【中学受験】夏休みに訓練しておきたい算数得点アップの秘訣

 長年、中学受験専門塾にて算数・理科の指導に携わり、現在は執筆活動や受験相談を行っている後藤卓也氏に、算数の得点アップにつながる勉強方法のポイントについて寄稿いただいた。

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 中学受験を目指すご家庭では、夏休みを前にそろそろわが子の課題も見えてきたのではないだろうか。特に国語や算数は一朝一夕に力が付くわけではなく、努力が成績として表に現れるまでには相応の積み重ねが必要であることは、ほとんどの保護者が理解しているところだろう。

 とはいえ、どのように勉強をしたら得点に結びつく「力」を身に付けられるのだろうか。長年、中学受験専門塾にて算数・理科の指導に携わり、現在は執筆活動や受験相談を行っている後藤卓也氏に、算数の得点アップにつながる勉強方法のポイントについて寄稿いただいた。

テスト結果が返却されたとき、まず保護者がしていること

 塾のテストや大手模試の成績結果が返却されると、保護者はまず「4教科総合偏差値」をみるだろう。それから科目ごとの偏差値をみる。ここまではごく当たり前の行動だ。そして次に、かなりの確率で「算数の計算問題が何問できているか」を確認するのではないだろうか

 どの塾のテストや合格判定模試でも、算数の最初の問題として計算問題が2~4問程度あり、その誤答数で、保護者の心証は大きく左右される。算数のその他の問題や他の3教科は、各問題の難易度や正答率を確認したうえでなければ、いきなり怒りのボルテージが上がることはないだろうが、計算問題に関しては、×の数を確認した瞬間に「計算問題はちゃんと見直ししなさいって何度も言ったでしょ!」「ちゃんと筆算したの?」みたいな怒りの刃を飛ばしてはいないだろうか。

 ご両親の気持ちはよくわかる。我々でさえ、算数が苦手な子なら「せめて計算問題で点数を稼ごうよ」と思うし、得意な子だったら「計算問題なんかで失点してるんじゃないよ」と思うものだ。他の問題は、ジャンルによって得手不得手があったり、解き方を覚えていなかったり、典型題を一捻りした応用問題だったり、いろいろ要因が関与してくる。他の3教科だって同じだろう。しかし計算問題に関しては「解き方がわからない」とか「忘れてしまった」ということは、まずありえないからだ。

 実際に、多くの学校の説明会で、「冒頭の計算問題の出来が、入試の合否に大きく影響しています」という話を聞く。つまるところ「算数の得点力を上げるための最大の秘訣は、計算力を高めること」なのだが、それではあまりにもありきたりの結論で、本稿に期待を寄せてくれた読者の期待を裏切ってしまうだろう。一歩踏み込んで考えてみよう。

計算ミスを叱ってはいけない理由

 正直なところ、このありきたりで単純な結論は正しい。ただし勘違いしないでいただきたいのは、「計算力=計算問題の正答率」ではないということだ。

 もちろん計算問題は正解できたほうが良いに決まっている。しかし計算問題を間違えたからといって絶対に叱ってはいけない。叱ったからといって計算力が上がるわけではないし、むしろさまざまな弊害をもたらす

叱ってはいけない理由・その1

 たとえば、はじめて70点以上とれた、もしくは最後の難しい問題が解けた、それなのにいきなり「なんで1番を2問も間違えたの!?」なんて叱られたら、モチベーションはガクンと下がる。せっかく頑張ったのに、なんでただの計算ミスでこんなに叱られなければならないのか…これが子供の本音だ。

叱ってはいけない理由・その2

 計算問題は決して易しくはない。特に入試レベルの計算問題は、正解にたどり着くまでにいくつもの過程を踏まなければならず、そのうちの1か所でも間違えれば正解には到らない。しかし計算のコツや間違えやすいポイントをきちんと指導してくれる教師は少ない(特に6年生にもなると、計算以外に教えることが多すぎて、計算指導に割く時間がとれない)。そして、指導しなければ計算力が上がるはずはない。

叱ってはいけない理由・その3

 計算ミスを叱り続けると「計算ミス恐怖症」になる危険性がある。「また間違えたらどうしよう」という不安で疑心暗鬼になると、計算問題だけで延々と時間を使い、結果的に得点力は下がる。

 では、どうすれば計算ミスを減らすことができるのか。それは計算問題以外や他の教科の得点力を上げること。これに尽きると私は思っている。「他の問題はできたのに、こんな些細な計算ミスで失点するなんて、すごく悔しい」という気持ちを本人がもつようになれば、絶対にその後のミスは減る。だから、本人が本気で悔しいと思うように仕向けること。これが一番の秘訣だ。

 さらに、過去問に取り組むようになれば、計算問題たった1問の失点で合格最低点を下回ってしまうこともある。その悔しさの積み重ねが最高の良薬になるだろう。

得点力を上げるための真の「計算力」とは

 私が考える「真の計算力」とはなにか。それは「少しでも早く的確に暗算する力」である。

 とはいえ4桁-4桁とか2桁×2桁の暗算をする必要はない。基本は「2桁+2桁」「2桁-2桁」「2桁×1桁」の3つである。なぜならば、文章題であろうが、図形であろうが、答えを出すまでにこの3つの計算が何回も登場するからだ。

