【中学受験2023】わが子が安心して入試に挑める「併願パターン」とは…四谷大塚

 四谷大塚 情報本部 本部長の岩崎隆義先生に、来たる2023年度入試の志願動向や注目の学校、志望校合格をつかむための入試期間の過ごし方について聞いた。

教育・受験 小学生
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  • 首都圏の中学受験率の推移
  • 合不合判定志望者ベスト10 男子
  • 合不合判定志望者ベスト10 女子
  • 大学付属校の選択科目の例(立教新座)
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 コロナ禍に翻弄されながらも努力を続けてきた受験生たち。本番まで3か月を切り、いよいよ追い込みの時期に入る。長年にわたって中学受験動向を分析してきた四谷大塚 情報本部 本部長の岩崎隆義先生に、来たる2023年度入試の志願動向や注目の学校、志望校合格をつかむための入試期間の過ごし方について聞いた。

東京の子供たちが受験率を牽引

--コロナ禍での受験者数増など、2022年度(昨年度)の中学入試の動向について教えてください。

 近年、中学受験総数は右上がりに増え続け、2022年度の中学受験者総数を振り返ると実に5万3,500人もの小学生が受験したと推測されています。1都3県の小学6年生の児童数をみると、2015年には30万人を越えていましたが、昨年は29万人と減少しています。子供の数は減っているのに受験者は増えている、つまり受験率が上がっているということ。昨年度の18.1%というのは過去最高の受験率となりました。

 では、なぜ小6児童数が減っているのにも関わらず、受験者数、受験率ともに上昇傾向が続いているのか。文部科学省が公開している学校基本調査報告書によると、全国規模で少子化が進んでいることがわかります。ですが、唯一、例外的に小学生の数が増えているのが東京です。このことから、東京の子供たちが中学受験率を牽引していると言えるでしょう。なお、東京23区の受験率も昨年度過去最高となり、27%を超えました。それだけ都心の親御さんの教育熱が高いということが伺えます。

 コロナ禍における公立学校の対応の遅れや不安が私学への期待に繋がり、「わが子により良い教育環境」を求めるご家庭が増加したことが大きな要因言われていますが、2023年度入試もその傾向は続いており、受験者数が増加するであろうと見込んでいます。

首都圏 中学受験率推移

前受け校の合否、精神状態に大きく影響

--受験生はおおよそ何校ほど出願するものなのでしょうか。

 1都3県の私立、国公立中の出願数を合計すると約31万5,000。非公開の学校もあるのでおよその数字なのですが、この出願数を受験者総数の5万3,500人で割ると5.89という数字が見えてきます。1人あたり平均6校(6試験回)の学校に出願しているというイメージです。これは単願入試などで1~2回しか出願しない受験生も含む平均値であって、中には20校受ける子もいるのでボリュームゾーンは1人あたり7、8校の出願ではないでしょうか。

--併願パターンについて教えてください。

 現時点でのデータですが、9月に行った合不合判定模試から志望傾向を見てみましょう。青字は当該の模試における志望者の多い学校を多い順に記載しています。そしてその右に並ぶ学校は、青字校を志望する児童が、その他の日程ではどの学校を志望(併願)しているかを示しています。

第一志望者男子ベスト10 併願データ

 男子の人気で高いのはやはり御三家と、御三家に次ぐ難関進学校、早稲田の付属校などが上位に挙がっています。

 1月10日から埼玉、1月20日から千葉入試が始まります。単なる「予習」としての受験ではなく、実際に通うことを視野に入れて受験する子も年々増えています。特に日本一出願の多い学校として知られるのが埼玉の栄東。4日間の入試日程で延べ1万人の受験者を集めます。この栄東の入試が、2月1日に御三家をはじめとする難関校を受ける子たちの前哨戦となります。ほか、1月下旬に立教新座、2月1日は早稲田実業、1日午後は国学院久我山、2日と3日に明大明治で、4日は中大附属といったように大学付属校を並べるパターンも少なくありません。

