【中学受験2024】受験者数は横ばいか微減、とはいえ厳しい状況続く…首都圏模試センター

 コロナ禍で課されていたさまざまな制限が徐々に緩和される中での中学入試となる今年度。首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏に2024年の志願動向や今年度注目すべき点、人気校の動向などを聞いた。

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 コロナ禍で課されていたさまざまな制限が徐々に緩和されている。そんな中で迎える2024年度の中学入試は、どのようなものになるのだろうか。

 大手中学受験塾、受験情報誌編集長などを歴任し現在は首都圏模試の主催に携わる、首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏に2024年の志願動向や今年度注目すべき点、人気校の動向などを聞いた。

依然として厳しい状況は続く見込み

--首都圏の中学受験者は2015年から右肩上がりで増加し、2023年入試の受験者数は5万2,600人と過去最多の受験者、受験率となりました。この高水準は続くのでしょうか。

 実は、我々は早ければオリンピック景気が終わる2021年度入試から受験者は減っていくと予想していました。それが、オリンピックが延期となり、コロナ禍が3年半続く状況で受験者が増え続けてきていました。昨年は受験者数、受験率ともに史上最高・ピークを迎えましたが、今後については横ばいか微減という見方をしています。

 今年開催された合同相談会の盛況ぶり、各学校の説明会の満席ぶりを見ていると高水準が続くという見方もできる一方で、7月、9月の首都模試の受験者数をみると微減しているという状況です。ただ、前提として厳しい中学受験であることは変わりありません。仮に来年受験者が減ったとしても5万人を割り込むことはないでしょう。

 過去にも受験ブームがありました。ブームは激化した後に少し落ち着くものです。しかしながら、看過できないのがやはりコロナの影響です。保護者はコロナ休校時、学びがストップしてしまった公立と私立のオンライン授業や学校活動への柔軟な対応の差を見ていますから、やはり私立が良いと考える層と、中学受験が激化しているという世評を聞いて敬遠する層がどのように影響してくるのかは、まだ見えてこない部分でもあります。

首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏

香蘭の立教推薦枠拡大、横浜雙葉の入試回増設

--新たに設定された試験回や試験科目の変更など、今年度注目のトピックスについて教えて下さい。

 入試要項の変更として目立つのは、まずは神奈川の横浜雙葉が2月2日に2回目入試を新設したこと。神奈川の成績上位の女子の場合、2月1日は東京の学校か、フェリス女学院、横浜雙葉、横浜共立学園のいずれかを受けて、2日は湘南白百合学園か洗足学園を受けるというパターンが多かったのですが、横浜雙葉が2回目の試験を新設したことで、1回目に残念な結果だった子が2回目も受験する、1日に別の学校を受けて合格した子が2日にチャレンジ受験するなど、女子の上位層の併願に関わってくるため今後の動向には注目です。

 埼玉では、開智学園グループの開智所沢という小学校・中等教育学校が2024年に開校します。定員240人と規模も大きく、これまで意外と受験熱の高くなかった所沢エリアの受験層を掘り起こす波及効果は出ると考えています。

 また、東京では香蘭女学校が2025年度大学入学予定者から立教大学への推薦枠を160人に増やすという発表もありました。進学条件は厳しいのですが、ほぼ全員が立教大学に上がれることにメリットを感じる方も多いでしょう。また、2科目入試をなくしてすべて4科目にシフトするのも2024年入試からです。一般的には4科目入試だけに絞ると志願者が減るといわれますが、推薦枠拡大の発表を受けて相当求心力が強くなると思われます。

 全体の傾向として、今春2023年度の入試ではいわゆる中堅校・ボリュームゾーンの学校の志願者増加が目立ちました。首都圏模試センターの「合判模試」の志望状況と実際の入試でほぼイコールの結果となった学校も多く、2023年度の女子でもっとも志願者を増やした注目の学校に三輪田学園があります。人気の理由としては、法政大学との連携やICT活用への取組みに加え、ひと昔前のやや古めかしかったイメージがリニューアルされているところも大きいでしょう。

--受験者1人あたりの出願校数はどのくらいと読んでいるか、また1月入試の傾向についてもお聞かせください。

 午後入試を実施する学校が増え続けてきたことから1人あたりの出願校数は増え、コロナの初年度にいったん減りましたが、この2年間は復調傾向です。1人あたり7~8校と、来年も同レベルか少し増えるとみています。

 1月入試については、埼玉エリアの受験者は増えるのではないかと見ています。先ほど述べた開智所沢の新規開校や、近年相次いで開校した大宮国際や川口市立高等学校附属などの公立中高一貫校によって、中学受験層が掘り起こされている可能性があるからです。

 千葉については、渋幕、市川、東邦、昭和秀英といった最難関の人気は相変わらず高いです。偏差値が中位の学校が少ないこともあり、千葉日本大学第一や昭和学院にも人気が集まっています。とはいえ、今後のコロナの状況によっては、2月1日に近い20日以降の入試を控える傾向が出てくる可能性もあります。