 たまたま手元に成蹊中の過去問題集があったので、2021年第1回の算数の2番について、正解に至るまでにどれだけの計算が必要かを書き出してみた。

(1) 120-80=40 240÷40=6 30-6=24 24÷2=12
(2) 73×7=511 70×4=280 511-280=231 231÷3=77
(3) ア:360÷5=72 180-72=108 180-108=72 72÷2=36 36+60=96 108-96=12 
    イ:36×2=72 108-72=36 90-36=54 180-54=126 126÷2=63 63-36=27
(4) 3×3×3=27 4×4×2=32 27+32=59 59×3.14=185.26
(5) 4/5×3/4=3/5 1+3/4+4/5+3/5=63/20 126÷63/20=40
(6) 600÷50=12 600÷30=20 20-12=8


 たった6問の、比較的易しい一行問題のなかで、2桁の加減が10回、2桁×1桁が10回登場する(2桁×1桁は1桁×1桁を2回繰り返しても計算できるが、2桁×1桁の暗算ができれば工程数が減り、ミスをするリスクも減る)。

 「割り算も入っているじゃないか」と叱られそうだが、実は「割り算」という計算は存在しない。この理由を、算数の入試問題によく出題される「年号問題」を例にとって説明してみよう。

 「1~2022までに24の倍数は何個あるか」という問題は、当然「2022÷24」の計算で答えを求めるのだが、実際にどういう計算過程を踏むかというと、
(1)202のなかに24が何個あるのか求める → 24×8=192(24×9=216)だから「8」
(2)202-192=10だから、次に102のなかに24が何個あるのかを求める → 24×4=96だから「4」
 したがって2022÷24=84あまり6で、答えは「84個」となる。つまり割り算ではなく、繰り返しかけ算をしているのだ。

 どういうわけか、「÷3桁」の計算が文章題を解く過程で登場することは非常に少ない。圧倒的に「÷2桁」の計算のほうが多い。逆に「割られる数」のほうは4桁だろうが5桁だろうが一切関係ない。必要なのは、「2桁×1桁」の暗算、(1)ならば「24×2~24×9」という「24の段のかけ算」である。

暗算力を上げるための練習方法

 この6問を解かせて、何回筆算をするかを試してみると、「得点力」が低い子ほど、たくさん筆算をすることがわかる。そして時折繰り上がり・繰り下がりのミスをする。計算ミスをするのは「ちゃんと筆算しないから」ではなく「暗算力が弱い」からなのだ。

 昨年、3年生1クラスを担当していたので、試しに「2桁+2桁」「2桁-2桁」「2桁×1桁」の暗算教材を作って、毎週解かせてみた。やはり「2桁×1桁」が1番の難関で、制限時間5分で解かせたら、最初は1点から40点までバラツキがあった。しかし2桁×1桁を暗算するコツを教えて、自宅で保護者といっしょに練習するように指示したら、3回目には20点~48点と全員確実に得点が伸びた

 2桁×1桁を暗算するコツは、ごく単純なことで、「上(十の位)から計算すること」だ。つまり47×6ならば、4×6=24 7×6=42 240+42=282 という暗算過程を繰り返し練習するのだ。

 ちなみに2桁+2桁と2桁-2桁も「上から計算する」のがコツなのだが、詳しくは拙著「大人のための『超』計算」(すばる舎)をご一読頂きたい。

 ただ、ご家庭でこのような教材を作るのは大変だと思うので、便利な無料アプリ(iOS版、Android版ともにある)を紹介しておこう。

「Ninimaths 暗算アプリ」

 毎日「2桁+2桁」「2桁-2桁」「2桁×1桁」を1回(10問)ずつ解かせてみてほしい。タイムが表示されるので、親子でバトルするのもいい。もちろん、これだけでテストの点数が急上昇するわけではないが、筆算をする回数が減る分だけ時間的な余裕ができるし、「思考の連続性」が途切れずに済む。必ずしも「99の段」まで全部マスターしなくてもいい。怪しいと思ったら筆算すればいいだけのことだ。ただし「筆算する」というのは小学校で指導されているような筆算のことではない。

 私は「筆算は暗算のためのメモだ」と教えている。仮に97×7の暗算ができなくても、9×7=63と7×7=49はできるだろうから、
 63 
  49
とメモすれば、簡単に679という正解にたどり着く。これが「暗算メモ」だ。

 「計算練習」というと、すぐにいろいろな計算問題を網羅した問題集を買ってきて、「勉強の最初に毎日5問」というノルマを課す保護者がほとんどだろう。それが無意味だとは言わないが、分数小数混合計算や( )がたくさんついた計算や逆算(□を求める計算)は、文章題や図形の問題を解くときには、まず登場しない。

 それよりも「2桁+2桁」「2桁-2桁」「2桁×1桁」のトレーニングをして、計算問題以外の計算を暗算で素早く正確に解くことができるようになれば、時間的にも精神的にも余裕をもって、1番の計算問題に取り組める。騙されたと思って、是非お試しいただきたい。


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《後藤卓也》

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