコミュニケーションにおいて発信者と受信者の背景が異なることから、しばしば誤解が生じることは現在の情報モラル教育でも扱う内容だが、これが異文化の発信者と受信者であれば、その危険性は一層高くなり、特段の注意が必要となる。

 「今後、海外の方々と協働する機会がますます増えていく。そのときに海外の方々から尊敬される見識を持っている人こそが、満足できる活動の機会に恵まれることになるだろう。情報モラル教育においてもグローバル化に対応した取組みが時代の要請により必要となるだろう」と述べた。

 さらに坂元氏は「情報通信技術が普及していく過程では、活用を抑えてでもトラブルの発生を食い止めることが重視されてきた。しかし今日では社会の状況が変化し、活用推進の気運に転じている。今後は安全に注意しつつも、子どもたち自身の可能性を広げていくよう、活用が強く抑制されることのないような配慮が望まれる」として締めくくった。

国内外における事業者の取組みの説明



 基調講演の後は、情報モラル教育に取り組む3つの事業者から、取組みや今後の方向性について説明がなされた。

日本ユニセフ協会



 まず、日本ユニセフ協会広報アドボカシー推進室長の中井裕真氏は「ユニセフでは当初、児童ポルノ問題などのインターネットがもたらす新たな脅威から子どもたちをどのように守るのかという視点で取組みを進めていた。しかし2017年にユニセフ『世界子供白書』を発表したことではっきりと流れが変わった。インターネット上で子どもたちが直面する負のリスクの部分は依然として記述されていたが、この白書はデジタルがもたらす可能性の部分も明確に打ち出し、その両面について大人がすべきことを示す内容だった」と当時を振り返った。

日本ユニセフ協会広報アドボカシー推進室長の中井裕真氏による事例紹介日本ユニセフ協会広報アドボカシー推進室長の中井裕真氏による事例紹介

 ここでいう大人に期待される役割とは、2019年にドイツで開催された「インターネットガバナンスフォーラム」でユニセフが発した次のメッセージに集約されるとして紹介された。

 「道路の渡り方を教えるのと同じように子どもたちにはインターネットの使い方を教えるべきです。リスクがあるからといって子どもたちが道路を渡るのをやめさせることはできません。私たちの役割はあらゆる状況で安全で責任を持った道路の渡り方を子どもたちに教えることと、子どもたちを守るための安全策を講じることです」(ユニセフメッセージ)

 今後の取組みについて、中井氏は「コロナ禍で子どもたちのスクリーンタイムが増加したことによる影響はもちろんだが、世界の多くの子どもたちが学校の閉鎖などで教育の機会を奪われているという現状を忘れてはならない。ユニセフでは現在、新型コロナウイルスワクチンを途上国に届けることを最優先の取組みとして行っているが、並行して、教育の機会を奪われた子どもたちに、ひとりでも多く学びを取り戻すプロジェクトも優先的に進めている」と紹介した。

ソーシャルメディア利用環境整備機構



 続いて、ソーシャルメディア利用環境整備機構(以下、SMAJ)常務理事でFacebook Japan執行役員の小堀恭志氏より、ソーシャルメディア等による課題等への対応について説明された。

 SMAJは2020年4月、ソーシャルメディア上の課題への取組みを強化し、利用者の安心安全な環境整備向上や、業界全体の健全な発展を促進することを目的に、関連事業者23社で設立したもの。おもな取組みとして、1つ目は各事業者の取組みを体系化する「ユーザー保護ナレッジデータベース」の構築。2つ目はソーシャルメディアを利用した効果的な啓発の実施や啓発活動のサポート。昨年は法務省・総務省と共同でスローガン「# NoHeart No SNS」 を発表し、SNSのより良い利用環境実現に向けて啓発を実施したという。3つ目は政府や関連事業者団体と連携して利用者の属性に応じた利用環境整備の推進であるとした。

 その後、現在小堀氏が所属し、青少年にも活発に利用されているInstagramにおける取組みについて紹介された。Instagramではコミュニティ内のいじめや誹謗中傷の問題に対し、ブロックやミュートなどのアカウント保護のツールの導入とともに、2019年には新たな制限をリリースした。この制限機能は、いじめを監視しながらアカウントを「静かに保護」できるよう設計されており、制限を有効にすると、相手側は引き続きコメントができるため気づかない一方、制限した側が「コメントを見る」をタップしない限り自分もほかのフォロワーにも見えない仕組みになっている。不快なコメント通知もまったく届かない。

