AI時代の大学での学び、核心は「問い」… 駿台・難関大学フェア開催 

 駿台予備学校は2026年9月6日、東大や早慶など難関国公立・私立大学が参加する「難関大学フェア」を開催。講演会やガイダンス、個別相談会など豊富なプログラムを実施。参加者は熱心に聴講・相談し、志望校へのモチベーションを高めた。

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駿台予備学校「難関大学フェア」は雨天にも関わらず満席となった。
  • 駿台予備学校「難関大学フェア」は雨天にも関わらず満席となった。
  • 一橋大学法学部准教授・土井翼氏
  • 法の果たす役割とは何か、参加者は熱心に耳を傾けた。
  • 東北大学工学部教授・大関真之氏
  • 量子力学はどう社会に生かされるのか、身近なエピソードを交えた解説に引き込まれる参加者。
  • 2026年夏に開催されたオープンキャンパスでの「Quantum Universe」のイベント 画像出典:東北大学

 開場はお茶の水校2号館。東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学など難関国公立・私立大学が参加する毎年人気のイベントだ。あいにくの雨にもかかわらず、志望する中高生や保護者が開校前から行列をなし、会場は熱気に包まれた。難関大学の関係者から直接話を聞ける貴重な機会に、参加者は熱心に聴講や相談、情報収集に奔走していた。 

 今回は東北大学、筑波大学、千葉大学、東京大学、東京科学大学、一橋大学、横浜国立大学、慶應義塾大学、早稲田大学の9校が参加。大学教員による講演会や入試担当者によるガイダンス、大学別個別相談会のほか、駿台講師による英語ワンポイントレッスンや進路アドバイザーによる入試情報説明会なども行われた。各大学の最新研究や魅力、受験情報まで幅広く提供され、パンフレットでは得られない生の情報に触れられる一日となった。

 本稿では、一橋大学法学部准教授・土井翼氏と東北大学工学部教授・大関真之氏による講演の概要を紹介する。

法学部では何を学ぶのか? 実力行使を許さない法の思想

一橋大学法学部准教授・土井翼氏

 一橋大学法学部准教授・土井翼氏は「何のために法学はあるのか―社会のなかの『ひとり』を考える」と題して講演。法学部は社会の中で「ひとり」の個人がどのように扱われるべきかを考える学部だと述べ、その魅力を語った。

 「法学部で学ぶというと、条文や判例を覚えたり、生活上の出来事に介入してどちらが勝つかを考えたりするイメージがあると思うが、決してそれだけではない。法律が面白いのは、1つに見える問題を分けて考えることにある。同じ出来事を見ても、どこが問題かは捉え方で異なる。今日は一般の人と法律家の観点の違いを体験してほしい」と呼びかけた。

 そこで土井氏は、ローマ法学者・木庭顕(こばあきら)氏によるたとえ話を紹介した。

 小さな畑を耕す農夫ぜんべえドンは、牝牛オハナぼうと長年暮らしていた。ある時、有力者ゴンザエモンの手下・ゴンベエが現れ「これはゴンザエモン様の牛だ。お前が盗んだに違いない」と主張。もみあいの末、ぜんべえドンは仲間に取り押さえられ、オハナぼうは連れ去られてしまう。「文句があるなら屋敷に来い。間違ったことを言ったらひどい目にあうぞ」との脅しを受け、ぜんべえドンは抗議に向かう。

 ついで土井氏は、「この話の何が問題か?」と問いかけた。

 この牛は結局誰のものか、暴力はよくないといった意見がよくあがるが、法律家は、『誰のものか』という問題とは別に、現にある関係を一方が実力で変更して良いのかという問題を考える」と土井氏は言う。

 オハナぼうは、「外から丸見えの小さな作業小屋」から「外から見えないゴンザエモン屋敷」に無理やり移行させられた。もし本当に犬の餌にされていたら、もうもとに戻せない。「法律家は『誰のものか』の問題とは別に、『今、誰がどのような状態でその物と関わっているか』を分けて考え、今ある占有の関係を実力行使で先に変えることを許さない」(土井氏)

 法はまさに今そこにある、特定の人と特定の物との関係の維持を、その物が誰のものであるのかという問いよりも優先する。土井氏はこの発想を「普通の正義感とは異なる」としながらも、「法学は、力の強い人が先に現実を作ることを認めず、それを行った者にレッドカードを突きつけてきた長い歴史がある」と語る。

