【私学訪問】成長を支える“志”のバトンパス…豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長

今や都内屈指の進学校となった豊島岡女子学園。学業の充実だけではなく、部活動や学校行事にも熱心に取り組む学校として注目され、例年多くの志願者を集める。同校の竹鼻志乃校長に学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

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豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長
  • 豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長
  • 豊島岡の朝は毎日5分間の「運針」で始まる
  • 豊島岡の運動会
 1892年(明治25年)、河村ツネと2人の娘が女子裁縫専門学校として創立した豊島岡女子学園。創立者の自立心と力強さは受け継がれ、今や都内屈指の進学校となった。学業の充実だけではなく、部活動や学校行事にも熱心に取り組む学校として注目され、例年多くの志願者を集めている。同校の竹鼻志乃校長に学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

◆感性や人間性、生きる力を育む教育理念

--学校生活でのようすについてお聞かせください。

 豊島岡の生徒は、前向きで元気です。勉強、クラブ活動、年間を通した数多くの学校行事を通じ、充実した毎日を送っています。

 豊島岡の朝は毎日5分間の「運針」で始まります。物音ひとつしない静けさの中で、約1メートルのさらし布を赤い糸で縫い進んでいきます。毎朝の運針で、5分間という時間の大切さを理解します。また、これは、教育方針のひとつである「勤勉努力」の礎でもあります。生徒たちは、日々の努力の積み重ねがいかに重要で尊いものであるかを身をもって学ぶのです。また、教員にとっても、毎朝生徒を静かに見守ることのできる貴重な時間となっています。

 豊島岡には文化系・体育系合わせて49のクラブがあり、生徒がそれぞれ持っている優れた才能を発見し、育てていこうという「一能専念」の教育方針に基づき、全員がいずれかのクラブに所属し、活動しています。生徒たちが一生懸命打ちこめるものを見つけてほしいと願い、さらには活動の集大成として、各分野のコンクールや大会など、学校の外で自分の力を試してみたいという思いを認め、応援しています。

 部活動以外にも、運動会、文化祭など、学校行事はすべて生徒が主体となって行っています。生徒自身が内容について理性的な判断をし、企画・運営に関わります。下級生は上級生から学び、さらに卒業生が見にきて辛口なコメントを残していったりもします(笑)。豊島岡らしさ、というものは、生徒たち自身が作り上げていると言えますね。

 部活動や学校行事を通じ、クラスや学年を超えた先輩・後輩との関係、担任や教科以外の先生との関係など、学校での人とのつながりもぐっと広がり、学校生活がより充実した楽しいものになります。

 生徒たちが部活や行事に取り組む中で、当然衝突も起こります。でも、誰もが無関心なら衝突は起こらない。一生懸命やりたい、より良いものを作りたいとが皆が願うからこそぶつかり合うのです。また、どれもこれもやりたいと手を挙げて、首が回らなくなる生徒もいます。時にはこのような経験を経ながら、葛藤やつまづきを糧とし、生徒たちはぐっと成長します。生徒のめざましい成長ぶりを見ることは教員にとっても一番の醍醐味です。

 中高時代は、学力の充実だけでなく、部活動や学校行事を通じて感性や人間力を磨くという経験をすることで、将来の「生きる力」となって発揮されていくと思います。

◆志のバトンがつなぐ先輩・後輩の絆

--豊島岡の校風について、どのように表現できますか。

 「切磋琢磨」ですね。ただし、競い合うということではなく、「認め合う」ということです。中学1年生のころから、友達や先輩のことを“尊敬する”という表現が聞かれます。それは勉強とは限らず、スポーツだったり、歌や楽器だったり、漫画だったりする。互いの得意な部分を手放しで讃え合う雰囲気があります。そして、身近なあの人があんなふうに活躍しているなら、私はこっちで頑張ってみようかな、あるいは次は私も、といった気持ちを持つようになる。これが互いを高め合うということにつながっています。

 そういう意味で、豊島岡では教員も切磋琢磨しています。1学年1教科につき、複数の教員を配置しているため、教員同士が自分の授業について、反応が良かったことから失敗まで、色々とシェアし合っています。生徒同士が研さんし合っているのだから、先生ももっと充実した授業をしようと頑張ります。

 授業は生徒たちが興味を持って楽しんでくれるのは当然だけれど、教員も一緒になって楽しまないと、と思うのです。豊島岡では、生徒間、教員間、生徒と教員の間にも研さんし合い、ともに成長していこうとする校風が学校全体にあるように感じます。

 また、部活動や学校行事などを通じ、先輩後輩の絆が強く、先輩から後輩に受け継がれていくものをとても大切にしています。高校生になると、各学年に「進学通信」というものが毎週発行されるのですが、この時期先輩はどんなことをしていたのか、とか、模試の結果、それに対する思い、失敗例などの情報がちりばめられています。また、運動会や文化祭への臨み方―たとえば、それぞれの行事でしっかり燃え尽きるまでやることも大事!など―や塾の活用法までも、先輩のアドバイスとして載せています。1学期には、春に卒業したばかりの大学1年生から、進学先を決定した体験談や学校での過ごし方を聞く進学懇談会もあります。

 先日、模擬国連で高校1・2年生の生徒2組がともに全国大会出場を決めたのですが、夏休みには高校3年生の先輩が自らの経験をもとに、彼らを指導していました。このように、卒業生を含め、先輩が後輩の面倒を見るという光景は、豊島岡でよく見られます。

 先輩からこんな貴重な思いや経験を受け継いだのだから、私も先輩になったら後輩の役に立ちたい、という「志のバトン」が今もなお、脈々とつながっています。豊島岡の生徒は、先輩たちの背中を見て成長し、それを越えるべく努力を積み上げていくように思います。

--学校行事などで、もっとも豊島岡らしさを感じる行事は何ですか。

 やはり毎年11月に行われる文化祭「桃李祭(とうりさい)」です。これは日頃の部活動などの成果の発表の場で、豊島岡生がもっとも楽しみにしている学校行事です。

 毎年、本校生徒の3分の1以上にあたる、600名を超える運営委員、そして演劇、展示、個人など、どの参加団体もこの2日間のためにたくさんの準備を重ねています。生徒たちひとりひとりには、自分たちが楽しむだけではなく、来てくださるすべての方に楽しんでいただきたいという強い思いがあります。桃李祭当日は、一生懸命な豊島岡生で溢れ、学年を超えた絆が感じられることと思います。

 豊島岡には1年を通じて、ほかにも数多くのイベントがあります。これは、生徒たちが持っている素晴らしい才能を発揮できる場、ひとりひとりが輝ける場をひとつでも多く作りたいと願っているからです。この思いで、広くさまざまな分野に、種をあちこちと蒔くようにしています。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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