公立中高一貫校の受験層に変化が

--首都圏の公立中高一貫校の受験について、動向に何らかの動きは見られますか。

 公立中高一貫校の学校数は増えていますが、1校あたりの志願者は減っているので、若干絞られてきた感じはあります。やはり公立一貫校は、どこの地域もかなり倍率が高いため、最近は塾に通って相当準備をしていないと受からないことが知れ渡り、志願者が絞られてきたのでしょう。他方で、茨城県で公立一貫校が増えたり、埼玉でも2年ごとに新設校ができたりしているので、公立中高一貫校を志望する潜在層は拡大しているとは思います。

--通塾をして公立一貫校の対策をしつつ、私立と併願するというのが主流になりつつあるのでしょうか。

 2023年の公立中高一貫校の受検者のうち、約6,700人が私立との併願者と当社は推定しています。大手塾の公立中高一貫コースや中小塾、個別指導塾など、公立一貫校対策をしている塾もたくさんありますので、かつてのように「公立に受からなかったら地元の中学に行く」という層は徐々に減り、私立との併願が年々増えているのです。

 公立一貫校の適性検査型の対策と私立中の対策はだいぶ異なるのですが、併願校として、近所にある私立中を候補に入れた結果、学校見学や説明会を通して私立の良さを知り進学するケースも多々あります。2、3年前は併願したとしても公立1校、私立1校だったのが、私立を2校、3校と受ける方も増えています。

 公立一貫校との併願を前提にした適性検査型の入試を導入している私立もあります。代表的な学校に宝仙学園共学部理数インターや安田学園があがりますが、適性検査型の入試で入ってくる子の方が伸びしろが大きく、偏差値も高い傾向にあると伺っています。

--公立一貫校の適性検査と、私立4教科型の入試の双方が、中学受験生に求められる学びとして影響し合っているということですね。

 私立と公立一貫校と対比してみたときに、公立一貫校が私立4教科型の入試に近い出題を増やしている傾向も見てとれます。具体的には、神奈川の横浜市立南などです。やはり私立中との併願者が多いので、私立中型に近い出題をある程度取り入れることで、優秀層を入学者として取り込むことができるからでしょう。

 私立側も、公立一貫校が実施している適性検査的な出題形式を増やしています。適性検査の出題というのは、正解が1つに定まらない問題や、2つの立場からどちらかを選んで自分の考えを記述するといったものが多くあります。蓄えた知識を早く正確にアウトプットするという学びだけでは対応できない、その場で考えて自分の言葉で表現する力が、これからの子供たちには求められています。昨今の大学入試改革や教育のあり方、学力観や教育観の変化が中学入試にダイレクトに反映している様相を見てとれます。

世の中が注目する学校より「わが子にとって良い学校」を

--教育のあり方や学力観の変化が、学校選びなどにも影響しているとおっしゃいますが、保護者はどのような観点で我が子の志望校を選ぶのが良いと思われますか。

 メディアなどを通じて受験情報などを集めていると、同じような学校が注目校として話題になりがちです。注目校として名があがると、レベルの高いお子さんたちが集まって切磋琢磨できる環境になるというメリットはあるかもしれませんが、少なくとも「合格」という点に関していえば、多くの人気が集まらない方が受験生にとっては良いわけです。

 だからこそ、世間の注目を多く浴びるような学校ではないところで、良い学校や伸びている学校を上手に見つけることは、塾や私どもができる本来のアドバイスだとも思っています。また、近年高まっていた共学志向が緩和され、大学附属人気が落ち着いたといったように、受験校の選び方が多様化しているのはとても良いことだと思っています。

 今後ますます教育が個別最適化に向かっていく中で、受験業界が注目する学校ではなく「うちの子にとって良い学校」という視点を大事にしていただいきたいと考えています。4科型や適性検査型、新タイプ入試といった入試形態の多様化も然り、さまざまな個性的な取組みをしている学校も増えているので、上手に選択すればお子さんの可能性も合格のチャンスも広がりますよと、と保護者の方には伝えたいです。

コロナの感染状況にも引き続き注視を

--新型コロナウイルスがなくなったわけではありませんが、コロナ禍におけるさまざまな制限は徐々に緩和されています。これを受けて今年度の入試は変わるとお考えでしょうか。

 今の状況(取材日は9月11日)を見る限りでは2024年入試は無事に行われるだろうと思われますが、コロナの感染状況は地域によって変わる可能性もあるので、そのあたりは注意していく必要はあります。

 どの学校も過去3年間の経験から、感染防止対策のノウハウは出来上がっています。受験生と保護者側も今までずっとコロナの中で勉強をしてきて、気を付けるポイントというのもわかっていると思います。年末年始の状況の急変などについては注視しつつ、学校からの急な情報発信もSNSなどで受け取れるようにしておきましょう。

