6月中旬、西宮市の関西学院西宮上ケ原キャンパス。パイプオルガンの音色が中央講堂に満ちる中、関西学院が擁する8つのすべての学校が初めて一堂に会する全学校説明会が、礼拝とともに幕を開けた。全体会に詰めかけた約800人の親子連れが静かに目を閉じ、祈りの時間を共にする。関西学院の1日がいつもこうして始まるのだと、その空気だけで伝わってくるような幕開けだった。
最初に登壇した林隆敏関西学院大学副学長は、関西学院の一貫教育の全体像に触れたのち、各校から大学に進学した学生たちのこんな声を紹介した。
「受験勉強がない分、本気で部活動や行事に取組み、ボランティア、留学などさまざまな体験ができた」
「好きなことに没頭しながら、じっくりと自分に向きあい、将来について考えることができた」
受験に追われない時間の中で、子供たちは何を経験し、どんなふうに育っていくのか。続くパネルディスカッションでは、4校の代表者がそれぞれの教育現場から、その問いに答えていった。ファシリテーターを務めたのは、高等部および関西学院大学の卒業生であり、株式会社電通のクリエイティブディレクターとして活躍する鈴木契氏。
本記事ではパネルディスカッションのようすをレポートするとともに、関西学院の中道基夫院長からのメッセージをお届けする。

【パネルディスカッション】
◇パネリスト
枝川豊氏:関西学院高等部長
宮川裕隆氏:関西学院中学部長
難波フランセス氏:関西学院千里国際中等部・高等部校長
福万広信氏:関西学院初等部長
◇ファシリテーター
鈴木契氏:株式会社電通 クリエイティブディレクター(関西学院高等部・関西学院大学社会学部卒業)
毎朝の礼拝、ガラス張りの校舎、島でのキャンプ…4つの学校、4つの風景
「各校の特徴がよく表れている行事や自慢を教えてください」鈴木氏の問いかけから、パネルディスカッションは始まった。

最初にマイクを握った初等部の福万広信部長は、穏やかな口調でこう語り出した。
「初等部での6年間は、人生でもっとも大切な『心の根っこ』を育てる時期です。私たちは、子供たちの一生を支える力となる種をずっと植え続けています。撒かれた種が、人生のいちばん大切なときに大きな花を咲かせてくれたらと願っています」
福万氏が真っ先にあげたのは、毎朝のチャペルでの礼拝だ。子供たちは心静かに賛美歌を歌い、聖書を読み、先生や仲間の話に耳を傾ける。それは受け身の時間ではなく、自分自身をしっかり振り返る時間でもあるという。年間約200回、6年間で約1,200回、その積み重ねが何を育てるのか。福万部長は、ある卒業生から届いた一通の手紙を読みあげた。
「その手紙にはこう書かれていました。『毎朝のチャペルの話は、直接私に語りかけてくれている気がしていました。根底にあるメッセージはいつも同じだったからです。神様は決してあなたを1人にしないよ、と。そして、初等部の先生方も、決して私を1人にしませんでした』と。」
会場が静まる中、福万部長は続けた。
「あなたも誰かが必ず支えてくれる、あなたには本当に大切な価値がある。私たちが伝えたかったメッセージを、しっかり受け止めてくれたのだと感じました」

続いてマイクを取った千里国際中等部・高等部(以下SIS)の難波フランセス校長が語ったのは、「学びをオープンにしよう」という同校のこだわりだ。それを象徴するのが、壁一面がガラス張りになった校舎である。
「教育の世界では環境を"第4の先生"と呼ぶことがあります。この明るく開放的な空間が、生徒たちの柔軟な発想やお互いを思いやる気持ちを自然と育ててくれています」(難波氏)
SISは"Two Schools Together"の理念を掲げ、大阪インターナショナルスクールとキャンパスを共有している。スポーツデー(体育祭)をはじめとする行事は合同で開催され、両校の生徒で構成する生徒会が企画・運営にあたる。難波氏は「生徒たちは『自分たちの手でこの日を作っている』という誇りと責任をもって取り組んでいる」と、生徒主導で育まれるリーダーシップに目を細めた。

中学部の宮川裕隆部長が紹介したのは、中学2年で行う伝統行事「青島キャンプ」だ。関西学院は山のキャンプ場(兵庫県三田市・千刈)と、海のキャンプ場(岡山県瀬戸内市・約3万坪の青島)を所有している。戦後、初代部長がイギリスの全寮制伝統校であるパブリックスクールの精神を取り入れようと始めた行事で、今年で65年目を迎える。
「先輩と後輩が寝食を共にし、汗を流す。豊かな人間関係や道徳性を養う、中学部の"成人式"とも呼ばれています」(宮川氏)
ファシリテーターの鈴木氏が「私は高等部からの入学組だが、中学部出身の同級生たちがよく青島キャンプの思い出話をしていた」と振り返るほど、中学部を象徴する一大イベントだ。

