「あくまでもツール、使っている自分を大切に」映画をきっかけに若者のSNS依存を考える

 シネマカフェ×リセマムの共催オンラインイベント「Let’s Keep Updated」は、映画『ディア・エヴァン・ハンセン』をメインに、若者のメンタルヘルスやSNSとの向き合い方について考えた。奥浜レイラさんとみたらし加奈さんの対談のようすをお届けする。

教育・受験 中学生
若者のメンタルヘルス&SNSの向き合い方について考える/『ディア・エヴァン・ハンセン』(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 若者のメンタルヘルス&SNSの向き合い方について考える/『ディア・エヴァン・ハンセン』(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 『ディア・エヴァン・ハンセン』(C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved
  • 『ディア・エヴァン・ハンセン』(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
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  • 『ディア・エヴァン・ハンセン』(C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved
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シネマカフェでは、映画をきっかけに地球のことや、私たちのことについてトークし考えるオンラインイベント「Let’s Keep Updated」を開催中。今回は、受験や進路・進学情報の教育ニュースを扱うWebメディア「リセマム」との共同イベントとして、進行役に奥浜レイラさん、ゲストに臨床心理士のみたらし加奈さんを迎え、映画『ディア・エヴァン・ハンセン』をメインに、若者のメンタルヘルスの現状について、SNSとの向き合い方、コロナ禍とメンタルヘルスなどについて語り合った。





みたらし加奈(以下、みたらし) 普段は臨床心理士として、国際心理支援協会のカウンセリングルームで働いています。その前からSNSでメンタルヘルスのケア、精神疾患への偏見をなくすための活動というのも行っています。去年からNPO法人「mimosas」で性暴力被害であったり、性的同意に対する専門的な知識を弁護士や臨床心理士、元検察官などと一緒に情報発信していくメディアも運営しています。今日はよろしくお願いいたします。

奥浜レイラ(以下、奥浜) Twitterは前から拝見していました。昨今、映画ではティーンエイジャーに関わらず、大人のメンタルヘルスに関して様々な描かれ方をしていると思います。特にティーンエイジャーのメンタルヘルスに関しては、その悩みに関して細分化されて描かれていたり、1つの物事に対してすごく解像度が高くなったということを映画の表現として感じることが増えました。今日はその中の1つ、『ディア・エヴァン・ハンセン』についてまずお話をお聞きしたいと思います。ブロードウェイ・ミュージカルの映画化です。

みたらし メンタルヘルスを描いている作品が最近いろいろと出てきた、解像度が明るくなったというお話がありましたが、割とそういった作品と少し一線を画していると思う部分が本作にはあって。出てくる登場人物たちの症状であったり、当事者しか感じ得ないような感覚というのが、その人の目線ですごくリアルに描かれていると感じたんです。

あと、意外性もありましたね。いわゆるメンタルイルネスというか、“精神疾患を抱えている人”みたいな感じの描かれ方ではなくて、それ自体もスティグマ、偏見とかも含まれていると思うのですが、それ以上に「えっ、この子も? この子も?」みたいな感じの意外性というのが、実は意外なことなのではなくて当たり前。人がたぶん悩みを抱えていて、その悩みが変わっていって、(やがて)もしかしたら病気という形になっていくというのは、体の病気と同じく当たり前のことだと思うので。そういった面でもすごくリアルだなって思ってました。

奥浜 例えば不安の種みたいなものは努力で解決できるとか、精神的に頑張ればいいんだとか、そういうところで押し込められていた日本の文化ってあると思うんです。でも、いまって、その弱さを1つ1つ自分で認めてあげることがゆくゆくは強さに繋がっていく、というか。強さっていう表現が正しいか分からないんですけれど、でも弱さを認めてあげることだよね、っていうのがこの作品でも描かれています。みたらしさんもおっしゃっていたように、いろんな人にその種があって、誰もが抱えているものだよねっていうところを肯定している、認めてあげるような作品でもあったかなと思いました。

主人公のエヴァンが社交不安症(社交不安障害)と医師からいわれて、自分自身に手紙を書くようなセラピーをやっているんですけれども、これってどういった症状で、学生の方に多いことなのでしょうか?