--ほとんどの子が1月校を受験しているのでしょうか。

 2月1日が東京と神奈川の入試解禁日ですが、人気を集めている学校の試験日はすべて2月1日に集中していることがわかると思います。12歳の子供にとってこの日がいきなり本番では緊張してしまいますよね。ですから、12月の海陽学園の特待といった地方校の東京入試、1月10日からの埼玉、20日からの千葉を経て2月1日の第一志望校に向かうため、先ほど申し上げたように出願校数が7~8校になるのです。1月校で合格を押さえたうえで、2月1日に挑むというのが精神面でとても大事になってくるのです。

女子はMARCH付属の人気が高め

--女子についてはいかがでしょうか。

 女子は志望者の多い順に上から吉祥女子、女子学院、鷗友、中大附属、香蘭、桜蔭、豊島岡、立教女学院、洗足学園、雙葉ですね。こちらは赤字で記載しています。香蘭は立教の系列校ですし、中大附属、立教女学院と、女子は付属校の人気が高いのが特徴的です。

 併願パターンは1月入試として埼玉の浦和明の星女子、淑徳与野、千葉では国府台女子の名が挙がります。男子の併願先では渋谷学園幕張(渋幕)が入ってくるのですが、女子では難易度が高くなるため併願校の上位になることはありません。実際の合格者を見ても男子7:女子3といった比率になっています。学校のホームページなどにも、出願数と合格者数が男女ごとに出ているのでご覧になっていただくと良いかもしれません。

第一志望者女子ベスト10 併願データ

大学受験に縛られない、付属校の多彩なカリキュラム

--付属校が人気とのことですが、その理由について教えてください。

 2018年に実施された私立大学の定員厳格化などを追い風に、大学付属校の人気がにわかに高まったという流れもありますが、受験者を集める理由はそこではないと個人的には思っています。つまり、大学受験をしなくても良いことだけが、付属校の魅力ではないということです。

 大学付属校の選択科目に着目していただきたいのですが、一例として立教新座の選択科目を見ると実に多種多様なジャンルとテーマがあります。文学をテーマにした演劇ワークショップ、国境や地域史とともに考えるキリスト教の歴史、データサイエンスにサッカートレーニング理論、高校3年時の第二外国語にしてもフランス語にドイツ語、中国語、朝鮮語にロシア語、アラビア語を選択することもできる。大学さながらの、100以上もある講座の中から自分の興味関心に合ったものを能動的に学ぶことができます。

大学付属校の選択科目(立教新座)

 大学と連携した充実したカリキュラムや、受験科目という枠組みに縛られない授業。それこそが大学付属の魅力なのではないかと思います。付属人気の要因は、大学で入学するのが難しいから中学受験で入っておくというような、そんな短絡的なものではないと思っています。

--女子はMARCH付属の人気が高いとのこと、男子はどうでしょうか。

 模試の回によっては、慶應普通部もベスト10に入ってきます。とはいえ男子の場合は国立理系への進学志向が強いので、付属校よりも進学校を選ぶ傾向があります。国立を目指すのではないにしても、「早慶なら」と考える親御さんは女子に比べて男子に多いです。

 一方、早慶の女子の志望先としては、早稲田実業と慶應中等部、湘南藤沢がありますが、どこも定員が少なく相当な狭き門です。御三家よりも入りにくいのではと思えるほどの高倍率になっています。

新興校のキーワードは「グローバル」と「サイエンス」

--共学化、リニューアルする学校が後をたちません。2023年度の注目校を教えてください。

 まず、サッカーなどで全国的に有名な流通経済大学付属高校が、2023年度より中学校を開校することが話題になっています。新設校としては、女子校の目黒星美学園が共学化し、サレジアン国際学園世田谷として生まれ変わります。一足早く、赤羽にあるサレジアン国際学園が共学化して第1期生がいますが、世田谷という立地の分、さらに人気が出るのではと注目しています。同じく、女子校から共学化するのが港区の芝国際学園です。現在新校舎を建築中で、学校説明会が募集開始とともに即埋まるなど、すでに注目の高さがうかがえます。