高等部の枝川豊部長があげたのは、「自由と自治」の校風を体現する生徒集会「アッセンブリー」だ。生徒のみで運営され、全校生徒1,150名が毎週火曜日、関西学院を代表するスパニッシュ・ミッション・スタイルの礼拝堂に集まる。始まりに校歌、終わりに応援歌を全員で歌うのが恒例だ。
「先般行われた高等部の同窓会では、1,000人を超える卒業生が声高らかに校歌を合唱しました。卒業生が今でも学校にこれほどの愛着をもってくれている。充実した高校生活を送れる学舎であることの証(あかし)です」(枝川氏)
高等部最大の行事である文化祭も、すべて生徒主導で企画・運営される。9割以上の生徒が関西学院大学へ内部進学するため、11月の文化祭を中心となって動かすのは3年生だ。「他校に比べて自由度がかなり高い校風であり、高校生活を本当に最後の最後まで満喫できるのが、高等部の大きな特徴」と枝川部長は胸を張った。
「さようなら」のない学校…つながりの中で育つ子供たち
2つ目のテーマは「関西学院の一貫教育だからこそできること」初等部の福万部長が真っ先に口にしたのは、「関西学院ファミリーの中にいる安心感」だった。
「卒業後は信頼できる中学部・高等部に子供たちをお任せし、その後のようすも共有してもらっています。卒業したらさようなら、ではなく、ずっと"関西学院ファミリー"として初中高一体で育て続けている感覚があります」
SISの難波校長は、2010年の関西学院との合併によって生徒たちの選択肢が大きく広がったと語る。現在、卒業生の約6割が関西学院大学へ進学しており、「内部推薦があるおかげで、入試対策に追われることなく、ユニークで国際的な教育と日本の教育双方の良さを取り入れた、ひとりひとりに合わせたプログラムを提供できている」という。
中学部の宮川部長が話したのは、卒業していった先輩たちが身近にいることの力だ。
「中学生という多感な時期には、悩んだり苦しんだりすることも多々あります。そんなとき、同じ体験をしてきた先輩たちだからこそ、『今はこういう支えが必要だ』『この励ましが響くのではないか』と寄り添える。さらにそんな先輩である高校生や大学生にとっても、後輩を導くことが大きな学びになっています」
宮川氏はこの環境を「卒業後も中学部で先輩として活躍することで、新たな学び直しができる"アフターサービス"がバッチリな環境」とユーモアを交えて表現し、会場の笑いを誘った。
高等部の枝川部長は、大学と同じキャンパスで過ごす日常の風景を語った。クラブ活動のコーチや探究型授業のメンターとして大学生が関わり、選択科目として中国語やフランス語などの語学、会計学などのビジネス科目を高校生から先取りして学べる。さらに大学の授業を受講し、進学時に単位認定される制度もあるという。「大学の教員が直接指導にあたることもあり、納得した学部選びや将来のキャリアプランをじっくりと考えられるのも一貫教育ならではの大きなメリットだ」と強調した。
ファシリテーターの鈴木氏は4人の話を受け、こう語った。
「多感な時期に、親や先生といったダイレクトな関係以外の、斜めで立体感のあるネットワークがあること。それこそが一貫教育の豊かさだと、あらためて実感しました」