みたらし 世の中には10代まで、特に義務教育までの過程って集団行動が苦手な方もいらっしゃると思うんです。苦手と思っても学校の中に押し込められてしまうとか、コミュニケーションを取らざるを得ない環境というのをかなり強いられている部分が10代は大きいので、そういったところで社交不安障害を発症しやすいのもあるだろうし、自覚しやすい。コミュニケーションであったりとか、対人緊張とかで分かりやすいことがある、というのが見解なんですけれど。臨床心理士は診断はできないので、一見解としてとらえていただければと思います。


コロナ禍、不安や孤独を抱える人は増えている?


奥浜 コロナ禍になって精神的に不安を抱えがちになる、1人でいることも多いので気晴らしができないとか、いろいろと不安になることも多いんですけれども、孤独を感じる人って増えているんですかね。統計のような形で出ているのでしょうか?

みたらし 「孤独を感じているかどうか」という統計は出ていないと思います。もしかしたらどこかで出しているかもしれませんが、ただ、うつ病のなりやすさという点ではデータが出ています。

多くの先進国でコロナ前、コロナ後と比べてみると、うつに罹患される方の割合が2倍から3倍に増えている(※1)というデータが出ているので、そういった意味では、感染症が広がって、しかも家にいなければいけないとなったときに、家族がいたらいいけれども、1人で隔離するかもしれないし、もしかしたら家族と仲がよくない場合だってあるかもしれない、かなり孤独は感じやすい状況にはなっていたんだろうとは感じます。

あと、日本国内のデータだと、うつ病とうつ状態の人の割合が2013年のデータでは7.9%、約12人に1人くらいと考えていいかなと。それに対して、新型コロナウイルス感染症が流行してしまった後は17.3%になっている。10人のうち2人の計算になるかなと思うので、やはり増えたということはあると思います。

奥浜 日本でも、女性の自死率が上がった(※2)ということもあったりとか、非正規で働いていて職業的に、経済的に不安を抱えている方がコロナ禍において増えているんだなと、そういったデータから読み取ることができると思います。やはりこういった環境が精神的な面に及ぼしていることって、多いですよね。

みたらし 多いですよね。10代も自死率が過去最悪になった(※3)というニュースも去年出ていて、いい兆しは見えていないんだろうなと思って。社会的に考えたとしてもメンタルヘルスケアということを、しっかり国もそうですし、個人としても、周りの人にどうサポートできるかということを考えてやっていく必要性があると感じます。

奥浜 映画の中でエヴァンが社交不安障害を抱えているという設定がありましたが、何か心がけること、できることってあるんでしょうか。

みたらし よく私がお伝えするのが、友だちがちょっと様子がいつもと違うとなったときに「大丈夫?」って声をかけがちだと思うんです。「大丈夫?」って、「Are You OK?」みたいな感じで聞いてしまう。「大丈夫?」と聞かれると「あ、大丈夫」って答えやすいんですね。だから、Yes/Noのクエスチョンで聞くとパッと自分を守る回答であったり、距離を取る回答をされやすかったりするんですけど、「どうしたの?」って聞いてあげる、「What?」で。YesかNoか、じゃなくて「何があった?」ということを前提で聞いてあげると話しやすかったりするので。

「大丈夫?」よりも「どうしたの?」って聞いてあげるほうが、実はこんなことがあったとか、「どうしたのって、何か気づいた?」とそこから話が膨らんでいくこともあるかなと思います。そういう聞き方ひとつ変えるだけでも、やっぱり人って打ち明けやすさも違ってくるかなと思うので、それはおすすめしています。

奥浜 確かにそうですね。友だちに会ったときに「最近どうしてた?」「こんなことあったね、どうだった?」って聞かれるほうが私から話しやすくなる、というのを経験しているので。それはコミュニケーションのとり方として、いろいろな場面で使えそうな気がしますね。


みたらし加奈のおすすめは「セックス・エディケーション」、あの韓国ドラマも



奥浜 ほかにも、配信等で観られるメンタルヘルスと向き合った作品、またSNSとの向き合い方について描かれた作品というのはたくさんあるんですが、その中の一部をご紹介させていただきたいと思います。まずは2013年の『ウォールフラワー』(『ディア・エヴァン・ハンセン』スティーヴン・チョボスキー監督作品)。

『ウォールフラワー』

イギリスのドラマシリーズの「セックス・エデュケーション」。また、2009年から2015年まで続いておりましたドラマシリーズ「glee/グリー」も人気です。最近のティーンエイジャーが向き合っている問題を繊細に描いた作品で「EUPHORIA/ユーフォリア」というドラマシリーズもあります。この中でみたらしさんが気になっている作品、ご覧になってお好きな作品はありますか?