 2年前に開校した、広尾学園小石川についても2年連続で東京の出願数1位でした。来春は3年連続なるかどうかと注目しています。

--新しい学校に期待が高まっている最大の理由は何でしょうか。

 新興校のキーワードになっているのが「世界標準」「グローバルな学び」です。まず広尾学園が国際教育の先駆けとしてブレイクし、今や東大合格をコンスタントに出すような学校になっています。英語ですべての授業を行うインターナショナルクラス、帰国子女ではないけれど英語ができる子のクラス、そしてそれらを合わせることで相乗効果を上げられることが証明されました。

 こういった帰国子女クラスや英語に特化した国際クラス、サイエンスクラスといった広尾学園から始まった「グローバル」と「サイエンス」の流れが、同じように三田国際やサレジアン国際学園、新しくスタートする芝国際にも組み込まれています。もちろんそれぞれの学校には特筆すべき個性がありますので、ホームページをご覧になるか、機会があれば学校に行かれることをお勧めします。

足を運ぶからこそわかる情報も

--偏差値や世間の人気で選ぶのではなく、学校の中身を良く見て判断してほしいところですね。

 学校説明会やオープンキャンパスも人数制限があって、人気校は予約がすぐに埋まってしまうという状況が続いていると思います。実際に学校に行くのが大変だとしても、学校説明会をオンラインで配信している学校も増えていますから、ぜひともいろいろな学校に目を向けてほしいと思っています。カリキュラムだけでなく、どんな先生がいらっしゃるのかというところまで。

 私のお勧めは、説明会の日ではなく平日に学校に出向いてみることです。校門の守衛室などで「受験生の親なのですが、見学させていただけますか」と伝えてみると、断られる方が少ないと思います。事前に許可をとっておく方が心象が良いこともありますが、突然の訪問であっても運が良ければ広報の先生が案内をしてくれることもあるでしょう。

 平日の登下校時間に合わせれば、実際の生徒の登下校のようすを見ることもできますし、校門周辺のようす、家からの交通手段やバスの本数といった、実際にお子さんが6年間通う学校として実感をもって体験することができます。やはり足を運ぶからこそわかる情報を得るのが良いと思います。

インフルエンザの流行に備えておく

--コロナ禍3年目の中学受験。受験勉強が本格稼働し始めた小4から、すでにコロナ禍に入っていたと推測されます。3年目だからこそ気をつけるべきポイントはありますでしょうか。

 受験生の親御さんにとって心配なのは「もしわが子が当日体調不良になってしまったら」「濃厚接触者となって自宅から出られない状態になってしまったら」ということだと思います。追試を用意するなど、各学校で何らかの配慮があると思いますので、要項をしっかり読んで、不安な点は学校に事前に聞いておくと良いでしょう。

 ただ昨年、一昨年と追試を用意した学校はいくつかありますが、実際のところ追試該当者がいないというケースが多かったようです。神奈川県の私立中学高等学校協会は、各校ごとに合否のラインを決めた「共通追試」を行いましたが、こちらも受験者はかなり少なかったそうです。

 コロナの初年度は、万が一感染してしまったら2月1日の本命を受験できないという懸念から、1月20日の千葉入試を控える傾向がありました。しかし日ごろのマスクや消毒が徹底されていること、自宅療養期間が短縮しているため万が一感染してしまったとしても2月1日の受験には支障が出ないことから、昨年からは例年通りの受験者数に戻っています。

 個人的にはコロナよりも、これから流行するインフルエンザに気を付けるべきだと思います。コロナ禍以降インフルエンザによる学級閉鎖が激減したものの、コロナが流行する前のこの時期はインフルエンザに恐々としていたはず。ひとたび流行し出したときのリスクに備えて、受験生本人はもちろん、家族のみなさんも予防接種を受けるなど、防げるものは防ぐよう対策していただけたらと思います。