ソーシャルメディア利用環境整備機構常務理事/Facebook Japan執行役員の小堀恭志氏による事例紹介ソーシャルメディア利用環境整備機構常務理事の小堀恭志氏による事例紹介

 また、タグやメンションを使用してほかのユーザーをターゲットにするいじめが指摘されたことから、ユーザーがタグ付けや言及できる範囲を管理できる新しい制限機能も導入したという。そのほか、2020年5月にはコメントを削除したり否定的なコメントを投稿する複数のアカウントをブロックおよび制限できる新機能を追加した。また、不快なコメントや不適切なコメントを自動的に非表示にするフィルターも展開しているという。

 さらに、インフルエンサーと呼ばれる人たちが子どもたちの日常に大きな影響を与える存在となっていることから、2020年3月にはインフルエンサーを日本でもっとも多く抱えるマネジメント企業・UUUMとのパートナーシップを発表。インフルエンサーすなわちクリエイターへの継続的な教育の提供を目指している。

 小堀氏は「若い方の利用が多いInstagramだが、保護者のための利用ガイドも作成している。これによりユーザーである子どもたちだけでなく、保護者にもメディアに向き合っていただき、家庭内で使用に関する約束を決めるというようなアクションの一助になれば」と結んだ。

コンピュータエンターテインメント協会事務局



 最後は、コンピュータエンターテインメント協会(以下、CESA)事務局主幹の横戸健介氏から、未成年ユーザーに対する取組みについて説明された。

 CESAでは、東京ゲームショウといったアジア最大の見本市や世界規模のコンピューター開発者向けのカンファレンスを開催している。現在の会員数は約189社で、日本のゲームに関わる事業者の約95%程度が参画している。

 まず横戸氏からは、近年、ゲームのプレイ経験がある人の割合が約85%に上り、国民的な娯楽となっているというデータが示された。そのうえで、未成年の安全安心な利用のための業界全体での課題認識として「適正な利用時間の設定」、年齢にあった表現内容が含まれるソフトを選択する「年齢別レーティング制度」、「ゲーム機のインターネット接続の制限」、そして有料コンテンツ利用によるトラブルの防止のための「ガイドラインや機能による制限」の4つをあげた。

コンピュータエンターテインメント協会事務局主幹の横戸健介氏による事例紹介コンピュータエンターテインメント協会事務局主幹の横戸健介氏による事例紹介

 次に、これら4つの課題に対するCESAの取組みが紹介された。まず保護者に対するペアレンタルコントロール機能の促進。次に、未成年の保護や課金方法など、適切なプレイ環境を提供するためのガイドラインを定め、業界全体で遵守すること。最後に、上記の4つの課題や、正しいゲームの使い方についての啓発活動である。

 横戸氏は「ペアレンタルコントロールを知っている方は全体の6割というデータがあるが、実際にその機能を使用しているのは全体の2割にとどまっている。また、年齢別レーティングについては、そもそも7割以上が知らない状況だ」として、内容について理解を深めてもらえるよう、積極的に取り組む必要性があると述べた。

 具体的にはペアレンタルコントロールについては「プレイ時間や課金の管理だけではなく、クレジットカードや携帯端末のパスワードなどの管理、もしくはフィルタリングなどとの併用が必要。また、やはり重要なのはゲームの使用に関して家庭内でどのようなルールを決めるということであり、親子でコミュニケーションをとりながら適切なルール作りをしてほしい」と言及した。

 近年、ゲームクリエイターになりたい子どもが増え、ある調査では男児の人気職業の1位になったという。横戸氏は「青少年の豊かな将来に向け、就業支援といったことも今後展開していきたい」として締めくくった。

これからのインターネット活用、家庭でもコミュニケーションを



 この後、会場では保護者や学生を交えたパネルディスカッションも開催され、今後一層問われていくであろう情報モラル教育の在り方について議論が行われた。

 コロナ禍での家庭での時間の過ごし方をはじめ、大きな変化がもたらされた2020年。これからの将来ますます身近になるであろうインターネットとの付き合い方について、業界の動向に関する広い情報、個々の事例紹介や当事者による意見交換といった深い情報がともに示された意義深いセミナーだった。
《土取真以子》

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