模試の振り返りができる子は2月のリカバリーも強い

--四谷大塚、日能研、サピックス、そして首都圏模試と中学受験における「4大模試」の中でも幅広い層の実力を測ることができるのが首都圏模試センターの「合判模試」です。模試の受け方や活用法についてアドバイスをお願いします。

 模試は、チャレンジする目標(志望校)までの距離と、強み弱みを含めた自分自身の課題を知るための機会ですから、継続して最低でも月1回は受けた方が良いと思います。そのうえで、ふだん首都模試を受けているとしたら、自分の志望校の受験者が多い模試を他流試合で受けてみるのも良いでしょう。

 すべての模試やテストについていえるのは、模試の偏差値を上げるとか模試での合格可能性を上げることが目標ではないということです。結果で一喜一憂せずに、プラスになるような使い方をしてほしいと思います。

 偏差値で測れるのは、その母集団の中で自分の相対的な位置がどこかというだけのこと。得意な問題が出れば上がるし、母集団全体のレベルが下がれば自分は上がりますし、各自の志望校の入試問題に即した学力を測るものではありません

 偏差値を活用するならば、「目標まであと何ポイント差があるのか」という観点です。成績表には問題ごとの正答率も載っています。模試を振り返ってみたときに、ここで計算間違いをしてしまった、考え方は合っていたのにつまらないミスをしてしまった…という部分をちゃんとクリアできていれば3ポイントくらい簡単に上がります。限られた時間で落ち着いて解くというのはなかなかできないからこそ、本番に向けたこの3、4か月で錬成してほしいと思います。

 どの模試でも、受けると早々に解答や結果がアップされると思います。自分の書いた答えを忘れないうちに、できなかったところを振り返って何が原因だろうと考えてみることはとてもプラスになりますし、その振り返りができる子は入試期間中にも強いです。仮に2月1日に失敗しても、自分のできなかったところを冷静に振り返って、2日以降で力を発揮できるような「仕切り直しができる力」につながります。

受験生の力は、入試当日まで伸びる

--受験直前期、親に必要な心構えと、受験生本人のメンタルの保ち方についてアドバイスをください。

 11月の時点で、女の子はかなり受験生らしくなってきているのではないでしょうか。しっかりした考えをもっていて、親の言うことよりも自分の意見を通したいという子も多いでしょう。その中でお母さんと受験生本人の意見とフィーリングが一致する学校に向かって頑張ってほしいと思います。

 一方で男の子はこの時期でも「本当にこの子受験する気あるのかしら」みたいな子は子もたくさんいますので、ぼんやりしてるのはうちの子だけじゃないんだなと思ってください(笑)。男の子は、12月近くになって周りが受験生らしくなって来てやっとエンジンがかかる、そんな感じです。その代わり男の子はそこからの追い込みでびっくりするくらい成長します。

 もちろん男女に関わらず、小学生の学力は入試当日まで伸びます。1月10日に初めての受験が始まったところから、2月3、4、5日と受け続ける中でも学力は伸び続けています。生真面目な子で入試本番に緊張してしまい、最初に滑り止めで受けたつもりの学校に落ちてしまうこともあります。でも、そこから気持ちを取り直して受けに行くぐらいの強さを身に付けていくのです。入試期間の最後まで学力は伸びる、この点は強調してお伝えしたいことです。

--思い通りの結果が出なかったとき、親は子供のメンタルをどうサポートするのが良いのでしょうか。

 案外、子供は大丈夫です。ですが、ご両親の顔色を見て自分も悲しくなってしまうことが多い。ですから、もし結果が芳しくなかったとしても、お父さんお母さんが表情だけでも頑張って、動揺を見せないでいてあげてください。とにかくそれ以降の入試に気持ちを切り替えること。

 連日の入試で疲弊しないかと心配されると思いますが、そこも子供は意外と大丈夫です。午前入試と午後入試、仮にそれぞれ4科目受けるとしても、学校から帰ってきて、塾に行って、家庭学習して、その合い間に親から叱られて、土日も朝から塾や模試に行ってという今現在の生活より、全然楽ですよ。それに比べたら入試期間中は口やかましく小言を言われないだけ、おそらく子供にとっては天国です(笑)。

 入試当日までいろいろなことを我慢して頑張ってきて、最後はひとりで入試会場に向かう後ろ姿は、自分の子供ではなくても見ていて涙が出ますし、本当に頼もしく格好良い。どんな志望順位の学校に入ろうが、そこからの中学生活がうまくいくこと。それから中学受験をしてよかったねと数年後に思えることが大事ではないでしょうか。そのことを忘れないで、残りの3か月間を悔いのないように過ごしてほしいと思います。

--ありがとうございました。


 「この3年間、なんとなく塾に通っているときもあれば、頑張っているときもあったと思います。親から見て、お子さんが“成長したな”というのは必ず感じられると思いますし、それを感じられるのは中学受験の一番の醍醐味です」と北氏。長いようであっという間の中学受験。子供たちの挑戦を応援する保護者の方に向けて、温かいエールをいただいた。

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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