「EUPHORIA/ユーフォリア」

みたらし 「セックス・エデュケーション」です。主人公のオーティスのお母さんて、セックスセラピスト。おそらくメンタルヘルスの専門家で、その中の専門分野がセックスだと思うんです。やっぱり観ていて学びになったりとか、イギリスだとメンタルヘルスに対してこういう認識の仕方なんだ、こういう分野が生まれているんだということなど勉強になるので。そういった観点でも好きなドラマです。

「セックス・エデュケーション」シーズン3

奥浜 私もすごく好きだなと思ったのが、セックス・エデュケーション=性教育というふうに聞くと、特に日本だと恥ずかしい、人には隠さなきゃいけないものだっていうふうにまだまだ捉えられると思いますが、そこをむしろ健康のための1つの側面である、という描かれ方をしていて、それを中でもセリフで話されていたりするので、もっとこういう考えが広まったらいいなっていうふうに思ったりしました。

みたらし いま奥浜さんがおっしゃってくださったように、セックスは隠さなきゃいけない恥ずかしいこととか、自分の性に対する悩みは言っちゃいけないことなんだというのって、結構いろいろな分野にも言えて。もちろん性教育の中にフォーカスされるかもしれない、それこそセクシュアリティの話、ジェンダーの話とかもそうだし、あとはメンタルヘルスとか、性暴力被害に遭ってしまった登場人物の方もいらっしゃるんですけど、そういうのも含めて言ってはいけないこと、隠さなきゃいけない、蓋をしなきゃいけないとなっていることをしっかり取り上げて、土足で踏み込むわけじゃなくてきちんとトントンとノックして合意=コンセンサスをとった上でしっかり対応していくみたいなもの。

性教育って、セックスのHowToを学ぶ学問みたいな感じで日本だと捉えられがちなんですけれど、1人の人間が1人の人間として生きていくこと、すべてを包括しているのが私は性教育だと思っていてその中にメンタルヘルスももちろん含まれていると思うので、そういう側面でもいろんなことに触れながらきちんと性教育の大切さを教えてくれる、そういう教科書みたいな作品だなと。私が10代のときにあってくれたら良かったなと。それは『ディア・エヴァン・ハンセン』もそうですけれど、そういうことはすごく感じました。好きなキャラクターはメイブと、一番好きなのはルビー。友だちになりたいなって。

奥浜 多様な女性の姿が描かれていますね。

みたらし ゲイの描かれ方なども、日本だとありがちなのがステレオタイプみたいな“女性っぽい”とか、少し“弱い”、メンタルヘルス的にセンシティブな部分があるという描かれ方をしがちなんですが、そうじゃない。いろんなタイプの方たちが出てくる。本当にグラデーションの中にみんないるんだっていうことがしっかり描かれているのがすごい。本当に日本でもこういうコンテンツ出して~って思います。

ノンバイナリー(性自認を男性・女性という枠組みに当てはめない)のキャラクターも登場する

奥浜 いま、映画やドラマについて話してきましたが、メンタルヘルスを描いた作品で、映画だけでなくて何か心の薬になるような本とかってありますか?

みたらし 私がおすすめするのが、伊藤絵美さんが書かれた作品で、臨床心理士・公認心理師の方なんですが、「セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク」という本。私がSNSで発信している理由の1つとして、日本だとメンタルヘルスの専門機関にかかるのもすごくハードルが高いからで、なぜハードルが高いかというと、自分がしんどいなと思ったときにその間のステップがないからなんです。

どう自分をケアすればいいのかとか、自分でできることは何なのかとか、専門的なエッセンスみたいなものがあまり発信されていないがゆえに、そこ(専門機関までの)の段差がめっちゃ高くなってしまっている状況があると思うんですけれど。もちろん専門機関にはいつかは行ってほしいんですが、専門機関に行く手前の自分で自分のことを安心させられるとか、自分で自分のことをサポートできる、その足がかりみたいな感じになってくれるような本です。