本番まで伴走する親の心構え

--受験直前期、とくに試験日の直前に親に必要な心構えとメンタルの保ち方、これから受験日までラストスパートをかける小学6年生、保護者へのアドバイスをお願いします。

 ここから11月、12月の合不合判定と2回の模試が残っています。偏差値に一喜一憂してしまいがちですが、受験生みんなが頑張っている中で1人だけ偏差値を上げる、維持するというのは、相当大変だということを知っておいてください。結果を見て暗澹たる気持ちになるのはわかりますが、なかなか成果が出なくて誰よりもショックを受けているのは子供です。落ち込んでいるわが子にどう寄り添い、伴走するかというのが親御さんのいちばん大事な役割です。

 親御さんは、ついつい子供のできていないところを見てしまいがちです。「あんなに言ったのにまた間違えたの」と、×から入ってしまう。そうではなくて、できているところ、たとえば正答率の低い問題で〇になっているところから褒めるのです。努力の成果や結果が出たところから褒めて、まずは承認してあげる。その次に「これとこれができるようになったら、第1志望も夢じゃないね」と指摘するのです。これは、本番まであと100日を切った残りの期間を生かすうえで心がけてほしい点です。

本番で力を出しきる「併願パターン」を見つける

--いよいよ出願も迫り、併願校を絞り込む時期に入ると思います。

 塾の先生と三者面談をして、最終的な併願パターンを決めていく時期です。とにかく「中学入試を全滅で終わらせてほしくない」と思います。だからこそ1月中に、通っても良いと思える千葉・埼玉の学校、場合によっては寮に入れる覚悟をしたうえで地方の学校の合格を1つもっておくことをお勧めしています。もしくは2月1日の午後は、確実な学校を併願パターンに入れること。たとえ2月1日午前が不合格でも一勝一敗で2日、3日の試験に臨めるような併願パターンを考えてほしいのです。

 2月1日からチャレンジ校が続いて、万が一3連敗、4連敗しても、1月校の合格があれば、3、4、5日と連続して受験する最大の勇気とモチベーションになる。1つも合格がないまま、2月1日の午前午後、2日午前午後と4連敗、そして迎える3日の朝を想像してみてください…。この話をすると、親御さんも本気で1月校を考えてくれます。

--1月校の合格が自信と安心をくれるということですね。

 どんなに合格確実と言われていようが、万が一ということがあります。なにせ「12歳の入試」です。「こんなはずじゃなかった」という結果が続いてしまった場合にどうするのか。それを先回りして考えてあげるのが親御さんの役割です。

 今はネット発表が主流ですが、かつては学校まで合格発表を見に行っていました。過去に私が受けもったある親子の話ですが、学校に到着してひとりで掲示を見に行った子供が、しばらくしてお母さんの元に戻ってくるわけですよ。もう、顔を見ただけでわかりますから、お母さんは息子さんが泣き止むまで黙って待っていたそうです。しばらくして息子さんが顔を上げて何かを言いかけようとした言葉をさえぎって、お母さんは「あなたが今日までどれだけ頑張ったかお母さんはずっと見てきたよ。あなたの努力が伝わらないこの学校、こちらから願い下げよ。だから胸を張りなさい」と言ったそうです。

 この生徒は、後に中学高校を経て東大合格を果たしましたが、合格発表のときに母に言われたこの言葉を胸に6年間頑張ることができたという話を私に打ち明けてくれました。もし思い通りの結果にならなかったとしても、いちばん近くで見ていた親が「よく頑張った」という一言を言えるかどうかが大事だと思うのです。もしダメだったとき、あなただったらどんな言葉をお子さんにかけてあげるでしょうか。結果がどうであれ、ずっと側で見てきたわが子に、親御さんの心からの言葉をかけてあげてくださいね。

--ありがとうございました。

 数多くの親子の合格・不合格と対峙してきた岩崎先生だからこそ言える「ダメだったときのことを考えて」というリアルなアドバイスは、どんなことがあっても子供を支えるのが親だという覚悟を改めて保護者へ伝えてくれた。本番を迎えるその日まで、親子で「やってよかった」と思える入試期間を過ごしてほしいと願うばかりだ。

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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