【EDIX2016】高大接続改革の鍵、次世代を担うICTに必要な要素とは…安西祐一郎氏

 日本学術振興会理事長・中央教育審議会前会長の安西祐一郎氏は5月20日、「第7回 教育ITソリューションEXPO(EDIX:エディックス)」で基調講演を行った。高大接続改革と、ICTに求める役割や場面、そしてこれからのICT教育の在り方について問うた。

教育ICT 先生
講演を行った日本学術振興会理事長・中央教育審議会前会長の安西祐一郎氏 用意した講演スライドは実に約70枚。そのうち披露されたスライドは15枚程度で、講演後の会場からは60分では足りない、もっと聴講したかったと熱のこもった声が聞かれた
  • 講演を行った日本学術振興会理事長・中央教育審議会前会長の安西祐一郎氏 用意した講演スライドは実に約70枚。そのうち披露されたスライドは15枚程度で、講演後の会場からは60分では足りない、もっと聴講したかったと熱のこもった声が聞かれた
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 日本学術振興会理事長・中央教育審議会前会長の安西祐一郎氏は5月20日、「第7回 教育ITソリューションEXPO(EDIX:エディックス)」で基調講演を行った。高大接続改革と、ICTに求める役割や場面、そしてこれからのICT教育の在り方について問うた。

◆高大接続改革とは、大人ではなく子どものためのもの

 文部科学省が主導する「高大接続改革」とは、「高等学校教育」と「大学教育」、そしてその間の橋渡しとなる「大学入学者選抜(大学入試)」の3つを改革しようとするもの。入試を重要視してきた日本では、しばしば「大学入試の改革である」と認識されがちで、「入試改革」と称されることもある。しかし、単純に入試の変化だけに捉われず、「なぜこの改革を行わなければいけないのか、といった改革の背景を掴まなければ、改革の全貌を把握することは難しい。」(安西氏)。高大接続改革は大人のために進められているものではなく、未来に生きる子どもたちのために推進されるものである。安西氏は、改革を「未来の子どもたちへの贈り物」と称した。

◆高大接続改革におけるICT活用の意義

 高大接続改革が重要視する子どもたちの学力・生きる力とは、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性」そして「世界中の多様な人々と学び、働く力」のこと。若年人口の減少や労働生産性の低迷、地方創生といった問題を抱える現代とこれからの社会・世界において、子どもたちが主体性をもって自らの未来を切り拓いてゆける人間になるためには、一体どういった学びが必要なのか。

 「暗記や知識吸収を重視する従来型の教育で、子どもたちの主体性や多様性、柔軟性といったこれからの社会に求められる力は向上していくのか。これまで主体性を伸ばす教育を主体的に行ってこなかった日本にとって、高大接続改革におけるICT活用には従来の教育を変える可能性がある。」(安西氏)

◆これからのICTに必要なのは“深堀り”

 ICTで何ができるのか。安西氏の答えは、「何でもできる」。しかし、ハード・ソフトいずれの面でも、現状の教育ICTは具体的にどのような能力が身につくのか、といった根本を追求しきれていないことが多いという。

 5月18日から20日に東京ビッグサイトで行われたEDIX2016には、教育業界内外を問わず過去最大の680社が出展。各社が電子黒板や3Dプリンター、タブレット、プログラミング教材、教材用ロボット、校務支援システムなどのさまざまな次世代の教育コンテンツを持ち寄った。画期的な教材や、数年前とは比べ物にならないほど高度な技術を搭載したICT機器も見受けられ、商品パンフレットや展示パネルには「思考力」「表現力」「創造性」を育むとする文言が踊った。

 一口に「思考力を養う」「表現力を養う」と言っても、「では、どのような思考力か、と問うと答えられない」(安西氏)。論理的思考力、因果的思考、演繹的推論(えんえきてきすいろん)、類推など、このICT機器ではそのうちどのような力を養うことを目的としているのか。安西氏は、どのICTコンテンツとも、どういった能力のどの部分をどのように伸ばすのか、といった観点の脱落が多いことを指摘した。

 「たとえば、歴史の学習ソフトウェアを作成したとする。子どもたちが楽しく学ぶことももちろん大切だが、そのソフトウェアには、ただ『思考力を鍛える』というのではなく、面白さの先に『思考のプロセスを鍛える』というような明確な狙いがなければならない。」(安西氏)

 国内では今、幕末以来の教育大改革が起ころうとしている。安西氏は、この世界や国内の変化を前に、ICTはこれまでの教育では十分に成しえなかった「主体性をもって多様な人々と協力してゆく」子どもを育てる力をもっていると明言。国の政策を考える立場として教育業界をサポートしていくとし、「教育ICTソリューション(の提案者)と現場の方が一緒になって、近代教育や新しい学びを作っていってほしい」とこれからの教育ICT発展に期待を寄せた。

 次のEDIX東京開催は2017年の5月。同年11月にはさらに、大阪での初開催も決定している。はたして、1年後の教育ICTはどのように進化しているのだろうか。決して容易なことではないが、子どもたちの思考を妨げることのない使い勝手の向上を望むのはもちろん、安西氏が指摘する“深堀り”を行ったICTの登場と普及を願いたい。
《佐藤亜希》

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