法の果たす役割とは何か、参加者は熱心に耳を傾けた。

裁判と国家権力、そして行政法の役割

 「だからこそ、裁判は『誰のものか』を決めるために行う」と土井氏。裁判では、社会上の実力差が結論をそのまま結論を左右しないようにし、言葉で理由と証拠を出し、議論を尽くして勝敗を決める。判決を執行する際は、当事者ではなく国家が実践し、当事者の力は制度の中に回収する仕組みになっている。

 ただし、国家に力を集めるだけでは「国家=大きなゴンザエモン」が生まれてしまう。そこで、国家が権限を行使する際の手続きを法律で決め、言葉で縛る必要がある。土井氏が専門とする行政法は、私人に許されない力を国家にどこまで認め、その力を縛る仕組みを決めているという。

 最後に土井氏は、講演でいう「ひとり」とは、必ずしも社会的弱者を意味するのではないと説明した。たとえ誰からも見捨てられ、集団の中で孤立した「最後のひとり」であっても、ひとりの個人として扱う。そのために、集団の論理から個人をいったん切り出して考えることが、法学の重要な営みだと述べた。「大事なのは正解を覚えることではなく、本当にこれで良いのかという問題を見つけること。自ら問いを立て、『本当にそうなのか』と思うところから大学の勉強が始まる」と語り、講演を締めくくった。

AIに何を問うのか…共通テストが示すメッセージ

東北大学工学部教授・大関真之氏

 東北大学工学部教授・大関真之氏は「Quantum Universe―Always with You-の挑戦 みんなが始める第一歩」と題して講演。自身の受験生時代の駿台との出会いから駿台予備学校講師経験・大学教員・起業家・経営者としてのキャリアを通じて、受験期の努力がどう今後のキャリアにつながるかを体系的に示し、自身が主宰する量子育成プラットフォーム「Quantum Universe」ではさまざまな可能性を用意し支援していることを紹介した。 

 大関氏は駿台の卒業生で、「駿台の授業で物理学の面白さに目覚めた」と振り返る。大学入学後は学費を稼ぐため塾講師や家庭教師として働き、大学院生時代には駿台の物理講師も務めた。こうした「教える」経験が、研究者として重要なプレゼンテーションスキルに生かされているという。

少年よ、大志をたくさん抱け!

 現在は東北大学に勤務しながら、東京科学大学教授や企業代表も兼任し、リモートで授業・研究を進めながら、日本や世界を舞台に活動している。「夢は1つじゃなくて良い」と強調し、教員、クリエイター、経営者、YouTuber(チャンネル登録者数1万3000超)など、複数の夢を実現している自身の姿を紹介した。 

 すべてはさまざまな時代の「問い」に目を向け解決することに集約されるとのこと。

世の中の問いに答え、自身で問いを立てられる人であれ!~これからの世の中を生きていくうえでの大学活用法~

 具体的に共通テストの出題について分析し、大関氏は以下のように述べている。問題がセンター試験から大きく変化していることをあげ、「これは国の施策における重要なメッセージだ」と語る。 

 たとえば数学は、センター試験では数式が示されてそれを着実に計算する力が問われた。ところが共通テストでは、身近な話題から解くべき課題を設定したうえで、自ら数式を考え、計算で結果を導くという構造に変わったと指摘。

 大関氏はこの背景に、日本経済の閉塞感と技術面での遅れがあると見る。

 「従来の日本の教育では、計算マシンとして素早く正確に問題を解くことが重視されてきた。しかしAIの登場で、人間が計算をこなす必要はなくなった。今、社会の課題を見出して解決し、変革を起こすには、自らの頭脳を使って『AIに何を問うか』が求められているからだ」

 ビジネスの世界では、日々のコミュニケーションの中でどんな困りごとが起きているかをいち早く突き止め、真に役立つサービスを作りあげる。スポーツの世界でも、あらゆる種目で科学的分析に基づいたトレーニングによって、顕著な成果をあげている。

 こうした社会構造は、昨今の共通テストと同様だと大関氏は言う。

 「保護者は子供が大学で何を学ぶのか、将来AIに淘汰されずに残る仕事に就けるのかを心配するが、これからは自分で解くべき課題を見つける時代。それができれば独り立ちして生きていける。世の中で困っていることを見つけ、悩みを解決する技術を作る。そのための原理・知識を学ぶのが大学だ」と意味付けた。

量子力学はどう社会に生かされるのか、身近なエピソードを交えた解説に引き込まれる参加者。

量子コンピュータが切り拓く未来

 続いて、大関氏の専門分野である量子力学の話題へ。量子力学は、物質を原子・分子単位で操る学問だ。

 今、私たちが日常的に使うコンピュータのエネルギー消費が地球規模での課題となっている。その解決策として注目されているのが量子コンピュータだ。大関氏によると、量子コンピュータは「エネルギー消費を限りなくゼロに近づけるコンピュータは作れるのか」という問題提起から生まれたという。まだ実用化には至っていないが、大関氏は量子コンピュータが広く普及した社会を見据え、その基盤技術の研究を進めている。