あと、私が最近見たドラマで、これはすごく忘れられないなと思った作品があって、それをご紹介しても大丈夫ですか。

Netflixで配信されている「サイコだけど大丈夫」。韓国のドラマなんですけど、精神科病院が舞台になっていて、主人公のラブロマンスみたいなものもあるんですけど、それとは別にメンタルヘルスであったり、兄弟が障がいを持たれている方、自分の兄弟が障がいを持たれている方を「きょうだい児」というのですが、「きょうだい児」としての主人公の目線であったり、自閉症スペクトラム症を持っているお兄ちゃんの話であったりがすごく繊細に描かれつつ、舞台になっている精神科病院の中に入院している患者さんたちそれぞれのパーソナリティや、エピソードがしっかり描かれている。あと面白いのが、精神科医からの視点みたいな、分析みたいなものもドラマの中では描かれているので超おすすめです。

「サイコだけど大丈夫」

SNSはあくまでツール。「使っているのは、私」という認識


奥浜 SNSについて、『ディア・エヴァン・ハンセン』の中でも描かれていたのですが、SNSって人の心を救う場でもあるし、また、傷ついてしまうところでもある。逆に誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれない。その向き合い方というと、すごくざっくりとした聞き方になってしまうんですが、どのようにつき合っていったらいいのかが長年のテーマになっているんですが、その辺りはどうお考えですか。

みたらし 私は、SNSってツールの1つであることをみんな忘れちゃいけないと思っていて。自分という本体がいてSNSを使っている本来のそういう事実があるんだけれども、だんだんSNSに自分が踊らされていたりとか、SNSのために日常生活を何かしら蓋をしてしまったりとか、ある意味犠牲にしてしまう部分もあったりとかすると思うので。「私がこれを使っている」という認識を持ち続けることってすごく大事だから、使っているのは私だから止めることだっていつだってできるわけで。止めても生きていける。

最近、化粧品やバス用品などを扱っている「ラッシュ(LUSH)」が世界全部(同社が展開する48か国)のSNSを、メンタルヘルスケアの啓発としても、誹謗中傷の問題意識を含めて全部停止するというニュースがありましたね。

SNSデトックス、オンラインデトックスみたいなのをする企業も、たぶんこれから増えていくんだろうなと。ただ、便利な側面もあるし、『ディア・エヴァン・ハンセン』で取り上げられていたように、苦しい思いを抱えている当事者で繋がっていける、という部分もあると思うので。本当にうまくつき合っていくこともそうだし、こんなに大きな企業もやめるんだと1つの勇気にもなると思うので、そういう認識でつき合っていくのもすごく大事だなと思っています。

あと、設定をしっかり知っていくことって結構大事。なぜかというと、ツールだから。ミュート機能とか、特定のワードを出さないようにしたりとか、特定のワードをコメントできないようにしたりとか、たぶん各社、いま言われているソーシャルメディア、ソーシャルネットワークサービス、InstagramもTwitterも、割と大きなところはいろいろな設定を用意してくれているんです、メンタルヘルスケアのためにも。だから、しっかりその情報をキャッチした上で、ツールとして使っていく上で使い方を学んでいくことも大事だと思います。

このほか、日常生活で不安をできるだけ感じないようにするための「主観と事実」のバランスのとり方、専門家を頼るにも、まずどこに繋がればいいのか分からない方のためへのアドバイスや、質疑応答では、企業の人事担当からコロナ禍のコミュニケーションやメンタルヘルスケアについて、また、関わっていくのにどうしても“しんどい”相手との付き合い方についての質問が寄せられ、みたらしさんが応じる場面も。12月18日には、みたらしさん初の児童書「テイラー 声をさがす物語」が出版される(対象は中学生~大人まで)。


若者のメンタルヘルス&SNSの向き合い方について考える


『ディア・エヴァン・ハンセン』は全国にて公開中。

若者のメンタルヘルス&SNSの向き合い方について考える 奥浜レイラ&みたらし加奈が登壇<アーカイブ>

《text:cinemacafe.net》

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