「どんな人に育っていてほしいですか」…4人が明かした願い
パネルディスカッション最後のテーマは、「卒業時にどのような姿に育っていてほしいか」
初等部の福万部長の言葉は、シンプルだが力強かった。
「たとえ苦手な相手であっても、その人を愛する努力を決して忘れない人になってほしい。『誰とでも必ず仲良くなりなさい』と言いたいわけではありません。自分の好き嫌いだけで人を判断するのではなく、相手の存在と価値をしっかり認め、理解する努力をしてほしいのです。その姿勢こそが、私たちのスクールモットー"Mastery for Service"の第一歩になるのではないかと思います」
SISの難波校長は、生徒たちの日常に根づいている「5リスペクト」について語った。「自分」・「他者」・「学習」・「リーダーシップ」・「環境」という5つの観点を大切にし、常に「なぜそうすべきなのか」と自らに問いかけることを促しているという。
「『SISはとても自由だ』とよく言われますが、私はいつも生徒たちに『自由であるということは、それだけ深く考え、責任をもつということだ』と伝えています」
難波氏は、社会人になった卒業生に再会すると、「今でも毎日の生活の中で、ふと5つのリスペクトを思い出し、心のコンパスにしている」という声をよく耳にするという。「このコンパスこそが、SISの教育が生徒たちに与え続ける一生の宝物なのだと確信しています」
中学部の宮川部長は、関西学院の根底にあるキリスト教の精神。「人に奉仕し、人のために尽くすこと」に触れたうえで、こう述べた。
「人生で良いときも悪いときも、与えられた場所で、自分の利益や名誉を求めるのではなく、黙々と人や社会のために生きていける人になってほしい。中学生という多感な時期こそ高い理想をもち、自分の人生に自覚と責任感をもてるようになってほしいと願っています」
高等部の枝川部長は、卒業生との交流の中で感じている手応えを明かした。
「年を経るごとに『"Mastery for Service"の精神がわかってきた』と言ってくれる。『社会に貢献する仕事がしたい』『自分のためだけにお金を儲けるのは虚しい。誰かの幸福につながる仕事がしたい』と。在学中に蒔かれた種が、生涯にわたって実を結んでいくのだと実感します」
そのうえで、昨年新たに掲げた中学部・高等部共通のキャッチコピー「一生モノの『自由』を身に付けよう」を紹介した。
「高等部は細かな校則で縛らない自由な校風ですが、けして放任主義ではありません。自らの選択に責任をもって、各自の興味関心を追求し、生徒同士で主体的により良いコミュニティを築き、『自由の中にも規律あり』を体現しています。そのため部活動に熱心な生徒が多く、強豪ぞろいの運動部など文武両道の精神が根付いているのも特徴です。高等部で身に付いた"自由"の使い方は、社会が変わり続けても生徒ひとりひとりが個性を生かして生き抜く大きな支えとなるはずです。『何のために生きるのか』というミッションに向きあい、他者のために自分に与えられた力を精一杯生かして、平和な社会を作る担い手としての世界市民になってくれることを願っています」
説明会の最後は、大学と初等部のチアリーダー部によるパフォーマンスが披露された。小さな初等部の子供たちと大学生が同じステージに立つその姿は、幼稚園から大学までが1つにつながるこの学院の日常を、どんな説明よりも鮮やかに映し出していた
AI時代に「答えのない問い」を問い続ける…中道基夫院長が語

本日の説明会で、4つの学校がそれぞれの個性をもちながらも、根底に共通する何かを感じていただけたのではないでしょうか。学校ごとに表現は違っても、知性だけでなく人間の内面や精神性も共に育てるという基盤が、関西学院全体に1本の軸として貫かれています。
関西学院は1889年、アメリカで医学と神学を修めた宣教師W.R.ランバスによって創立されて以来、キリスト教に基づいた教育を行ってきました。そのため、小学校から大学まで、毎日礼拝の時間を設けています。効率だけを考えれば、「その時間に英単語のひとつでも覚えた方が良いのでは」という考え方もあるかもしれません。それでも、自分自身の心と向きあう時間を大切にしているところにこそ、「関学らしさ」があるのです。
世界の3人に1人が信仰していると言われるキリスト教には聖書という教典があります。実は聖書に書かれているのは問いばかりで、明確な答えが書かれているわけではありません。なぜ苦しむのか。なぜこんな悲劇が起きるのか。私たちは聖書を読むとき、「なぜ」と深く問い続ける体験を通じて、自分なりの答えを見出し、希望をもって自らの道を切り拓いていくのです。
AIと共に生きていく時代には、検索すればすぐ手に入る正解のような情報がこれまで以上に蔓延するでしょう。しかし、人間の生きる意味は、答えのない問いを一生懸命に問い続けていくプロセスそのものにあるのではないでしょうか。
学校の評価といえば偏差値や進学実績が重視されがちですが、私たちはそうした数字を超えたところに、関西学院で学ぶ本当の意味があると考えています。「何のために生きるのか」を自らに問い続ける力。発展する技術を上手に活用しながらも、心とのバランスの取れた教育こそが、これからの時代にもっとも求められるのではないでしょうか。
初等部の毎朝の礼拝。SISのガラス張りの校舎。中学部の青島キャンプ。高等部のアッセンブリー。この日語られた4つの学校の風景は、それぞれにまったく違っていた。
けれど、すべての話を聞き終えたとき、ばらばらだったはずの風景がひとつにつながる感覚があった。福万部長が語った「心の根っこ」、難波校長の「心のコンパス」、枝川部長の「一生モノの『自由』」。言葉はそれぞれ違う。けれど、すべてが同じ方を向いていた。
関西学院のスクールモットー"Mastery for Service"「奉仕のための練達」。1912年にC.J.L.ベーツ第4代院長が提唱したもので、隣人・社会・世界に仕えるために自らを鍛えることを意味する。社会が抱えるさまざまな課題に立ち向かい、その解決のために必要な力を養うこと。この精神が、関西学院を貫いてきた。説明会の冒頭で林常任理事がその理念を語っていたが、本当にその言葉が胸に届いたのは、4人の先生の言葉と卒業生たちの声を、すべて聞き終えたあとだった。
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