 量子コンピュータの利点として、大関氏は「超省電力」「超高速計算」「量子実験」の3点をあげる。

 まず、従来型のコンピュータの仕組みを理解する必要がある。私たちが使うコンピュータは、すべての情報を「0」か「1」のデジタル信号で表現している。文字も画像も動画も、すべて「0」と「1」の組み合わせだ。コンピュータはこの信号を、大量の電流を流すことで処理しており、それが膨大な電力消費につながっている。

 一方、量子コンピュータは量子力学という物理学の原理を活用する。量子力学とは、原子や電子といった極めて小さな世界の振る舞いを扱う学問だ。驚くべきことに、この極小の世界では、何かを観測するまで「0でもあり、1でもある」という曖昧な状態が実在する。これを「重ね合わせ」と呼ぶ。従来型のコンピュータは「0か1か」を1つずつ確定させて計算するが、量子コンピュータは重ね合わせ状態のまま、無数の可能性を同時進行で処理できる。これにより、膨大な計算を圧倒的な速さでこなせる。さらに、原子や電子レベルで情報を操作するため、従来型に比べて格段に少ない電力で動作する。加えて、量子コンピュータそのものが量子の性質を再現する装置でもあり、量子力学の実験にも活用できる。

企業課題に挑む実践授業

 では、この量子コンピュータは実際にどう活用されるのか。大関氏が東北大学で行う講義「実践的量子ソリューション創出論」では、その実践に取り組んでいる。産官学が連携した問題課題解決型のスタイルで、全学講義のため、学部1年生から大学院生まで履修できるほか、履修証明プログラムとして社会人も多数学ぶ人気授業だ。受講生は提携企業にヒアリングを行いながら課題を発掘、何が問題かを分析し、数式を立てて量子コンピュータで解決に挑むという。

 ある企業の「コールセンターの早期離職が多い」という課題では、学生が実際に企業の人事データを活用。我慢強さについての心理学的アプローチから、量子コンピュータを使って我慢強い人材を抽出し、最適なチーム編成を行うという解決法を編み出した。これは経済学部の学生が学術論文としてまとめ、物理学会の国際会議でも発表したという。 

 このほかにも、「ワサビの栽培方法」や「まちおこしマラソンイベント」など、身近な社会が直面するさまざまなリアル課題に取り組んでおり、学生は授業後も活動を継続し、実際のサービス開発につなげたり、研究を進めたりしている。「学生が『研究が面白い』と思える体験を積むことは、将来のキャリア形成や日本の研究力の強化にもつながる」と大関氏は語る。こうした取組みをさらに広げるため、大関氏らは「Quantum Universe」というプラットフォームを構築している。 

 東北大学を拠点にさまざまなチャンネルを展開するこの取組みでは、学生がシンポジウムや研究発表を行ったり、量子コンピュータを用いたアプリを作成したりするほか、社会人や定年退職後の人もアマチュア研究者になって論文を書くなど発信・交流し、多くの実績をあげている。  

2026年夏に開催されたオープンキャンパスでの「Quantum Universe」のイベント 画像出典:東北大学

 大関氏は「学生が最先端技術を学ぶだけでなく、それを社会に実装し、国際舞台で発表する機会までもてるのは、『研究第一・門戸開放・実学尊重』の理念を掲げる東北大学ならでは。興味をもった人はぜひ参加してほしい」と呼びかけ、講演を締めくくった。

志望校選択の羅針盤に

 法学と物理学。一見異なる分野の講演だったが、両者に共通していたのは「問いを立てる力」の重要性だ。

 土井氏は、法学とは1つの出来事から問題を切り分け、「本当にこれで良いのか」と問い続ける学問だと語った。大関氏は、AI時代に求められるのは「何が問題かを突き止める力」であり、計算はコンピュータに任せればよいと強調した。複雑な現実社会に横たわる課題を紐解き、問いを立て、解決する方法を考える。それこそが大学で学ぶ意味であり、今回の難関大学フェアが示した、これからの時代を生き抜くための本質だろう。

 難関大学への進学を目指す受験生にとって、こうした「大学で何を学べるのか」を直接知る機会は、志望校選択の羅針盤となるはずだ。

大学受験専門 駿台予備学校
《羽田 美里》

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